第32話 父、魔王と呼ばれる②

「無くなったね・・・」


「そうね・・・、綺麗さっぱりね・・・」



アイとアリエスが目の前の惨状に呆然としている。



「お父さん、やり過ぎ。」


「そうね、ここまでやっちゃうと後始末どうするのかしらね。」



「お・・・、俺の・・・、俺のぉぉぉ・・・」



スザク達の後ろで半ば放心状態になっているドーリーヨコが、涙を流しながらかつて王城があった場所を見つめていた。


「もう終りだ・・・、俺の全財産が・・・」



「妾の精神攻撃でも耐えたのにのぉ・・・、これしきの事で狼狽えるとは人間が小さいな。」


リリスがニヤッと笑いながらドーリーヨコを見下していた。



しかし、


そのリリスがフラッとよろける。


そんな彼女をスザクが駆け寄り抱きとめた。


「大丈夫か?」


「あぁ・・・、大丈夫だ。ちょっと力を使い過ぎただけだからな。少し休めば回復する。だから、もうしばらく・・・」


ギュッとリリスがスザクに抱きつき幸せそうにしている。



「お母さん、今回は大人しいね。よく我慢しているわね。」


アイが意外そうな顔でアリエスを見ている。

そんなアリエスは「仕方ないわよ。」と言って呟き、後ろを振り返る。



そこには・・・



数百人もの人々が呆然とした表情でかつての王城があった場所を見つめている。


「城が消滅する一瞬で私達だけじゃなくて、城にいる人達全員を転移させていたのよ。スザクは簡単に使っているけど、この世界じゃ転移魔法は遙か昔に消滅してしまった魔法なのよね。リリスはそれをあれだけの人達に使ったのよ。彼らにとっては神の御技としか思っていないでしょうし、それだけの魔法なら消耗も激しいのは分かるわ。」


「お母さんって単にヤキモチだけの人じゃなかったんだね。」



ゴン!



「痛った~~~~~い!」


アイの頭にアリエスの拳骨が落ちた。


「あなた、私の事をどう思っているの?まさか、『脳筋暴力母』と思っているんじゃないの?」


「イエイエ、ソンナコトナイデス。」


慌てて手を振って否定したけど、心の中では『その通り!」と大声で叫びたい気持ちであった。

母の理不尽さは、たった2日の間だったけど、骨身に染みる程に理解した。



「しかもよ、人だけじゃなくてコレも一緒にやっちゃたしね。」



アリエスが呆れ顔で人々の横にある山のように置かれているモノに視線を移す。


そこにあったのは、城にあった金貨などの硬貨や宝石などの全財産まで転移させていた。


「はぁ~」


アリエスが大きな溜息を吐いた。


「ここまで転移出来るだけのアレも凄まじいと思うけど、それ以上に悔しいのはね・・・」


ギリッと悔しそうに奥歯を噛みしめる。


「この転移はスザクとリリスがアイコンタクトだけでやり取りしたって事よ。これだけの大規模な魔法にも関わらず、一瞬でお互いに心が繋がった事がね。こんなのでヤキモチを焼く私自身がみっともないと思ったの。2人は人助けをしているのによ・・・、聖女失格ね・・・」


ギュッとアイがアリエスに抱きつく。


「お母さん、そんな事を言わないでよ。お母さんは確かに聖女だけど心は普通の人なんだから。お父さんが大好きな気持ちは良く分かるし、お父さんもお母さんの事が一番好きなのは間違いないからね。」


「アイ・・・」


「だってよ、お父さんはずっとお姉ちゃんに言い寄られていたんだよ。それでも絶対にお姉ちゃんを受け入れなかったんだよ。お母さんがいたから、そしてお母さんの子供である私がいたから。お母さんを絶対に忘れたくないから、お父さんは誰とも一緒にならなかったの。16年ずっと・・・」


