第34話 父、もちろん断る②
SIDE アリエス
(私が気付いていないとでも思っているのかな?)
スザクと別れ一気に門のところへ飛び出す。
(姿は見えないけど気配は感じるし、これは多分だけどインビジブルの魔法ね。となると・・・、あそこにいる敵は魔法使いのようね。それにしても殺気がバレバレ過ぎるわ。下手に目に頼って行くよりも気配察知で向かった方が確実ね。相手の殺気と魔力、それだけでも十分よ。)
スッとアリエスが目を閉じる。
(見える!ハッキリとね!)
ニヤリと口角が上がり走る速度が更に上がる。
「何で不可視状態の私のいる位置が正確に分かるのよぉおおおおおおおお!」
驚いたような叫び声がハッキリとアリエスの耳に入ってくる。
「お馬鹿ね、これじゃ自分を見つけて下さいって言っているようね。それじゃ、正体を拝ませてもらうわよ。」
ダダダッ!と走るアリエスの速度がグンッ!と上がる。
「にゃぁあああああ!来るな!来るなぁあああああ!」
ブン!
空中に緑色の魔法陣が大量に浮かぶ。
「あら、意外とやるわね。だけどね、今のレベルアップした私の前では無駄よ。」
ズドドドドドォオオオオオオオオオオオオオオオオ!
「サイクロン・ガンナー!目に見えない風の
空中に浮いた大量の魔法陣から不可視の空気の弾丸がマシンガンのように発射される。
空気で出来た大量の弾丸は目には全く見えない。
そんな壁のような大量の弾幕がアリエスを襲う。
「無駄!無駄!無駄よぉおおおおおおおおお!」
アリエスが叫びながら目を閉じたまま駆けていく。
「そんなのぉおおおおおおおおお!ありぃいいいいいいい?」
謎の女性の絶叫が響く。
目を閉じたまま走るアリエスがまるで蝶のように舞いながら走っていく。
その姿はまるで舞を踊っているかのように優雅な動きだった。
目に見えない
ドガッ!
どうしても躱せないものに関しては、拳を叩き付け物理的に魔法を弾いていった。
「何で魔法を素手でぶん殴れるのよ!あんた!根本的におかしいわよ!」
それはそうだろう。
魔法とは基本的に躱すか、魔法で相殺するのが常識だ。
または、防御(シールド)魔法をかけ防御する。
例外として反射(リフレクション)魔法も存在するが、全身を覆うタイプであり、拳に纏い弾き返す事はあり得ない方法で、謎の声の主も困惑しまくっていた。
「どんなイカサマを使っているのよ!」
その言葉にアリエスがニヤリと笑う。
「そんなの簡単、気合と根性!それだけよ。それだけで大概は何でも出来るの。」
バリバリの体育会系根性のアリエスだった。
「そんなのぉおおおおおおおおおおおお!信じられないぃいいいいいいいいいいいいいいい!にゃぁああああああああああ!」
だけど現実です。
そこは信じてもらいたいものです。(by作者)
ご愁傷様・・・
ザッ!
アリエスがいきなり止まると、バッと右手を前に突き出した。
ガシッ!
「つ~か~ま~え~た~~~~~!」
アリエスの口角が三日月のように吊り上がった。
ギリギリ・・・
「痛い!痛い!痛いにゃぁああああああああああ!」
何もない空間をアリエスの右手がギュッと何かを掴んでいる。
その空間から悲鳴が上がった。
「いい加減に姿を現さないと、そろそろ頭が破裂するわよ。まぁ、私にとってはそんな事どうでもいい事だけどね。ふふふ・・・、破裂までそんなに時間がないわよ。」
「ま!参ったにゃぁあああ!頼むから放して!」
スゥゥゥ・・・
次の瞬間、アリエスの目の前に頭をアリエスにアイアンクローをガッチリと極められていた女性の姿が現れる。
余程痛いのか、一生懸命頭部の拘束を何とか外そうとアリエスの手を掴んでいるが、ビクともしていない。
アリエスの言う通り頭部が破裂するなんて事はあながち外れていないんでは?、と思われるほどに指が頭に食い込んでいた。
その女性は・・・
真っ白なショートカットの癖っ毛を生やした頭部に、頭髪と同じ色をしたローブを着込んでいた。
真っ白な頭髪が生えた頭部には動物の耳が生えている。
いわゆる獣人族という種族だったりする。
獣人という種族はメジャー過ぎるくらいメジャーなので説明は割愛するけど、どんな種族かは分かりますよね?
