金集め
気持ち良いばかりの爽やかな風と眩い光をもたらす朝。今日も今日とてライルとフィアーネは青々とした森林を歩いていた。
「ふっ、ふ〜〜ん♪」
横には能天気に音痴な鼻歌を歌うフィアーネ。
「せっかく風の音が心地良いってのにその騒音やめてくれ。何かいいことでもあったのか?」
「騒音って何よ。こうやってあんたと歩いているだけで楽しいのよ」
「へぇ〜〜」
「……何よ?」
可愛らしくプクッと頬を膨らませる彼女。そんな彼女を見てやれやれとライルは手を広げた。
ツンデレなのかデレデレなのかよく分からないタイプだ。
こんな調子で18年間の付き合いを続けている。最近は妙に大人ぶっているが、昔はとてもわがままなものだった。もしライルの精神年齢まで子供だったら引っ張り合いの喧嘩をしていたこと間違いなし。
そんな彼女と一緒にいるとふと思うことがある。
村では幼馴染と結婚するエルフが大多数だ。そのためもしこのままいったら彼女と結婚するのかとライルも思うことがあるのだ。
別に彼女のスペックは悪くない。時々アホだが、頭は悪くない……むしろ自分より良い。それにスタイルも良く、おっぱいも大きい。顔も良いし、むしろ自分と釣り合うのか心配だ。
ただそこで思い出す。自分には使命があるのだと。そしてそれを叶えるためにこの村から離れなくてはならない。
彼女とご両親には悪いが、もうすぐ彼女は一人ぼっちになるだろう。彼女もついてくるなら話は別だが。
「……ちょっと、なんか寂しいこと考えてるでしょ?」
彼女は不安そうな顔つきになる。
「いや何も思って……おっと、ほらソネリアだ」
「えっ!?」
誤魔化すように斜め下を見ると、そこには大量のソネリアという野草を見つけた。
「やった♪いっぱい取るわよっ!」
現金な彼女はそんな心配事などすぐに忘れて夢中で取り始める。彼女の行動は正しい。元々そのために探索していたのだから。
ライルも腰をかがめて取っていく。
このソネリアという植物はサラダとしてエルフに好まれる野草だ。栄養価が高く、シャキシャキしていてとても美味。それにポーションやエリクサーの原料としても使われ、使用用途が幅広く、野生のものは高価で売れる。
「いやこんなにあるとは。もっと取るぞ!」
「ええ、もちろん!!」
はしゃぐ2人。
「ちょっと味見」
「何バカなことやってるのよ。ちゃんと洗ってから食べなさいよ」
モグモグ。
「ん、でも意外に美味しいかも」
「だよな」
しかし皮肉なものだ。一歩下がってクールにやれやれ系を演じるつもりが、いつもがっついてしまうライル。
そしてしばらく。
「ふぅ、取った取った」
「これじゃあ乱獲ね」
2人は辺りのソネリアを取り尽くし、魔法のバッグに全て詰め込んだ。
一定容量まで好きなだけ詰められるバッグ。重くもならないし、効率的でとても使い勝手がいい。
「やったわね」
「おう」
パチンと、2人は嬉しそうに手を叩いた。
そしてそのまま次なる標的を探しに歩いていく。
彼女はその後やけに無口だった。……まるで何か嫌なことを考えているように。
しかし意を決したように話しかけてくる。
「そ、それにしても良い天気ね」
「そうだな」
「ね、ねぇ……。ライルってもう少ししたらこの村を離れるでしょ?」
「コレスタニア学園に入学が決まったからな。もう実は色々と準備してんだ。こうやって森に入って金集めたりな」
「──そうよね。それでさ……。も、もし私が付いて行きたいって言ったらどうする?」
…………ん?
何をそんなに恐れているのだろうか。まるで捨てられた子犬のような目をしている。
「そん時は……おっと」
「え、またぁ?」
フィアーネの腕を掴んで急いでライルは木に隠れた。
「ど、どうしたのよ今度は?」
「ほらあそこ」
ライルが指を刺す先、そこには草を喰む鹿に似た動物がいた。
それの名はクスク。この辺りでは特別な日に食べるような高級動物だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます