第1話

 日が沈んできた頃、俺たちは森を出て少しの所にある小さな村に着いた。

 魔物のでる森が近いからか村は木製のバリケードで囲われており、入口に当たる場所には衛兵もいる。


「エミリア様、任務お疲れ様です。後ろの子は?」

「訳ありのようでな、森で拾ったんだ」

「そうでしたか。身分などは――まあ、森で拾ったのなら不明でしょう。お疲れでしょう、どうぞ宿でお休みください」

「ああ、ありがとう」


 よかった、身分が不明だから村に入れない、なんてことはなかった。

 それからエミリアたちは馬を厩舎に入れ、二階建ての木造の宿に入った。どうやらここは酒場も兼ねているようで、一階の酒場では村人であろう人たちが美味しそうな肉料理を食べながら酒を飲んでいる。

 各々テーブルで談笑しながら酒を飲んでいる村人たちは、宿に入ったエミリアを見るなり騎士様の帰還だと沸き上がった。

 エミリア達は彼等に微笑みかけて答えながら受付を済ませ、二回の部屋に向かう。

 部屋自体はあまり広い部屋ではないようで、俺もいる事から二部屋に分かれることになった。


「セシルちゃんはわたしと一緒ですよ~」

「あ、はい。わかりました」


 俺はシスティと同室か。彼女は清楚系お姉さんって感じで安心感はあるが、同い年くらいの女子と同室なんて……。しかも、ここの宿はさほど広くないのでベッドは一つ。しかもサイズはセミダブル。

 そりゃ女の子が一人増えたという認識だろうが、俺の中身は生粋の男。けどそれ含め色々説明すれば問題が増えそうだし、隠したほうがいいだろう。俺の心臓、持つかな……。


「そういえばセシルちゃん、吸血鬼なんですよね。普通のご飯で大丈夫ですか?」

「んー、まあ、数日なら血は吸わなくても」


 本能なのか女神がくれた知識なのか、何となくそうわかっていた。

 けど、言われて意識すると少し血が欲しくなる。本能的に、彼女からいい香りがした気がした。女の子のいい匂いとかそういうのではなく、食事に対して美味しそうだと思う、そんな感じだ。

 気づけば、俺の視線は彼女の首筋に向いていた。


「……あのぉ、わたしのでよければ吸います?」

「え、あ、いいんですか?」

「まあ、拾ったからには仕方ないですからね~」

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」


 そう言うと、彼女の方から俺に近寄ってきて、吸いやすいようにと服を少しだけはだけさせた。元々胸元がちらっと見えているような服だったが、下着まで見えた。白か……。


「い、いただきます……」


 俺は恐る恐る彼女の首筋に顔を近づける。美味しそうな血の匂いだけじゃなくて、香水なのか女の子らしいいい香りがふわっと鼻腔をくすぐる。

 理性と食欲の狭間で悶々としながらも彼女の首筋にキバを立てると、やはり痛みはあるのかシスティは「んっ」と色っぽい声を漏らす。

 なんだろう、凄い罪悪感だ。イケナイ事をしているような……。


「ちゅ~……ぷはぁ、美味しかった、です……」

「それは良かったです~。って、セシルちゃん顔が真っ赤ですよ?」

「それは、その……」


 そりゃ初対面の清楚系美少女の首筋に歯を立てて血を吸うとか、仕方ないとはいえ下着まで見ちゃったらこうなるよ。男の子だもん。


「初心な吸血鬼ちゃんですねぇ」


 年下の子をめでる様に、システィは俺の頭を撫でる。あっ、この人、お姉ちゃんだ。生まれてこの方女性経験どころか女友達もほとんどいなかったから好きになっちゃいそう。


「そうだ、ご飯の方はどうしますか?」

「そっちも、食べたいです」

「わかりました~。じゃあ、行きましょうか」


 システィと二人で酒場に向かう。エミリア達はいいのかと聞いたところ、彼女たちは少ししてから来るらしい。オタクとしては色々捗ってしまう。


「店員さーん、ワイバーン肉のソテーとビールください~。セシルちゃんは何にします?」


 メニューを見た感じ、ここは肉料理がメインのようだ。飲み物はほとんど酒類で、ジュースは少ない。


「じゃあ、これとこれとこれで」


 とりあえずシチューとパン、それから蜂蜜酒にした。たぶん、これが一番無難だろう。ワイバーンの肉とか気になるけど、流石に食べる勇気はない。

 注文してから料理が届いた頃に、エミリア達も合流してきた。


「待たせたな。店主、いつものを頼む」

「はーい」

「二人の時間は楽しめましたか~?」

「システィ、子供の前でそういう事を言うな」


 この感じ、ヤったな。最後までシてなくても、まあイチャイチャしていたのだろう。

 安心してくださいエミリアさん、俺そういうの詳しいですから。前世で散々見ましたから。


「うふふ、そうですね~」


 エミリアは平然としているが、イリスは指摘されてほんのり頬を赤らめていた。そして、システィは心なしか楽しそうに見える。多分、このパーティーでのよくあるやり取りなのだろう。


「……システィ、あの二人ってそういう関係なんですか?」

「そうですねぇ。かれこれ二年ほどは。まあ、そのせいで大変ですけどね~」


 楽しんでいるような困っているような、そんな表情でシスティは答える。地上の縺れでメンバー脱退とかあったのだろうか。そういえば、一時期ハマっていたネトゲでもそんな事あったな。俺をリアル女子だと勘違いしてワンチャン狙ったメンバーが二人いて、ナニとは言わないが写真を送ってこられたのでギルマスに報告したら強制脱退させられてたっけ。

 巻き込まれたら面倒だが、そういうのをいざ現実で、それも第三者視点でみられるとなかなか面白いものだ。


「まあそれは置いといて、エミリアちゃん、明日街に入るとき、この子をどう説明しましょうかね~?」

「そうだな……検問所で手続きするのが一番早いだろうな」

「そうね。システィが拾ったでもと言えば、多少融通も利くでしょうし」

「そんなに信頼されてるんですか?」

「エミリアちゃん、これでも公爵令嬢ですからね~。ちなみに、イリスちゃんは伯爵令嬢です」

「すごい、本物のお嬢様だ……」

「なんなら、システィは王族だぞ」

「お、王族……!」


 どうやら俺は、とんでもない人たちに拾われてしまったようだった。

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