空港で車を借り、慣れぬ運転で三時間ほど、初めての道を走り続けた。

 宇留井は空港まで迎えに行くと言ってくれたのだが、自力で帰る手段を確保しておいた方がいいだろうと、とくに根拠はないのだがそう思えたのでレンタカーで行くことにした。

 だが、運転をし始めて五分もしないうちに、閏井は自分の無謀さを呪うことになった。実際、市街地を抜けるまでに二度赤信号を見落とし、接触事故を三度起こしかけた。ヘアピンカーブが続く海岸線の道路から転落しなかったのは、僥倖ぎょうこうだったというしかない。

 しかも、宇留井はカーナビを使うと別の場所に連れていかれてしまうから、海沿いの道に出たらナビは切って僕の指示に従えというので、分かれ道に出るたびに車を路肩に停めて電話で方向を確認しなければならず、それも閏井の神経を磨り減らした。宇留井の指示に従って進むにつれて道は細くなり、風景は荒れ果てていくので、海辺の別荘ではなく黄泉よみの国にでも導かれているのではないかとさえ思えた。

 宇留井の〝館〟が見えるこの場所に着く十五分ほど前、宇留井は閏井にこう言ったのだった。

「もう数分走ると、僕の家が見える場所に出る。地の果てのような場所だが、道はわかりやすい。岬の先端を過ぎて程なく、道の先の崖の上に、墓標を思わせる建物が見えるだろう。そこが僕の家だ」

 たしかに道はわかりやすかったし、建物は墓標のような形をしていた。だが、それは「僕の家」というには、あまりに大きかった。それは神殿とでも呼ぶのがふさわしい建物であった。

 そこからさらに十分ほど運転して、ようやく宇留井の〝家〟の前に着いた。

 宇留井は石造りの城壁のような門の前で待っていた。

 閏井はその姿を見て、背筋が震えるほどのショックを受けた。

 宇留井は今でも美少年の面影を残していた。目はまだ切れ長で瞳は澄んでいるし、鼻筋もマンガの主人公みたいにくっきりしている。だが、額には深い皺が刻まれ、頬は垂れ、髪は白くぱさついてススキの野のようになっていた。

 そう、宇留井は老いていたのだ。それも年齢以上に。そして、その老けた顔は、閏井が毎日鏡の中に見るものとすっかり同じだった。

 宇留井の方も同じ思いだったのか、閏井の顔を見るなり目を見開き、一歩後ずさった。

 だが、驚いたことに、次の瞬間、彼はけらけらと笑い出した。

 呆気あっけにとられた閏井を尻目に一分ほど笑い続けた宇留井は、それで気が済んだのか、すっきりとした笑顔――それはまさに少年時代の彼を思わせる美しい笑みであった――を浮かべ、まだ運転席に座ったままの閏井のもとに歩み寄った。

「やあ、賢治君。久しぶりだね。まずは久闊きゅうかつじょするべきところを笑ったりしてすまない。しかし、驚いたね。この数年、僕は君のことを思うたびに、この歳月が君をどう変えたのかばかり考えていたんだ。思慮深い顔になっただろうか、それともたくましい顔つきになったのだろうか、ひょっとしたら昔のまま少しも変わっていなかったりするのではななかろうか、などとね。そうしたら、まったく驚きだね、僕らは違った道を進んでいたつもりで、同じような年月としつきの過ごし方をしたようだ。今も僕は君の、君は僕のドッペルゲンガーであるらしいな」

 閏井はその言葉にぞっとしたが、かろうじて笑みを浮かべ、「そうだな」と答えた。

 宇留井も小さくうなずくと、「運転代わるよ」と言って運転席のドアを開けた。「この門を通るのは、ちょっとコツがいるんだ」

 運転席を宇留井に譲り、助手席に座った閏井は、器用にハンドルを操作して邸内に車を走らせていく宇留井を見て奇妙な気分になった。小学校の遠足の続きをしているように感じられたのだ。

「なんか、こうして並んでいると、まだ小学校にいるような気になるな」宇留井もそう言って笑った。「でも、これでドッペルゲンガーの言い伝えも嘘だとわかるな」

「ドッペルゲンガーの言い伝え?」

「ああ、ドッペルゲンガーを見ると死ぬという、あれさ。もし、それが真実なら、僕らは五十三年前に死んでなければいけないわけだろ?」

「そうだな……」閏井は小学校に入学した頃を思い出しながら、そう言った。「いや、でも、これからかもしれないぞ。こうして再会したことだし……」

「おいおい、五十年越しの呪いかい? どれだけ遅効性なんだ」

 宇留井は前を向いたままでそう言い、乾いた笑い声をあげた。

 門の内側はサッカーコートを思わせる芝生の庭で、その向こうには回廊らしい列柱が見えた。宇留井はその前でハンドルを右に切り、その先にあるスレート葺きの木造小屋――小屋といっても平屋の一戸建てほどの大きさがあった――の中へ車を入れた。小屋の中にはドイツ製のスポーツセダンと英国製の軽自動車がすでに停められていた。

