第36話 スザク一家、家に戻ると新たなドッキリが!

「大変申し訳ありませんでした。」


スカーレットが土下座をしながら深々と頭を下げ謝罪していた。

頭も顔も泥だらけで元の美貌は見る影も無い。



「分かればいいのよ。」



アリエスがパチンとウインクをする。


「ねぇねぇお父さん・・・」


アイがスザクの横に立ち、肘でスザクの脇をツンツンする。


「何だ?」


「良かったね。お父さんに纏わり付く害虫が消えてね。もうあのメスはお父さんに近づいてこないと思うよ。それでもまだ諦めないというなら・・・、ふふふ・・・」


アイの瞳がアリエスと同じくハイライトの無い瞳に変わった。


(おいおい・・・)


アイのファザコンぶりに少し背筋が寒くなったスザクであった。


それよりもだ!


彼女が泥だらけになっているのに誰も気遣っていない事で、アリエス達の怒りがどのくらいのものか、改めて彼女達の怖さを実感してしまった。






「いくら何でもか弱い女性1人相手に大人げないぞ。」


ガルシアがアリエス達の横に来た。


「主も変わりましたね。これも愛というものを理解したからですか?」


「そうよ。」


リリスがパチンとウインクをする。


「だけど、やり過ぎはいけませんよ。主なら骨すら残さず滅殺してしまいすからね。」


「これでもかなり手加減しているわよ。壊れないギリギリをちゃんと弁えられるようになったからね。」


「ふふふ・・・、そういう事にしましょう。」


ガルシアが微笑んだ。



バタン!



(((???)))


「はぁはぁ・・・、ダーリンの笑顔・・・、尊いですにゃぁぁぁ・・・」


ビャッコが鼻血を垂らしながら尊死していた。



「尊死なんて・・・、どんだけ器用なアンデッドなのよ・・・」


アリエスが「はぁ~~~~~~~~~」と、大きな溜息を吐いた。



「頭を上げよ。」


ガルシアが土下座状態のスカーレットの前に立ち声をかける。


「き!貴様は魔王!」


スカーレットが後ろに飛び退き腰を屈め戦闘態勢をとった。


「落ち着け、我は戦う気は無い。」


「だ、だけど!」


警戒を解かずギリギリと鋭くガルシアを睨む。


「その前にだ・・・、ビャッコ、頼む」


「はいにゃ!」


いつの間にか復活したビャッコがガルシアの隣に立った。



「クリーン!」



スゥゥゥ・・・



泥だらけだったスカーレットの頭や顔がみるみると綺麗になっていく。


「どうして・・・」


呆然とした表情でスカーレットがガルシアを見つめている。


「女性たる者、常に美しくしていないとな。それにだ、我と貴様とは戦う意味も無いだろう?」


「そ、そんな事は・・・、貴様は悪・・・、世界を滅ぼす為に現われた・・・、私は騙されないぞ・・・」


「好きにしろ・・・」


興味が無さそうな顔でガルシアが振り向き背を向ける。



「隙ありぃいいいいいいいいいいい!」



足下にあった槍を拾い一気に飛び出し、ガルシアの背中に槍を突き立てた。


しかし!


「そ!そんなぁあああ!」


スカーレットが叫んだ。


「槍が・・・、槍が刺さらない・・・、私の全力が通用しない?」


ガクガクと震え槍を落としてしまう。


「気が済んだか?」


クルッとガルシアが振り向く。


「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいい!」


スカーレットが恐怖で座り込んでしまった。


「筋は悪くない、貴様はまだまだ強くなるだろう。我ならいつでも相手をしてやるから精進せよ。」






キュン!






スカーレットの顔がみるみると赤くなっていく。


「私は『あなた様』の事を誤解していたようです。」


「うにゃ?」


ピクリとビャッコの耳が動いた。




「なんだろうね?聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするにゃ・・・」


ジロッと視線がスカーレットへ向く。


「こ、これは・・・、まさか?」


「ほぉ~~~、貴様も気付いたか?」


「は!はいにゃ!」


いつの間にかリリスがビャッコの隣に立ってニヤニヤと笑っている。

アンデッドとして生まれ変わったビャッコにとって、リリスはまさに神のような存在であり、ガルシア以上に敬う存在でもあった。


「あれはメスの顔ですにゃ!これはマズいです!」


「まぁまぁ、そう焦るな。今のお前ならたかが人間ごときでは相手にならん。堂々とすればよかろう。」


「そうですにゃ。泥棒猫には負けません!」


可愛くガッツポーズをするビャッコをリリスがニヤニヤとして笑顔で見ていた。


(うふふ・・・、他人の修羅場を見るのは何て楽しいのだろうね。お2人さん、精々頑張って妾を楽しませてちょうだいね。)



リリス・・・、結構なクズであった。



「あなた様は・・・、強さに優しさ、そして気高さと、私の理想とする男性の全てを持ち合わせていました。魔王だったからと私は偏見の目であなた様を私は見ていました。そんな私が恥ずかしい・・・」


ジッとガルシアを見つめた。


「ですが!」


スクッスカーレットが立ち上がる。


「私はもう我慢できません!私を!私を!」




「・・・」




プシュー!




