第31話 父、魔王と呼ばれる①
「さて・・・、反省はしたかな?お二人さん。」
「はい・・・、ごめんなさい・・・」
「心より・・・、反省しています・・・」
アリエスの前でアイとリリスが正座をしながら項垂れていた。
「これに懲りてもう2度とこんな事をしないようにね。」
「「はい・・・」」
「ねぇ、あなた。」
アリエスが隣にいるスザクへ声をかけた。
「どうした?」
「今更なんだけど、あなたの意見を一切聞かずに私達3人で決めてしまったのね。この色ボケ腹黒人格崩壊社会不適合女のリリスを家族にするって話だけど・・・」
リリス、散々な言われようである。
アリエスの脳内にはリリスの存在はどうなっているのか確かめたいと思うスザクであった。
(でもなぁ~~~)
普段のリリスの事も思うと、あながちアリエスの言っている事も間違えていないとも思うスザクであった。
「あなたとしてはどう思う?」
「まぁ・・・、いきなりの事だし正直驚いているよ。でもな、そんなリリスはアイの事はとても大切にしてくれていたし、アイの言っている母親代わりだったのは間違いないな。」
((うんうん!))
嬉しそうに2人が頷いている。
ギロッ!
「「!!!」」
アリエスの一睨みで大人しくなってしまう2人だった。
「それとな、お前はリリスの受付嬢時代しか知らないけど、ギルドの上役になったあいつは本当に仕事が出来るんだよな。今のギルドを当時よりもかなり大きくさせたのもアイツの手腕だよ。それにな、あいつは俺達との約束をずっと守っている。魔王と一緒で人間なんてゴミとしか思っていなかったのに・・・」
「へぇ~、そうなんだ。」
「俺の予想だけど、あいつのリミッターはアイじゃないかな?アイのおかげでアイツは人の心を手に入れたと思う。だから、一緒にいさせるのはいい事じゃないかと思うよ。俺もそう嫌いじゃないし、アイツがここにいる限りは俺もしっかり抑えておくしな。」
ガバッ!
いきなりリリスがスザクに抱きつく。
反省の正座って何?というほどの変わり身の速さだった。
「スザクゥゥゥ~~~、妾は嬉しい!スザクっていつも素っ気ないから、妾の事は嫌いではないのかと不安だったのだよ。」
「これがあのリリスなんてね・・・」
抱きついているリリスを見てアリエスが小さく溜息をこぼす。
「スザク・・・、私以外の人と一緒になるの少しくらいは躊躇してもいいんじゃない?悔しいけど、リリスといた18年には敵わなかったのね。でもね・・・、リリス・・・、正妻の力、舐めんなよ・・・」
謎の宣戦布告であった。
ガシッ!
アリエスがリリスの肩を掴む。
「はいはい、10秒経ったわよ。スザクから離れなさい。」
「えぇぇぇ~~~、もう?ちょっとひどいわよ。」
「それでも十分に譲歩しているのよ。それとも・・・、また『卍固め』をかけられたい?それか・・・、『サソリ固め』でもいいけどね。」
「お母さん・・・、いくらお父さんが好きでも大人げないよ。」
リリスに同情するアイだった。
「さて、こいつらだけど・・・」
スザク達の目の前には光る降輪でがんじがらめにされているドーリーヨコ達がいた。
さすがにこの連中はスザク達がお仕置きするだけでは済まされない。
何せ世界を18年間騙してきた大罪人だ。
ニヤークのような騎士団団長くらいなら、別に教会が闇に葬る事も可能だけど、流石に一国の王でもありドーリーヨコは国単位での裁きは必要だろう。
そんな訳で半死半生だった彼らをアリエスとアイの力で、ある程度回復させ拘束している状態であった。
ただし、そこは彼ら、辛うじて死なないレベルでの回復しかしていない。
特に股間に瀕死のダメージを受けたボンクーラーは見せしめの意味を込めてか、あの部分はお情けレベルの回復魔法しかかけていない。男として終わっていたのは相変わらずだったりする。
ご愁傷様・・・
「それでもこのバカだけは凄まじい精神力だわ。」
リリスが感心したように頷く。
リリスの邪眼により終わることの無い悪夢を見せつけられていて、最終的には五感全てを遮断されていた。