「僕は健一君のドッペルゲンガーだと、長いこと思っていた」宇留井がエンジンを切るのを待って閏井は言った。「しかし、今日、君の顔を見て、ドッペルゲンガーというより陰画と陽画なのではないかと思ったよ」

 これを聞いた宇留井は、ぎくりと身じろぎをして閏井の方に顔を向けた。

「実は、僕も同じことを思ったよ。君の顔をみたとたん、小学校の頃から高校の頃までのことが一瞬のうちに脳裏に再現されたんだ。それで気づいたんだよ。僕はね、振り返れば君がいるものと、ずっと思い込んでいたんだとね。今、この瞬間まで」

 それを聞いた閏井は言いようのない幸福感に満たされた。だが、彼はあえて憎まれ口を叩いた。

「じゃあ、僕は君の影というわけかい?」

「そうさ」宇留井は少し青い顔をして言った。「君は僕の影さ。そして、僕は君の影さ」

 考えてみれば確かにそうだった、と閏井は思った。それで「ああ」と言って小さくうなずいた。しかし、閏井の心の中の醒めている部分が、宇留井の小さな嘘に気づいていた。

「いや、違うな」と閏井は言った。「僕のことなんか、ずっと忘れていたのだろう? 君は叡理さんのことで頭がいっぱいだったはずだ」

「ああ」閏井の指摘に宇留井は嘆息した。「そうだ。確かに、そうだ。叡理と出会ってから僕の人生は、いや、僕という存在は、まったく別の存在になってしまった。――そうか、そう考えると、僕はもう君のドッペルゲンガーではないのかもしれない」

 閏井は宇留井の顔をじっと見て言った。

「そんな風に君を変えてしまった叡理さんとは、どんな人だったんだい?」

 閏井がそう問うと、宇留井は急におびえたような顔になり、右手を振った。

 「それは……」と宇留井が言いかけた瞬間、閏井はルームミラー越しにこちらを睨む視線を感じた。はっとして目を向けると、鏡の中に焼け焦げた老人の顔があった。

 思わず息を飲んで身を引くと、中世の修道士を思わせる粗い麻のフードを深くかぶった者たちが、車の窓という窓に貼りついて中を覗き込んでいるのが目に入った。

 だが、閏井が声にならない叫びをあげると、それらはすべて消え去っていた。

 すがるような思いで宇留井の方を見ると、彼はまだ先ほどの言葉を言い終わっていないことに気づいた。

「それは……、長い話になる。明日にでも改めて話すよ。それより、まず君を部屋に案内しよう」

 宇留井はそう言うと、シートベルトをはずして車から降りた。


 閏井が荷物を持って車庫から出ると、メイド服を着た若い娘が二人、車庫の前で待ち構えていた。

「お待ちしておりました。お荷物をお預かりします」

 二人は閏井に向かって深々と頭を下げると、声を揃えてそう言った。まるでアニメの一場面のような展開に、閏井は呆気にとられた。

 車の反対側から出てきた宇留井は、荷物を渡すのをためらっている閏井に向かって言った。

「賢治君、遠慮なく荷物を渡したまえ。仕事上、こういう格好をしてもらっているが、二人ともアスリートなんだ。それも格闘系のね。文弱の僕らより、よほど力持ちだよ」

「あ、ああ、そういうことなら」

 閏井はようやくそう言うと、着替えや本で膨らんだショルダーバッグとボストンバッグを二人のメイドに渡した。

 そして、回廊に接した二階建ての石造りの建物に向かうメイドたちを見送りながら言った。

「それにしてもすごいところだな。ここは本当に君の家なのか? それとも特殊なリゾートホテルなのかい?」

「家と言ったのは、表現がまずかったな」宇留井は頭を掻きながら言った。「家という概念には一致しないかもしれないが、この敷地にある建物は、みんな僕のものだよ。ホテルではない。広いことは広いんだが、宿泊業が営めるほど部屋数はないんだ。そもそもこんな僻地に観光客は来ないだろうしね」

「だろうね」閏井も苦笑して言った。「君の手紙には見捨てられた修道院の跡とあったが、まさに中世ヨーロッパの修道院そのものだね」

「その通りだよ。でも、建てられたのは明治時代なんだ」

「明治時代の修道院?」

 閏井は眉をひそめて友人の顔を見た。宇留井は小さくうなずいてみせた。

「そうなんだ。シトー会の修道士たちがザンクト・ガレン修道院をモデルに建てたものだったんだが、聖堂の献堂式――仏教風に言えば落慶法要だね――を行なった後、間もなく見捨てられたというんだ。僕が見つけた頃にはフリードリッヒやベックリンの絵にありそうな見事な廃墟になっていたよ。あの下の道からも見えた大きな建物は聖堂だったんだが、南側の壁の一部が崩れ落ちていてね」