スカーレットの顔どころか全身が真っ赤になり、頭から煙が勢いよく噴き出した。



「ねぇねぇ、お父さん・・・、あれって?」


ニヤニヤとした表情のアイがスザクの顔を見つめている。


「多分な。」


「へぇー、あのお姉ちゃん、魔王に惚れてしまったんだね。切り替えが早いっていうか・・・」


「違うわよ。」


今度はアリエスがアイの隣に移動してきた。


「スザクに対しては昔からのあこがれの対象だったのでしょうね。それを恋愛感情と思い込んでいたのよ。でもね、今のあの子は本当の恋を知ったようね。まさか魔王に惚れちゃうとは意外だったけどね。」


「そうなんだ。私もいつかはそんな人が出てくるかな?」


「大丈夫よ。アイは私に似て可愛いんだし、男は選り取り見取りのはずよ。」


「いやだなぁ~、そんな言い方は悪女みたいで嫌だな。出来ればね、私の理想の男の人に巡り会いたいな。」


キラキラした目でアイがガルシア達の方を見ている。


「へぇ~~~、じゃあ、アイの理想の男の人ってどんな人なの?」



「もちろん!」



そう言ってジッとスザクを見つめた。


「お父さんのようにね、世界一強くて、ちゃんと家事も出来る人。結婚してからも私はな~~~んにもしなくてよくてね、ずっとぐ~たらする生活を保障してくれる人が良いんだ。」







「「・・・」」






(ア)「ねぇ、あなた?」


(ス)「何だ?」


(ア)「ちょっとアイの育て方間違えたんじゃない?」


(ス)「俺もちょっとヤバいと思った。」


(ア)「確かに、私との結婚生活は家事もすべてあなたがしてくれたわ。もしかしてずっと今まで?」


(ス)「そうだな。アイが小さい頃はもちろんだったし、今も全部俺がしているよ。アイも手伝ってくれるから慣れている分、手際は良いけど、あくまでも手伝いまでのレベルだな。主婦としてのレベルはまだまだかもしれん。」


(ア)「はぁ~・・・、アイの条件に合う男ってあなた以外いないわよ。ずっとアイを養っていくつもり?」


(ス)「それも困るな・・・」



「ちょっと、何、普通の夫婦の会話をしているのよ。私だってその気になればちゃんと出来るのよ。ちゃんとね!」



そう言ってちゃんと出来る人はまずいない。






スカーレットがモジモジと人差し指を胸の前でチョンチョンしている。


「魔王様・・・、いえ・・・、ガルシア様と呼んでもいいでしょうか?嫌でなければ私も、あなた様の・・・」




ムンズ!




「あ”あ”あ”っ!」


鬼の形相のビャッコがスカーレットの頭を鷲掴みにした。


「い”た”い”!い”た”い”ですぅううううううううううううううううう!」




「この泥棒猫がぁあああああああああ!ダーリンに色目を使うんじゃないにゃぁあああああああああああああああああああ!」




軽々とスカーレットを片手で持ち上げる。


「人の恋路を邪魔する奴はぁあああ!豆腐の角に頭をぶつけて~~~~~!死ねぇえええええええええええええええええええ!」




「それ馬に蹴られてよ・・・」




冷静にアイが突っ込んでいた。




「そぉおおおおおおおおおおおおおおおおい!」




理想的なオーバースローの投球フォームでスカーレットを大空へ放り投げた。






「私は絶対にぃいいいいいいいいいいいいいいい!諦めないわよぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~」




ドップラー効果を残しながらスカーレットが星になった。




キラン!














