第42話 セクハラ親父、身も心も潰される①
「これはこれは初めまして、可愛いお嬢さん。私は教頭の『ハラセク』と申します。」
アイが部屋に入ると、スラリとした初老の男性がアイの全身を舐め回すような粘着質な視線を投げつけてきた。
特に!胸を中心に執拗に視線を送ってくる。
(うわ!これは無いわ~!)
アイにとってはもう視線だけでアウトだった。
しかし、そこはグッと我慢する。
我慢しているアイの態度で調子に乗ったのか、教頭がグルグルとアイの周りを回り下品な視線をぶつけてきた。
「お嬢さん・・・」
そう言って教頭がアイの肩に手を置く。
(何なのよ!この馴れ馴れしい態度は?)
少しづつ怒りメーターが上昇しているアイだった。
「失礼、失礼・・・、こんな可愛いお嬢さんを立たせたままにしているとは男性失格ですね。ささ、どうぞ楽にして下さい。」
そう言って今度はアイの腰に手を当てソファーへと座るよう促してきた。
ゾゾゾォオオオオオオ!
アイの全身にサブイボが出てくる。
仕方なしにソファーに座るが、例のセクハラ教頭は幸い反対側のソファーに座っていた。
その手には何枚かの書類を持ちジッと目を通している。
「ふむふむ・・・、君は平民出身との事だが貴族達と遜色ない成績を修めているんだね。ミエッパリー王国の学園の噂は聞いているよ。特に貴族優先の学風はかなり酷かったとね。その中で頑張っていたとは、君は本当に素晴らしい生徒だったんだね。」
「いえいえ・・・、先生達のおかげで頑張れていただけです。」
そんなとりとめのない話をいくつか交わす。
学園のとある場所
「リリス・・・、準備は出来た。」
【スザク、ご苦労様。例のアレはアイちゃんにこっそりと取り付けておいた?】
「あぁ、問題無い。アイに悪いが服にこっそりとな。」
【OK!OK!後は罠にかかるまで待つだけね。】
「千里眼で見ているけど、もう早速食い付いているぞ。アイがすぐに手を出さないか心配だよ。」
【何、言っているの?貴様の方が先に手を出すに決まっている。まぁ、あまりやり過ぎないようにね。】
「分かったよ。」
スザクがニヤリと笑う。
「アイに手を出すとは・・・、余程の命知らずだな。死んでなきゃ依頼完了だし、そろそろ俺も動くか・・・」
教頭がスクッと立ち上がった。
そのままアイへとゆっくりと近づく。
「君はこの帝国の学園の決まり事を知っているかな?」
「い、いえ・・・、どんな事でしょうか?」
アイが首を振り否定しているが、教頭がゆっくりと近づいてくる。
そのまま、アイの目の前に立ったが、あの舐め回すような視線は変わらず、ジロジロとアイを見ている。
「お嬢さん、いえ、アイ君・・・」
その声にアイがピクンと震える。
(やっぱり気持ち悪いよぉぉぉ~~~~~、このままだと手が出ちゃいそう・・・)
ひたすら手を出すまいと心の中で葛藤しているアイだった。
教頭が大胆にアイの隣に座った。
「いやぁ~~~、アイ君はこれだけ可愛いんだから、彼氏の1人や2人はいたんじゃないのかな?」
見事にセクハラ発言を始めた教頭だった。
「い、いえ・・・、私ってこんな黒髪じゃないですか。周りからは『忌み子』って呼ばれて気持ち悪いって言われて避けられていたもので・・・」
「そうかな?」
そう言って、教頭がアイの髪を手に取った。
(いっ!この親父!何て事をするのよ!)
アイが心の中でグッと拳を握った。
そんなアイの心の中を知るよしもなく、教頭は手に取ったアイの髪のジッと見つめる。
「こんな綺麗なサラサラな髪を気持ち悪いとは・・・、周りは余程君を見る目が無かったのかな?こんなに美しい君を勿体ないね。」
アイはもう我慢の限界になりプルプルと震えている。
「どうしたのかな?」
アイの震えを感じ教頭はニヤリと笑う。
「もしかして?怖いのかな?」
(そんな事はないわ!今すぐでもシバきたいのよぉおおおおおおおおおおおお!)