「そんなところに君は……」

 不審げに見返した閏井を見て、宇留井は乾いた声で笑った。

「心配しなくても、ちゃんとリフォームしてあるよ。外観は昔のままに復元したが、中は現代建築に作り替えてある。冷暖房完備、トイレもちゃんと水洗だよ。今夜は廃墟でキャンプかと思ったかい?」

「いや、そうではないが……」閏井は口ごもった。「これだけ大規模な遺構の補修工事をしたんじゃ、莫大な費用がかかったんじゃないかい?」

「まあ、そうだね」宇留井は修道士の居室があったという建物に向かいながら言った。「学生の頃の僕だったら想像もつかない金額だよ。でも、手紙に書いたように、今の僕は大富豪なんだよ。それくらいの出費は何でもないんだ。それに、がこれから行なうとしている儀式には、こうした環境が是非とも必要だったんだ」

「僕ら?」

 閏井は友人の言葉に違和感を感じて聞き返した。宇留井は振り返って薄く微笑んだ。

「そう、この儀式を待ち望んでいるのは僕一人じゃない。それについは改めて話すよ。とても長い話なんだ。それを聞いてもらえば、どうしても君に来てほしかった理由もわかるはずだ」

 宇留井が言った通り、かつて修道士の居室があった建物は、入口の扉を開けるとホテルのロビーのような部屋になっており、その奥に暖炉を備えた居間、さらにその奥が食堂になっていた。そして、居間と食堂の北側には三つ星レストランでも開店できそうな厨房があった。

 建物の二階は手前の東側にゲストルームが三つあり、奥の西側は宇留井のプライベート・スペースとなっている。宇留井が言うには、寝室が二つに書斎、ミニキッチン、バスルームがあるという。

「ゲスト用の風呂とトイレは部屋の中にあるから、自由に使ってくれ。なにかあったら、僕に電話をくれるか、部屋の電話から内線1をかけてくれ。そうすると、執事のようなことをやってもらっている彼の携帯電話にかかるようになっている」

 宇留井はそう言って、ロビーで待っていた初老の男を紹介した。

「内藤さんだ。この館のことは、聖堂内を除いて、すべて彼が承知している。執事だのメイドだのといったものを使うような身分ではないのだけれど、これだけ大きな施設を維持するには、どうしても人手が必要なんだよ。君が会った三人のほかに、建物と庭を管理する者が二人、料理人が一人、内藤さんの補佐をする者が一人いる。こうした使用人たちを統括するのも内藤さんの仕事だ」

 閏井は溜息をついて言った。

「まるでヨーロッパの上流階級の家に招かれたみたいだな。みんなこの館で寝起きしているのかい?」

「いや、まさか」宇留井は笑って言った。「みんな通いだよ。みんなそれぞれ家庭があるし、毎日仕事があるわけではないからね。ただ、こんな場所だから夜遅くなると帰るのが危険なので、泊まっていくこともできるよう、それぞれに部屋を与えてある。駐車場の隣に赤い屋根の建物があっただろう? あれが従業員用宿舎だよ」

「泊まることなど、年に一、二度あるかどうかです。それなのに高級ホテルのような部屋を自由に使えるというのは、もったいないことです」

 内藤はそう言って頭を下げた。本当にそう思っているようだった。

「泊まる必要がなくたって、休憩したり昼寝したいこともあるだろう。好きに使ってくれればいいんだ」宇留井は少し困った顔をして内藤の肩を叩いた。「僕らは君たちが来てくれないと困ってしまうんだから、少しでも働くのが楽になればそれにこしたことはないんだ」

 宇留井は恐縮する内藤の肩をもう一度叩くと、宇留井の方に向き直って言った。

「ここは本当に働く人を探すのが大変でね。そもそも過疎化で働ける人がいないこともあるんだが、それに加えて、この場所に来るのを嫌がる人が多いこともあるんだ。地元の人たちに言わせると、ここは呪われているそうだ

「つまらない迷信です。僻地に住む者は、禁忌を作るのが好きなんです」内藤は苦笑してそう言った。「では、わたくしはをお部屋にご案内いたします」

「ああ、そうしてくれたまえ。――賢治君、夕食は六時からだ。それまで部屋でくつろいでいてくれ。テレビは映らないが、ワイファイは飛ばしてあるから」

「ありがとう。では、少し昼寝させてもらうよ。慣れない運転で疲れた。――ああ、それから、これ」閏井は手土産の菓子を渡しながら言った。「大富豪に差し上げるような菓子ではないんだが、近所の店のものでね、味は悪くないんだ」

