第43話 帝都ギルドマスター、人生を詰む

数日前・・・


ミエッパリー王国冒険者ギルド内ギルドマスターの部屋


「そうか・・・、貴様は復讐を望んでいるか。だがな、妾は盟約の為に殺生を禁じられている。まぁ、絶対的な強制力は無いが、約束は約束だからな。悪いが、妾は貴様の力になれるとは思わない。」


リリスが執務席に座り、独り言を言っているかのように誰もいない空間に向かって話をしている。


「何々?妾は直接手を出さなくても良いだと?」


リリスの目が鋭くなる。


「ほぉ~~~、貴様はここまでの覚悟ときたか。地獄以外にもあの世のいくつかを管理している妾にこのような提案をしてくるとはな。それだけの覚悟、気に入った!よかろう、貴様の提案、受け取ったぞ。楽しみにしておれ。」


椅子に深々と座り直し腕を組む。




「声なき者の声が聞こえるのも難儀よの・・・、だが、暇潰しにはもってこいの依頼だな。さて・・・、この妾が・・・、冥府の神である妾が少し本気で遊んでみるとするか・・・、妾は決して殺さない・・・、だけど、恨みを持つ者の行動までは知ったことではないからな。そいつがどんな行動をしても・・・」




リリスの目が怪しく光る。








そして、昨日のギルドマスター行方不明事件が起こる。


「がはははははぁあああああああああああああああ!」


部屋から野太い笑い声が聞こえてきた。

その部屋には屈強な男が5人ソファーに座り、酒を飲みながら騒いでいる。


「ギルマスよ!そろそろ新しい女を用意してくれないか?ちょっと目を離した隙に飛び降り自殺されてしまってな・・・」


「おいおい、そいつはまだ手を出していなんじゃなかったのか?」


「そうなんだよ、薬漬けになってようやくと思ったらな・・・」


「おいおい、折角教頭から回してもらった上玉の若い女だったんだぞ。家が平民で貧しいからって、教頭が奨学金をちらつかせて言う事を聞かせようとしていたってのによ。」


「ぐははははは!世間を知らんガキにはちょっと社会勉強が厳し過ぎたかもな?おかげで美味しいところを味わえなかったぞ。」



聞けば聞くほどクズの会話であった。




「貴様ら・・・、そんなに女が抱きたいのか?」




いきなり部屋に女性の声が響く。



「お前は!」


ソファーに座っていた1人の男がいきなり立ち上がった。


その男を見てリリスがニヤリと笑う。


「久しぶりだな。イスゲ帝都ギルドマスター、半年前の会議以来だな。」


「これはこれはリリスミエッパリー王国王都ギルドマスター、相変わらずとてもお美しく、あなたのような美女に声をかけられるとはとても光栄ですよ。」


そう言っているが、その顔には下品な笑い顔が張り付いていた。


「ふ~ん・・・」


リリスが腕を組みながら男達を見渡した。


「いいご身分だな。真昼間から酒を飲むとは・・・、まぁ、貴様以外の冒険者なら仕事が無ければ飲んでも構わないだろうが、イスゲ、貴様は勤務時間中だろうが!人事院にはキチっと報告させてもらうぞ。」


その言葉で、イスゲの顔が青くなる。


しかし急ににやけた表情になった。


すぐに他の男に目配せをすると、その男は廊下に繋がる扉へと移動しカギをかける。


「リリスさんよぉ~、少し不用心過ぎないか?」


イスゲが下品な笑いを浮かべ、リリスへと近づいていく。


「ここにはランクAの冒険者4人がいるんだぜ。あんたのような女1人で来るには場違いなところだ。こんなところに1人でのこのことやって来たんだよ。どうなるか分かって来ているんじゃないのか?もしかして、俺達に相手にして欲しくて来たのかい?だったら今すぐにでも相手をしてやるよ!ぎゃはははははぁああああああ!」


