第38話 ガメツ、生まれ変わる
「パパ・・・、私のパパ・・・、もう私を捨てないで・・・」
「「「あ”!」」」
スザクファミリー全員が石化した。
ギギギ・・・
まるで油の切れた機械のようにスザクが少女へと顔を下げた。
「ガメツ、お前、何を言っているのか分かっているのか?」
しかし、少女は頭を激しく振った。
「ガメツと言う女はもういないの!私はリコン・ロー!リリス様がママになってくれたし、ママの旦那様だからスザクパパなの!」
((リコン・ロー))
アリエスとアイがピクピクとこめかみを振るわせている。
「は~」とアリエスが溜息をする。
「ロリコン?何て安直な名付けなのよ・・・」
「だよねぇ~、とうとう作者も名前のネタがなくなったようね。」
アイもアリエスと同じように溜息をしてしまった。
アリエスがゆっくりとリコンへと近づく。
「ガメツ・・・、いい加減にしないとそろそろ私も本気で怒るわよ。いくら子供の姿だからといってそれが通用するとは思わないでよ。」
しかしリコンは涙を流しながらスザクに抱きついたままだ。
「お願い!どんなに私を叩いてもいいから!私を捨てないで!私ちゃんといい子にするし!お金もお酒もちゃんと盗んでくるから!だから捨てないで!」
「ちょっと待て。」
スザクがアリエスを制止する。
そしていつの間にか縄を抜け出しアリエスの後ろに立っていたリリスへ声をかけた。
「リリス、これは明らかに変だぞ。お前!何をした?」
スザクから放たれた鋭い殺気がリリスを打ち抜く。
「はう!」
殺気の余波がドM女のラファエルすら快楽を感じる事無く恐怖でガクガクと震え始める。
しかし、リリスはスザクの殺気を受けても平然とした顔をスザクへと向けていた。
「妾は貴様との約束通り此奴を殺す事はしなかった。妾の管理世界の地獄で現地の10万年に及ぶ生き地獄を経験させただけだ。無限地獄という地獄をな。普通は罪を犯して死んだ罪人の魂が行く世界だ、その世界に生身で送ってしまったからな。」
「ママ・・・」
リリスがリコンの傍に近づくとリコンはスザクから離れリリスへと抱きついた。
「よしよし・・・」
そのまま抱き上げ優しく頭を撫でた。
「心配するでない、お前はもう捨てられないからな。だから安心しろ。」
「うん、分かった・・・、大好き、ママ・・・」
そう言ってリコンがリリスの胸に顔を埋め嬉しそうにしている。
「どういう事だ?」
スザクを始めアリエスもアイも鋭い視線でリリスを睨んでいた。
「見ての通り、此奴は妾の世界での拷問で精神が壊れてしまったのだ。妾が今まで地獄に送ったのは殺した後の魂だった。魂ならどんな拷問だろうが精神が壊れる事は無い。だが此奴は初めて生身で地獄へと送られたのだ。長い拷問の果て、過去の幼少期のトラウマを更に拗らせてしまっての・・・」
※※※※※※※※※※
ここはどこなのよ?
・・・
・・・
暗い・・・、何も見えない・・・
カッ!
ま!眩しい!
急に視界が明るくなったわ!私はあの訳の分からない生き物に纏わり付かれて・・・
え?何なのよ!訳が分かんない!
体が全く動かせないのに首が360°回転するようにグルグルと周りを見ることが出来る。
おかしい?あまりにもおかしい?
どういう事なの?
そう思って改めて気を取り直して周りを見渡すと、ここは何も無い荒野だった。
こんなところでどうやって生きて行けばいいののよぉおおおおおおお!
あれ?
さっきから思ったけど、体も動かないし声も出せない!
私の体!どうなっているの?
恐る恐るもう一度視線をグルグルを回してみると・・・
まさか?
そんなの?
いえ、信じられない。
私の体が木になっている!
しかも!この荒野にたった1本だけ生えている木に?
いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
どういう事よ!私が木だなんて!
今の私の現状を理解する事が出来ない。
だけど、現実はもっと残酷だった。
痛い!痛い!痛いよぉおおおおおおおおお!
体のあちこちから激しい痛みが襲ってくる。
何があったのよぉおおおおおお!
体の痛む場所に目を向けると、青々と生い茂っている枝に色とりどりの果実が実っている。
その実を食べに数多くの鳥が群がっていた。
鳥によって実を引きちぎられると体中に痛みが襲ってくる。
痛い!痛い!あんた達止めてよぉおおおおおおおおお!
しかし、木となってしまった私には何も出来ず、ただひたすら実を食べ続けられる事しか出来ない。
いつ終わるともしれない拷問が続いた。
どれだけ拷問が続いたのだろうか?
痛みが無くなり目を開けて枝をみると、あれだけたくさん実っていた実が1つも無くなっていた。
これでもう拷問から解放されたかと思っていたが甘かった。
直後にあの子鬼達が大量に私の周りの群がってくる。
しかも!手には斧やのこぎり等を持ってだ!