この世界では人族は人間、人類と呼ぶが、目の前の獣人もそうだけど、エルフやどワーフ等の亜人と呼ばれてる人間以外の種族は総じて魔族と呼ばれていた。
「まさか?あなたは?」
アリエスが驚きの表情で目の前の女性を見つめていた。
「確か?魔王召喚の際にその命を落としたはずよ。それなのに生きているって?」
しかし・・・
アリエスのアイアンクローの威力ですでに気を失っていて、ピクンピクンと痙攣をしていた。
「う~~~、死ぬかと思った。」
獣人の女性は痛そうに頭を擦りながら恨めしそうな顔でアリエスを見ている。
真っ白な頭髪に体に黒い縞模様があり、尻尾も白色の毛に体と同じく黒の縞模様があった。
見た目はアリエスと同じくらいの美人な20代前半の虎獣人のようだ。
「てか、私ってもう死んでいたんだ。」
あっけらかんとその獣人の女性は笑いながら舌をペロッと出した。
「ターン・アンデット!」
アリエスが呪文を唱えると、白い光が獣人女性を包んだ。
「みぎゃぁああああああああああああああああああああああああ!」
ブスブスと全身から白い煙を上げながら地面を転がっている。
「死ぬ!本当に死んじゃうよぉおおおおおおおおお!」
「何言ってんのよ・・・、ビャッコ・・・、元々死んでいるなら無に帰るだけよ。安らかに成仏してね。」
「あぁ~~~、死んだかと思ったわ。」
アリエスがビャッコと呼んだ虎獣人の女性が正座をしてアリエスの前で座っている。
「アリエス、こいつは?」
スザクが可哀そうな人を見るような視線をビャッコに向けている。
「そっか・・・、スザクは知らないんだよね。こいつは魔族最強の魔法使い「ビャッコ」と呼ぶヤツよ。こいつのおかげで人魔戦争が取り返しのつかない状態までになったの。」
「あぁ・・・、例の魔王召喚の事か?」
「そう、こいつが魔王を召喚してくれたせいで人間側にどれだけの被害が出たか・・・、最もだけど、本人は魔王召喚が命と引き換えになるものだとは思ってもいなかったみたいだったけどね。」
「そうなのよ・・・、死ぬって分かっていればこんな無謀な事はしなかったわ。」
シュンとした態度で一応は落ち込んだ様子のビャッコだった。
「だけど、何で生き返っているんだ?アリエスのように蘇生の魔法でもかけてもらったのか?」
「それが違うのよ。こうしていれば普通の魔族なんだけど、実はアンデッドとして復活したみたいなのよ。それも恐ろしく高位のアンデッドとしてね。」
「それは我が説明しよう。」
魔王ガルシアがズイッと前に出てくる。
「この娘は我を召喚する為にその命を対価として召喚術を行った。そうして、我は19年前にこの世界に召喚された訳だ。人間と魔族との長い戦争を終わらせる為にな。だからといって、我の為にその命を投げ出すのも不憫と思ってな・・・」
魔王がちらっとリリスへ視線を移した。
「わが主は死と・・・」
ブワッ!