「そうね・・、私は愛されているのね。」


「そうよ、お父さんがお姉ちゃんを受け入れたのもお母さんがお姉ちゃんを受け入れたからよ。」


「何を言っているの?そんな風になるように仕組んだのはあなたでしょう?」


「えへへ・・・、ばれたか。」


アイがペロッと舌を出す。


そんなアイの頭をアリエスが優しく撫でた。


「アイ、ありがとうね。私には勿体ないくらいに最高な娘に育ったわね。そしてリリス・・・、私の最高のライバルであり、親友・・・」



スザクに抱かれているリリスを見つめる。




「でもね・・・、最後に勝つのは私よ。いくらあなたが『神』だとしてもね・・・」






ふとアイは思った。


(こんなシリアス展開って・・・、作者の人、変なものでも食べた?)




余計なお世話です。









「貴様等あぁあああああああああああああああああ!それに近寄るなぁああああああああああああ!」


あれだけ絶望に打ちひしがれていたドーリーヨコが怒鳴り散らす。


「あらら・・・、城の国庫から移転させた財宝を目にして復活しちゃったわね。ホント、どんだけ強欲なのよ。」


リリスが溜息交じりにスザクから離れドーリーヨコに近づく。


「ここまでくれば妾も本気で潰したくなったわ。文字通りプチッとね。」



ズン!



「がはっ!」


いきなりドーリーヨコが地面にめり込む。


「か、体が重い・・・、どうなっているんだ?腕が、足が・・・、頭が地面に沈む・・・」


「どう?重力10倍の味は?このままゴキブリのように這いつくばっていなさい。そして、貴様の拠り所もね・・・、うふふ・・・」


妖艶な笑みを浮かべ、リリスが人々へと振り向いた。


「国王からの言葉よ。ここにある財宝は全てあなた達に分け与えるってね。色々と頑張ってくれたから退職金として持って行っていいわ。」


人々は一瞬迷う仕草をしたが、お互いに眼を会わせとっても嬉しそうに笑う。

そうなれば早い。

あっという間にアリが群がるように財宝へと人々が集まった。

財宝の山がみるみる小さくなっていく。


「ま!待・・・」



メキャ!



「がぁぁぁ・・・」


「どうかな?20倍の味は?いくら強欲な貴様でもさすがに声も出せないようね。今まで貯めた物、全てが盗られてしまう気持ちどう?」


「うがぁああああああああああ!」


ドーリーヨコは唸るだけしか出来ない。


「うふふ・・・、いいわぁああああああああ!貴様から流れ出てくる怒りと絶望が混じり合った何とも甘美な感情。この世界に来て初めて最高な感情に会えたわ。いただきます。」



「あががががぁぁぁぁぁぁ・・・」



徐々にドーリーヨコの表情が絶望へと変わっていく。


「俺の・・・、俺の・・・、俺のぉぉぉ・・・」


相当にショックだったのか、リリスに感情というエネルギーを奪われてしまったのか、彼の眼には生気が全く無くなってしまい、抜け殻の様に地面に這いつくばっているだけだった。


「これは俺の・・・、これは・・・」


それでも這いずりながら動き始めた。



「本当にしぶといの。ゴキブリよりも凄まじいよ。。」



「俺は英雄・・・、勇者なんだよ・・・」


まだしぶとく自分が英雄であると訴えている。




ス・・・




ドーリーヨコに巨大な影が差す。

彼の上空に何かがいた。


ある程度回復したニヤーク達が上にいる存在を見てガタガタと震える。



「「「ドラゴン・・・」」」



「何でこんなのがここにいるのよ!」


アリエスが拳を構え臨戦態勢をとった。


彼らの上空には10メートルは越えるであろう、巨大なドラゴンが2体も浮いている。

そのドラゴンというのが・・・


ブラックドラゴンとその対照的な存在であるホワイトドラゴンだった。


「「「お、終りだぁぁぁ・・・」」」


この世の終りのような絶望の表情をニヤーク達が浮かべ、その股間には失禁していまったのだろう、汚い濡れた染みが広がっていった。




ドラゴン


ファンタジー定番の最強種のモンスター!

あまりにも有名なので説明は省きます。

何々、面倒臭いからだって?(ドキィイイイイイイ!)

