超絶美少女ならチート能力なんて無くても異世界を生き抜けるよね!
おるたん
プロローグ
真っ白で何もない空間に、気づけば俺は居た。海に浮かんでいるような感覚だ。
ここはどこなのだろう。というか、俺はさっきまで何をしていたっけ。
昨日の夜からゲームして、それから……記憶がない。
「気が付きましたか」
何もない空間に声が響く。あたりを見渡してみるが、誰もいない。
「誰? それにここどこ?」
「ここは精神世界のような場所です」
「はぁ……」
精神世界……夢みたいなものか?
「昼間あなたは死んでしまったのです。しかし何の因果か、本来あなたの世界で巡るはずの魂が次元を超え、私の世界に来てしまったのです」
「死んだ……なんで?」
「私はあちらの世界を観られないので不明です。しかし魂をこのまま放っておくわけにはいかないので、一時的に回収しておきました」
「……つまり俺、死んで異世界に来ちゃったってことでいいのか?」
「話が早いですね」
「まあ、そういう話よく読んでたから」
「そうですか、では詳しい説明は端折りましょう。あなたには二つの選択肢があります。このまま魂を消滅させ完全に死ぬか、新たな肉体を得てこちらの世界に転生するか、そのどちらかです」
転生、まんまラノベで読んだ通りだ。
「一応聞きたいんだけど、どんな世界?」
「それは、見てもらったほうが早いでしょう」
神がそう言うと、俺の目の前に映像が映し出された。
美しい平原を悠々と歩く見慣れた動物や、ゲームでよく見る魔物のような生物。空には鳥やドラゴンもいる。そしてシーンが切り替わり、次は街が映し出された。
街並みはローマのあたりに近いだろうか。馬車が走っていたり、甲冑を纏った騎士がいたりするあたり、産業革命前くらいの文明レベルに見える。ただ、服装に関しては割とおしゃれなあたり、その辺の技術は発展しているらしい。
そして洞窟の中、剣を振るい悪魔のような生物と戦う戦士、その後ろから魔法で援護する魔法使いが映った。
「剣と魔法の世界か」
となると、後聞くことは一つ。
「転生するとしたら、何か特典はあったりすんの?」
「特典ですか……まあ、好みの容姿で転生させることくらいなら可能です」
「あぁ、そっすか……」
チート能力がもらえるなんて展開は流石にないらしい。まあ、神の手違いって訳でもないから仕方ないか。
なら――
「じゃあ、白髪紅目で身長154センチDカップお尻はちょい小さ目で不老の超絶美少女として生まれ変わりたい!」
俺はそう高らかに言った。
元の俺はイケメンでもなく不細工でもなく、身長は平均より少し低いどこにでもいるモブのような男子高校生だった。中身も普通にサブカルが好きなオタク男子。だからこそ、俺はこういう展開に憧れていたのだ。
チート能力はそりゃ欲しいけど、それ以上にTSで超絶美少女に、なんて展開に憧れていた。
自分が超絶美少女という事実だけでご飯三杯はいけるね。
「細かいですね。まあいいでしょう。不老……ならば、寿命が長く見た目的にもその種族に会っている吸血鬼として転生させましょう。それでは、あなたを転生させます。特典というほどではありませんが、新たな生を受けるにあたって、あなたに名を授けましょう。名は――」
セシル――
その名を授かる共に、気づけば俺は森の中の大樹にもたれかかって座っていた。
「ここが……」
立ち上がり、適当に辺りを散策してみる。
見た事のない植物ばかりで、たまに見かける動物も、兎に角が生えてたり翼が生えてたり、スライムっぽいのがいたりやたらデカい蜘蛛がいたり、まさに異世界といった感じだ。
歩いてるだけで面白いけど、よく考えたら俺って今遭難してる状況だよな。
「誰かいませんかー!」
何とか腹から声を出して叫ぶ。無意識的に、知らないはずの現地の言葉で叫んでいた。そう言った最低限の知識だけは授けてくれたらしい。
「おーい!」
……誰もいないようだ。どうしたものかと思いつつ適当に歩いていると、運よく川にたどり着いた。
水面を鏡に自分の姿を確認してみると、しっかり要求通りの容姿になっていた。結構歩いたので一息つくついでに、自分の胸をもんでみる。
……これが、おっぱい!
ふにゅっと指が柔らかい肉に沈む。初めて揉んだ。服の上からでもわかるこの柔らかさ、ちょっと癖になりそうだが、自分の胸だからか、別段興奮はしなかった。
なんというか、ちょっと虚しくなるな。
……とりあえず、ここを辿って歩こう。
川沿いを歩くこと体感二時間ほど。結局人は誰もおらず、俺は大きな湖にたどり着いた。
観光スポットの動画で見るような、澄み切った綺麗な湖だ。泳いでいる魚もよく見える。
見ているとくぅ、とお腹が鳴った。お腹の音まで美少女かよ。
火の起こし方は何となく知っているがやったことはないし、そもそもあの魚を釣るための道具がない。
「どうしたもんかなぁ……」
女神様、お腹が空いたのでどうか食料をお恵みください――
なんて、祈っても出てこないか。
吸血鬼と言えば翼があったりするが、この世界ではただ血を吸って魔力やら生命力やらを回復できるだけらしい。その代わり日光だとかニンニクだとか、俺の知っている吸血鬼の弱点がないだけいいか。
「はぁ……」
もういっそ、そこらの動物の血でも吸うか?
