第33話 父、もちろん断る①
『魔王スザク』
(何てこったぁあああああああああああああ!)
スザクが思いっ切り頭を抱えてしまった。
「ちょっと!待ってよ!」
アリエスが元魔王(自称)ガルシアへと飛び出す。
ガシッ!
顔面を狙ったパンチをガルシアが受け止める。
「腰の入った中々のパンチは変わらんな。さすが我と引き分けただけある。」
ガルシアの赤い瞳が輝きニヤリと笑った。
「だがなぁああああああああ!我は1度スザクと戦い死んだ!そのおけかげで我は更なる強さを手に入れたのだよ!死の淵に立てば立つほどにぃいいいいいい!我は強くなるのだ!」
バシィイイイイイイ!
空気が切り裂かれるような音が響く。
いつの間にかアリエスとガルシアがかなり離れたところで対峙している。
「中々やるわね。スザクは魔王にはさせないわ。私があんたを倒して、その言葉を取り消しさせてやるわ。」
アリエスがニヤリと笑ったが、頬に浅く傷が入り血がタラリと流れた。
「ふふふ・・・、あの時は互角だっただろうが、今は我の方が上だ。勇者スザクを除けば貴様が人類最強なのは確かだろうな。だがぁあああああ!我は既に貴様を越えたのだ!」
「そうなの?」
ニヤリとアリエスが不敵に笑う。
「強くなったのはあなただけじゃない!私も強くなったのよ!」
「何を言っている?聖女とは人類の武の到達点。スザクと違いこの世界の法則で生きている貴様では更なる進化は無理なはず!ハッタリを言うな!」
「ふふふ・・・、確かに歴代の聖女では不可能だったかもね。だけどぉおおおおおおおおおお!」
アリエスがグッと腰を屈めた。
「私だけがなる事が出来た境地!私の強さをこの目に焼き付けなさい!はぁあああああああああああああ!”」
一気にガルシアとの距離を詰める。
「オラァアアア!」
バシッ!
またもやガルシアがアリエスの拳を受け止める。
「ふ・・・、無駄だと・・・」
「これからよ!オラオラオラオラオラオラ!」
ズバババァアアアアアア!
「ば!バカな!この速さは人間を超えている!こ!これは!捌ききれな・・・」
グシャ!
「がっ・・・」
アリエスの拳がガルシアの顎を捕らえた。
「マズい・・・、体がふらつく・・・」
「隙ありよ!」
アリエスがジャンプし体を独楽のように回転する。
「喰らえぇええええええええええ!」
右足をガルシアの後頭部、いや、延髄部分に横からではなく、斜め上から叩きつけるように延髄蹴りを放つ。
「がぁあああああああああああああああ!」
ガルシアが苦悶の表情を浮かべ、地面へと激しく叩きつけられた。
「バカな・・・、我が人間に倒される?」
ガルシアが呆然とした表情で地面に倒れ込んでいる。
普通の人間なら確実に即死間違いなしの威力の延髄蹴りを喰らったのだ。
それでも地面に倒れ伏してるくらいで済むのは、さすが魔王という存在だったからであろう。
「どう?私の力は?」
「信じられん・・・、どうしてここまで強く・・・」
「それはね、私は母親になったからよ!」
「はぁ?」
超ドヤ顔のアリエスとは対照的に『こいつ何を言っている?』といった表情のガルシアだった。
「どうして?そんな顔ね。だったら教えてあげる。歴代聖女はね、中には結婚して子供が生れた人もいたわ。だけど、どの聖女も子供が生れた時には力も記憶も生命力をも生れた子供に全てを託して死んでしまうの。だけど、私はアイのおかげで生き返る事が出来たのよ。歴史上初の聖女でありながら母親でもあるの。」
「だから、その母親とはどうしてだ?我には理解出来ん。」
「あなたは知らないの?『女は弱し、されど母は強し!』って言葉をね。私には大切な娘が出来たわ。アイがいれば私はいくらでも強くなれるの。魔王ガルシア!今は元かもしれないけど、かつては世界を恐怖に陥れた存在。だけどね、アイを守る為なら不思議と力が湧いてくるの。あぁ・・・、コレが母親の気持ちなんだってね。最後に勝つのは愛!スザクへの愛、アイへの愛、あなたは愛を知らないみたいね。」
「そ、そんな精神論だけで強くなれば苦労はせんわ!」
ヨロヨロと口から血を吐きながらガルシアが立ち上がる。
「だが、その強さは紛れもなく我を圧倒し始めているのに間違いはない。それはその愛というものかもしれん。貴様もその
「そう、だったら遠慮しないわよ!」
ペロッとアリエスが唇を舐め一気に飛び出した。
「どりゃぁあああああああああああ!」
一瞬でガルシアの前まで移動し、またもやジャンプする。
ドガァアアアアアアア!