「ありがたくいただくよ」宇留井は笑って紙の手提げ袋を受け取った。「富豪といっても中身は貧乏学生のままだからね、こういう土産が嬉しいよ。……じゃあ、夕食の時に」

 宇留井は腕時計に目を落とすと、少し急いだ様子で奥の部屋に去っていった。


 閏井にあてがわれた部屋は、南東の角部屋であった。

 八畳ほどの洋間で、セミダブルのベッドと重役室にでもありそうな木製のデスクが置かれていた。東側と南側に窓があり、西側の壁には浴室とトイレのドアが並んでいる。

 東側の窓から顔を出してみると、左手に聖堂の黒々とした壁が高く聳(そび)えているのが目に入った。その重苦しい様子は閏井の気持ちを滅入らせたが、それよりも彼の目を惹いたのは、窓の正面にある石柱の群であった。

 最初は村の墓地かと思ったのだが、それにしては石柱が細すぎるし、柱と柱の間があきすぎているようだった。しかも雑草が一面に繁茂していて、人が訪れている様子もなかった。

「とすると、あれも修道院の遺構だろうか。後で宇留井君に聞いてみるか」

 石柱群をじっと見つめていると急に日が陰り、ごぉぉぉと音をたてて強い風が吹きつけてきた。しかし、よく見ると空に雲はなく、石柱が立ち並ぶ原の草はそよとも動いていなかった。

「とんだ歓迎だな。まるでゴシック小説の始まりの場面みたいだ」

 閏井はそうつぶやくと、上着を着たままベッドに横になった。すぐに眠りが訪れた。


 眠りに落ちると同時に夢をみていた。

 閏井は少年の姿――彼が一番美しかった小学五年生の頃の――に戻っており、裏路地に面した家の前に立っていた。

 隣りにはやはり美少年に戻った宇留井がいるのが感じられたが、どうしてもそちらに顔を向けることはできず、彼の目は、戦後すぐに建てられたバラックみたいに安普請の平屋に釘付けになっていた。

 その家の窓は開け放たれていたが、よく見ると窓のガラス戸は失われていて、煤けた枠だけになっていた。家の中は真っ昼間だというのに、タールみたいに真っ暗だった。

 「いるよ」と宇留井が耳元で言った。

 少年の閏井の目には、室内はただ黒いだけで何も見えていなかったが、「ああ」と答えた。何も見えていないことを宇留井に知られたくなかったのだ。

 その時、閏井の返事に応えるかのように、室内で何かがこちらを向いた。

 危険を感じた閏井は、この場から逃げようと思って宇留井の腕を引いた。しかし、宇留井は動こうとしなかった。

「やっぱり」と宇留井は言った。「焼け死んでる」

 一人で逃げようとしたとたん、閏井はベッドから転げ落ちていた。


 閏井が六時ちょうどに食堂に入ると、宇留井はすでに長いテーブルの中央の席に着いていた。

 その右隣には黒いベルベットのツーピースを着た上品な様子の女性が、両手を膝に置いて座っていた。彼女は宇留井より十歳前後若いようで、色が白く整った顔立ちをしていたが表情に乏しく、ラファエロ前派の画家が描く、美しいが魂が抜けたような女性像を思わせた。

「紹介するよ」宇留井は女性とともに立ち上がって言った。「妻の麻利まりだ」

 それを聞いた閏井は、思わず聞き返していた。

「え? 奥さん?」

 宇留井は少し困ったような顔をしてうなずいた。

「そうなんだ。いわゆる後妻ということになるのだが、ちょっと事情が複雑でね。麻利のことを説明するには、叡理のことから話さなければならないので、とても長くなってしまうんだ。明日にでも今回の儀式のことを説明する際に、きちんとすべて話すが、簡単に言うと、麻利は叡理を崇敬する信者仲間であり、叡理が残した課題を研究するパートナーでもあるんだ。叡理がその早い晩年のすべてをかけて追究した研究を、僕が受け継ぎなんとか完成まで行き着けたのは、麻利の協力あってのことなんだ。」

 横で宇留井の話を聞いていた麻利は、無表情のまま頭を下げた。

「麻利でございます。わたくしはもともと叡理様づきの女中でしたので、叡理様の思いを遂げさせたいとの思いで今日までご協力してまいりました。ですので、妻の座など滅相もないことなのですが、最後まで見届けさせていただくため、かりそめに後妻とさせていただきました。わたくのことはメイドの一人とお思いください」

