帝国編
第41話 娘、帝国の学園に編入する
(第38話からの続き)
翌朝
スザク家リビング
「たった2日間だけだったのに、とっても長く感じたね。」
アイがしみじみとスザクに呟いた。
「確かにな。1ヵ月半以上経っている気がする。」
気のせいではないと思います。
「学園に行ったら、みんなどんな顔するかな?やっぱり聖女っていうのは内緒の方がいいのかな?お父さん、どう思う?」
「そうだな・・・」
スザクが腕を組んで思案していると・・・
「何をアホな事、2人で言っているのよ。」
リリスがコーヒーカップを片手にリビングへと入ってくる。
「あ!お姉ちゃん!」
リリスにしては珍しく、とても嬉しそうな表情でスザクの隣に座った。
「お姉ちゃん、朝から何だかか嬉しそうね。昨日の夜はお母さん公認でお父さんとずっと一緒にいたんだし、お父さんと良い事でもあったの?むふふふ・・・」
アイが口に手を当て、目が蒲鉾のようになって「むふふ・・・」と、近所の噂好きなおばちゃんのような声を出して笑っている。
「そうよ、昨日の夜はね・・・」
次の瞬間、リリスの頭に真っ黒な雲が浮かび上がった。
「あと少しでスザクとのキスをぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~、リコンに全部美味しいところを持って行かれたわ!こんなの!朝から妄想でスザクとイチャコラしていないと生殺しの気分でやってられないわよ!」
「そうなんだ・・・、てっきりお姉ちゃん、念願のキスが出来たかと思っていたけど・・・」
ヒクヒクとアイの笑顔が強ばった。
「スザク!」
グイッとリリスがスザクへと迫って来る。
「やぱり我慢出来ん!昨日の続きだ!アリエスがいない今!妾がスザクの唇を奪ってやる!ふふふ・・・、覚悟しろよ。」
少し目が血走っているリリスの顔が徐々にスザクへと近づく。
傍から見ると少しホラーのように見えなくもない。
リリスの執念、恐るべし!
ヒュン!
何か細長いものがリリスの眼前を横切った。
ドス!
「ちっ!」
リリスが舌打ちしながら一気に後ろへと飛び退く。
「何?何?何が起きてるの?しかもこれって!」
いきなりの展開にアイが少し慌ててしまう。
「うっそぉおおおおおおおおおおおおお!これってネギよね?」
リリスの目の前を横切ったものは何と長ネギだった。
しかも!
そのネギがテーブルに深々と突き刺さっていた。
「しかもよ!このネギには見覚えがあるわ!一昨日、特売で買ってきたネギよ!どうしてネギがテーブルに突き刺さっているの?」
「ち!避けたか・・・」
天井からアリエスの低い声が聞こえた。
「え?お母さん?どこにいるの?」
アイがキョロキョロと天井を見渡すと・・・
「いたぁああああああああああああああああああああああ!」
アリエスが天井のある小さな出っ張りを、左手の親指と人差し指だけで摘まんで、右手に長ネギを持って天井からぶら下がっていた。
(お母さん・・・、一体何者なのよ?)
一瞬だけど、アイにはアリエスが自分の母親だったのかと信じられなくなっていた。
ヤンデレ恐るべし!
アリエスはその異常な握力で天井に逆さにぶら下がった。
足をグッと天井に付け、今にも飛び出しそうに身構えている。
「先に出ていったと見せかけておいたけど、リリス、やっぱりスザクに手を出さなくては気が済まなかったのね。お天道様に代わって成敗してあげる!」
ダン!
天井を踏み台にしてアリエスが一気にリリスへ襲いかかる。
「死ねぇえええええええええ!このネギの錆びにしてくれるわ!」
テーブルに突き刺さっていたネギをリリスが素早く抜き身構える。
「しゃらくさい!返り討ちにしてやるわ!」
キィイイイイイイイイイイン!
ネギとネギがぶつかり合う音が響く。
(ちょっとぉおおおおおおおおお!これってどういう事なのよ!あれはネギなのよね?一昨日、私が買ってきたネギだよね?何で剣の合わさった音が聞こえるのよ!信じられない!)
