第44話 セクハラ親父、身も心も潰される②

スザクが拳を握りポキポキと指を鳴らす。



「さぁ、お仕置きの時間だ。」



静かに話すが、その言葉で教頭がガタガタと震え始める。


「もう終わり?いや・・・」


震えていたはずの教頭の体がピタリと止まった。


「今の私の事を知っているのは・・・」




ニチャァァァ~~~~~




と、粘着質な笑みを浮かべる。



「ふふふ・・・、『死人に口無し』という言葉があるではないですか。」



ユラリと教頭が学園長へ体を向けた。


「あなたは今からこの親子に殺された事にしましょう。あなたがこのガキを襲って殺してしまった事により、父親が逆上しあなたを殺してしまった。その場に『たまたま』出くわした私が『正当防衛』で殺してしまったと・・・」


とても嬉しそうに教頭が学園長へと笑いかけた。


「どうです?この完璧なシナリオは?学園長!これはあなたが悪いのですよ。元皇帝の弟だけでこの学園の理事長になって、そのままお飾りの学園長を続けていれば良かったのに・・・、変な正義感で私の事を調べたばっかりに死んでしまうとはねぇ~~~~~」


「そうだね。」


学園長もニタリと笑う。


「確かに私には元皇帝の姉のような武力は持ち合わせていないよ。武官よりも文官が性に合うと思っているからね。君のように若い頃、ランクSの凄腕冒険者として活躍して、そのままこの学園の実技教師となっている者とは違うからね。まぁ、今の君ででも私くらいなら指1本でも殺せるかもね。」


「ふはははははぁあああああああああああああ!良く分かっているではないですか!そこのオヤジ(ちなみに今のスザクはオヤジバージョンに偽装中)が勇者だって?だったらどうして平民と偽っている?学園長、はったりもそこまでですよ。確かに私の目を盗んで盗聴した手腕には驚きですが、ですがねぇ~~~、たったそれだけ、そんなの誰でも出来る事なんですよ。」


「ふふふ、君の言う事は一理あるな。彼が真の勇者だとする証拠は無いからな。私がこの場で言っているだけだ。」


「そうでしょう?」


グルンと体を捻じらせ(意味不明)、教頭が学園長を指差す。

(どんなポーズかは言いませんけどね。)


「諦めの良い人は私は嫌いじゃないですよ。無駄に抵抗されると面倒ですからね。なぁぁぁに、死ぬのは一瞬ですよ。私の技量なら死んだ事も気付かないうちに殺してあげましょう。それでは覚悟を!」



ブン!



教頭の姿がその場で掻き消える。




「お覚悟!」




一瞬で教頭が学園長の後ろへと回り込み、手刀を彼の首に叩き込もうとしていた。



ビタッ!



しかし、その手が学園長の首の手前で止まってしまう。




「き、貴様ぁぁぁぁぁ!」




ギリギリと血走った目で教頭が自分の腕を掴んだ男を見ている。


「無駄だ、学園長は殺させないよ。」


スザクがジッと教頭を見つめていた。



「馬鹿な!馬鹿な・・・、この私、かつて『疾風のハラセク』と呼ばれ、誰にも見切られる事のなかった私の動きを見切っただと?し、信じられん・・・」



「そうか?」



スザクが呆れたような表情でアイへと視線を移した。


「アイ、どうだった?」


いきなり話を振られたアイだったが、「え!私?」といった感じで少しキョドッていた。

しかし、すぐにスザクの言葉の意味を理解したようだ。


「う~ん・・・、別に大した速さじゃなかったと思うよ。これだけの時間があれば、お母さんならロコモーション式・ジャーマン(分かるかな?)を10回はかけられるだろうね。これでランクSって本当かな?」


(おいおい~~~~~、ロコモーション式・ジャーマン10回って、どんだけ高速でグルグルと回されるんだ?)


アイの言葉に心の中で突っ込むスザクであった。


「貴様は自分では最強だと思っているようだが、上には上がいるんだよ。」



バッ!