「ぐはぁあああああああ!」
顔面にジャンピング・ドロップキックが炸裂する。
勢いよくガルシアが地面を転がり、うつ伏せの姿勢で止った。
「まだまだよぉおおおおおおおおお!」
アイリスが一気に飛び上がりガルシアの真上から一気に急降下をする。
「おらぁあああああああああ!」
ドガッ!
「うがぁあああああああ!」
アリエスは落下する際に両足を曲げ、両膝を背中に叩き込んだ。
この技はフライング・ダブル・ニー・ドロップと言われるけど、アリエスが放った技は最早人間としての破壊力を越えていた。
ゆらりとアリエスが立ち、彼女の足下には気を失っているガルシアが横たわっていた。
「ふぅ、ふぅ・・・」
アリエスの目が吊り上がり血走っている。
「お母さん・・・」
アリエスの鬼神のような強さにアイが冷や汗をダラダラと流しながら見ていた。
(何なのよ、このリアルガチバトルは?こんなのいつものお母さんじゃない!前回からちょっと真面目路線に走っているけど、今のお母さんの姿はいつもと違う!多分だけど、暴走しているの?そんなお母さんが暴れているとね、私の出番が減るじゃない!これは大変マズいわ・・・)
「ふふふ・・・、流石は妾のライバル。今の貴様はガルシアごときに遅れをとるとは思わなかったが、ここまで一気にレベルが上がっていたとはな・・・」
リリスが嬉しそうに笑っている。
スザクに迫る時以外は仮面を被ったような貼り付いた笑い顔だったが、今のリリスは心底嬉しそうだ。
(ふふふ・・・、アイちゃんが貴様の姿を見てドン引きしているぞ。この調子で鬼神モードを続けるんだな。そうすればそうするほど、アイちゃんは妾に懐いてくるのだよ。ガルシア、捨て石役ご苦労だった。骨は拾ってやるからな。)
アリエスの暴走の裏に。アイとリリスのお互いの思惑が交錯していた。
「おい!落ち着け!」
ビシッ!
いつの間にかスザクがアリエスの横に移動し、頭にチョップをかました。
「い!痛ったぁあああああああい!」
「目が覚めたか?」
「あ、あなた・・・」
「ここまでお前が暴走するのも珍しいな。まぁ、相手が相手だったし、一切手を抜けない勝負だってのは分かる。でもな、コイツを倒してしまっても何もならないんだぞ。」
「どうして?」
「それは決まっている。というか、何で気が付かないか不思議だぞ。」
スザクがニヤリと笑った。
「俺も少し悪ふざけで魔王の戯れ言に乗ってしまったけど、俺は魔王なんかになる気は元々無いからな。そんな肩書きは返すだけだよ。それだけさ。」
「そうよね・・・」
アリエスがポン!と手を叩く。
「魔王を倒したからって、倒した人が魔王になる訳が無いよね。よく考えたらそうだったわ。まぁ、物語によっては魔王が善で国が悪で、世界の真実に気付いた勇者が闇堕ちして復讐に走るってのもあったけど、今のはあんまり関係無いか。」
「そいう事だ。まぁ、このエセ勇者パーティーにとっては、俺は魔王以上かもしれないけどな。」
スザクがチラッとニヤーク達を見ると、それはそれは・・・
この世の終りを迎えたように表情が死んでいた。
「だからって魔王をそのままにしてはおけないわね。」
アリエスの足下で気を失っていたガルシアが目を覚ます。
「我は負けたのだな・・・」
ガルシアがガックリと肩を落としてしまう。
「そうよ。あなたはこの世界のたかが人間に負けたの。」
「だったら、貴様も『魔王』を名乗るがよい!『魔王』の名は我の世界での最強の称号、2度も負けた我には名乗る事など出来ない。」
「だったらさぁ・・・」
「貴様等ぁああああああああああああああ!」
アリエスが言いかけた時に上空から女性の声が聞こえた。
「これは!」
巨大な火の玉がスザク達へと落ちてくる。
このままではスザク達どころか辺り一帯が爆発に巻き込まれ焦土と化してしまうだろう。
それだけ強力で巨大な炎だった。
周囲の人々達は恐怖で恐慌状態に陥っている。
ニヤーク達はもう諦めているというか・・・
口から魂を半分出した状態で気絶していた。
「でっかい花火だな。」
そんな中でもスザクが少し微笑みながらその炎の玉を見ていた。
「あなた・・・、花火は打ち上げるものよ。こうして落ちてこないからね。」
アリエスも冷静だったりする。
「それはそうだな。じゃぁ、サクッと片付けてくるぞ。あんなのが落ちたらシャレにならんからな。」
「分かったわ、そっちは任せるわね。それじゃ、私は・・・」
バサッとスザクの背中から大きな白い翼が生える。
上を向くと一気に飛び上がり、落ちてくる炎の玉の前に立ちはだかった。
スッと右の掌を炎の玉に向ける。
メキャ!