アイの心の絶叫が響く。
「なかなかやるわね。」
「ふふふ・・・、拳だけの女かと思えば剣もなかなかだな。」
お互いにネギで鍔迫り合いをしながらギリギリと睨みあっている。
バッ!
お互いに勢いよく離れ距離を取る。
アリエスがネギを水平に構える。
「こうなれば少し痛い目に合わないと分からないようね。出し惜しみはしないわ。」
ブン!
ネギが薄く緑色に輝く。
グッとネギを後ろへと構えた。
「いっけぇえええええええ!ネギィイイイイイ!スラッシュ!」
フォン!
「うっそぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
アイが絶叫した。
「何でネギから飛ぶ斬撃が出るのよぉおおおおおお!しかも!ほのかにネギ臭いし!}
巨大な黄緑色の三日月の飛ぶ斬撃がリリスへと高速で飛んでいく。
リリスはその斬撃をニタリと口角を上げながら見つめていた。
「さすがは妾のライバル!そのネギ捌き!妾の相手に不足なし!」
(確かにライバルかもしれないけど、変なところで張り合わないでよ!ネギでぇええええええ!)
アイ、心からの突っ込みだった。
「くくく!刮目せよ!ネギ新陰流秘奥義ぃいいいいいい!圓月輪!」
ネギを下段に構えていたリリスがゆっくりとネギを円のようにグルッと回す。
「からのぉおおおおおおおおおおお!ネギィイイイイイ!ディフレクトォオオオオオオオオオオオオオオ!」
パリィイイイイイ!
アリエスから発せられたネギ臭のする衝撃波がリリスのネギによって弾かれ、その衝撃波が消滅した。
その後には、ほのかにネギ臭が辺りに漂う。
(一体、何の茶番を見せつけられているのよ・・・)
アイ、心からの叫びであった!
「なかなかやるわね。この私のネギを打ち消すとはね。」
「ふん!貴様も人間してはよくやった方だ。妾のネギ道にもう一歩まで迫るとはな。」
ニヤリと2人が笑う。
ゴン!ゴン!
「「いったぁあああああああああああ!」」
2人がいきなり頭を押さえて蹲ってしまった。
「お前ら・・・」
怒りの顔のスザクが拳を構えて仁王立ちになっていた。
「あなた、痛いよ・・・」
「妾とアリエスの真剣勝負なんだぞ。いくら貴様でも口出しは・・・」
「食べ物で遊ぶな。いい大人がみっともないぞ。」
ごもっともです。
「そろそろ本題に戻れ。」
スザクの前で2人が正座をさせられていた。
「そう、さっきの話ね。」
リリスがアイへと視線を向ける。
「この王国の学園は昨日から授業にならないのよ。誰かさんが散々とざまぁ!をしちゃったしね。」
「えっ!俺?」
不服そうにスザクが自分を指差していた。
「ちょっと待て!俺はあのガマガエルと取り巻きだけだぞ。直接手を下したのはな。」
「そうなると・・・」
今度はアリエスがジロッをアイを見た。
「わ!私?ちゃう!ちゃう!」
アイが一生懸命手を振って否定している。
「私はあの宰相のボンボン息子だけよ!まぁ、ちょっと股〇ブレイクしてしまったのは、やり過ぎかな?って思うけど、それでも学園が閉鎖してしまうまでってね。」
「「「だったら・・・」」」
全員の視線がリリスへと集まった。
「確かに間違いないな。」
「そうね・・・、ガメツはいまだに行方不明ってことだしね。」
「教師も裏帳簿が暴露されて授業どころではないみたいだしね。」
「ははは・・・、やっぱり妾?」
全員がコクンと頷いた。
「そう言われるだろうと思ってね・・・」
リリスがどこからかパンフレットを取り出す。
「手際がいいな。」
素直にスザクがリリスを褒めると、そのリリスが凄いどや顔でスザクへと迫る。
しかし!