普通の人間ならば発狂間違いない拷問のようなお仕置きだったけど、彼はその拷問を乗り切った。
「さすがは世界をずっと騙し続けていただけある。こいつの厚顔無恥さには誰も敵わないだろうな。妾も勝つ自信がないぞ。」
いや・・・、リリスも大概ではないかと全員が思っていた。
「貴様等ぁあああああああああああああ!俺が勇者なんだぞ!スザク!貴様なんか誰も認めるはずが無い!今すぐこの拘束を解けぇえええええ!」
「はぁ~」とアリエスも溜息をする。
「ここまで拗らせてしまうなんて、英雄の肩書きにどれだけ執着しているのよ。まぁ、一日でも早く普通の夫婦の生活を送りたかったから、功績をこいつらに好きにさせてしまった私達にも責任はあるわね。」
「功績?貴様等が魔王を倒した証拠はどこにある?いくら聖女がいようが!いくら教会が騒ごうが!あれから18年も経っているんだ。今更、英雄が誰だとかの議論も出来る訳がない!貴様は英雄である俺を不当に断罪した不届き者として裁かれるのだぁああああああああああああ!」
「ここまで現実を認めない厚顔無恥な男も珍しいわ。今度は精神が完全に壊れる悪夢でも見せたくなった。」
リリスの赤い瞳が怪しく輝く。
「待て」
スザクがリリスの前に手を伸ばす。
「スザク、何で止める?コイツは徹底的に調教して2度と逆らえないようにしないといけないヤツだぞ。」
「心配するな。」
リリスへウインクすると、リリスの頬がポッと赤くなる。
「今の不意打ちは卑怯だぞ。このまま抱きつけないのが悲しいぞ。」
「まぁまぁ、そう落ち込むな。後でいくらでも好きにさせてやる。」
「本当か?」
「あぁ、その前に一仕事をたのむ。帝国の事は知っているよな。」
「知っているが、帝国と貴様のご褒美と何が関係あるんだ?」
スザクの帝国の言葉にドーリーヨコがピクンと震える。
「帝国の事は知っていると思うが、あの国は世界で一番の軍事国家だ。あの帝国が本気になれば世界征服も可能だろうな。だが、帝国はそんな事をしない。」
「帝国は魔王を倒した英雄をとても尊敬していたわね。思い出したわ。あの帝国の皇女の事ね。」
「そう、ここにいるドーリーヨコと、そいつのバカ息子の事だな。」
その言葉にドーリーヨコとボンクーラーがガタガタと震えた。
「あぁ~~~、アレね。妾達冒険者ギルドも皇女の護衛に駆り出されたわね。そして、このバカ2人の失態もね。」
「そういう事だな。あれのおかげで帝国はこの国の功績の事は信用してないはずだ。帝国にもある教会が今回の顛末を報告に行っているはずだよ。」
リリスはあの時を思い出し、クスッと笑う。
「勇者よ勝負だ!」
10歳くらいの女の子が木剣をドーリーヨコへと向けていた。
彼女の後ろには女の子と同じくらいの男の子が、全身ボロボロの状態で地面に転がっている。
この場所は?
ミエッパリー王国の王城にある修練場だったりする。
「ぐはははぁああああああああ!ドーリーヨコよ!子供の教育に関しては俺の勝ちだな。」
ドーリーヨコの隣の椅子に座る大柄な筋肉マッチョな男が大声を出しながら笑う。
「父上!こんなザコじゃ話になりません!私の婚約者候補との事ですが、弱い!弱過ぎます!正直、お話になりません!私はこんな弱い男の妻になる気はありません。それに、折角勇者のいる国に来たのですから、私のこの力、勇者に通用するか試したいと思います。」
「そうか!じゃあ!やってみるんだな!」
そう言って男が女の子に声をかけた。
そして、隣にいるドーリーヨコを見る。
「ドーリーヨコよ、勇者たるお主がよもや子供に負ける事はないだろうな?お主は魔王を倒すほどの猛者だし、まさか逃げる真似はしないだろうな?」
男が鋭い視線でドーリーヨコを睨んだ。
完全に逃げ道を塞がれた。
まさか自分に振られるとは予想外だったけど、いくら何でも相手は10歳の女の子だ。
負けたボンクーラーは鍛錬をサボってばかりだったから、今回はいい薬になるだろうと思っていた。
スザクが魔王を倒し自分達の功績にした後、剣士として現役を退いたが、いくら何でも女の子に負けるはずが無い。
そう思い、競技場に降り訓練用の木剣を構えた。
数分後・・・
