第49話 父と母、娘のバイト先のお店を助ける④

「旦那様・・・」


グロハーラがリビングのソファーで寛いでいるスザクの前に立つ。


「これが調査の資料になります。」


スザクがグロハーラから手渡された資料に目を通す。


「ふむふむ・・・、あの地区の区長の金の流れがコレか・・・、真っ黒だな。」


「左様です。」


グロハーラが深々と頭を下げる。


「教皇様より『影』の派遣許可もいただき調査をしましたから、この資料の通りで間違いはございません。」


「今日1日でよく調べたものだ。あのモブーノ組は区長達からは使い捨ての用途としか扱われていなかったからな。アリエスのキツい拷問でも大した情報を得られなかった。でも、この精度はさすがだな。グロハーラ、感謝するよ。」


「勿体ないお言葉です。」


再びグロハーラが深々とお辞儀をする。


「アイ様に拾われたこの命、皆様方にお役に立てる事がこれからの私の生きがいでございます。娘のラファエル共々お仕えする事が最上の喜びとなっております。」


スッとグロハーラがスザクに近づく。


「ラファエルでございますが、今はアリエス様に心酔しております。ですが、あの子は私にとっては可愛い娘でもございます。あの子の将来の幸せを考えましたら是非とも旦那様、我が娘、ラファエルを娶っていただきたいのですが・・・」



(ラファエル・・・)



スザクの頭の中にはアリエスに技をかけられ光悦とした表情で悶えている姿が思い出されてしまう。

それに、彼女はアリエス以外には全く興味が無い同性愛者だったりする。


そう思っていたが、グロハーラはスザクの顔を見てニヤリと笑う。


「それがですね、旦那様だけは受け入れても良いと言っていました。男性に興味がなかったあの子が旦那様だけは特別扱いをしているのです。旦那様なら必ずラファエルを幸せにしてくれると思います。まぁ、リリス様も娶ったのですから、今更もう1人妻が増えても問題薙いでしょう?ね!どうです?」


多分、グロハーラとラファエルの考えは違うとスザクは思った。

グロハーラは純粋に自分の娘の幸せを考えて提案しているのだろうが、ラファエルはアリエスと違うスザクの責めを期待しているのだろうと予想していた。


事実!ラファエルの頭の中は?


(うふふふ、旦那様・・・、アリエス様とは違う荒々しい新しいプレイを希望しています。アリエス様に匹敵するのは旦那様しかいませんから・・・、それに、あの神々しいお姿に他の誰をも寄せ付けない強さ。まさに私の2人目のご主人様に間違いありません!旦那様に責められる場面を想像してしまうと、全身がゾクゾクしますぅぅぅ!)


非常に困った変態だった。



「グロハーラ、善処する。少し考えさせてくれ。」




さて、話は元に戻る。


「昨日、モブーノを潰してからはこいつらは警戒しているかもしれん。」


「左様でございます。ですが、旦那様達が奴らを突いたおかげで、慌てて動きがあったようです。多分ですが、今後の事を打ち合わせするのでしょう。小心者ほどいざとなった時は弱いですから、ある意味、今が一網打尽に出来るチャンスでは?影からの報告では、黒幕がお忍びで区長の屋敷に入ったとの報告も受けています。」


「それじゃ出かけるとするか。」


スザクが席を席を立つと後ろにいるグロハーラが深々と頭を下げた。


「ご武運を・・・」


グロハーラの言葉にスザクは振り向く事はなかったが、グッと親指を立てサムズアップしていた。


パタン


部屋からスザクが出てくる。



「私ももちろん一緒に行くわよ。」



ドアのすぐ隣にアリエスが壁に背中を預けて立っていた。


「さぁ、お仕置き開始だ。」


スザクの言葉にアリエスが頷く。











「どういう事だ?」


でっぷりと太り顔が油でテカテカな男が鋭い視線で目の間に平服している男を睨んでいた。


「そ、それが私にも何が何だか?あっという間にモブーノの組が潰されてしまいまして・・・」


目の前にいる男と似たような体形で少し歳を取った男が、額に大量にかいた汗を拭きながら頭を上げた。


「そ、それが・・・、どいつも五体無事な者もいなく、『鬼が・・・』、『悪魔だぁ・・・』とうなされていて、まともに会話すら出来ない精神状態になっています。」


「どこのどいつが?まぁ、組同士の抗争も考えられない訳でもないしな。あの界隈は再開発の噂で他の地区からのならず者も入り込んでいる話だ。その再開発の話も儂が国から予算を引き出す為の方便だけどな。がはははぁあああああああああ!」


