第50話 娘、友達のざまぁを手助けする①
「これ美味しいね。」
アイがケイトの弁当に入っていた唐揚げを1つフォークに刺し口に入れていた。
「あぁあああああああああああ!最後に食べようと思っていたのにぃいいいいいいいいいいい!」
ケイトが涙目で自分の弁当箱を見つめていた。
「ごめん!そんなに大切なおかずだったなんて・・・」
アイが申し訳なさそうに自分の弁当箱の中に入っていた玉子焼きを刺し、そっとケイトの弁当箱に入れる。
「やったぁああああああ!アイの玉子焼きって美味しいのよね。唐揚げは犠牲になったけど、それ以上の成果が出たわね。」
ウキウキな気分のケイトだったけど、アイが自分の弁当箱に入っている唐揚げも1個取り出し、再びケイトの弁当箱へと入れた。
「あれ?この唐揚げって、昨日、私のお父さんとアイのお父さんとで試作していた唐揚げじゃないの?例のカレー粉を使ったヤツ?」
ケイトが不思議そうな顔で唐揚げをフォークに刺しマジマジと見ている。
「確か、カレーってアイのお父さんが私のお父さんにレシピを教えてくれたよね?故郷の味とか言ってね。」
「そうなのよ。王国だとスパイスが足りなくてモドキしか出来なかったけど、この帝国でスパイスが揃ったって、お父さん喜んでいたのよ。」
スザク家の家自体は王国にあり、〇こで〇ド〇で帝国のギルドに移動していた。
その事を話してしまうと大変な事になってしまうので、スザク家は帝都で小さな家を購入(もちろんギルドの経費で購入)し、その家とスザク家を繋いであたかも帝都に引っ越しをした体を保っていた。
さすがに帝都の家はまだ移動の手段としか使っていないので中はがらんどうだったりする。
アイにケイトという友達が出来たので、いつまでも誤魔化す事は出来ないので、彼女が遊びに来ても大丈夫のように家の中も徐々に生活出来るようにしている。
そんな中、スザクがケイトの両親が経営しているレストランで、先日の騒ぎもあって家族ぐるみで仲良くなった。
元々料理が得意なスザクなので、料理人であるケイトの父親と気が合い、2人で色々と新メニュー作りをしていて、この度、スザクが満足出来るカレーが完成した。
このカレーは大ヒットも大ヒット!連日、カレー目当てのお客で行列も当たり前になってしまい、ケイトの両親はウハウハ状態だったけど、そこは商魂逞しいケイトの母であった。
以前に唐揚げなるものも開発し、唐揚げも大ヒット中だけど、味のバリエーションを増やそうと、カレーを使用したカレー味なる唐揚げをスザクと共同で開発した。
何種類かの味のバリエーションを作り、アイが一番気に入った味の唐揚げを弁当に入れていたりする。
そんな唐揚げがケイトの目に留まりパクっと口に入れた。
「う~~~~~~~~~~ん!美味しいよ!いつもの唐揚げと違って少しピリッとした感じ!いくらでも食べてしまいそう!」
ガバッとケイトがアイの両肩を掴む。
その目が少し血走っていた。
「アイ!あなたのお父さんと私のお父さんと交換しない?とっても若く見えてすごいイケメンだし、しかもよ!料理までもがプロの料理人と同じくらいなんて!こんな超優良物件のお父さんなんていないわ!どからどう?ねぇねぇ!」
「このバカたれ!お父さんは渡さないわよ!」
ズン!
「はう!」
アイの容赦ない空手チョップがケイトの頭に食い込んだ。
「痛い・・・、痛いよ・・・、アイ、本気で叩かないでよ、もう少しで頭が割れて脳味噌が飛び出てしまうよ。」
少し涙目のケイトが頭を押さえ上目遣いでアイの顔を見ていた。
「そんな訳!あるかい!」
「えへへ・・・、バレた?」
涙目のはずのケイトがニコッと笑い舌を出す。
「でもね・・・、痛いのは本当だよ。このバカ力聖女が!」
「ちょ!ちょっと誰かに聞かれたらさすがにマズいわよ!誰も周りにいないからよかったものを・・・」
あの事件以来、更に仲が深まった2人であった。
「ん?」
アイの視線が鋭くなる。
(こんなところに人が来るなんて・・・)
今、アイ達がいるのは学園の旧校舎の裏だったりする。
あまり手入れをされていない木々が多く、普段はあまりどころかほぼ人が来ない場所なので、2人がゆっくりと昼食のお弁当を食べるところにしていた。
ケイトは実家がレストランだし、スザクもかなり凝った弁当を作るものだから、あまりみんなの前では弁当を広げられない2人であった。
普段は空き教室で昼食をとっているが、天気のいい日はこうして木々の中で食べている。
その木々の中を誰かが入ってくる気配をアイが感じた。
「ケイト、黙って木の影に隠れて。」
静かにアイが話すとケイトもゆっくりと小さく頷く。
2人が木の陰に隠れて息を潜め、ジッと入ってくる人影を見ていた。
(あれは!)