「いいのか?」


スザクが星になったスカーレットを見つめていた。


「仕方ないだろう。あいつもいい大人なんだしな。」


皇帝がとてつもなく大きなため息をする。


「我がファイティング・スピリット帝国のモットーは自己責任だ。あいつが決めた事に親の俺が一々言わないさ。まぁ、娘が魔王の身内になるのも、政治的にも決して悪い事じゃないと思っているしな。」


「確かにな・・・」


スザクがくすっと笑う。


「この国だけじゃなくて帝国にも手を出せなくなったな。それか・・・、力の弱い国は魔王に庇護を求めて魔王と縁談を結ぼうとする輩も増えそうだよ。まぁ、お前の娘がいればそう簡単に他の国に主導権は取らせないだろうしな。」


「そこまで都合よく考えた訳じゃないけどな。たまたまタイミングが良かっただけだ。」


「ふふふ・・・、そういう事にしておくさ。」



「頼む、そうでもないと、カミさんに説明出来ないからな。最強の皇帝と言われようが、カミさんには頭が上がらん。情けないけどな・・・」


皇帝がスザクにペコペコと頭を下げている。


「それがあんたのいいところだよ。傍から見れば傍若無人の鬼の皇帝と言われているけど、家族に対しては誰よりも優しい。だからさ、俺もあんたの力になりたいと思っているし、気兼ねなく話しているんだよ。」


「有難いな。スザク、お前が俺の友人になってくれるのはとても心強いよ。これからも頼むな。」


皇帝がスザクへ手を伸ばし、スザクがガッチリと握手する。




「さて、帰るとするか?」




スザクが振り返るとアリエス達がコクンと頷いた。











◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇












「おい・・・」


スザクがジト目でリリスを睨んでいる。

ついでにアリエスもアイも同じように睨んでいた。


「「じ~~~~~~~~~~」」



「あははは・・・」


リリスの乾いた笑い声だけが辺りに響く。


「ここって私達の家だったよね?確か平屋のそんなに大きくない家だったよね?それがどうしてこんな大きな家になっているのかな?」


ユラリとアイが動きリリスの背後に立った。


「事と次第によってはいくらお姉ちゃんでも許さないわよ。」


ガシッ!


後ろからリリスの胴に腕を回しロックする。

いつでもジャーマンの発動が可能な状態だったりする。


「アイちゃん!落ち着いて!これには全く他意は無いのよ!ほら!妾はやっとスザクの妻になれたじゃない?でもね、朝にアイちゃんが話していたように家が狭いじゃないの。だからね、ちょっと事象を変革して家を大きくした訳なのよ。」



グイ!



「ひゃぁああああああああああ!」



ズン!



リリスの頭が地面にめり込む。



「アイちゃん、ひどいよ~~~~~、いきなりジャーマンを喰らわせるなんてぇぇぇ~~~、おぃおぃ~~~~~」



頭が地面に喰い込んだはずのリリスが、一瞬にして起き上がりおいおいとウソ泣きをしている。


「何をさりげなく無駄に神の力を使っているのよ。そこまでしなくてもねぇ・・・、はぁ~~~、ご近所さんにどう言い訳すればいいの?」


「大丈夫!大丈夫よ!事象改変したついでにご近所さん達の記憶も改変したからね。この家は昔からこんな風な建物だってね。それと、アリエスはずっとここにいた記憶になっているわ。もちろん、妾もこの家のお嫁さんとして住んでいるようになっているからね。」


「あんた~~~~~~~~~!」


いきなり後ろからアリエスがリリスの頭にヘッドロックをかけグリグリと締め上げる。


「私達は普通の生活をしたいんだから、これ以上余計な事しないで!」



このメンバーで普通の生活をしたい?


それは無理でしょう。


アリエスさんも自分の事はもう少し理解しましょう。



「まぁ、こうなってしまったのは仕方ないわね。取り敢えず家に入ってゆっくりしましょう。」


そう言ってアリエスが玄関のドアを開ける。



・・・・・・



・・・・・



・・・・



・・・



パタン・・・


静かにドアを閉じた。



折り折り(ポキポキ)

グリグリ(ミシミシ)


グリン!


「うきゃぁあああああああああああああああ!」


アリエスが静かに黙ってリリスを折りたたみサソリ固めを極める。


「あんた!何て事をしてくれたの!」


怒りのアリエスがグンと腰を落としリリスに更なるダメージを与えている。


「お母さん!何があったのよ!」


アイが慌てて玄関を開けて中を確認すると・・・



「お帰りなさいませ。お嬢様。」


「お食事の用意は出来ておりますが、お先にお風呂にします?」




「はい?」




玄関ホールに執事服を着たグロハーラが、メイド服を着たラファエルが深く頭を下げて出迎えていた。




「お母さん、タッチ。」




「お姉ちゃん!どういう事よ!何で変態親子がここにいるのよ!」



アイにキャメルクラッチを極められ、あえなく撃沈したリリスであった。






合掌・・・

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