 閏井は驚いて手を振った。

「そんな、奥さんをメイドだなんて」

 宇留井は少し笑って言った。

「麻利はね、叡理のことを崇拝しているんだ。だから、叡理のそばに居続けることができれば、それで幸せらしい。僕の財産などいらないと言うんだがね、僕には身内がないから、彼女が妻でいてくれると、そう言う意味でも安心なんだ。――ああ、なんか、推理小説の人物紹介みたいになってしまったな、家庭の事情の話はここまでにして、食事にしよう」

 そう言うと彼は向かいの席を閏井に勧め、自分たちも座って卓上のベルを鳴らした。

 すると、先ほどのメイドたちが現われて、手際よく三人の前に食器やカトラリーを並べていった。そして、それぞれに赤ワインをそそぎ、前菜を三点盛った皿を置いた。

「さっきも言ったように使用人を早く帰してあげたいので、申し訳ないがディナーは略式だよ。スープもメインディッシュも一度に出させてもらう。物足りないかもしれないが、我慢してくれたまえ。その代わりと言ってはなんだが、夜は書斎でゆっくり飲もう。秘蔵の酒を出してくるから」

 その言葉通り、前菜を食べた頃合いに鹿肉の煮込みとブイヤベースが運ばれてきた。そして、山盛りのパンが籠に盛られて三人の間に置かれた。

「この鹿肉の煮込みが我が家の最高のもてなし料理なんだが、このパンも自慢の品でね。麻利の手作りなんだ。一つ食べてみてくれ」

 宇留井がそう言うと、意外にも麻利ははにかんだ笑みを浮かべてうつむいた。

「叡理様がパン好きだったものですから、焼きたてがたべられるようにと勉強したのです。このパンは叡理様とともにパリに滞在した時に覚えたものです」

「そうだった」宇留井は遠くを見るような目になって言った。「僕が交換教授でロンドンにいた頃、叡理は君を連れてヨーロッパのあちこちを旅していたな。ロンドンに戻って来る時は決まってスーツケースいっぱいの本を携えていたっけ」

「はい」麻利も過去を見るような目をして頬笑んだ。「叡理様はスーツケースを一つ、本専用にしておりました」

「あの時期に叡理の研究の概要は固まっていたのだな」

「そうですわ」麻利は生真面目な顔でうなずいた。「あの頃のわたくしは何もわからずにお手伝いをしていましたが、今ははっきりわかります。叡理様はヨーロッパで研究の道筋を確立されておられたのです。宇留井様がどのように関わり、どのようにのかも、すでにおわかりになっていたのです」

「ああ、そうなんだなあ」

 二人はそれぞれの感興に浸ってしまったため、閏井は話しかけるわけにもいかず、そのままディナーはひっそりと終わった。

 閏井はいったん部屋に戻り、一時間後、ラフな服に着替えて宇留井の書斎を訪ねた。

 書斎は二階の西端にあり、見たところ八畳ほどの広さがあった。三方の壁が作り付けの書棚で覆われていて、部屋の中央にデスク、その前にソファーがL字に置かれていた。

「この部屋には僕の趣味的な本が納めてあってね」宇留井は閏井を招じ入れながら言った。「くつろぎの部屋として使っているんだ」

 一歩部屋に踏み込むと、キャラメルのような甘ったるさと粘っこく喉にまとわりつく苦さが混じった香りに包まれた。

「パイプかい?」

 閏井はデスクの方を見やって言った。オーク材らしいデスクの上には、大判の洋書と海泡石のパイプを載せた銅製の灰皿が置かれていた。

「ああ、そうだよ」宇留井は照れたように言った。「僕の抜けない悪癖の一つさ。――煙は苦手かい?」

「いや」閏井はソファーに腰を下ろしながら言った。「僕も学生時代に粋がって、紙巻きにしたパイプ煙草を吸っていたこともあるから大丈夫だよ」

「学生時代といったら、かれこれ半世紀前じゃないか」宇留井はあきれたような顔で言って、窓の方へ歩いていった。「ずっと吸ってないのなら、この香りはきついだろう。今夜はパイプはやめておこう。別に吸わなければいられないというわけじゃないんだ。むしろ冬の夜気の匂いの方が、ずっと好きなくらいなんだ」

 そう言って宇留井は窓を大きく開けた。

 すると、きりっと冷えた夜の空気が流れ込んできて、金属を舐めた時に感じる甘味を閏井に思い起こさせた。

「そう、この香りだ」宇留井はうっとりとして言った。「心が夜気に溶け込んでいくようじゃないか? 素晴らしい。素晴らしいが――体が凍えてしまうのが難点だな」

 宇留井は窓を閉めるとデスクに戻り、その後ろの本棚に手をかけた。すると、中央から右半分が横にスライドし、奥からバーカウンターが現われた。

「どうだい、悪役の書斎みたいだろう?」

 宇留井が得意げにそう言うと、閏井も苦笑して言った。

「それも古いハリウッド映画のな」

「そうそう、そういうのにしたかったんだ」閏井はバーの棚からウイスキーのボトルとグラスを取り出しながら言った。「研究に関すること以外は贅沢をしない主義なんだが、ここだけは遊ばせてもらった。いろんなことを忘れる時間も必要だからな」