まぁ、その話は置いといて・・・

定番の設定に通りにこの世界でも最強であることには変わらない。

ドラゴンに勝てるのは魔王だけくらいでは?とも言われていた。




1体でも国が滅ぶとも言われているのに、そんなドラゴンが2体もいるではないか。

ただでさえ逃げ得上等!のスタンスであるニヤーク達だ。

逃げようがない状態でドラゴンがいるのだから、その恐慌ぶりは押して図るだろう。

しっかりとパニックになっていました。(チャンチャン)


さすがのアリエスも腰を屈め身構えた。


しかし、スザクは和やかにドラゴン達に手を振った。


「クロにシロ、元気だったか?」


「「「はい?」」」


スザクとリリス以外全員の目が点になる。


「あなた!アレ!知っているの?」


アリエスが慌ててスザクに駆け寄る。


「もちろんだ。知っているというより、俺は飼い主みたいなものだ。」


「はいぃいいいいいいいいいいい!」


その言葉にアリエスが素っ頓狂な声を上げてしまう。


「あなた!それってマジ!まぁ、確かに魔王をも相手にしないくらいの存在のあなただったわ。驚く私がバカだったわね。はぁ~~~~~」


何かとても疲れた感じのアリエスだった。



そんなやり取りをしている間にドラゴンがグングンと降下し地面へと降りたった。



「よぉ!久しぶりだな!」


黒いドラゴンの上から野太い声が聞こえる。

ドラゴンが腰を落とし頭を下げると男の姿が見えた。


その男は・・・


まるで変身後の教皇のような筋肉マッチョの大男だった。

その男が軽くジャンプし地面へ降り立つ。


見た目から相当な体重に間違いない男だったが、身のこなしは正反対でまるで猫のようにしなやかで音も立てずに降りた。

この仕草だけでも相当に腕が立つ猛者だと分かる。


「久しぶりだな。」


スザクがニコッと微笑むと男が手を伸ばし握手する。


そしてドラゴン達へと視線を移した。


「クロにシロ、ちゃんと言う事を聞いているか?俺がいないからって迷惑をかけていないだろうな。もしそうだったら分かっているだろうな・・・」


スザクの視線が鋭くなると、ドラゴン達が直立不動の姿勢をする。

そして、その顔からダラダラと汗が流れていた。



(えぇええええ!ドラゴンって汗かくの?皮膚は鱗に覆われているはずなのに汗が出るって・・・、物理法則を無視するほどにお父さんが怖いの?お父さん、何をやったのよ!)



心の中でドラゴンに同情しているアイだった。



「がはははぁあああああ!そう虐めるな!」


男が豪快に笑う。


「いえいえ、ドラゴンに騎乗したいと言ったのはあなたですよ。俺はその依頼をこなしましたけど、その後も大丈夫なのか?アフターも完璧にしておきませんとね。」


「お前にかかれば世界最強のドラゴンでも犬と同じか・・・、やっぱり勇者はお前だったのだな。」


ニカッと男が笑う。


「それにしても・・・」


目の前の惨状に男が少し驚きの顔をしている。


「いくらこのアホ国王がしでかした嘘で大事になったとしてもやり過ぎじゃないか?城が無くなってはどうやって統治をするんだ?いくら何でも建前くらいは必要だぞ。城が無ければあっという間に回りから食い散らかされるい可能性が高いし、俺もそこまで面倒は見きれんからな。」