「げひゃひゃひゃ!」と周りの男達からの笑い声も響く。



「そうね・・・」



リリスが金髪を掻き上げると真っ赤な瞳が怪しく輝く。


「ここにはちゃんと用があって来たのよ。妾じゃなくてね・・・」


次の瞬間、部屋の温度が一気に下がった気がした。


「おい・・・」


男達が急にブルブルと震える。


「あぁ・・・、これはどうなっている?こんなのAランクのモンスターに遭遇した時でもここまで背筋が寒くなった事はなかったぞ。」


「この部屋に何か得体の知れないものがいる・・・」


ガタガタと震え始めた男達の視線が一斉にリリスへと向く。


「貴様!一体何者なんだよ!普通の人間が出せる威圧感じゃねぇぞ!」


「ほぉ~、妾の気配に気付くとはな。伊達にランクAの地位にいないと言う事か・・・」


ニヤリとリリスが笑う。


「だが!相手が悪かったな。」



「うわぁあああああああああああああああああああ!」



いきなり男達の1人が叫ぶ声が聞こえる。


「リ!リーダー!あ、アレ・・・」


男の声が震えながら扉を指差した。


「何をビビっている!たかが女がドアの前にいるだけじゃないか。女くらい俺達の前じゃどうでもなるだろうが!」


「そ、それが・・・、この部屋にはカギをかけたんですよ。誰も入ってこれないように・・・、それがいつの間にか女が入っているんすよ。どうして?」


男が真っ青な顔でリーダーの顔を見ている。


リーダーも男の声に違和感を気付いたのか、扉の前に立っている女をジッと見た。



「この女?はて?どこかで見た気が・・・」








ガタッ!





「き!貴様ぁあああああああああああああ!」



リーダーが椅子に立てかけていた剣を手にし、剣を抜きドアの間にいる女性へと向ける。





「貴様は死んだはずだ!どうしてここにいるんだ!」


女性がニヤリと笑う。

いや、女性というより少女といった方が正しいかもしれない。

まだ14,5歳のあどけなさを残した少女であった。


「確かに私は死んだわ・・・、あの塔の上から落ちてね・・・」


「だったら!何でここにいるんだよ!まさか、アンデッドとなって復活したのか?」





「もちろん・・・」




少女が男達をぐるりと見渡した。



















「復讐に決まっているじゃない・・・」













まるで猛吹雪のように凍える少女の視線が男達を射抜く。




「ば!馬鹿な!この帝都の!どんな魔物も全く近寄る事も出来ない強力な結解に守られている帝都の!そんなところにお前のような化け物が入り込むなんて・・・」



「あらあら・・・」


リリスがニヤリと微笑む。


「貴様ぁああああああああ!何か知っているのか!しかもだ!この帝都に魔物を呼び込むとは!この俺が貴様を成敗してやる!」


ギルドマスターのイスゲも剣を取り切っ先をリリスへと向けた。


「何を言っているのよ。それを生み出したのは貴様達だろう?自分の事を棚に上げてよく言う。妾は特別な事はしていないからな。そもそも、結界と大層な事を言っているが、妾達にとっては紙みたいなものだぞ。そんな事も分からないとは、貴様達の頭は本当にめでたいな。」


ゾッとするような笑顔を男達に向けた。



「けっ!こんなのやってれてるか!死人は死の世界に帰れ!ここは俺達生きている者の世界だよ!」



そう言って男の1人が扉の前に立っている少女へ剣を振り下ろした。




ガキッ!




「へ?」


男の間抜けな声が響く。


少女がおもむろに左手を上げると、振り下ろされる剣を鷲掴みにする。

素手で掴んでいるはずなのに、剣が何か固いものを打ち付けたような音が響いた。


「ぐ!う、動かない!」


剣を掴まれている男が何とかしようと剣をグリグリと激しく動かすが、少女の手は全くビクともしない。


そして・・・




ズン!




「が!」


男の苦悶の声が響く。



「そ、そんな・・・」



少女の右手が男の胸に吸い込まれるように突き刺さった。

その場所は心臓だった。

手首まで少女の腕が突き刺さっている。


そして、ゆっくりと手を抜くと、三日月のように口角を上げて男に微笑んだ。



「これって何かな?」



少女の手には男の心臓が握られていた。


「あひぃいいいいいいいいいいいいい!」


男がガタガタと震えるが、少女はニコニコした笑顔で心臓を潰した。


ピクンと男が震え、そのまま床に倒れ込み動かなくなる。


「あらら・・・、簡単に死んじゃったね。あまりにもザコね、これはザコ過ぎたけど、あなた達はどうなのかな?」



「「「うわぁあああああああああああああああああああ!」」」



あまりの恐怖に男達が剣を滅茶苦茶に振り回しながら少女へと切りかかった。


その後の光景はあまりにも凄惨だった。


頭を握り潰されたり、腕や足を捻じり切られたりと、拷問とも呼べる殺戮劇が繰り広げられた。



「何なんだよぉぉぉぉぉ~~~~~、。俺は夢でも見ているのかよぉぉぉぉぉぉ~~~~」



ただ1人生き残ったイスゲが部屋の隅でガタガタと震えながら弱々しく項垂れている。


ザッ!