 宇留井はゆっくりとデスクを回って、ソファーの前のテーブルにウイスキーのボトルを置いた。

「さて、これこそが秘蔵のアイリッシュ・ウイスキーだ。アイルランド独特のシングルポットスティルの古酒だよ。友人の神学者を通してようやく三本だけ手に入れたんだ。古き良きドッペルゲンガーと飲むのに、これ以上の酒はないぞ」

 宇留井はグラスに指一本分くらい注ぎ、一つを閏井に渡した。閏井はグラスを掲げ、「ウイリアム・ウィルソンに」と言うと、宇留井も同じように言って酒を口に運んだ。

 最初に甘味が、続いてアルコールの熱さが喉を通っていき、ナツメグのようなスパイシー感が舌に残った。

「うまいな」閏井は言った。「けれど、何かつまみが欲しくなるな」

「チーズくらいしかないけどな」

 宇留井はあらかじめ用意していたと思しいチーズの盛り合わせをバーカウンターの冷蔵庫から取り出してテーブルに置いた。

「これで十分だよ」閏井は中身がとろけかかっているカマンベールチーズをつまんで言った。「それと、申し訳ないが二杯目からはロックかホットウィスキーにしてくれないか。年のせいか、きつい酒を飲むと覿面に食道がやられるんだ」

「なら、お勧めはホットウィスキーだな。この酒は少し湯を足してやると香りがぱっとたつんだ」

 そうして二人はしばらく黙って盃を傾けていた。

 二人の二杯目のグラスが空になった時、宇留井がグラスをテーブルに置いて言った。

「賢治君、君は、君らしい奥床しさから言い出さずにいるが、本当はこんな僻地まで呼び出された理由、つまり、がこれから行なおうとしている儀式の内容や意義を聞きたいだろう。だが、それは明日まで待ってほしい。明日、朝食後に聖堂を案内する。その時に今日までのいきさつを含めて説明する。だから、今夜は別の話をしよう」

「別の話?」

 宇留井はいぶかしげに閏井の顔を見上げた。宇留井は照れ笑いを浮かべ、首を横に振った。

「いや、別に、特別な話があるわけじゃないんだ。明日の話が深刻で神経を磨り減らすものだから、今夜は気楽な話がしたいというだけだよ」

「そうだね」閏井はグラスの酒を飲み干して言った。「慣れないドライブで疲れているから、込み入った話だと途中で寝てしまうかもしれないからな。――では、何の話をしようか?」

「そうだな」宇留井は小学生のように悪戯いたずらっぽい顔をした。「たとえば、僕らはどこまで互いのドッペルゲンガーか、とか」

 閏井は渋い顔をして首を横に振った。

「高校生くらいまでは君の出来損ないのコピー、悪しきドッペルゲンガーと思えることができたんだが、今はもうダメだ。その面影さえない。君は城のような豪邸に住み、執事やメイドにかしずかれるセレブだが、俺は老後の心配をしなくちゃならない無名の大学教員さ。比べることさえ愚かしい」

「嘘だね」宇留井は二人のグラスに酒と湯を注ぎながら言った。「君は今日、門の前で出迎えた僕を見て、自分と同じだ、と思ってがっかりしただろう? 健一君はもっと若く美しいはずなのに、自分と同じように年齢以上に老いさらばえているじゃないか、とね」

「そんなことは……」

「あるよ、君の顔にはっきりと書いてあった」宇留井は乾いた声で笑った。「君にとって僕は永遠に若く美しく、女子が憧れるような美形でなければならなかったのだろう? ――おあいにく様、僕も君と同じように老いぼれてしまったよ」

「老いぼれとか言うなよ」閏井は苦笑して、宇留井に抗議した。「六十歳はまだ高齢者に含まれないんだぞ」

 宇留井は唇を歪めて首を横に振った。

「正直言うと、僕も君を見てショックを受けた。君はもう少し若見えしているんじゃないかと思っていたからねえ。――でも、共に同じように老けたことにはメリットもある」

「メリット?」

 閏井は当惑した顔で宇留井を見返して言った。

「僕には身内がいない」宇留井は言った。「正確に言えば、血縁者とは一切の関係を断っている。だから、僕に万が一のことがあった時は、財産や膨大な資料などを引き継いでくれる者がいない。だから、その場合は、それらを処分してくれると有り難い」