いきなり空間が割れた。
割れた空間の中は光すら全く見えない漆黒の世界が広がっている。
その空間の中に炎の玉が吸い込まれてしまった。
ピタ!
音も立てずに空間が閉ざされ、何も無かったかのように青い空がどこまでも広がっていた。
「ディメンション・ゲート、どんな強力で強大な魔法だろうが、次元の隙間に落ちれば等しく消え去るのみ。」
「し、信じられん・・・」
ガルシアがワナワナと震えていたが、ふと笑みを浮かべた。
「我は最初から貴様には敵わなかったのだな。まさか、神のみが使える神域魔法を人間が使うのをこの目で見るとは・・・」
そしてリリスへ視線を移す。
「リリス様が貴様に心酔するのも良く分かる。魔王・・・、貴様にとってはちっぽけなものだった。そんな男に我の後釜を継いでもらおうとは烏滸がましいものだったとな・・・」
「俺はそんなしがらみは嫌いなんだよ。力があっても人をまとめる事は別物だ。俺は身の丈に合った生活がしたいだけ。」
そう言ってアイを見つめた。
「俺にとってはアイが元気にすこやかに育ってくれる事が全てだよ。あいつもいつかは誰かを好きになって新しい家庭を築くだろうな。その時、みんなが楽しく笑い合えるような世界になってほしい。それだけだ・・・」
スッとスザクがガルシアに手を伸ばす。
「別にお前はそのまま魔王でもいいんじゃないか?確かに18年前まではお前は世界を恐怖に陥れた魔王として君臨していた。だけどな、俺は思うんだよ。恐怖の魔王がいるなら『優しい魔王』がいても良いじゃないか?とな。」
その言葉にガルシアが目を見開く。
「貴様・・・、本気でそれを思っているのか?」
「もちろんだ。」
スザクが今度はリリスに視線を移す。
「そうでないとあいつと一緒にいないよ。あいつはあの時から変わった。今ではあのアリエスと友達だぞ。だからお前も変われると思う。少なくとも・・・」
今度は放心状態のドーリーヨコ達を見る。
「お前なら、この国をあいつらよりかは遙かにまともな国にしてくれると思う。この国をお前に任せたい。だからどうだ?」
「ぐはははははぁああああああああああああああ!甘い!甘いぞ!スザクよ!我を倒した男がここまで甘いとはな!だが!」
スザクの差し出した手をギュッと握った。
「今までにこんなに面白く心が躍る事はなかった!良かろう!我が成し遂げてやろう!優しい魔王としてこの世界に君臨する事をな!」
「頼んだぞ。」
「任せろ。」
これで大団円かと思いきや・・・
「みぎゃぁああああああああああああああああああああああああ!」
どこからか悲鳴が上がった。
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毎日更新、頑張っていましたが・・・
本業の仕事が忙しく執筆の方に中々時間が取れなくなっています。
毎日は厳しいですが、これからも頑張って更新していきますので、生温かい目で見守って下さい。m(_ _)m
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