第51話 娘、友達のざまぁを手助けする②
帝国学園の学園長室
「ねぇ、おじいちゃん。」
ソファーに座っているアイが自分の机の席に座っている学園長に話し始める。
「どうした?普段はあまり儂との関係を知られたくないからと言って、そんなにここに来ないのに珍しいな。まぁ、儂としては可愛いお前が来てくれるのは大歓迎だぞ。」
学園長はそれはそれはデレデレの顔でアイを見ていた。
「一応、私って聖女だってのは隠しているし、おじいちゃんの孫となると貴族どころか皇族の一員になってしまうんだよね。そんなのがバレたら学園生活が楽しくなくなっちゃうよ。ここで友達も出来たんだからね。」
「そうだよな、肩書きがあると不自由な事も出てくるからな。ところで、アイよ、ここには何の用で来たんだ?お前の事だ、ただのおねだりじゃないだろう?」
学園長の言葉にアイがペロッと舌を出す。
「やっぱり分かっちゃた?実はね・・・」
アイと学園長が2人でコソコソと話をしていた。
しばらくすると・・・
「これは面白いな。儂も協力させてもらうぞ。こういうのは儂も大好きだからな。ふふふ・・・、あやつ等の驚く顔が楽しみだぞ。」
「でしょう?小説の展開通りにいけると思っている思い上がり野郎達には、世の中の現実を見せないとね。
2人がニヤァ~~~~~~と笑った。
翌日、学園の図書室にて
アイとサラ・ブライト子爵家令嬢が同じ机で参考書を広げ勉強している。
「アイさん、本当に凄いわね。私達貴族は小さい頃から家庭教師がいるからここまでの成績が出せるのよ。それをアイさんって独学でここまでの成績を出せるなんてね。」
「まぐれよ、まぐれね。」
「何を謙遜しているの。私が貴族だからってそう遠慮しなくてもいいのよ。貴族と言っても私の家はいつ爵位を返上しても不思議じゃないくらい落ちぶれているしね・・・」
サラが俯き暗い表情になってしまう。
「サラさん!元気出してよ!サラさんが元気じゃないと私も心配だよ!」
その言葉にサラが微笑んだ。
「ふふふ・・・、ありがとうね。いつも元気なアイさんが羨ましいわ。」
「何、言っているの?サラさんって婚約者もいるんだし、しかもよ、伯爵家に嫁げるなんて、そっちの方が凄いと私は思うんだけどね。」
しかし!
アイの言葉にサラがとても暗い顔になる。
「確かに傍から見ると私は格上の貴族様のところに嫁げると、周りから羨ましいと言われているわ。でもね・・・」
ポロッとサラの瞳から涙が零れる。
その様子を見てアイは・・・
(やっぱり婚約者の態度には思うところがあったようね。ゴメンね・・・、嫌な思いをさせちゃって・・・、でもね、こんな立派なサラさんを泣かせるあの男は絶対に許せないわね。小説の展開とあの時の2人の言動を考えて、当日、あの2人がやりそうな行動となれば・・・)
何か考えが浮かんだのか、アイがニヤリと笑う。
「ねぇねぇ、サラさん・・・、そう言えば、来週って貴族の人が集まるパーティーがあるんじゃないの?サラさんはもちろん参加するよね?私は平民だし参加資格すら無いけどね。」
アイの言葉にサラがゆっくりと首を振る。
「私は無理だと思うわ。」
「どうして?」
「アイさん・・・、あなたも噂は聞いたでしょう?」
ジッとサラがアイの顔を見る。
「私の婚約者であるネトーリ・ヒモー様は今、私以外の女性に入れ込んでいるの。この数ヶ月、私とネトーリ様とは全く会話すら、いえ、顔すら会わせていないのよ。それにね、来週のパーティーに着ていくドレスすら無いの。ドレスなんて買えるだけの余裕は無いし、あっても小さくなって着れないか、サイズが合うドレスはお母様が独身時代に来ていたドレスなのよ。今ではデザインが古すぎて着られないわ。普通なら婚約者であるネトーリ様からドレスを送られるのだけど、今回はそんな事も無いわ。ドレスすら送らずに手紙だけ送って『必ずパーティーに出席しろ!』って・・・私を笑い者にするのは間違いないわ。いくら私は彼の家の援助を受けていたとしても、ここまで私を侮辱したいなんて・・・、そう思うと怖くて行けないの・・・」