「何を言い出すかと思えば」閏井は溜息をついた。「身内がいないだなんて。君には奥さんがいるだろう。麻利さんと言ったっけ。君が亡くなるようなことがあったら、彼女が相続するんだろう?」

「うむ」宇留井は煮え切らないような顔で言った。「彼女の行く末のことを思って結婚することにしたんだが、麻利は僕の財産などまるで興味がないよ。彼女にとっては叡理に関すること以外は、まるで価値がないんだ。彼女が僕と一緒にいる理由はただ一つ。今回の儀式を成功させ、その結果を自分の目で確認することだ。だから、用が済めば、ここに居る必要はなくなる」

「もし失敗したら?」

 閏井は、宇留井が何をやろうとしてのかまったく見当がつかなかったが、成功することに自信満々なのが鼻についたので、いやみでそう聞いてみた。しかし、宇留井はあっさりと「失敗はしないよ」と言った。

「どういう形で終結するのか僕にもわからないのだが、失敗で終わることだけはない。がこれからやることは、そういうものなのだよ」

 皮肉に気づいていないのか、宇留井は確信に満ちた言い様を変えなかった。閏井は半ば意地になって、こう言った。

「絶対に失敗しないと君は言うが、その儀式とやらをやる前に、君が死んでしまうことだってありうるんじゃないかい? 部屋に籠もっていたって、突然死が避けられるわけじゃないからね」

 閏井が少し憮然としてそう言うと、宇留井はにやっと笑った。

「この儀式が成功するまで僕は死なないよ。んだ」

「怖いこと言うなよ」

「実際、怖いんだよ」

 宇留井は真顔でそう言うと、小さくうなずいた。その目が一瞬、爬虫類のそれに見えた。

「怖いといえば」宇留井の話に気味の悪いものを感じた閏井は、強引に話題を変えた。「僕の部屋の窓から石柱のようなものが並んでいるのが見えるんだが、あれは墓なのかい?」

「ああ、あれか」

 宇留井はそう言うと、もったいつけた様子でそれぞれのグラスに酒をついだ。

「そうそう、絶品のピクルスもあるんだ。酔いが回ってきた頃合いに食べると、この酸味とスパイスがいい感じで舌をリセットしてくれるんだ。まあ、食べてみたまえ。ドイツから直輸入したものだよ。世間にはトルコとかスリランカのピクルスも流通しているようだが、これを食べたらほかは口にできないよ」

 閏井はバーカウンターの冷蔵庫から瓶詰めの胡瓜のピクルスを取り出してくると、その一つを爪楊枝に刺して閏井に差し出した。

「――で、その石柱だが、お察しのように墓だ。だが、日本人のものではない。この修道院を建てた修道士だちのものだ」

「え?」閏井はピクルスが刺さった楊枝を右手に持ったまま、宇留井に問い返した。「この修道院は完成して間もなく見捨てられたのだろう? その間に、そんなにたくさんの修道士が死んだのかい? 見たところ二十基以上はあるようだったが」

「全部で二十三基ある」宇留井は三杯目のホットウィスキーを作りながら言った。「この修道院については記録がほとんど残っていないので、くわしいことは何も分からないのだが――正式名称すら不明なんだ――、献堂式の数ヶ月後には見捨てられたらしい。どうも、その理由があの墓と関係しているようなんだ」

「墓と?」閏井はホットウィスキーを一口飲んで言った。「伝染病か?」

「あるいは、そうかもしれない」宇留井はグラスを両手の間に置いて言った。「あるいは、内紛か。僕も気になって調べてみたんだが、わからなかった。聖堂が完成してすぐに多くの修道士が死に、そして修道院は放棄された。当時長崎で発行された新聞の一つには、修道士の一人が悪魔憑きになって他の者たちを皆殺しにしたという噂があったことを記しているが、警察などの記録にも、日本に滞在していた欧米人の日記などにも、そうした事件は記されておらず、真偽不明だ」

「素晴らしいね」閏井はもう一度溜息をついた。「楽しい夢が見られそうだ」

「夢見が心配なら」宇留井は意味深長な笑みを浮かべた。「ハーブティーを淹れようか? 麻利は薬草類にとても詳しくてね、症状に応じた各種ハーブティーも自家製のものがあるんだ」

 しかし、閏井は「今は結構だよ」と言って断わった。

「ハーブティーの力を借りなくても、疲労とこのホットウィスキーだけで十分熟睡できそうだよ。ついでに遺産の譲渡もお断りしておくよ。僕にはそんな大金を扱う自信はないし、君より長生きできる気もしない。……それから、この小切手もお返しするよ」