「その点は考えておる!」



ズイッとリリスが前に出てくる。


「最初から、あんな趣味の悪い城なんざきれいに無くなれば良かったと思っていたのよ。妾がスザクに相応しい城を与えてあげようではないか。」


「おいリリス!」


スザクの顔がとても焦っている。

リリスの事だ、絶対に禄な事しかしないだろうと確信していた。

リリスが出しゃばるのを阻止しようとしたが・・・


リリスが右手を掲げると全身が白く輝く。


「遅かった・・・」




ズズズ・・・




地面が激しく揺れ始めた。


みるみるとクレーターとなった地面が盛り上がり、一面が緑に覆われた草原になった。

次は地面の一部が隆起を初め、徐々に城の輪郭を形作っていく。


「俺は夢でも見ているのかな?」


男がこめかみに手を当てピクピクと震えている。

目の間に起きている事が現実だと理解する事を拒否しているのだろう。

何も無い地面から城を生やすなんて、いくら何でも現実離れし過ぎる光景だった。


誰もが声を出せずに城が出来上がっていく光景を見ていた。


城が出来ると次は周りの地面が沈み始め水が湧き出し、堀がグルッと周りを囲むように伸びていく。

その堀の内側にはニョキニョキと城壁が生え始める。


「おい・・・、本当にどうなっているんだ?アレはあの女の仕業か?」


マッチョ男が額に汗を浮かべながら疲れた顔でスザクへ話しかけてきた。


「あぁ・・・、自称『俺の追っかけから愛人へと昇格し、最終的に押しかけ女房に進化した女』を名乗るかなり、いや、目茶苦茶ヤバいヤツだ。」


男がスザクの肩をポンポンと叩く。


「スザク、頑張れよ・・・」


思いっ切り同情されてしまった。






「出来たぞ!」



リリスが嬉しそうにウインクをする。


「これがスザクと妾の愛の巣だ!」


頼むから大声で言わないでくれ!と心か願うスザクだった。


腰に手を当てドヤ顔でふんぞり返るリリスを尻目に、アリエスが隣に移動し服をクイクイと引っ張った。


「ねぇ、スザク・・・、アレって私の記憶が確かなら『魔王城』じゃないの?」


「俺もそう思ったさ。あの形は間違いない。」


(リリスは一体何で魔王城なるものを作らせたのだ?)


そう思ったけど、それ以上にアリエスの怒り狂う姿が思い出されるスザクだった。


確実にさっき以上のフルコンボを喰らう姿が予想出来てしまい、頬が少し緩んだ。



堀を渡る為の跳ね橋が降りた。

城壁の正門の扉がゆっくりと開いた。



 「!!!」



正門の扉が開き城の中に1人の人影が立っている。


スザクもアリエスも一瞬で身構え戦闘態勢に入った。



「貴様は魔王!どうしてここにいるんだ!」



何と!魔王ガルシアが門からスザク達を出迎えていた。


「魔王ぉおおおおおおおおお!ぎゃぁああああああああああ!」


ニヤーク達が恐怖でパニックになってしまった。

そんな痴態を無視し、スザクは聖剣を構えいつでも斬りかかれるように体勢を一瞬で整えた。



「勇者スザクよ・・・、久しぶりだな。」



魔王がニヤリと笑う。


「まだ成仏出来ていなかったようだな。今度こそ引導を渡してやる!」


スザクが飛びかかりそうになっているが、そんな姿も嬉しそうに見ている。


「そう焦るな。我は戦いに来たわけではない。」


「どういう事だ?」


怪訝な表情をするスザクに魔王が微笑んだ。


「魔王!お前!一体何をするんだ!」


スザクが慌てて剣を構えた。



魔王がとった行動とは・・・


スザクに対し床に片膝をつき深々と頭を下げた。


「我、魔王ガルシアはこの時点をもって『魔王』の地位を返上する。そして、スザクは我を破り名実ともに真の勇者となった。、負けた我はもう魔王を名乗る事は出来ないだろう。よって、我は魔王の名を返上する事にした。だからな、スザクよ、お前に我が地位を授けよう。これからは・・・











『魔王スザク』











と名乗るが良い!」




「魔王スザク・・・、とても似合うな。ふはははははぁあああああああああああああああ!これからの我は貴様の部下として頑張ろうではないか。新たな魔王の誕生!何と良き日ではないか!」



魔王ガルシアが18年前と変わらない高笑いで、スザクに魔王の称号を受け渡した。



リリスとガルシア以外は呆気にとられた表情で固まってしまっている。


スザクはひたすら困惑してしまった。




(どうしてこうなった?)

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