言いようもない不安が全身を巡ったが、今の私じゃ何も出来ない。
ゾロゾロと子鬼達が私の体を登り始めた。
ぎゃぁああああああああああああああああああああああああ!
とてつもない痛みが全身を襲う。
止めて!止めて!止めてよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
だけど子鬼達は枝を切り落としたり皮を剥ぐのを止めようとしない。
そして最後に私は切り倒されてしまった。
あぁぁぁ・・・、やっと楽になれる・・・
嘘?
目が覚めると、またもや同じ光景が目に入る。
荒野の中にポツンと1本だけ生えている木になった私・・・
いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
あれからどれくらい経ったのかしら?
何万、何十万も同じ事を永遠と繰り返すのかしら?
パパ・・・
私のママはパパの暴力に我慢出来なくなって、私が小さい頃に出て行ってしまった。
私を残して・・・
私はママに捨てられたんだ。
もう私にはパパしかいない。
でもパパはママがいなくなってから更に酷くなっていった。
「おい!酒が無いぞ!」
そんな私に酒を買ってこいと言ってくるけど、禄に仕事もしていないから食べる事すら辛い日々だったのに、どうしてお酒なんか買う余裕があるの?
そんな話をする私にパパは容赦無く殴る蹴るの暴力を振るっていた。
「金が無いなら盗んででも持ってこい!俺の言う事をきかなければこの家から追い出すからな!」
ママに捨てられたのにパパにまで捨てられたら私は・・・
その時から私はお金を稼ぐために何でもやった。
乞食、スリ、空き巣、等々・・・
全てはパパから捨てられたくない為、悪い事と分かっていたけど捨てられたくない一心で頑張った。
でも、そんな悪い事はいつまでも続かなかった。
「このガキが!この俺様から財布を盗もうとするとはいい度胸だな。」
スリを行おうとしたが、見破られてしまい捕まってしまった。
しかも、相手はランクBの凄腕冒険者パーティーのメンバーだった。
そんな相手に子供の私が手を出していい相手では無かった。
すぐに詰め所につれていかれ牢に入れられてしまう。
しばらくするとパパが私の前に連れてこられた。
相変わらず酒の匂いが私のところまで漂ってくるまで酒浸りになっていた。
「このバカが・・・、ヘマしやがって!もうお前なんぞ娘でも何でもない。」
そ、そんな!私・・・、パパに捨てられちゃうの?
嫌だ!そんなの・・・
だけど、パパと一緒にいた騎士はパパを冷たく睨むと、パパを押し倒した。
「いい身分の父親だな。調べは全てついている。貴様は仕事も何もせず娘に犯罪行為を強要させヒモ生活とはな。貴様も同罪だ!尤も貴様は死罪だろうな。」
「そ、そんな・・・」
縋るような目でパパが私を見て来たが、私はパパとは目を合わさなかった。
数日経ち、私は牢から出された。
これで私も死刑なんだな・・・、と思うけど、不思議と怖く無かった。
もう両親から捨てられた私だ、誰からも相手にされずに生きるなんてもう嫌だった。
だけど、そこにいたのは私を捕まえた冒険者の人だった。
「どうした?そんなに不思議か?」
コクコクと頷くことしか出来ない。
「お前は気が付いていないみたいだけど、魔力がダダ漏れなんだよ。だからさ、すぐに気配や行動が筒抜けになるんだ。しかもだ、それだけダダ漏れならちゃんと鍛えれば世界最高の魔法使いなれるかもな。だから俺達のところに来い。お前はまだ若い、いくらでもやり直せるからな。」
そう言って差し出された手を私はギュッと握った。
それから私は彼らのパーティーメンバーとなり魔法の修行に明け暮れた。
本当に私には魔法の適性があって、メキメキと上達しパーティー1の魔法使いにまでなった。
この時は私の中では1番幸せな時間だった。
その幸せも儚く崩れ去った。
「みんなぁあああああああああああああああ!」
私の目の前にはパーティーメンバー全員が血の海に沈んでいた。
凄腕パーティーと言われても騙し討ちに遭ってしまえば、こうも儚く散ってしまうとは・・・
メンバーを殺した男達が下品な笑みを浮かべ私をジロジロと見ていた。
「げへへ・・・、こうして見れば見るほど殺すには惜しいな。これだけの美貌だ、俺達の女になるなら生かしてやってもいいぜ。お前もこいつらの様に死にたくないだろう?ぐひゃひゃひゃぁあああああ!」
リーダーの男が勝ち誇った顔で前に進み始めた。
「許さない・・・」
「はぁ?何だって?ぎゃはははぁあああああああ!たった1人で何が出来る!おい!コイツを奴隷にして飽きるまで可愛がってやろうぜ!」
その時、私の中で何かが弾けた。
「黙れぇええええええええええええええええ!」
ダン!と杖を地面に突き立てた。
「アース!ニードル!」
ズドドドドドドドドォオオオオオオオオオオオオオ!