 そう言って閏井が五十万円の小切手を置くと、宇留井は悲しげな顔をして首を横に振った。

「それだけは受け取っておいてくれ。財産のことで気を悪くしたのなら、あやまるよ。だから、その小切手は受け取ってくれないか。これから二、三日の間に君がここで見聞きすることは、精神に大きな負担をかけるものとなる。その代償だと思ってくれ」

 「それにしても多すぎるよ」と閏井が言うと、宇留井はもう一度首を横に振った。

「いや、ぜんぜん高くない。三日後には、君もそう思っているだろう」

 閏井はしばらく宇留井の顔を見つめていたが、小切手を納める気がないと知ると、肩を竦め、小切手を財布に戻した。

「ああ、もう十二時か。まだ三十分くらいしか経っていないつもりでいたよ。じゃあ、話の続きは明日にしよう。僕ももう寝るよ」

 宇留井はそう言って立ち上がり、にやっと笑った。


 閏井は部屋に戻るとシャワーを浴び、歯を磨いて、ベッドに潜り込んだ。

 すると、疲れと酔いがどっと押し寄せてきて、あっという間に眠りに引きずり込まれていた。

 ――それから何時間経っただろうか、閏井は足音らしきものを耳にして目を覚ました。

 眠りから覚めたものの目はまだ閉じたままで、頭までかぶった布団ごしに足音を聞いていた。

《誰だろう?》閏井は薄ぼんやりした頭で考えた。《宇留井が廊下を歩いているのだろうか? でも、こちら側には用はないはずだ。それとも俺の様子を窺いに来たのか?》

 しばらくそうして耳を澄ませていると、歩いているのは複数の者で、廊下を行き来しているのではなく、閏井の周囲――七、八メートルも離れたところだろうか――をぐるぐる巡っているらしいことがわかってきた。

《しかし、部屋はそんなに広くないはずだ》

 そう思って耳を澄ませてみると、足音もおかしかった。そもそも彼が寝ている部屋は、毛足の長い絨毯が敷かれているので足音がしないのだ。それにもかかわらず、布団の外では石畳の上を革のサンダルで歩くような音が鳴り続けている。

 おかしいのはそれだけではない。布団の外の空気も、室内とは思えないほど冷えてきている。

《ここは……、聖堂の中なのか?》

 そんなことはない、と思い直したが、ひんやりとしてかび臭い空気は客間のものではなかったし、側廊との間に立ち並ぶ列柱や天井の肋骨ろっこつ穹窿ヴォールトが布団と瞼を通してかすかに見えた。

《いや、目をつぶっているのに見えるのはおかしい。……これは夢なのか?》

 閏井はそう思い、夢を見ているのなら体を起こして目覚めてしまえばいいと考えた。だが、重苦しい疲労感と深い眠気が肉体の末端まで浸潤していて、体はぴくりとも動こうとしないのだった。

 そして、その間にも映像はしだいに明瞭となっていくのだった。

 閏井が寝ているのは、やはり聖堂の身廊の中央で、ベッドはいつの間にか石でできた台のようなもの変わっていた。

《これは……、墓だ!》閏井は驚いて心の中で叫んだ。《おそらくは聖人の墓だ。蓋のところに施される彫像の代わりに寝かされているんだ!》

 周囲を巡っている修道士は全部で七、八人。粗い織りの茶色い修道服を着てフードをすっぽりかぶっているので、顔は闇の中に隠されて見えない。そもそもそこに顔があるのかさえも定かではない。

 彼らは一様に低音で呪文のようなものを唱えている。閏井にはそれが「さくり、さくり」と聞こえる。

 祈禱文にしてはおかしいと思っていたが、不意にその意味がわかった。

《サクリファイスだ!》閏井は全身から血の気が失せるのを感じた。《ヤツら、僕を生け贄にするつもりだ!》

 閏井が逃げようともがいたその瞬間、修道士の一人がかがみ込んでてきた。

 フードに覆われた頭部が近づいてきて、陰になっていたその顔が見えた。

 それは、焼け焦げた老人の顔だった。

 閏井は「わっ」と叫び、目を覚ました。

 彼はベッドの上で上半身を起こしており、汗ばんだ手で掛け布団を握りしめていた。

 そこは寝る前と同じ部屋の中で、聖堂の身廊などではなかった。もちろん、修道士たちも存在していない。

 枕元に置いたスマホを手に取ってみると、まだ一時半にもなっていなかった。

《なんであんな夢を見たかな?》

 耳を澄ませてみると、風のうなり声が聞こえた。海風が聖堂の複雑な形の壁の間を抜ける時に音をたてるのだろう。

 閏井はベッドから降り、窓辺に行ってカーテンを開けたみた。

 すると、その時、大きな黒い鳥が――どうやら、窓枠にとまって中を覗いていたらしい――漆黒の翼を左右に広げて、二度三度羽ばたいたかと思うと、どこかへ飛び去っていった。

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