スザクが教頭の手を離すと、教頭が一気に飛び上がり距離を取る。


「くそ!何が勇者だよ!たかが平民ごときが私のような上級貴族に逆らうなんてぇえええええええええええええ!あり得ないんだよぉおおおおおおおおお!」



「そうかい・・・」



ニヤリとスザクが笑う。


スゥゥゥ・・・


スザクの顔がグニャリと歪む。


「な、な、何だよ貴様はぁぁぁ!その顔は一体どうなっているんだよ!」


教頭が「はぁあああああああああ?」と怪訝な顔でスザクを見るが、当の本人は「それがどうした?」といった感じでニヤニヤ顔で視線を教頭へと送っていた。


「これか?今から貴様にお仕置きをする男の顔だ。偽装したままで何も知らずにいるのも可哀想だしな。勇者の力をその身に受け、我が身の思い上がりを後悔するんだな。」


「何が勇者だよ!ちょっとイケメンになったくらいで私に勝てるなんて思い上がりを!」


次の瞬間・・・




ドガッ!




「がはぁああああああああああ!」



一瞬でスザクが教頭の前に移動し、蹴りを顔面にぶち当てた。


「お、おのれぇぇぇ・・・、平民の汚い足をこの高貴な顔に・・・」


ドン!


「うが!」


またもやスザクの蹴りが教頭の顔面に突き刺さる。


「ま、また・・・」


ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!


「うげ!がひゃ!うぼ!おひゃ!・・・・」


マシンガンのようなスザクの蹴りの嵐が教頭の顔面へと叩き込まれていく。


みるみると顔がパンパンに腫れあがっていった。


「ひゅ~、ひゅ~、もう、もう止めてぇぇぇぇぇ~~~~~~、お願いだからぁぁぁぁぁ・・・」


涙を流しながらスザクへと懇願している。


「( ̄m ̄〃)ぷぷっ!」


アイが思わず吹き出してしまった。


「アイ、どうした?」


にやけた顔のスザクがアイに声をかけた。


「だってさ、その顔って・・・、ぷぷぷ!」


アイが教頭の顔を指差しているが、堪え切れなくなり笑ってしまう。



「だって、だってさぁ、その顔ってまるで〇ン〇ンマ〇みたいじゃない?ホントにそっくりだよ。お父さんって、それを狙って顔面を蹴っていたの?」



「そうだな、別に意識して蹴っていなかったけど、アイの言う通りだな。どこからか新しい顔が出てきて交換して元通りになるかもな。」



2人が教頭のパンパンに腫れた顔を指差しながら笑っている。



「貴様らぁあああああああああああ!どこまでもふざけやがってぇえええええええええええええええええ!」



2人に笑われた事により教頭のプライドが傷つけられてしまったのか、真っ赤な顔が更に赤くなり激昂している。


「あ~~~ぁ・・・、面白い事を言っただけでここまで怒るなんてね。歳を取ると段々と心に余裕がなくなるのかな?嫌だな~、老けるのはねぇ~~~~~」


アイは挑発的な笑みを浮かべる。



「ガキだろうがもう許さん!」



教頭がアイに殴りかかった。


しかし!


アイへと迫る教頭の右ストレートを軽く首を捻り躱す。

拳を躱しながらダン!と右足を前に踏み込んだ。

同時に右拳を前に突き出す。




メキョ!



アイの右拳がカウンターとなって教頭の顔面にめり込んだ。



「ぶへりゃぁあああああああああああああああああああ!」



汚い悲鳴を上げながら教頭が壁へと飛んでいき背中から激突する。


しばらく壁に貼り付いていたが、ズルズルと滑り落ち床へと転がった。



「かはっ!これはどういう事なんだ?この私が・・・、私がカウンターを取られる?たかがガキの女に?」



プルプルと震えながら起きようとしたが、ダメージが足にきたのか、立ち上がろうとしてもガクガクと膝が震え、まともに立つ事が出来ない。


「バカなぁぁぁぁぁ!私がここまでダメージを受ける?あり得ない!あり得ないんだよぉおおおおおおおおおおおおおお!」




「お父さん・・・」




アイがスザクへ向き直る。


「ここからは私がるわ。このセクハラ親父には色々と触られたし、私も我慢の限界だったのよ。だからね・・・」


グッと拳を胸の前に掲げた。






ズズズ・・・






アイの黒い髪が徐々に銀髪へと変化していく。

教頭を見下ろして見ていた黒い瞳も金色に変わっていった。


「何だよ、親父だけじゃなくてガキも変わる?」


何とか立ち上がった教頭だったが、アイの変化にただ事ではないと察知しジリジリと後ろへと下がってしまう。


「ま!まさか!その姿はぁああああああああああ!!


