ep:4 大いなる光の覚醒と煌めく一閃

「グガアアアアアッ!!」


 フェクターの剛腕が振り下ろされ、ノーティスを影で覆いながら襲い掛かる。

 それを見つめるクロエは、悲壮な顔に涙をにじませ片手を伸ばした。


「ダメーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 けれど、その叫びも虚しくフェクターの剛腕はノーティスをドガアアアアアアンッ!! と、上から叩き潰した。

 凄まじい衝撃波が大きな砂塵を巻き上げ、周囲にブワッ! と、広がる。


「くっ!」

「うわっ!」

「ぐっ!」

 

 クロエ達は片腕を上げ防御したが、その衝撃波は凄まじく耐えるのが精一杯だ。

 けれどその衝撃波よりも、ノーティスが殺されてしまった事がクロエの胸を強く押し潰す。


「なんで……なんであんな子が……! くっ……!」


 瞳に涙をにじませガクッと片膝をつき、クロエはギュッと目を閉じうつむいた。

 瞳からこぼれる涙が地面を濡らす。

 だが、その後ろで衛兵二人は驚愕に目を大きく見開き、震えながら指を差している。


「た、隊長……!」

「クロエ隊長、あれは……!」

「えっ?」


 クロエはスッと顔を上げると、思わず目を見開いた。

 涙でにじむ瞳に映ったからだ。

 フェクターの剛腕を受け止め、額の魔力クリスタルから見た事も無いような白く大きな輝きを放っている、ノーティスの姿が。


「な、なにあれ?!」


 クロエは衛兵達と一緒に、軽く目を細めた。

 あまりにも眩しく神々しい光に、目がくらみそうになってしまったから。

 もちろん、なぜノーティスからそんな光が放たれているのか分からない。


「あの子は無色の魔力クリスタルのハズじゃ……!」

「む、無色どころか……」

「こんな輝き見た事が無いっ……!」


 白く大いなる光に照らされているクロエは、思い出していた。


───この輝きは、かつて一度だけ見た王宮魔導士と同じか、もしくは……!


 クロエは以前に王宮魔導士と会った事がある。

 なので実感しているのだ。

 この光が、どれだけ凄い物なのかを。

 ただそんな中、ノーティス自身がこの光の事を一番分からずにいた。


「こ、この力は……!」


 クロスさせた両手でフェクターの剛腕を受け止めながら、ノーティスは感じている。

 全身から湧き上がってくる、途轍もない力を。


「くっ……ぉぉおおおおっ……!!」


 ノーティスはフェクターの腕をズドンッ!! と、横に叩き落とすと同時に、ダッと前に飛び出した。


「フェクター! 今キミを救ってみせるっ!!」


 徒手空拳の状態ではあるが、ノーティスは魔力クリスタルから溢れ出した、大いなる白い光を全身にまとっている。

 凄まじいスピードでフェクターに跳びかかり、下からボディー目掛けて拳を突き上げた。


「ハアアアアアアアッ!!」


 ズドンッ!!! と、いう大きく鈍い音と共に白い光を纏ったノーティスの拳が、フェクターのボディーにめり込む。

 衛兵達の剣も矢もまるで通らず、魔力クリスタルを滾らせたクロエが薄皮しか斬る事の出来なかった、フェクターの固い身体に。

 その拳を喰らったフェクターはグフウッ!! と、苦しい声を漏らし両膝をズドンッ!! と、地面に着けた。

 

───今だっ……!!


 ノーティスは座高の低くなったフェクターを見据えたまま、右手の拳をグッと握り光の力を集約させてゆく。

 もちろん、こんな事今まで一度もした事なかったが。

 けどなぜか、体が自然とそうすべきだと教えてくれるから。


「フェクター……! キミの悲しみも怒りも、その暴走した魔力クリスタルごと破壊する……!」

「グウゥゥゥゥゥゥッ……!」


 フェクターは苦しみの声を漏らしながらも、真っ赤な瞳でノーティスを睨んでいる。

 暴走した魔力クリスタルからくる、狂気の破壊本能と共に。

 そんなフェクターをノーティスは真っすぐ見据えたまま、拳を振り上げダッ! と、跳びかかった。


「ハアァァァァァッ! 目覚めろフェクター!!」


 全身に白い輝きをまとったまま、フェクターの魔力クリスタル目掛け突き進む。

 勝利はもう目前だ。

 が、しかし、それは突然起こった。


「ガハッ!!」


 ノーティスの全身に途轍もない痛みが走ったのだ。

 それによりノーティスは失速し、ズザァァァァァッ! と、地面をこするように倒れてしまったのだ。


「うあぁぁぁぁぁっ! な、なんだこの痛みは……!! あっ……ぐっ……全身が引き裂かれそうだ!!」


 ノーティスは倒れたまま激痛に顔を歪めている。

 それを見た衛兵達は謎めいた顔を浮かべているが、クロエにはすぐに分かった。


───あれはきっと『魔力のオーバードーズ』!


