不穏な陰

 セレスレット大森林、辺境の地にて。


「この近くにエルフの村はあるのかっていてんだ。さっさと答えろ!!」


「ひ、ひいっ!!」


 山の中に4人の男がいた。


 1人は膝をついたブロンドヘアーのエルフの男性。そして残りはその男性に刃物を突きつけている黒髪の男たち。


 黒髪というのはエルフにはあまりない髪色だ。そして何より彼らの耳は丸い。つまりそれはエルフじゃないことを意味する。


 そう、彼らは人間だった。


 しかも最悪なことにエルフを狙う密猟者。そんな連中がエルフの男性を脅しているのだ。


 先頭に立つリーダー格の男が口を開く。


「いいぞ答えなくても。だがお前はここで土に還るがな。それかもしくは男娼で働かせても悪くねぇ。ただその場合、物好きなババアやムキムキの男たちに掘られることになるぞ?」


 ハッハッハッ!!


 下衆たちが発する笑い声、というより奇声。静かな山にその声は響く。


「さあ答えろ。お前はどっちが好みだ?」


「わ、わかりました!!言います、言いますから助けてくださいぃ!!」


 彼は鼻水を垂らし、男たちに土下座した。


「おお、そうか。やっと言ってくれる気になったか」


「うっ……!!」


「悪かったな、何も俺たちもお前さんに痛い目は見せたくねぇんだよ。──それで、どこにある?」


「こ、ここより北西2キロほどにエルフの村がありますっ!!ルビーという名前の村ですぅ!」


「おい聞いたか、ルビーだとよ?」


 リーダー格の男は後ろを向いてもう1人の男に確認する。しかしその男は「聞いたことありませんね」と言って首を振った。


「その情報は本当なんだろうなぁ……?」


「ほっ、本当です!!なぜなら私がその村に住んでいるからですっ。住んでるエルフは200人にもみたない小さな村ですっ!!」


「おお、そうかそうか住んでるのか。わかったお前の言うことを信じてやる」


「ありがとうございますっ、ありがとうございます!!」


「ほら立て。男なら泣くんじゃねぇよ」


 そう言った男はあろうことか、武器を下ろして男を立たせ、強引に握手をした。


「協力してくれて助かったぜ」


「い、いえっ……」


「じゃあ」


「……じ、じゃあ?」


 ニヤリと笑うリーダー格の男。


 じゃあとはなんだろうか。素直にじゃあねとでも言う気なのだろうか。


 いや、それは違った。


「じゃあ素直にあの世に行きなっ!!」


 グサッ!!


 まるでトマトにナイフが刺さったような音がした。見ればエルフの男性の腹部にはナイフが突き刺さっていた。


「えっ……?」


 彼は自分の身に何が起こったのかわからないまま倒れる。


 もう2度と彼が目を開けることはなかった。


「はっはっは!!オメェなんかな、金になんねぇんだよ!!女連れてこい女!お前らも見たか!?あのアホ面をよおっ!!えっ……だとよっ!!」


「最高でしたぜアニキぃ!!」


「ええ!最高でしたっ!!」


 ハッハッハッハ!!


「よしじゃあその村を襲撃するぞっ!手下どもを呼んでこいっ!!男は皆殺し、女子供は可愛がってから売っぱらってやるぜ!!」


「わかりやしたっ!!」


 1人が走り去っていき、残った彼らは再び嗤う。


 静かな森にそんな声はやけに響き渡った。

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