その辺にいる動物と言えば、見た感じ……兎っぽい奴に鹿っぽい奴、狼っぽい奴もいるが、どれもラノベじゃ魔物枠で出てきそうな見た目で、手を出すのが怖い。
兎くらいならいけそうだが、見た目が可愛いから流石に抵抗がある。
よし、魚を取ろう。吸血鬼ならなんか身体能力高そうだし、素手で行けるだろう。
服が濡れて張り付くのは好きじゃないので、どうせ人もいないし服を脱ぐ。服のデザインの系統は違えど割と現代的だと思ったが、下着も中世?くらいの物とは思えないやけに可愛いデザインだ。というかあの神様、黒とはよくわかってるな。
ブラのホックを何とか外してパンツも脱いで、俺はついに全裸になった。
人がいないとはいえ、外で全裸……流石に恥ずかしいな。無意識的に胸と股を隠すように手が伸びた。
どうか荒くれものとかゴブリンとか、エロ同人的なオスが寄ってきませんように。
さて、魚を――
「君、こんなところで何をしている。こんな森の中で水浴びは危険だぞ」
「うひゃぁ!」
やべ、驚いて美少女みたいな悲鳴が出た。
声からして女性だからよかったが、それでも人前で全裸は恥ずかしいな。
「あ、え、えっと、水浴びじゃなくて、お腹が空いたから魚を取ろうと……」
「食料もなしに森に入ったのか?」
「いや、その、迷子でここにたどり着いて……」
「なるほど、訳ありか。戻って来い、私の食料を分けてやろう」
「あ、ありがとうございます!」
胸と股を隠しつつ振り返ってみると、軽装で馬に乗った女騎士らしい女性が三人いた。
金髪碧眼に巨乳の女騎士、黒髪の清楚系っぽい女騎士、そして「ほら、早く上がってくるんだ」と俺に声をかけてきた赤髪の気が強そうな女騎士。
皆めちゃくちゃ美人だ。年は多分十八とかそこら、大体おれとおないどしくらいだろうか。女子と話すことなんてほとんどなかったからこうしてちゃんと顔を見ると急に緊張してきた。
一人で悶々としながら湖から上がると、赤髪の女性は馬から降り、サンドイッチを一つくれた。
「ありがとうございます!」
早速一口かぶりつく。
「ん~、美味しい……」
大自然の中、美人女騎士三人の前で美味しいサンドイッチを食べる。なんて幸せなのだろう。
「……君、まさか吸血鬼か?」
サンドイッチを食べる俺を見て、赤髪の女性は少し低い声でそう聞いてきた。
「ごくっ――そうですよ」
「そうか……。吸血鬼がなぜこの森に? 森に来た経路も覚えていないのか?」
「その、気づいたら森にいたから……」
言い訳が思い浮かばず、そのままの事実だけを述べる。
「本当に訳ありのようだな。イリス、どうする?」
「ひとまず保護でいいんじゃないかしら?」
金髪の女性がイリスか。ゆるふわウェーブの金髪にあの口調、さては貴族令嬢だな?
「そうですね~。色々危険でしょうし、わたしたちで保護するのがいいと思います。エミリアちゃん、お部屋に空きってありましたっけ?」
「ああ、使ってない書斎が開いていたはずだ。その後の事は、システィに任せる」
「わかりました~」
清楚な女性がシスティ、赤髪の女性がエミリアというのか。こういう名前からも異世界に来たって実感できるな。
「……ところで君、服は着ないのか?」
「その、濡れたまま服着るの苦手なので」
「風魔法で乾かせばいいじゃないから」
「いやぁ、魔法の心得がなくて……」
「魔法が使えない魔族とじゃ珍しい。こっちにこい、乾かしてやる」
「じゃ、じゃあ、お願いします」
エミリアは俺に手を伸ばし、そこから暖かい風を起こす。無詠唱……もしかして、エミリアってすごい女騎士なのだろうか?
「これで乾いただろう。人が少ないとはいえ外だ、早く服を着ろ」
「あ、そうだった」
三人の会話とビジュアルとサンドイッチに気を取られてすっかり忘れていた。
パンツを履いて、アニメで見た知識でなんとかブラも着ける。これ、結構難しいんだよな。
「君はいい服を持っているのだな。もしや、どこかの令嬢だったりするのか?」
まあ体をくれたのも名前をくれたのも女神様だし、一応はそうなる……のだろうか。
「たぶん、そんな感じです。そういえば名前言ってなかったや。お――私、セシルです」
「セシル――永遠の愛か。いい名前だな」
俺の名前、こんな意味があったのか。女神様、やっぱりいろいろ気を遣ってくれてたのかな。
「それじゃあセシル、ひとまず服を着てくれ。それから、街まで連れて行こう」
「えっと、エミリアさん。色々ありがとうございます」
「気にするな。困った人を助けるのが我々の責務だからな。ほら、早く服を着ろ。街まで連れて行ってやる。だから、早く服を着ろ」
「っ、そ、そうだった」
ご飯と美少女三人に気を取られて忘れていた。思い出してまた羞恥心が湧いてきたので、俺は急いで服を着る。
「私の後ろに乗るといい」
「え、あ、はい。では、お言葉に甘えて……」
「ふふっ、何を緊張している。ほら」
馬とエリシアさんは通じ合っているのか、馬は俺が乗りやすいように姿勢を低くする。そしてエミリアさんの手を取ると、軽々と俺を後ろに乗せてくれた。
「しっかり掴まっているんだぞ」
「は、はい……」
言われるがまま、俺はエミリアさんの後ろに乗って、躊躇いつつも彼女のお腹に腕を回す。美少女にこんな密着するのは人生初で、どんどん心拍数が上がっていく。彼女は軽装なのでお腹のあたりには防具を着けておらず、服越しに女性らしい柔らかさを感じる。今じゃ同性だが、それでも慣れていない俺にはこれだけでもご褒美でありながら、同時にめちゃくちゃ緊張する。
「では行くぞ」
こうして、俺は幸運にもエミリアさんたちに村に連れて行ってもらえることになった。
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