 これは魔力のキャパオーバー。

 無色の魔力クリスタルにも関わらず、突然王宮魔導士レベルの魔力を発揮した事による反動だ。


───くっ、なんで気付けなかったの……!


 クロエは剣の柄をギュッと握りしめると、ノーティスに向けて駆けだした。

 命を賭けて戦ったノーティスを、絶対に死なせたくなかったから。

 けれど一足遅く、ノーティスはフェクターにガシッ! と、体を掴まれてしまった。

 フェクターは手に力を込め、ノーティスをグググッ……と、握りつぶしてゆく。


「グガァァァァァッ……!!」

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 ノーティスに途轍もない激痛が走る。

 ただでさえ魔力のオーバードーズにより凄まじい痛みが走る中、フェクターの握力により全身の骨がミシミシと軋んでゆくからだ。

 それを目の当たりにしたクロエは再び自らの魔力クリスタルを全開にさせ、紅い魔力のオーラと共に剣を振り上げフェクターに跳びかかる。


「その子は殺させないっ!!」


 しかし、クロエはフェクターに片手でバシンッ!! と、跳ね飛ばされてしまった。

 鋭い爪がクロエの鎧を斜めにザシュッ!! と、切りき裂く。


「あぁぁっ!」

「隊長っ!」

「クロエ隊長っ!」


 衛兵二人に支えられる中、斬り裂かれた鎧の裂け目から白い肌が露わになり、そこから血が流れている。


「うぅぅぅっ……!」


 クロエはそれでも体を起こし、顔を苦しさにしかめながらノーティスを見つめている。

 もう、クロエ自身の体も動かないが、ノーティスの命は風前の灯だ。

 けれどそんな中、クロエはハッとした。

 ノーティスがこちらを見ながら、訴えているのに気づいたから。


「お……お願いします。この間に、あの子を……助けてくださいっ……!」

「くっ! アナタは自分が死ぬのに、それでも人の為に願うというの……!」


 その想いと共に、クロエの視界が涙で滲む。

 ノーティスが死んでしまう事と、それを助けられない悔しさに。


───お願い……誰か……誰か、誰でもいい! あの子を助けて……!!


 クロエの綺麗な瞳から涙がボロボロ零れ落ちた。

 その涙が、途轍もない悲しみと共に地面を濡らす。

 だが、その時だった。


「お前の光は希望の光だ。決してここで消させはしない……! 『エッジ・スラッシュ』!!」


 クロエ達の後ろから精悍な声が響いてくると同時に、皆が振り返る間もなくシュンッ!! と、白い一筋の閃光が走り、フェクターの魔力クリスタルに突き立てられた。

 それをクロエ達が見つめる中、フェクターの魔力クリスタルにピキピキピキッ……! と、亀裂が走ってゆく。


「あ、あれはっ?!」

「な、なんなんだ……!」

「速すぎるっ……!」


 そう漏らした瞬間、フェクターの魔力クリスタルはパリンッ! と、音を立てて砕け散った。


「グガアァァァァァァァァァッ!!」


 フェクターの断末魔が街中に響き渡る。

 それと共にフェクターの体はみるみる内に縮んでゆき、元の姿に戻るとその場にドサッと倒れた。

 また、ノーティスもその場に倒れかけてしまう。

 が、閃光の技を放った男がサッと抱きかかえた。


「おっとぉ、ここで寝るのはオススメしねぇぜ」


 男はサラッと流れる前髪の奥から、クールで自信に溢れた瞳でノーティスを見つめている。

 長身かつスタイリッシュな体格の上から白いロングコートを纏っていて、まるで神と悪魔が混合したような雰囲気だ。

 もちろん、途轍とてつもない実力があるのは明白。

 凶暴なフェクターの魔力クリスタルを一撃で射貫くのは、まさに神業と言っ差し支えないからだ。

 その男はノーティスを抱きかかえたまま、ニヤリと笑みを浮かべた。


「フンッ……よくやったじゃねぇか。お前の光が俺をここに導いたんだぜ」

「俺の光が……」

「そうだ。後はお前の光、俺が極限まで高めてやる。お前が俺の、後継者だ……!!」

「後……継者?」


 突然後継者と言われても、ノーティスには何の事なのか全く分からない。

 けれど、全身のあまりにも大きなダメージと危機が去った安心感により、男の腕の中でスッと眠りに落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る