「はぁ~」とサラが溜息をしてしまう。
「ごめんね、愚痴になってしまって・・・」
沈んだ表情のサラの手をアイが握る。
「サラさん、ドレスなら大丈夫よ。私の伝手で格安で手に入れられるところがあるの。」
しかし、サラは淋しそうに首を横に振る。
「いくらドレスがあっても私にはパートナーがいないの。ネトーリ様は必ず噂のあの男爵家の彼女をパートナーにして、とても豪華なドレスを送って、彼女はそのドレスを着て出席するでしょうね。そこまでして私を貶めたいの?」
ギュッとアイはサラの手を強く握りジッと目を見つめた。
「サラさん、その点も安心して。私ね、サラさんの力になりたいの。私はね、色々事情があって王国の学園時代には友達がいなかったの。でもね、ここに来てから友達が出来たのよ。私の友達の中にはサラさん・・・、あなたも含まれているわ。平民、貴族の身分なんて関係無いの。友達を助ける。そんなのは当たり前よ。だからね、私を信用して。絶対に悪いようにしないからね。」
そう言ってパチンとウインクをする。
「アイさん・・・、信じていいの?婚約者に馬鹿にされている私を?」
「大丈夫・・・、私も馬鹿にされるのは王国で慣れていたからね。あなたの気持ちは良く分かるわ。それにね、私の事は『アイ』って呼んで。友達なんだからね。私も『サラ』って呼ぶからね。」
「アイさ・・・、いえ、アイ・・・、ありがとう・・・」
サラが嬉しそうに微笑んだ。
「む!」
アイの視線が鋭くなる。
「アイ、どうしたの?」
「誰かにジッと見られていた感じがしたの。」
「え!」
サラの顔が青くなってしまう。
「でもね、殺気や嫉みという感じじゃないみたいね。そんな視線ならすぐに分かるんだけど、今、感じた視線はそんな視線じゃ無いわ。何だろうね、とても温かい視線なのよ。まぁ、悪い感じでもないし、そのまま知らない顔でもいいかな。」
「アイ・・・、あなた、何者なの?」
サラがジッとアイを見つめるが、そんなアイはただニコッと微笑むだけだった。
「私は別に何者でもないわ。どこでもいる普通の平民の娘アイよ。」
そう言って再びパチンとウインクをした。
「どこでもいる平民の娘ね。ふふふ・・・、そうしておきましょう。」
今度はサラがニコッと微笑んだ。
そして翌週、学園内にあるダンスホールの中
貴族限定のダンスパーティーが開かれる。
学園に通う貴族の子供はこのパーティーにて、普段の授業で習ったダンスやマナーなどのお披露目を行う場でもある。
そして、独身で婚約者がいない子息や令嬢は出会いを求めて、クラスや学年の垣根を越えて交流を行う、いわゆる学園主催の大規模な合コンみたいな場所でもあった。
その中で一際目立つカップルがいた。
令息の方は高級な服をそつなく着こなし、さすがは伯爵家の令息だと感心されていた。
そして、その隣には・・・
「うふふふ・・・、ネトーリ様、みなさんの視線が私達に釘付けになっているのを感じますよ。」
とても満足そうな笑みを浮かべたアターマ・バタケハナオ男爵令嬢がネトーリ・ヒモー伯爵令息と腕を組んでいた。
そのアターマ・バタケハナオ男爵令嬢の服装に会場の男ども視線が釘付けになっていた。
その令嬢の服装だが、これはこれは、『彼女の頭は大丈夫?』と言ってしまいたくなる程に個性的であった。