アイの姿に教頭が気付いたようだ。


「その銀色の髪に輝く金色の瞳・・・、まさか・・・、まさか・・・




「そうよ・・・」




アイがニタリと笑う。


「これが私の本当の姿よ。」


「嘘だ!嘘だ!嘘だぁあああああああああああああああ!」


教頭、いやハラセクが大声で絶叫する。


「教会の奥に引き籠もっているはずの聖女がぁああああああ!聖女が何でここにいるんだよ!それこそぉおおおおおおおおおおおお!貴様ぁああああああああ!」


どこから取り出したが不明だけど、ハラセクがナイフを右手に握り構える。


「こんなところに聖女なんているはずがないんだよ!聖女を語る不届き者が!この私が成敗してやるぅううううううううううううう!」


「はぁ~」とアイが溜息をする。


「聖女がここにいるのは私の勝手なんだし、その事であなたにとやかく言われたくないわよ。それにね・・・」


右足をダン!と踏み込み、右腕をハラセクへ向けて構える。




「刃物を出したって事は、もう手加減出来ないよ。」




「五月蠅い!聖女を語る偽物がぁああああああああああああああ!」


ハラセクが一気にアイへと飛びかかりナイフを突き出した。


「これって正当防衛になるわね。」



キィイイイイイイイイイイン!



甲高い音が響く。


アイの眼前へと迫り来るナイフの刀身にアイが人差し指を当てると、次の瞬間、まるで横から何かに叩かれたようにナイフの刀身が真っ二つに折れてしまう。


「え!」


驚愕の表情でナイフを見ているハラセクだったが、その隙を狙って、アイは踏み出していた自分の右足を上げ、素早くハラセクが踏み出した足の膝の上に落とした。



ベキィイイイイイイイ!



骨が砕ける音と同時にハラセクの悲鳴が上がった。




「うぎゃぁああああああああああああああああああ!」




ハラセクが自身の右足を抱え床の上をのたうち回っている。

その足の膝はあり得ない方向に曲がっていた。


「だから言ったじゃない。手加減出来ないよってね。たかが膝の粉砕骨折ぐらいで大声を出さないでよ。これはまだ序の口なんだからね。」


床を転げ回るハラセクをアイが見下ろしてニタリと笑う。



「頼む・・・、膝を・・・、あなたは聖女なんでしょ?お願いです。治して下さい。お願いです・・・」



「私~~~、偽物なんだし治せないよ。だって、あなたがそう言ったんだからね。治してほしければ、あなたが言う本物の聖女にお願いしてね。」



「お、お願いします・・・」



そう懇願しているが、アイはその声を無視し、横向きに膝を抱えて蹲っているハラセクを仰向けに倒し、彼の両足を両手で持った。」


「ひ!ひぃいいいいいいいいいい!」


「さぁ!トドメよ!」



グリィイイイイイ!



アイが右足をハラセクの股間に押し当てる。


「うひ!」



「あんたみたいな女の敵はこうよぉおおおおおおおおおお!」



アイがグッと腰を屈めた。




「おりゃ!おりゃ!おりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」






ズドドドドドドドオドドドドドドドドドドドドドドドドドドオドドドドドドドドドドドドドドドドドドオドドドドドドドドドドドドドドドドドドオドドドドドドドドドドドドドドドドドドオドドドドドドドドドドド!






「あきゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」






ピタ!


「はひぃ~~~、はひぃ~~~」


ハラセクは既に虫の息になっている。




「おりゃ!おりゃ!おりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」






ズドドドドドドドオドドドドドドドドドドドドドドドドドドオドドドドドドドドドドドドドドドドドドオドドドドドドドドドドドドドドドドドドオドドドドドドドドドドドドドドドドドドオドドドドドドドドドドド!






「あきゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」






ピタ!


「た、たしゅけてぇぇぇ~~~」




「おりゃ!おりゃ!おりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」






ズドドドドドドドオドドドドドドドドドドドドドドドドドドオドドドドドドドドドドドドドドドドドドオドドドドドドドドドドドドドドドドドドオドドドドドドドドドドドドドドドドドドオドドドドドドドドドドド!






「あきゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」






まるで削岩機のようにアイの右足がハラセクの股間を踏み潰していく。

延々と終わらない拷問が続いた。

















チ~~~~~~~~~~~ン!




男の尊厳も玉も徹底的に潰されてしまったハラセクが、背中を丸めて蹲っていた。




『これは無いわぁ~~~』


そう言いたげそうなスザクと学園長が少し同情的な視線でハラセクを見ていた。


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