「ママ、お話をちゃんと終わらせてから・・・」
リコンが素早くスザクとの間に割り込む。
「そうなのよ・・・、昨夜もこうやって何度もいいタイミングで間に入ってくるのよ・・・」
「いい子だな。」
スザクがリコンの頭を撫でると、リコンの反応と反比例するようにリリスの元気がなくなっていった。
気を取り直して・・・
「まぁ、今の国は学園どころかこの国自体が指導者が変わってしまったし、混乱の極致よね。そんな状態で学園が運営出来るはずもないわ。だからね、落ち着くまでは帝国の学園に編入手続きをとったのよ。」
「さすがお姉ちゃん!性格はあれだけど、仕事はちゃんと出来るんだね。見直したよ。」
「性格はあれって?」
かなり深刻に落ち込むリリスであった。
だけど、立ち直りも早いリリスであった。
「いつまでもメソメソしていられまい!」
そう言いつつも目の端にキラリと光るものが見えているのは、本人の名誉の為に黙っていよう。
「帝国の学園に通うようになる訳だ。妾とスザクは転移で帝国へと通うのは簡単だが、アイちゃんとアリエスだと大変だよな。」
「確かに・・・」
リリスの言葉にスザク達3人がウンウンと頷く。
「そこでだ!ここに転移陣を組み込んだ扉を妾が作った!この扉を使えば、いついかなる時でも、魔力を流せば自由に帝国の冒険者ギルドのギルドマスター部屋に繋がるのだよ!アイちゃんやアリエスも使用可能だ!」
「「「おぉおおおおおおお!」」」
3人が感動したのか拍手をする。
「昨日からギルドの理事長権限で、妾は帝国のギルドマスターにもなっている。これで気兼ね無しにギルドマスター部屋を使えるから、誰にもバレる事は無いだろう。」
そして、ドアのノブを握った。
「見ておれ!記念すべきこの世界での初のぉおおおおお!〇こ〇もドアァァァ~~~!」
「はい!ダーリン・・・」
ビャッコがフォークに刺したリンゴを魔王の口へと差し出している最中だった。
「失礼・・・」
ソッとドアを閉じる。
「おどりゃぁああああああああああああああああ!何をさらしとんじゃぁあああああああああああああああああああああああ!」
怒りのアリエスがリリスへ逆エビ固めを極めていた。
「ギブ!ギブ!ちょっと登録座標を間違えただけじゃぁああああああああああああああああああああああ!」
「ふぉふぉふぉ・・・、朝から賑やかですね。」
グロハーラが2人のやり取りをとても嬉しそうに見ていた。
「そうだな・・・」
「そうね・・・」
スザクとアイはグロハーラの出したお茶を飲みながら、とっても疲れた表情で2人のやり取りを見ていた。
「はい、書類上の不備はありません。明日から通学も大丈夫ですよ。」
朝から色々とゴタゴタしたが、何とか帝国の学園へ編入の手続きが完了する。
「お父さん、明日から正式に通う事になるんだね。」
「そうだな。帝国は王国とはまた違う授業のようだしな。ちゃんと頑張れよ。」
「うん!もちろんだよ!まぁ、おじいちゃんからは帝国の教会にはまだ私が聖女だと伝えていないから、正式に通達するまで隠しておいてね、って言われているし、今まで通り偽装しておくね。」
確かにその方が良いだろうとスザクは思った。
新しい環境で友達が出来れば良いなととも思うスザクであった。
「あ!そうそう・・・、手続きが終わったのに教頭先生から教頭室に来いって言われていたんだよ。私と面談をしたいんだって。何でかな?出来れば1人来て欲しいなんて言っていたって、事務のおばちゃんから言われていたんだ。」
「・・・」
その言葉に少し不安を感じるスザクであった。
だが!
今は相手の誘いに乗ってみようとも思っていた。
「分かったよ。じゃあ、お父さんは少し学園内を散策してみるから、アイは面談をがんばれな。」
「うん!分かったよ!」
そう言って2人が別れ、アイは1人で教頭室へと行く。
アイがドアをノックすると、中から声が聞こえ入ってくるようにと言われた。
中に入るとスラリとした見た目は品の良さそうな初老の男が立っている。
アイが入って来ると深々と頭を下げた。
「これはこれは初めまして、可愛いお嬢さん。私は教頭の『ハラセク』と申します。」
アイの全身を舐め回すような粘着質な視線を投げつけてきた。
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