「無駄!無駄!無駄ぁあああああああああ!」
アイが恐怖で震えていると思っているのか、教頭がいきなり下品な笑いに変わった。
「たかだか平民の小娘ごときがぁああああああ!君の立場というものが分かっていると思っているのか?」
ポンとアイの肩に手を乗せる。
「私はねぇ~、この帝国の学園に努めて教師生活30年、今では私は学園長よりも権力を持っているのですよ。」
キッとアイが教頭を睨む。
「どういう事です?」
「察しが悪いね君は・・・、折角この学園に編入出来たのだよ。でもねぇ~~~~~~~」
グイッと顔を近づける。
「この私が君の在学許可を出すんだ。その意味が分かるぅぅぅぅぅ?」
「何を言っているのか分かりません!」
毅然とした態度でアイが断りを入れる。
「ちっ!君は・・・」
露骨に嫌そうな顔をアイに向けた。
「さっきも言っているだろう?君の成績は優秀だったよな?私の言っている事が分からないのか?」
肩に置いた手を今度は太もも置いた。
「この学園にいたければ私の言う事を聞いた方が身の為なんだよ。私はねぇ・・・、君の編入書類を見て、君の写真を見てね・・・」
ペロリと舌舐めずりをする。
「君のような最上級の美少女を是非とも私のものにしたいと思ったんだよ。もちろん、君には悪いようにさせないよ。私のものになるなら君は卒業するまで成績トップは保証しよう!それに、卒業後の学院への紹介状も書いてあげよう。学院にも私の知り合いは多くいるんだ。決して悪い話ではないだろう?」
「そうですか・・・、それってあなたの言う事を聞けって事ですか?」
アイがボソッと呟く。
しばしの沈黙が部屋に漂った。
「このセクハラスケベ親父が!」
太ももに置かれた手を思いっ切り抓った。
「うぎゃぁあああああああああああああ!」
はい!予想通りの展開です。(笑)
アイに手を抓られた教頭が憩いよくソファーから立ち上がった。
「こ!この小娘ごときがぁああああああ!」
「ふふふ・・・」
不敵な表情でアイが笑う。
「貴様ぁあああああ!何が可笑しい!この私が誰だと分かっての狼藉か!学園長よりも偉い私に逆らうつもりか?そんな態度を取ればどうなるか分かっているだろうな?」
「どうなるのかな?私ね、ここに来たばかりだからな~~~~~~~~~んにも分からないのよね。おじさん♡教えてくれない?」
パチンとウインクをして徹底的に煽ってしまう。
「まぁ良い・・・、たかが小娘のほざく事だ。貴様はここがどこだか分かっているのだろうな?たかが小娘1人が大人の男の前にいるんだぞ。廊下に繋がる扉は既に鍵をかけた。そして、この部屋は防音でな、どんなに騒ごうが外には音が漏れん。どういう事になるか貴様は分かっているのか?男の前にたかが小娘・・・、ぐふふ・・・、どんな味がするかな?たっぷりと可愛がってやろう・・・」
ジリジリと涎を垂らしながら教頭がアイへにじり寄ってくる。
アイがグーパンチを教頭の顔面へ放とうとした瞬間・・・
「こうやって女生徒を乱暴してきた訳か・・・」
ガシッ!
「がぁあああああああああああああああああああ!」
スザクの声が聞こえた瞬間、教頭の悲鳴が部屋に響き渡る。
メキメキィイイイ!
「痛い!痛い!頭が割れるぅううううううううううううう!」
いつの間にスザクが教頭の後ろから頭を鷲掴みにし持ち上げていた。
「お父さん!」
アイが叫ぶとスザクがニコッと微笑む。
「アイ、悪いな・・・、コイツがペラペラ喋るまで手を出せなくてな。よく我慢したな。おかげで証拠が揃ったぞ。」
「え~~~~~~、私っていつの間にか囮にされていたの?髪とか肩とかあちこちと触られちゃったよぉぉぉ~~~、気持ち悪かったし、何かお詫びに奢ってよ!」
腰に手を当てプリプリしているアイの姿を見て、やっぱりアイが最高に可愛いと思う親バカスザクであった。
「き!貴様ぁああああああああ!この手を離せぇええええええええええ!私はド平民の貴様なんぞに軽々しく触れるような存在ではないんだぞ!」
教頭が激しく叫ぶと、スザクがつまらなさそうにポイッと教頭を放り投げた。
「ぎゃふ!」
教頭が壁に叩きつけられ床に落ち、ヨロヨロと立ち上がる。
「貴様ぁぁぁぁぁ!どこからこの部屋に入り込んだんだよぉぉぉぉぉ!」
「別に・・・、ここからな。」
クイッと親指で部屋の入り口の扉を指差す。