テカテカ男が弛んだ腹を揺らしながら大声で笑う。


「ぐふふふ・・・、流石はアクダ・イカーン伯爵様、上級財務官の地位を上手に使っていますね。再開発の計画を私ども区長会から提出させ、その承認を財務官の権限で行ってからヤクザ者を使って元々の住人を追い出し不法占拠させる。だけど、土地の所有権は前の住民が持っていますし、その立退料のお金を区長である私が一時的に預かっておくと・・・、しかし、立退料は占拠していたヤクザ者に払った事にしてしまい、後で伯爵様が占拠していたヤクザ者を町のゴミ掃除として全て掃除してしまえばお金だけが私が全て手に入れる算段と・・・、いやぁ、笑いが止まりませんね。そして・・・」


ニタリともう1人の男が笑う。


「もちろん取り分は儂が7に貴様は3、分かっているだろうな?」


「分かっていますよイカーン様、3割だけでも莫大な利益ですからね。ヤクザ者には後で払うと言って、手付金だけ払って信用させて、後はイカーン様が国の騎士団を使って大掃除すればいい事ですからね。これだけの醜聞が出てしまえば再開発の話は無くなるでしょう。ヤクザ者もあれこれ言っても私が手付金の一部を払った証拠は残していません。誰も奴らの言葉など信用しないでしょう。何人もの人間を間に入れてお金を流していましたから足はつかないはずですしね。ぐふふふ・・・」


「お主も悪よのぉ~、チゴー・エヤ男爵よ。」


「いえいえ、イカーン様に比べれば私なんてまだまだですよ。イカーン様の地位があればお金を動かすのも自由ですし、私は一生、イカーン様についていきますよ。おい!」


チゴー・エヤ男爵がパンパンと手を叩く。


スッと部屋の扉が開き、そこから屈強な2人の男が箱を抱えて運んでくる。


そして、その箱をアクダ・イカーン伯爵の前に置いた。

運んできた男が箱の蓋を開けた。


「おほっ!これはこれは・・・」


イカーン伯爵が箱の中身を見て満面の笑みを浮かべる。


「ご満足いただけたでしょうか?この黄金色のお土産は?」


ニタリとエヤ男爵が下品な笑いを浮かべた。


「ぐふふふ・・・、さすがはエヤ男爵よな。商売というものをよく理解しているぞ。今回の事以外でも、この地区の予算は多く出すよう部下によく言っておくからな。それにしても、この輝きはたまらんのぉぉぉ~~~~~~~~、ずっと見ていても飽きる事はないぞ。」


そう言って、箱の中いっぱいに入っている金貨を満足そうに眺めていた。






「がはははははぁあああああああああああああああ!」



大きな笑い声が部屋に響き渡る。



「「誰だぁああああああああ!」」


イカーン伯爵とエヤ男爵の声が男の声の後に続いた。



「おいおい、お前達の上司の顔も忘れたのか?」


いつの間にか部屋の隅に1人の男が立っている。

熊のように大きくガッシリとした筋骨隆々の男が腕を組み、ニヤリと笑っていた。


「誰もあんたの事を上司と思っていないよ。絶対的に逆らえない相手だと分かっているんじゃないかな?」


「「!!!」」


いつの間にかスザクが出入り口の扉の脇の壁に背をもたれさせながら立っている。


「何であんたが出しゃばってくるのよ。本当ならスザクと私でお仕置きするつもりだったのよ。財務省の事をちょっと聞いただけで、飛びつくなんてあんた、どんだけ暇なのよ。」


アリエスがズザクとの反対側の壁の前に立って、腰に手を当て少し不満そうな顔になっていた。


「まぁまぁ、そんな固い事を言うなよ。帝都でも最近流行りの劇でな、現役を引退した元副将軍とかいう爺さんが身分を隠して世直しの旅をするって話、俺も真似したくなったんだよ。だけどな、流石に旅は無理なものでな、お前の計画に便乗させてもらっただけだよ。でもなぁああああああああああ!俺の顔を見たこいつらの顔が面白いのなんのって!がはははぁあああああああああ!」



