第2話 テイムスキル発動!
「やれやれ……」
狂人どもによって追放されてしまった俺は、安全そうな場所を探して森の中を彷徨い歩いていた。王都から馬車に乗せられ三日くらいかけてこの場所へ連れて来られたので、歩いて帰るのは無理だろう。奴ら入念に追放しやがる。
今のところ魔物には遭遇していないが、このままでは日が暮れてしまう。
「
引きこもりライフを送る中で一通りファンタジー系のアニメやゲームに触れてきた俺には、
基本的には魔物やら動物やらを従わせて戦う職業といった感じだが、問題は
倒して起き上がるのを待つのか、餌を与えて懐かせるのか、それともボールで捕獲でもするのか……色々と手段は思い浮かぶが、現状どれも現実的ではない。
餌やボールは持っていないので論外、この森の中で拾えるものといえば木の枝とか石ころくらいだが、こんなモノで魔物に勝つことなど不可能だろう。
俺は現代社会で引きこもって暮らしていた非力な人間なのである。例え雑魚モンスターであったとしても、殴り合って勝てるビジョンが思い浮かばない。
おまけに殺すのもかわいそうだからな。クラスメイトとは違い、現代的な倫理観を兼ね備えた心優しい俺に生き物を殺すことなんてできない! あの爺さんの評価は間違っているのだ!
「まったく……」
歩き疲れ、よろめきそうになった俺は近くの木に手をつく。インドア派だから今日一日で一年分の体力を使い切った気がするぞ。
――暢気にそんなことを考えていた次の瞬間。
〈ベリーの木をテイムしますか?〉
突如として、脳内に謎のアナウンスが鳴り響く。
こういうのも異世界ではよくある展開だから大して驚きはしないが……。
「木を……テイムだと?」
そこで、俺はふと植物も生き物であるという事実に気づく。爺さんの言っていた「生き物を調教して従わせることができる職業」という定義を素直に信じるのであれば、そういったことも可能なのかもしれない。
「……仮にベリーの木とやらをテイムした場合、どうなるんだ?」
俺は試しに、謎のアナウンスに向かって問いかけてみる。何も返事が来なかったら普通に恥ずかしい。
〈資源を取得し、好きな形状に加工することができます〉
良かった。どうやら、ある程度質問にも答えてくれるようだ。
というか、木を加工できるのは最早テイムというよりクラフトな気もするが……まあ細かいことを気にしている場合ではないな。とりあえずはやってみるか。
俺は目の前の木をテイムするよう念じてみる。
「…………」
しばらく何も起こらなかったので段々と恥ずかしくなってきたその時。
〈テイム完了。木材×5、木の枝×10、ベリー×5を取得しました〉
突如として目の前の木が俺の手のひらに吸い込まれて消失し、そんなアナウンスが脳内に流れた。
「……なるほどな?」
もしかすると、俺だけ他のクラスメイトとは別のゲームをやらされているのかもしれない。剣と魔法のファンタジーから若干趣旨がズレているぞ。
「今ので何が作れる?」
〈木材×2、木の枝×3で木の剣、木の斧――木材×5で焚き火、等が作成可能です〉
「木をテイムできるのに斧が必要なのか?」
〈木の斧を使用すると、樹木類のテイム速度上昇が見込めます〉
つまり、さっきのラグが短くなるわけか。それなら、まずは護身用の剣と樹木テイム用の斧を作成すれば良さそうだ。
〈木材×4と木の枝×6を消費し、木の剣と木の斧を作成しました〉
俺は念じることで剣と斧の作成に成功する。コツを掴んで来た感じだ。
何もない空間から木の斧を出現させ、近くの木に向かって振ってみた。
〈テイム完了。木材×3、木の枝×5を取得しました〉
斧を使用する場合は、木こりのように切り倒す動作をすればいいわけだな。……そうなると、モンスターをテイムする場合は剣を使用するのかもしれない。
これに関しては実際に遭遇してみないと分からないか。
「とりあえず……まずはこの辺りの木を一通りテイムするとしよう」
――それにしても、何故俺は邪竜を倒さなければいけない世界でサバイバルクラフト系の開拓ゲーをやらされているのだろうか。甚だ疑問である。
*
「さてと……まずはこんなものだな」
木を一通りテイムし尽くして辺りを更地にした俺は、木材×6で作成した木の椅子に腰掛け、ほっと一息つく。
現在の手持ちは木材×50ほどだ。
〈木材×25で木の小屋が作成可能です〉
なるほど。自分で資材を設置してデザインするのではなく、必要資材さえ揃えれば最初から建物が作成可能なシステムになっているのか。
少し寂しいような気がするが、命が危ないときに面白さは求めていないのでありがたい。
「ならそれを作ろう」
――かくして木の小屋が完成し、俺は樹木をテイムして更地になったペースににそれを召喚するのだった。
テイムスキルによって作成したものは自由に出し入れして管理できるらしいので、移動式簡易拠点の完成である。
どうやら、思ったより簡単に安全な場所を確保できてしまったみたいだな。追放された時はどうなることかと思ったが、この調子なら意外とやっていけそうだ。
人間一人くらいであれば快適に暮らせる程度の、それなりに広い小屋の中へと足を踏み入れた俺は、中央で大の字になって仰向けに寝転がるのだった。
しかし今のところ明かりをつける手段がないので、今夜は真っ暗な小屋の中でひたすら寝て過ごすことになりそうだ。木の実をかじりながら。
「……せめてベッドが欲しいな」
思ったより床が硬くて冷たかったので、ふとそんなことを呟く。
〈草をテイムすることで、草のベッドを作成できます〉
すると、ありがたい情報を得ることができた。
一度小屋の外に出て周囲を見渡すと、少し離れた場所に背の高い草が密集して生えているのが目に留まる。
「木こりの次は草刈りか。もう一生分の肉体労働をした気分だ……」
俺はぼやきながら大きめの雑草に近づいていき、手をかざしてテイムしてみた。
〈草×10を取得しました〉
続けて、ベッドを作成するよう念じてみる。
〈草×4を消費し、草のベッドを作成しました〉
未だに調教師らしいこと一つもしてないな。
……俺は一度小屋へ戻り、作成したベッドを設置してみた。
「しょぼい!」
見かけは干し草を編み込んで作ったゴザのような感じだが、まあ無いよりはマシだろう。
余った草×6は、新しく作れるようになっていたロープ×3を作成するのに使った。すると木材×3とロープ×2で木のバケツが作れるようになっていたので、それも作成しておく。
その後は、余っていた木材から椅子やテーブルといった家具を作成し、気ままに小屋の中をレイアウトして日が暮れるまで時間を潰した。
体力を使いすぎたのか、外が暗くなった瞬間に物凄い疲労感と眠気に襲われた俺は、草のベッドへ倒れ込むようにして眠りにつくのだった。
――小屋の扉がゆっくりと開いていることにも気づかずに。
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