ボンクーラー以上にボロカスにされ気絶していた。
「父上、コレ、本当に魔王を倒した勇者ですか?ザコもザコでしたが・・・」
「スカーレットよ、お前には言えないが色々と大人の事情があるのだ。これで俺も確認が終わった。帰るとしよう。」
そう言ってツカツカと扉から出て行った。
リリスが微笑む。
「そうだな・・・、そんな事があったな。護衛の仕事をしていた妾達は笑いをこらえるに必死だったよ。それに、この事は他言無用って事で口止め料も含めてかなり儲けさせてもらったな。」
「そういう事、帝国はこいつは勇者だとは思ってもいないはず。そろそろ慌てて来る頃かもしれん。」
スザクとリリスの話を聞いていたドーリーヨコの顔色がこれでもか!と言える程に青くなっていた。
いや!青色を通り越して白くなっていた。
「ま!待て!スザク!何でお前がこの話を知っている?そんな話がバレてしまえば・・・俺は英雄で無くなる!その話だけはぁああああああああああああ!」
スザクがニヤリと笑う。
「俺って帝国の皇帝とちょっとコネがあってな・・・、あの時はお前の力を見極めに来ていたんだよ。お前が俺までとは言わないが、それなりの人間だったら黙っていようと思っていたってさ。」
「な、何で今更?」
「ふっ・・・、あいつも性格が悪いな。決まっているだろう。ざまぁ!というのは最高に調子に乗っている時に叩き落とすのが最高に楽しいってな。8年前のあの時からあいつはずっと腹の中で笑っていたのだろうな。アイが学園を卒業するまで待っていたみたいだけど、お前のボンクラ息子がやらかしたおかげで早まってしまったけどな。」
「そ、そんな・・・」
ドーリーヨコが絶望の表情を浮かべ、力無く項垂れてしまった。
「嘘の名誉に踊らされず堅実に王の責務を果たしていればこんな結果にならなかっただろうな。全ては虚栄心の塊のお前が招いた事だ。この趣味の悪い城もそうだ。それならいっそ・・・」
スザクがリリスへ視線を送る。
「スザクよ、貴様の言いたい事は分かった。いくら妾でもこれだけの人数だとちょいと疲れる。だからな、後で成分補給をさせてもらうぞ。じっくりとな・・・」
「それならお安いご用だ。」
ブン!
スザクの手に黄金の聖剣が握られる。
切っ先をドーリーヨコへ向けた。
「聖剣の本当の力をみせてやろう。」
剣を握っている右手をスッと頭上に掲げ、黄金に輝く刀身の切っ先を天井へ向けた。
刀身から眩い黄金の巨大なビームのような光が天井へと放たれる。
カッ!
「「「そ、そんなぁぁぁ・・・」」」
光が消えた後の天井は・・・
巨大な穴が開き、上階の部屋を全てぶち抜いて真っ青な空が見えた。
バサッ!
スザクの背中に大きな白い翼が生える。
フワリと宙に浮き天井に開いた穴に入りグングンと上っていく。
そのまま上空へと飛び出した。
眼下には城の全貌が見える。
「エクスカリバー!封印解放!」
聖剣がスザクの手を離れ更に上昇を始め、黄金の光を放つ。
その光の中から黄金の全身鎧を着た人物が浮かび上がった。
その男が聖剣を握り掲げる。
「円卓の騎士達よ!」
スザクの言葉に次々と甲冑を着た男達が出現した。
聖剣を掲げた黄金の騎士を中心に十数人の男達が円を描く様に浮いていた。
その男達も剣を掲げる。
「ナイツ・オブ・ラウンド!全てを燃やし尽せぇええええええ!」
男達は一斉に剣を眼下の城へと振り下ろした。
カッ!
眩い光が城全体を包んだ直後に
ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
まるで地震が起きたかのように地面が揺れ、空気もビリビリと激しく揺れた。
巨大なきのこ雲が立ち上がる。
「本当に何も無くなってしまったな。」
リリスが呆れた顔で目の前の惨状を見ていた。
どんな状態かというと・・・
城そのものだけでなく、離れの建物全てに塀、堀など城の敷地にあった全てのものが消滅し、そこには巨大なクレーターだけが存在していた。
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