「「ど、どうしてここに人が・・・・、それにこの人は・・」」



イカーン伯爵とエヤ男爵の声が仲良くハモる。


「い、いえ!”この方こそは!」

「まさか?夢じゃないだろうな?」


信じられない表情で2人が熊のような男を見つめる。



「だから、あんたが出てくればこうなるって言っていただろう?カンジー・イガーリィ皇帝陛下さんよぉ。」



スザクがニヤニヤした顔で皇帝を見ていた。




「「皇帝陛下ぁあああああああああああああああああ!」」




ガバッ!




イカーン伯爵とエヤ男爵がマッハの速さで皇帝の前で土下座をする。


「ほ、本日はお日柄も良く・・・」


「あわわわ・・・、これは夢だ・・・、夢なんだよ・・・」


完全にパニックになっている2人だった。



「ぐはははぁああああああああああ!」


皇帝が豪快に笑う。


「どうした、お前達?借りてきた猫のように大人しくなってな。さっきのように腹をプルプルさせながら笑ったらどうだ?それに、この金貨は?賄賂というものを初めて見たぞ。これはこれで面白い体験だったな。さて・・・」


笑っていた皇帝が真剣な表情になり、殺気のこもった視線を2人に向ける。


「公共案件を食い物にしてるというのは、この帝国を預かる俺としては認められない話だよな。しかもだ、善良な市民にも手を出したと聞いちゃあ、俺も黙ってられないぞ。どうする?このまま罪を認めてお縄になれば『タイガー・ホール』堕ちくらいで許してやるが・・・、お前達、どうする?」



2人が皇帝の殺気でガタガタと震えている。



ゆっくりとイカーン伯爵が顔を上げる。



「こうなれば・・・」



ギロッと皇帝を睨みながら立ち上がった。




「皆の者ぉおおおおおおおおおおおおおお!出会えぇええええええええええええええ!出会えぇえええええええええええええええええええ!」




大声で叫ぶと、部屋に通じる別のドアから十数名の兵士達がゾロゾロと部屋になだれ込んでくる。


目が血走ったイカーン伯爵が皇帝を睨む。


「貴様が・・・、貴様が悪いんだからな。俺はもう少しで財務省のトップになるんだよ。それを・・・ここで躓く訳にいかんのだ・・・」


「ほぉぉぉ~~~~~~」


皇帝がニヤリと笑う。


「アクダ・イカーン伯爵だったよな?貴様の事は俺にも報告が上がっているぞ。賄賂と脱税、それに着服の容疑で近々監査が入るってな。貴様の派閥全員がもれなくって事だ。」


「もはやこれまで・・・」


しかし、イカーン伯爵がニヤリと笑う。


「だがぁああああああああああああ!貴様さえいなくなれば!帝国が混乱に陥ればワンチャンで俺が皇帝になれるかも?ふふふ・・・、これはチャンスなんだよ・・・」


イカーン伯爵が皇帝を指差す。


「皆の者!こいつは皇帝の名を騙った偽物だ!遠慮はするな!偽物を殺せ俺達は皇帝に褒められるんだよ!分かったか!偽物を殺せ!殺すんだぁあああああああああああ!」


血走った目で叫ぶと、部下の騎士たちが剣を抜き皇帝へと向けた。



「あちゃぁぁぁ~~~~~、もう知らんぞ。あの皇帝に楯突くとどうなるか?全員に死亡フラグが立ったな・・・」



スザクが呆れた顔で目の前にいる騎士達を見ていた。



「がはははははぁあああああああああああああああ!これは面白い!この俺!皇帝であるカンジー・イガーリィが直々に相手をしてやる!死にたい奴はかかって来いやぁああああああああああああああああああ!」



皇帝の叫び声が合図となって騎士達が一斉に皇帝へと切りかかった。



「遅い!遅いわ!」


皇帝が拳を振り向くと、衝撃波が騎士達を巻き込む、全身の骨がバラバラになって吹き飛んだ。


「おらぁああああああああああ!」


軽くジャンプし延髄蹴りを喰らわすと、喰らった騎士が他の数人ほどの騎士を巻き込みながら部屋の壁へと叩き付けられる。


「この化け物がぁああああああああ!」


ガキッ!