アターマのドレスはフワフワなピンクブロンドの色に合わせたのか、薄いピンク色のドレスだった。
それならば可愛らしいと思うのだが、彼女の15歳の年齢にしてはかなりグラマラスな体をしている。いわゆるる色気ムンムンな空気を纏っていた。
数々の男性を篭絡した自信があるのだろう。
ネトーリもその事を分かっているからか、彼女のドレスは背中が大きく開いていて、それ以上に大きな胸を自慢するかのように胸元がとても大きく開いている。
胸の谷間も丸見えだし、あまりにも場違いな雰囲気のドレスに周りは驚きを隠せないでいた。
ここは貴族が集まるパーティー会場なのに、彼女の着ているドレスは男を誘うドレスであり、いくら顔が可愛いだろうが、大人顔負けの色っぽいスタイルだろうが、完全に浮いている。
このドレスを送ったのはネトーリだと周りも分かっているので、『こんなところで何をしている。ヒモー伯爵家の将来は大丈夫だろうか?』と考える人も多かった。
まぁ、参加する貴族の男はまだ思春期真っ最中のお子様連中ばかりだったから、彼女の色気に下半身が反応して少し前かがみになっていた子息達も多かったけどね。
そんな光景を見てネトーリは、自分の隣にいるアターマが最高の女性だと鼻を高くしている。
そんな具合で会場で一番に目立つ存在となったネトーリ・ヒモー伯爵令息とアターマ・バタケハナオ男爵令嬢だった。
自分達が会場中から注目されたと思い、上機嫌な表情でホールの中心に立っていた。
これだけ注目を浴びれば、サラ嬢の断罪劇も盛り上がるだろうと、自分達が小説の主人公になった気分でいた、何ともおめでたい2人であった。
「ネトーリ様、みんなが私を見ていますよ。恥ずかしいです・・・」
ポッと頬を赤く染めたアターマが不安そうにネトーリの腕にギュッと抱きつき、たわわな胸で彼の腕を挟み、ネトーリはその行動でデレデレと鼻の下を伸ばしていた。
「それだけアターマが魅力的なんだよ。でもね・・・」
アターマの腰に手を回しギュッと抱き寄せた。
「君を独占するのは俺だけに許されるんだよ。ふふふ・・・、君の美しさの前にあのサラがどこまで惨めな気持ちになるかな?もう彼女の断罪は始まっているんだよ。徹底的に君を虐めた報いをさせてやろうじゃないか。ふふふ・・・」
2人が見つめ合いニヤリと笑った。
元々がネトーリはサラを貧乏な家だと馬鹿にしていた。
そんな風に見下していたので、アターマからサラに虐められている嘘を簡単に信じた。
ただでさえサラを気に入らないネトーリだ。流行りの小説の事はネトーリも知っていたし、サラの虐めの話もあって簡単に深く考えず断罪劇を考えた。
アターマーも自分の顔や体の魅力の事は良く分かっている。
たった一夜を共にするだけで男はホイホイと貢いでくれるし、盲目的に自分の話を信用してくれる。
そして、帝国でも有数の資産家でもあるヒモー侯爵家の嫡男をとうとう攻略出来て、婚約者の地位を略奪出来るところまで上り詰めた。
顔には出していないが、心の中では自分は勝ち組だと叫んでいた。
「サラのヤツ、来ていないな。」
ネトーリがキョロキョロと会場中を見渡す。
「まぁ、あの貧乏家がまともなドレスも仕立てられないだろしな。だけどな、絶対に来いと手紙を出したからな。俺の言う事は従順に従う奴だ。どんなみすぼらしい姿で来るかな?そう考えると笑いが止まんないよ。ぐふふふふふ・・・」
2人揃って地獄へ落ちるカウントダウンが始まった。
無能と言われていた父親、我慢は止めて本気になりました。 やすくん @yasukun33
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