「ぐ・・・、これは・・・、主・・・」
「これ以上は言わない事・・・、私がこの世界に居続ける為にもね・・・」
圧倒的な殺気がリリスから溢れ出した。
その殺気に魔王が黙ってしまう。
ついでにビャッコは気を失っていた。
「さすがに蘇生は無理だったから、アンデッドとして新たな生を与えたのだよ。アンデッドだから生きているとは言い難いが、それでもこいつは最上位のアンデッド、エルダー・リッチとして生まれ変わったのだ。」
「そうなの・・・」
いつの間にか目を覚ましてしたビャッコがポッと頬を赤らめる。
「死の淵に魔王様のご尊顔を拝見された時、こんなイケオジだったなんて本当に後悔したわ。そんな私を生まれ変わらせてくれたのよ。そしてね、このエルダー・リッチの体はね、生殖機能が無い以外は生きていた時の体と全く変わらないの。しかもよ!基本的に不老不死!永遠に魔王様を愛することが出来るのよ!」
グッと拳を高々と掲げる。
「モンスターに生まれ変わっても私には一遍の悔いもないわ!これからの人生、いえ!モンスター生は魔王様にお仕えする事!そして次の段階はグフフフ・・・、魔王様の正妻となる事・・・、うふふ・・・、えへへへ・・・」
1人妄想の世界にへとトリップしているビャッコだった。
確かに魔王はまずはお目にかかれないくらいにイケメンオヤジだった。
多分だけど、妙齢のおばちゃん軍団相手には絶対的な崇拝の対象になるだろう。
イケメンや美女はお得である。
「生まれ変わらせたのは間違いだったかも?」
トリップ状態のビャッコを見て、魔王がこめかみに手を当て少し項垂れている。
そんな魔王の肩をポンとスザクが叩いた。
「俺の気持ちも分かるだろう?アレに常にストーカーで追い回されている気持ちは?」
そう言ってリリスをチラッと見た。
そんなリリスは何でスザクに見られているのか分からないようで、チュッと投げキッスを飛ばす。
「スザクよ・・・、我にもその気持ちは良くわかるぞ。」
お互いにガッチリと固い握手を交わした。
男同士の熱い友情が芽生えた瞬間でもある。
「あぁああああああああああ!このクソ勇者めぇえええええええええ!私のダーリンを取らないでよ!ダメ!男同士でそんな不埒な関係になるのはぁああああああ!それによ!さっき、ダーリンを寄ってたかってボコボコにしていたわね!やっぱり貴様達は叩き潰すにゃぁああああああああああ!」
いきなりビャッコが立ち上がり、全身から強大な魔力が噴きあがる。
確かにちょっと、いや、かなり残念な性格の彼女だけど、腐っても最上位のアンデッドモンスター(ほっとけ!byビャッコ)、すぐに戦闘態勢に入り魔法をぶちかまそうとしていた。
「こらこら、落ち着きなさいよ。」
正座からいきなり起き上がろうとしたビャッコの背中を、いつの間にか背後に回ったアリスが軽く蹴飛ばす。
これが聖女?とは思えないくらいに、ビャッコに対して卑怯な不意打ちを喰らわしていた。
「ぎゃ!」
いきなりの不意打ちで背後から蹴りを喰らってしまったので、無様な姿勢で地面にうつ伏せに倒れてしまう。
「せっかくなのによ、まとまりかけた話に水を差さないの。」
うつ伏せに倒したビャッコの背中にアリエスが自分の両ヒザを当てた。
片手で彼女のアゴを、もう片手でⅩ字型に折り畳んだ相手の両足首をフックし、ニヤリとアリエスが黒い笑みを浮かべる。
そのまま自分が後方へ倒れる反動を利用して持ち上げ、ビャッコの背骨をギリギリと痛めつけていた。
この技が完璧に決まると・・・
「ひぎゃぁああああああああああああああああ!」
背骨折りにチンロックとレッグデスロックの三点複合技が完璧に極まっていた。
『ボーアンドアロー・バックブリーカー』
いわゆる『弓矢固め』と呼ばれる必殺技である。
ビャッコはあまりの痛さに技を外そうともがくが、もがけばもがくほどに背骨へと膝が、顎にはアリエスの手が喰い込んでくる。
いくらアンデッドに生まれ変わろうが痛いものは痛い!
それ以上に!
美女2人のとってもエロい姿に、魂が半分抜けかかっていたドーリーヨコ達がいつの間にか復活し、食い入るように見ていた。
全身を光の輪に拘束されているので、芋虫のように地面に這いつくばっている姿で2人を凝視しているのだが、そのスケベなオヤジ顔はとっても気持ち悪い光景に見える。
「本当にどうしようもないエロオヤジにエロガキね・・・」
「はぁ~」と深いため息を吐いたアイがポキポキ指を鳴らす。
ズム!
「ストンピング!ストンピング!」
次々とアイが彼らの後頭部を踏みつけ、顔面を地面へと埋め込む。
ある意味、彼らにとってはご褒美かもしれない。
「ふぅ、静かになったわね。お母さん、これで遠慮なく叩き潰せるわよ。」
よく出来た娘であった。
「みぎゃぁあああああああああああああ!」
「くぎゃぁああああああああああ!」
「にゃぁああああああああああ!」
虎獣人なのに謎の猫の叫び声を出しながら、ビャッコが激しく悶えていた。
「みにゃぁぁぁぁぁ・・・」
ビャッコの声が段々と小さくなり口から泡を吹き気絶してしまった。
無造作にアリエスがビャッコを地面へと放り投げてしまう。
「成敗!」
アリエスがスクッと立ち上がり右拳を高々と掲げた。
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