「そ、そんなぁあああああああああ!」


騎士が振り下ろした剣を腕で直接受け止めるが、まるで鋼鉄の皮膚のように刃が全く通らない。


「何じゃぁあああああああああああ!そんなヘッピリ腰で人が切れるかぁあああああああああああああああ!」


ドム!


思いっきり顎を蹴り上げられ天井に上半身が突き刺さりピクリとも動かなくなった。



「アリエス・・・、俺達の出番ってある?」


スザクが呆れた顔でアリエスへと呟いた。


「これは無理ね。アレはもう止まらないみたい。好きなだけ暴れさせるしかないわ。」


アリエスも「はぁ~~~」と深い溜息を吐いた。



数分後・・・



「さて、後はお前達だけだな。」


仁王立ちの皇帝の前にはイカーン伯爵とエヤ男爵が腰を抜かしガクガクと震えていた。


「スザクに聖女様!最後の仕上げは任せた!」


スザクとアリエスがゆらりと皇帝の横に立つ。



「成敗!」



皇帝が叫ぶと2人が稲妻のように飛び出す。


スザクがイカーン伯爵の前に立ち右足を伯爵の顔面へと蹴り上げた。


しかし!



スカ!



空振りをしてしまったのか、スザクの右足は伯爵の頭上まで上がってしまう。


その行動に自分は助かったのでは?と思いニヤッとした。


だが!


同時にスザクもニヤリと笑う。



「甘いんだよ・・・」




ドガァアアアアアア!



とてつもない衝撃が伯爵の脳天へと落ちる。


スザクの踵落としが伯爵の脳天に炸裂する。




「いかぁああああああああああああああああああん!」



そんな奇声を上げたが、スザクはお構いなしにグイッと足を引き下ろした。



ドガァアアアアアアアアアアアアアア!



伯爵が顔面から床へと叩き付けられ、床に顔面がめり込んだ。

ピクピクと痙攣し起き上がる気配はない。



一方、アリエスの方は


エヤ男爵へと駆け出し、目の前で肘をグッと突き出した。


「ぐえっ!」


アリエスの肘が男爵の鳩尾に突き刺さり、思わず体が前のめりになってしまう。

その前のめりになった頭を今度はグイッと前屈みになるように押し下げた。

男爵の頭を自身の両足で正面から挟み込む。

アリエスの足に頭を挟まれた男爵は「おほ!」と歓喜の声を上げたが、世の中そんなに甘くない。

男爵の胴体を両腕で抱えて持ち上げながら後ろに尻餅をつくように倒れ込み、相手の頭部を打ちつける。



グシャァアアアアアアアア!



「へぐぅううううううううううううううう!」


男爵の頭が床に食い込んだ。


しかし!


アリエスの攻撃はこれだけは済まなかった!


頭の半分が床にめり込んだが、すかさず男爵を手放し立ち上がる。

グッと拳を握り思いっ切り下へと振り下ろした。



プチ!



「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



男爵の断末魔の声が響いた。


アリエスの拳が男爵の股間へと吸い込まれ、思いっ切り叩きつけると、その威力で頭が完全に床の中へと食い込んでしまった。


ピクピクと彫像の様に固まり、床から生えたオブジェのようになっていた。



「あれだけは喰らいたくないよな。玉がいくつあっても足りんぞ。」



皇帝が首を竦めて話すと、スザクも合わせてやれやれといった感じで皇帝と同じように首を竦めた。



「まぁ、これでこの地区の陰謀は終りだな。協力感謝する。」


皇帝が手を伸ばすとスザクも手を伸ばしお互いに固く握手をした。








「いらっしゃいませ!」


「ありがとうございます!」


アイとケイトが忙しそうにお店の中を動いている。


時間はお昼時で満席状態なのもあって確かに忙しい感じがしているが、2人が目を合わせ微笑んでいる姿を、スザクとアリエスが嬉しそうに窓からそっと覗いていた。


「アイ、頑張れよ。」


「友達を大切にね。」

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