イスゲの前にリリスが立った。


「どう?妾のプレゼントは楽しんでくれた?」



「お前ぇぇぇぇぇ~~~~~~、一体何者なんだよ!俺が一体何をしたっていうんだよ!」



リリスがニヤリと笑う。


「妾の正体なんぞ別にどうでもいいだろ?貴様にとっては関係ないからな。それにだ、貴様が何をしたかって?もちろんよく知っているぞ。貴様達が殺した女どもの声を聞いてな。妾はその手助けをしただけだ。そこに何の問題がある?」


「嫌だ!死にたくない!それに、俺には嫁さんと娘の家族がいるんだ!だからな、助けてくれ!なぁ!頼む!」






「だから?」





少女がいつの間にかリリスの隣に立った。


「私にも両親と弟がいたわ。貧しい家だったけど、とても暖かい家庭だった。あの教頭が私に奨学金の話を持ってきて、でも、受け取るにはあのエロジジイの女になれって迫って・・・、それを断ったら、あんた達に変な注射をされて・・・」


ジロリと少女がイスゲを睨む。


「あんた達のせいで私は・・・、わたしの家庭が滅茶苦茶にされたのよ!そんなあんたが許せる訳ないじゃない!私は地獄に堕ちようともあんた達に復讐を願った!そしてリリス様が聞き入れてくれたの。無限地獄に堕ちる対価として一時の復讐する力と引き換えにね!」



「そういう事よ。」



リリスが冷たく見下ろす。


「貴様の都合なんて知った事ではないのさ。貴様は他人の人生を滅茶苦茶にした。それが今、自分に返ってきているだけだ。この世界の言葉では『因果応報』と言うのだったな。悪党には相応しい最後だよ。」


「それではリリス様、最後の仕上げをお願いします。」


少女がペコリと頭を下げる。


「任せろ。こいつには相応の地獄を見せてやろう。永遠に続く地獄をな・・・」



ポゥ・・・



少女の体がほのかに輝く。


「これから地獄へ行くのに変な言葉だが、元気で頑張れよ。」


「ありがとうございました。これで心置きなく地獄へ行け・・・」


少女の姿が光の粒子となって消えてしまう。




「さて・・・」


リリスがイスゲに向き直った。


「この部屋の後片付けもあるし、そろそろあっちの世界へ逝こうか?」


「や!止めてくれぇえええええええええええええ!何でも!何でも言う事を聞くからぁあああああああああああ!」


イスゲがガタガタと震えながら土下座をして懇願する。


「却下だ。」


そう冷たく言い放つと、床全体に黒い魔法陣が浮かぶ。


「さて、冥府の扉を開けるぞ。ついでにこのゴミも一緒にな・・・」


魔法陣から無数の青白い手が伸び、イスゲの全身を掴んだ。


「や!止めてくれぇえええええ!嫌だ!死にたくない!死にたくないよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



トブン・・・



イスゲが魔法陣の中に飲み込まれた。


部屋の中はもう誰もいない。

そして、あのような惨劇があったのか?と思われてしまうほどに部屋の中はきれいになっていた。














「ここは?」



イスゲが目を覚ます。

慌てて周りを見たが、どこかの部屋の中でポツンと1人だけでいた。

窓も何もない部屋だったが、不思議と部屋の中が明るい。


「俺は何かに引きずられて気を失って・・・」


落ち着いてもう一度部屋を見渡すと1枚の扉があった。


「ここから外に出られるのか?」


恐る恐るノブを握りドアを開ける。




「こ!これは・・・」




目の前に広がる光景に自分の目が信じられなくなった。


そこには・・・


明るく輝く日差しが差し込む森の中だった。

すぐ目の前にはとてもキレイな小川が流れている。

森の木々にはとても旨そうな果実がたわわに実っていた。


まるで楽園のような景色が広がっている。


それ以上にイスゲの目を引いたのは・・・



「女だ・・・、それも特上の女どもがぞろぞろと・・・」



そう、目の前の小川の中に一糸まとわぬ美女達が水浴びをしている。

しかも、十数人の女性達がだ!