「「「うぎゃああああああああああああああああああ!」」」
男達の足下からおびただしい槍が土の中から現われ、次々と男達を串刺しにしていく。
全員即死とまではいかなかったが、体中を蜂の巣にされ体ではいつ死んでもおかしかくない状態だった。
「ごほっ!お、お前・・・、いくら何でもデタラメ過ぎる。もうお前には何もしないから助けてくれ・・・、お願いだ・・・」
「何を言っているの?みんなはあなた達を信じてレイドをを組んだのに、あなた・・・、いえ・・・、アンタ達はそれを裏切った。私のかけがえのない仲間を・・・、それなのに助けて?ふざけるなぁあああああああああああああああああああああああああああ!」
杖をグッと上に掲げた。
「コロナ!バースト!」
いくつのも巨大な炎の玉が男達のところへと落ちていく。
カッ!
巨大な火の玉が今度は更に巨大な竜巻に変化し、男達は悲鳴を上げる事すら出来ず、一瞬で消滅してしまった。
仇は討ったけど、私はまた居場所を無くしてしまった。
それからソロで頑張っていたけど、どれも私に寄ってくる男は全員が私の体目当てだった。
「もう誰も信じられない・・・、信じられるのはお金だけ・・・、お金が全てよ。お金は私を裏切らない。」
でも、この世界にはお金すらないわ。
もう頼れるものもない・・・
あれからどのくらい経ったの?
痛い・・・
苦しい・・・
もう嫌・・・
パパ・・・
ママ・・・
助けて・・・
カッ!
また目の前が明るくなった。
ママ・・・
私を迎えに来てくれたんだ・・・
※※※※※※※※※※
「生者を地獄に送るとどうなるか?興味深い結果が出て面白かった。生者はやはり地獄に連れていっても精神を壊すだけで、妾には何もメリットはなかった。やはり亡者の世界だけあるな。」
「だったらどうしてガメツの姿を変えて、お前の娘だと義理の親子関係を結んだ?」
鋭い目でスザクがリリスを睨む。
そんなスザクの視線をリリスは和やかに受け流した。
「これでも妾も女だぞ。母親に憧れるのは当たり前だ。それにな、アイちゃんと16年間一緒にいたからな、どれだけアイちゃんの母親になりたいと思ったか・・・、だが、アイちゃんにはアリエスが甦り、本当の母親が戻って来たのだ。これで妾がどう頑張っても、もうアイちゃんの母親になることは不可能になったのだ。」
またリリスがリコンの頭を優しく撫でと、リコンは嬉しそうに微笑んでいる。
「そんな時に此奴の家族を求める声が妾のところに届いたのだ。貴様達には及ばないがさすがは世界最強クラスの魔法使いだな。世界を飛び越えて声を送ってきたよ。時間はかかったけどな。」
「家族を求める心がそこまでとは・・・」
「だけどな、もう此奴の体は地獄の生態系に組み込まれ、最早人間として存在していない。だからな、こやつの細胞を元に妾の力で体を再構築したのだ。その新しい器に魂を入れ替えたのだよ。見た目は変わったが、中身はあのガメツに変わらん。ただな、情緒不安定な子供に変わってしまったけどな。」
「それなら仕方ないわね。」
アリエスとアイがリリスへと近づく。
「この子の心の安心はお父さんとお姉ちゃんなんてね。何か昨日から急にお父さんが取り合いになっているから、ちょっと妬いちゃうな。」
相変わらずのファザコン全開のアイちゃんだった。
その日の夜
「えへへ・・・、パパとママがいる。」
とてもご機嫌なリコンがベッドで横になっていた。
彼女の隣にはリリスが添い寝をしている。
そして・・・
スザクもリコンの隣で横になっていた。
いわゆる川の字で3人が同じベッドで横になっていた。
「私、幸せよ。やっと私にも家族が出来たんだ。それとね・・・」
ジッとリコンがスザクの顔を見つめる。
その目には涙が溜まっていた。
「パパ・・・、今までごめんなさい・・・、私、ずっとパパが勇者だって黙っていて、みんなを騙して・・・、たくさん世界に迷惑をかけて・・・」
ついにリコンがポロポロと涙を流し始めてしまった。
そんなリコンの頭をスザクが優しく撫でる。
「もう終わった事だ。それに今のお前は他のやつらと違ってやり直しが出来るんだからな。これからは俺達を信じろ。文字通り生まれ変わったしな。リコン・ローとしての人生を今度は胸を張って生きていけるように頑張れよ。」
「そうじゃ、妾は貴様を後悔させる為にこの体を与えた訳じゃないからな。スザクと妾の娘として恥ずかしくないよう生きるのだぞ。」
「うん、分かった。ずっとみんなと一緒・・・・、それが私のお願い・・・」
「眠ったか・・・」
「そうね・・・」
「とても嬉しそうな顔だな。ガメツの頃の顔に比べると、憑きものが落ちたようなくらいに無邪気な笑顔だよ。これが本当の姿だったんだな。」
「妾も甘くなったものだ。だけど不思議と今の妾は嫌いではない。スザクよ・・・、お願いだ・・・、貴様はずっと妾のアプローチを断ってきた。だから・・・」
2人の顔が徐々に近づく。
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