アイにはその人影に見覚えがあった。
(あの人は確か・・・、サラさんの婚約者のはず。どうしてここに?しかも、一緒にいる女性はサラさんではないわ。)
この光景でアイは2人の関係を察した。
男女が2人っきりでこんな場所に来るのは普通ではない。
しかもだ!
婚約者がいる男がこっそりと他の女性と一緒に隠れるようにしながら来ているのだ。
間違いなく逢引の現場に遭遇したと確信した。
女性が嬉しそうに男の手を握り自分の胸に当てている。
(うわぁ~~~~~、完全に浮気現場よ。)
「ネトーリ様、ここだと誰もいないから2人っきりでいられますね。」
(はいはい・・・、残念だけどここには私達がいるのよ。ゆっくりとお昼を食べたいんだから、さっさとここから離れて欲しいと思っているんだけどね。)
心の中で突っ込んでいるアイだった。
「アターマ、可愛い僕のマイハニー、もっと顔を近くで見せてくれよ。」
2人が手を握り徐々に顔を近づける。
そのままキスをし、お互いに上気した表情で見つめ合った。
(神様、私、何か悪い事しました?何でこんなのを見せつけられなくちゃならないの?)
木の影から隠れて見ているけど、人の浮気現場に遭遇するのは全く楽しくないと思っているアイだった。
人によってはすっごく食い付く現場でもあるのだけど、アイはそんな出歯亀な行動は嫌いだったりする。
「アターマ、僕達のこの秘密の関係ももう終わるよ。」
「そうですね。来週の貴族パーティーで私達の婚約が発表されるのですね。ネトーリ様!その日が待ち遠しくてたまりません!」
2人がギュッと抱きつく。
(もういい加減にしてよ!でも、男の方はサラさんの婚約者よね?)
・・・
・・・
(まさか!あの!『真実の愛』とやらをみんなの前で宣言するの?最近流行の小説だけど、現実にそんな事があるんかい!)
そう、最近、帝国では『真実の愛』を題材にした婚約破棄ものの小説が大変流行っていたりする。
愛し合う2人を男性の婚約者がアレコレと嫉妬から女性を虐め、最終的には愛し合う2人から断罪されるのが基本的なストーリーだったりする。
愛し合う2人を邪魔する婚約者の令嬢を悪役令嬢と呼び、障害が大きければ大きいほどに『真実の愛』で結ばれている2人の恋は盛り上がっていく。
(『真実の愛』と言えば聞こえは良いけど、結局は婚約者はいるのに他の女に入れ込んでいく男って、私から見ればクズとしか思えないけどね。ハッキリ言って浮気なのよコレは!う・わ・き!)
その通りである。
(そんなに新しい彼女と一緒になりたいなら、今の婚約を先に破棄するなりして、お互いに身を軽くしてから新しい恋をするなら問題無いかもしれないけどねぇ・・・、そもそも浮気を正当化する根性が変よ!)
冷静に考えればアイの意見は正しいと普通の人は思うでしょうね。
アイとケイトが聞き耳を立てて聞いている事を2人は全く気付いていないようで、まだ抱き合いながらキスをしている。
(もう勘弁してよぉぉぉ~~~~~~~~~~~)
アイ、心からの叫びだった。
「ネトーリ様、大丈夫でしょうか?ネトーリ様の婚約者であるサラ様は、私のような男爵家ではなく子爵家のお方です。ただでさえ普段から意地悪をされているのに、これ以上虐められしまうと、私は怖くて学園に行けないです・・・」
そう言って女性がポロポロと涙を流した。
「心配するな。アターマの事は私がどんな手を使ってでも守ってあげるよ。君を虐めるアイツの事はこの私が何とかしよう。君に対する虐めを学園長に訴えればサラは退学にも出来るだろう。そうすればこのようにコソコソと会うのではなく、私と堂々と一緒にいられるよ。もう少しの辛抱だ。あのパーティーでサラの悪事を白日の下に晒し婚約破棄を叩きつけてやるよ。そして君との婚約を発表するからな。あの女は下働きとしてこき使ってやろう。俺の言う事には逆らえないからな。」
「はい・・・、さすがネトーリ様ですね。とても頼りになります。」
2人が嬉しそうに抱き合った。
(あれ?)
