第3話
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一限もそろそろ終わるという頃、猛烈な勢いで腹が痛くなってきたので、休み時間に突入すると同時にトイレに掛け込んだ。ソフトクリーム2個一気食いからの、エアコンの効きまくった教室での授業は僕の腹に致命的なダメージを与えるには申し分なかったようである。熱中症で倒れられて生徒の親からクレームが来たらたまらんという事で、エアコンの温度設定も生徒任せにしておいたのが仇になったな。下腹部の痛みと格闘しながら、そんなくだらないことを考えていたら、トイレ内の会話が聴こえてきた。
「B組の神田が転校したんだってよ」
「マジで!?なんで?」
「親の都合らしい、詳しくは知らんけど」
刺激を与えるために、ウォシュレットのボタンを押そうと思っていた指が、空中で停止する。
「奥永が神田の事、好きだったらしいよ」
「そうなん? 意外だなー。あいつの好みってギャル系なんかと思ってた」
彰彦の話題が出て、動揺してウォシュレットをおしりボタンではなく、ビデボタンを押してしまった!彰彦の苗字は奥永なのである。あ、玉が!玉に変な刺激が来て、逆に下腹部がまた痛くなってきたっ!
「おい、そろそろ二限はじまるぞ!いこうぜ!」
「そうだな」
個室内に取り残された僕は、腹の中の老廃物を出し切るまで格闘するのだった。二限開始のチャイムを聴きながら、神田の事を思い出していた。肩まで伸ばした長い艶のある黒髪。化粧っ気はなかったが、確かに整った美しい目鼻立ちの顔。クラスの前面に出るような主張する強さはなかったが、優しい人柄で、理不尽な暴力に晒された者がいたら、さり気無く庇い立てるような強さをもっていた。中学のとき、どんくさい僕がドンガメ!ドンガメ!とクラスの男どもからバカにされていたとき、「おめーら、やめろよ!」と守ってくれたのは、いつも彰彦で、思い返せば、その側には神田もいて、僕のことを哀しい顔で見つめていたのだった。今になって、あのときの神田の表情が克明[こくめい]に思い出されるのは何故なんだろう。
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