「どうして?アレには鍵がかかっていたはずだぞ?どうやって入ってきたんだ?」
「あんなのが鍵と言うものか?」
ニヤリとスザクが笑う。
「今度はもっと信頼出来る業者に鍵を取り付けてもらうんだな。次があればな・・・」
「何をゴチャゴチャ言っている!貴様はぁああああああああ!この部屋にぃいいいいいいい!学園で学園長よりも偉い私の部屋に無断で入ると言う事はぁああああああ!不法侵入で訴えてやる!アイ君、貴様は退学だ!この学園で1番偉い私に逆らったからなぁああああああああああ!」
「ほほぉぉぉぉぉ、誰がこの私より偉いと?面白い話だな。」
教頭の後ろから声がした。
「へっ?」
間抜けな声が響いたと思いきや、教頭がギギギ・・・と、ゆっくりと振り向く。
「嘘ぉおおおおおおおおおおん!」
教頭の豪華な机の場所に男がどっかりと座っていた。
顎に手を乗せニヤリと笑っている。
例の碇ポーズだったりする。
「こ!これは!学園長!ど!どういったご用で!」
教頭が汗ダラッダラの状態で学園長へすり寄っていく。
「別に大した用で来ていないぞ。それにな、ここにいるスザク様は私がとても尊敬するお方でな、現皇帝でもおられる私の義兄もとてもお世話になっているんだ。昨日、話を聞いたと思うが、真の勇者様であるんだよ。まさか、知らなかった訳ではないよね?」
全く笑ってない笑顔を学園長が教頭に向けた。
「ははは・・・、学園長様もお人が悪い・・・、昨日の今日の事で勇者様の事はすぐに覚えられる事なんて無理ですよ。それでは私は教室を回ってきますので・・・」
そう言って慌てて部屋から出ようとする。
「まぁまぁ、教頭先生、面白いものをスザク様が用意してくれたんだし、みんなで楽しもうじゃないかな。がはははははぁあああああああ!」
学園長が豪快に笑うとスザクがニコッと笑い頷く。
「今では私は学園長よりも権力を持っているのですよ。」
「学園長よりも偉い私に逆らうつもりか?」
「ぐふふ・・・、どんな味がするかな?たっぷりと可愛がってやろう・・・」
「貴様は退学だ!この学園で1番偉い私に逆らったからなぁああああああああああ!」
「・・・」
部屋中に教頭の声が響く。
「これは何だろうね?」
ニヤニヤと学園長が教頭に視線を送る。
「この声は君の声だよね?以前から私のいないところでだ、君がこの学園の支配者だと吹聴している話があったのだよ。なかなかね、証拠が無くて困っていたけど、昨日、冒険者ギルドのギルドマスターが変わったじゃないか?君ととても懇意にしているギルドマスターがな、クビにな・・・、というか、黒い噂の冒険者達と一緒に行方不明になってな・・・」
ダラダラと教頭の顔から大量の汗が流れてくる。
「それにだ、君に乱暴されたという女生徒の話も聞いているよ。ギルドマスターの権限で圧力をかけて、一緒に行方不明になった冒険者達が被害を受けた女生徒を脅して静かにさせていたようだね。まぁ、新しいギルドマスターの尽力で、こうして音を録音する魔道具を貸し出してもらい、今の君の会話を録音させてもらた訳だ。」
全く笑っていない学園長の視線が教頭の全身を貫いた。
「もう諦めるんだな。魔王を倒した真の勇者スザク様の前では、君は単なる小悪党だったね。後は私が引き継ぐし、君は追って処分が出る間まで城の牢で臭い飯を食っていきなよ。」
「・・・とめられない・・」
プルプルと教頭が俯き震えている。
「私が・・・、負け組?そんなの認められないんだよぉおおおおおおおおおお!たかが平民ごときが!大貴族でもある私を陥れるぅぅぅ?」
乾いた笑い声をあげ天井を仰ぎ見た。
「ははは・・・、これは夢なんだよ・・・、質の悪い夢・・・、ゆくゆくは私が学園長になって美少女に囲まれるハーレムを作るんだよ・・・、それが私の究極の夢。もう少しでその夢が現実になろうとしているのだよ・・・」
学園長がこめかみを押さえ盛大な溜息をする。
「こんな下らない夢の為に何人もの女生徒が犠牲になったとは・・・」
スザクが一歩教頭へと歩を進めた。
「残念だが・・・、貴様の夢は終わった。これからは・・・」
拳を握りポキポキと指を鳴らす。
「さぁ、お仕置きの時間だ。」
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