アイはその一瞬を見逃さなかった。
木の影からこっそりと見ていたけど、女の方がニヤリと笑ったのを見逃さなかった。
(今の行動は変だったよね?まるで勝ち誇った表情のように感じたわ。私はこの学園に来て3週間しか経っていないから詳しい事は分からないのよ。だけどね、今の話は裏に何かあるのは間違いと思う。私の聖女センサーがビンビンと鳴っているしね。)
そう思案していると2人が手を繋ぎながらルンルン気分で歩き始めた。
2人の姿が見えなくなるまで彼等はずっと腕を組みながら歩いていった。
「いやぁあああああああああああ!いいもん見させてもらったわ!噂のカップル登場なんてね。」
ケイトが少し疲れた表情で木の影から出てきたけど、その目は楽しいモノを見つけたかのようにギラギラと輝いていた。
「ケイト、噂って?あのカップルってどんな噂があるのかな?」
「そうか・・・、アイはここに来てから1ヵ月も経っていないよね。だったらあの2人の噂を知らない事なんて当たり前ね。」
「ねぇねぇ!そんなにもったいぶらずに教えてよ!」
アイがケイトの肩を持ってブンブンと揺さぶった。
「アイィイイイイイイイイイ!止めてぇええええええええええええええええ!そんなに高速jで体をシェイクされたら!さっき食べたお昼がぁぁぁ・・・」
しばらくお待ち下さい。
m(_ _)m
「うっぷ・・・、リバースしたのが外で良かったわよ。このバカ力聖女が!」
青い白い顔をしたケイトがジロリとアイを睨む。
「ケイト!ゴメン!今度、あそこの高級スイーツを奢るから許して!好きなだけ食べてもいいから!」
「そう・・・、好きなだけね。言質は取ったわよ。庶民の食い意地舐めんなよ。」
ニタリとケイトが悪い笑みを浮かべる。
その笑顔にアイは(やってしまった・・・)と激しく後悔していた。
(お小遣い足りるかな?シクシク・・・)
「それで噂なんだけど・・・」
すっかり顔色が戻ったケイトがズイッとアイへ顔を近づける。
「アイ、私達のクラスにいるサラさんは知っているよね?」
「もちろんよ。」
アイが思いっ切り頷いた。
「サラさんよね。サラさんってブライト子爵家の令嬢でしょう?。あの人は貴族だけど、私達のような平民でも差別しないのよね。ケイトほど仲良くはないけど、授業の予習や復習でよく図書室で一緒に勉強しているの。私の大切な友達の1人ね。」
「そう彼女は私もよくしてもらっているわ。そのサラさんの婚約者がさっきの男、ネトーリ・ヒモー伯爵令息な訳よ。でもね、彼についてはいい噂は聞かないわ。サラさんって大人しくてあまり話す事ってしないじゃい。それをいいことに彼は調子に乗ってかなり女癖が悪いのよ。」
「婚約者がいるのによくそんな事するわね。」
アイが呆れた表情になる。
「クラスが違うから私は直接聞いた訳じゃないけど、本人が言っていたという話みたいだけど、
『サラは俺のやることは全て許してくれるんだよ。まぁ、子爵家ごときが俺に意見をする事自体が烏滸がましいけどな。だからな、俺は自由に好きな事をやっても文句は言えないのさ。それにだ、アイツの実家はかなり金に困っているし、俺の家の援助が無ければ終わりなのもあるしな。それにだ、サラが俺の家に入っても仕事は全部サラにさせるつもりだ。伯爵家の家に格下の子爵の女が入るんだからな、俺は何もしないでサラが全部やってくれる。こんな楽な結婚生活はないよ。ははははぁあああああああああああ!
そんな事を言っているみたいなの。まぁ、男としては最低ね。」
「確かにね・・・、で、今のあのノータリン娘は何?」
アイの目が段々と鋭くなっていく。
「あぁ・・・、アレね・・・」
ケイトの目が遠くを見ている。
その態度で女の方も碌でもない人だとアイは察知する。
「アレはバタケハナオ男爵の長女アターマって言うの。学年は私達より1つ年下ね。名前の通り頭の出来は最悪のようよ。確かに可愛い顔だけど、その事は自分でも自覚しているようでね、色んな男に取り入っていたみたいね。今までに男と女の関係になったのは数知れず・・・今はあのネトーリ・ヒモー伯爵令息の浮気相手になっているようね。あの調子だともうやっちゃったでしょうね。」
2人が目を合わせ頷いたが、アレの事を想像し顔が真っ赤になる。
純情な2人だった。
「ケイト、私も聞いたわ。来週のパーティーでサラさんと『婚約破棄』をするってね。しかもよ!サラさんがあの子を虐めているって?もう訳が分かんないわ。」
アイの言葉にケイトが頷いた。
「私も訳が分かんないわよ。確かなのはあのサラさんは絶対に虐めをしないって事だけは確実よ。どう考えても冤罪よ!そんなサラさんを押し退けてでも婚約者になりたいって・・・」
ポン!とケイトが手を叩く。
「分かったわ!あのお花畑女はヒモ男のお金を狙っているのよ。確か・・・、あのヒモー伯爵家はかなりの資産家よ。そのお金を狙っているのかもね?しかも、自分は働かなくてサラさんに全部仕事をさせるって事は、サラさんを奴隷のようにしてこき使うつもりじゃない?あの男なら考えるわね。実家の事で脅迫してね。そんなサラさんだけを働かせて、自分達は遊び三昧のヒモ生活を狙っているんじゃないかな?」
「それはあり得るわね。」
ケイトの言葉にアイが頷く。
「貴族同士の事は私にとってはどうでもいい事なんだけど、サラさんがその思惑の中で被害を受けるのは許せないわ。冤罪で悪役令嬢に仕立てるつもりなんでしょうね。私はサラさんには幸せになってもらいたい!私があの連中の三文芝居をぶち壊してやるわ。見てなさい・・・」
ニヤリとアイが不敵に笑った。
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