あまりにも信じられない光景だったが、自分の欲望には勝てず、鼻の下を伸ばしながら女性達のところへと、誘われるように歩いていく。


そんなイスゲに女性達が気付いた。


「あら、こんなところに男がいるわ。」


蠱惑的な笑みを浮かべながら、女性達が小川から上がりイスゲのところへゾロゾロと集まり、あっという間にイスゲは女性達に囲まれてしまう。


絶世の美女達に囲まれたイスゲはそれはもう天に上るような気持ちで興奮している。


「うふふ・・・、私達と良い事しない?」


そう言って女性が濃厚なキスをしてきた。


それからは・・・


まさにハーレムと言える状態で、美女達に囲まれながら身の回りの世話をされている。

食べ物はどこから用意されてきたのか分からないが、とても豪華な食事も出され、もちろん、数え切れないくらい彼女達を抱いた。

どの女も娼婦顔負けのテクニックで極上の気持ちにさせてくれ、ここに来てからどのくらい時間が経過したのかも分からなくなってしまっていた。



「ぐへへへ・・・、あの時は殺されたかと思ったが、こんなパラダイスだったとはな。ここにずっといたいくらいだよ。」





「そうか・・・、そんなにここが気に入ったか?」




突然、リリスの声が辺りに響いた。


「そ!その声は!」


美女達を周りに侍らせながら王様気分に浸っていたイスゲの前にリリスが現われた。


「ふふふ・・・、楽しそうだな。だけどな、夢というものはいつかは覚めるものだ。そら!現実を見させてやろう。」


パチン!とリリスが指を鳴らすと・・・



「ば!馬鹿なぁああああああああああ!こんな事が!」



青々と茂っていた地面の草が!

周りの木々が!

清らかな水を湛えていた小川が!



みるみると枯れ果て、水もどす黒く濁っていく。


「う、嘘だ・・・、俺のパラダイスが・・・」


「あら、イスゲ様、どうされたのですか?」


隣の美女が声をかけてきた。

声の女性へ振り向くと・・・





「きゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」




まるで女性の金切り声のようにイスゲが声を上げてしまった。


あの美女が・・・

この世のものとは思えないほどに美しい美女が・・・


今、イスゲの前にいるのは・・・


皮膚が崩れ落ち、片側の眼球もこぼれ落ちている。

崩れ落ちた皮膚の下にある肉も蛆や虫がたかりうごめいていた。


周りの女性達全てが変わってしまっている。


ゾンビの群れに囲まれてしまっていた。


そして、さっきまで食べていた料理に目を向けると・・・



「うぷ!うげぇぇええええええええええええええええええええええ!」



盛大に胃の中身を出してしまう。


その料理とは・・・


腐った肉に蛆や虫がたかっていた。




「どうだ、現実の光景を目の当たりにした気分は?貴様はゾンビ達を相手にせっせと猿のように腰を振っていた訳だ。余程気持ち良かったのか?我を忘れて腰を振っていた光景は面白くて腹がよじれる程だったぞ。」


リリスがニヤニヤと笑っている。


「それとな、貴様が美味い!美味いと言っていた料理はな、こいつらの血肉だったのだよ。良かったな、ここでは貴様は永遠に死ぬ事はない。心ゆくまで彼女達の相手をしてあげるんだな。ゾンビとなった彼女達とな・・・」



「た、頼む・・・、助けてくれ・・・」



ヨロヨロと力無くイスゲがリリスへと手を伸ばす。

しかし、その手をゾンビの彼女がソッと握り、腐り落ちた乳房へと当てた。


「イスゲ様、私達はあなた様をずっとお慕いします。未来永劫・・・」



「嫌だ・・・、嫌だ・・・、嫌だぁああああああああああああああああああああああああああああああ!頼む!頼むから助けてくれ!頼むからぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



必死に懇願しているイスゲを冷ややかな視線でリリスが見下ろしていた。




「良かったな。貴様が望んだハーレムだぞ。永遠に楽しむ事だな・・・」




ゾンビ達に揉みくちゃにされているイスゲに背を向け、その姿が搔き消えた。















「お父さん!お母さん!」


少女が楽しそうな表情で父親と母親だろう2人の間に入って並んで歩いている。


その光景をリリスが微笑みながら見ていた。



「ふふふ・・・、あれは久しぶりに楽しめたぞ。今回は特別大サービスだ、事象改変で貴様の身に起きた事は無かった事にしておいたぞ。その時の忌々しい記憶も無い。もう2度と地獄には来るなよ。」



「どうした?」


スザクが不思議そうにリリスの顔を覗き込んだ。


「ん、あそこの家族を見てな、仲の良い家族はいいなと思っただけだ。なぁ、スザク・・・」


そう言うってリリスがスザクの腕にギュッと抱きついた。


「しばらくこうしていて欲しい・・・、貴様の温もりを感じたくなった。」


「分かったよ。好きなだけこうしていろ。」


とても優しい笑顔でスザクが微笑んだ。




「むぅ!ママばっかり!」




リコンのヤキモチビームがスザクに放たれた。

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