第30話 娘、結婚を勧める
「お父さん、お姉ちゃんとも結婚したら?」
・・・
・・・
アイの超巨大な爆弾投下にスザクも含め3人が完全にフリーズしてしまった。
「アイィイイイイイイ!あなた!一体何を言い出すのよ!」
フリーズした3人の中で一番最初に再起動したアリエスが、マッハの速さでアイの前に移動し、ガバッと力強く牢手で肩を掴む。
そのままガクンガクンとアイを激しく揺さぶる。
「お母さん!ちょっと止めてよ!そんなに激しく揺らしたら・・・、うっぷ!」
〇▲◇”!(リバース!)
お見苦しいところをお目にかけました。
m(_ _)m
「アイ・・・、ゴメン・・・、気分は楽になった?」
アイの身に大惨事が起きてしまい、ショックを受け意気消沈しているアリエスだった。
「お母さん・・・、本気で体をシェイクしないでよ。一瞬で気持ち悪くなって・・・、うぷっ!」
「大丈夫か?」
スザクが水の入ったコップをアイに渡した。
その水を美味しそうに飲んでいる。
「ぷはぁ~~~~~、生き返るぅうううううう!堪らないねぇえええええ!」
(おいおい・・・)
どこの酔っぱらい親父のセリフだ?
スザクは確信した。
アイは将来確実に酒豪になるだろう。
そして、お酒に付き合わされる友達は大変だろうなと・・・
「アイ、何でいきなりあんな事を言ったの?朝は朝で一緒に住もうなんて言っていたわよね?」
ちょっと機嫌が悪いアリエスだった。
「それって、お母さんの事も考えて言っているんだ。」
「私の事?」
「うん、聖女って教会の中でも特別な人じゃない?私もね、さっき教会にいたから分かったけど、みんな私を敬うばかりで挨拶も言葉も何もかもが恭しくて、正直ね、疲れてしまうの。」
「確かにね・・・、私もそんな雰囲気が嫌で教会を飛び出したわ。」
アイの言葉にアリエスが腕を組み深く頷く。
「でもね、お姉ちゃんはお母さんと対等に付き合ってくれているじゃないの。『喧嘩する程に仲が良い』って言葉もあるしね。」
「「それは無い!」」
またもやピッタリとハモるアリエスとリリスであった。
どれだけ仲が良いのだろう。
「ふふふ・・・、本当に仲が良いね。」
嬉しそうに微笑むアイだった。
「多分だけど・・・」
アイの言葉にアリエスが前のめりになる。
「多分って?」
「お母さんはこれからも友達って呼べる人が出来ないと思うの。」
がぁああああああああああああああああああああああああああああああああん!
アリエスが真っ白な灰になる。
「そりゃ、そうだろう。貴様のような人類最終兵器に付き合えるヤツがいるか。」
リリスがニタニタと笑いながら徐々に輪郭が崩れていくアリエスを見ていた。
というよりも見下している?
心の中では『勝った!』と叫んでいるかもしれない。
「お姉ちゃんも同じだよ。」
「嘘ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
アイの容赦無い言葉の刃がリリスの心にクリティカル・ヒットしてしまう。
仲良く2人で真っ白な灰になっていた。
「お母さんにはお姉ちゃん、お姉ちゃんにはお母さんしか付き合える相手はいないと思うの。」
とても真剣な表情でアリエスがジッとアイを見つめる。
「アイ!あなた・・・、本気で言っているの?あなたは知らないようだけどリリスは・・・」
「うん!知っているよ。」
「「はぁあああああああああああああああああ!」」
アイの屈託の無い笑顔にアリエスもリリスもハモりながら驚く。
「私って、お父さんの勇者の力も受け継いでいるじゃない?全部じゃないけど、ある程度の力は使えるんだ。それでね、昨日の夜にお姉ちゃんを『鑑定』してしまったの。」
「ほほぉぉぉ・・・、妾を鑑定出来るとはとんでもない性能ね。で、アイちゃんには妾はどう映った?」
「まさかのまさか、お姉ちゃんって真っ黒だったよ。」
「そうだろうな、妾はこう見えても・・・」
アイの言葉にリリスが少し落ち込んでいる。
「お姉ちゃん!」
アイが真剣な表情でリリスを見つめる。
「でもね・・・、お姉ちゃんは私やお父さんの前じゃ優しいお姉さんだったよ。まぁ、時々お父さんに色仕掛けで迫っている事もあったけどね。」
「リリス!あんたはぁああああああああああああああ!」
アリエスが目を吊り上げリリスへ掴みかかろうとする。
「お母さん!待ってよ!ハウス!ハウス!」
アイがリリスへ飛びかかろうとしているアリエスの髪を掴む。
「うがぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!」
とても美女の口から出てはいけないだみ声が出てしまった。
アリエスの常人離れしているスピードでリリスへ飛び出している途中で、アイが強引にアリエスの後ろ髪を掴むものだから・・・
『車は急に止まれない』の標語のようにアリエスの頭はその場に留まってしまったが、体だけが慣性の法則で前に行ってしまう。
『ゴキッ!』とアリエスの首から聞こえてはいけない音が聞こえた。
いわゆる『むち打ち』というヤツだったりする。
「うわ!痛そう・・・、やっぱりアイちゃんはあんたの娘に間違いないわ。」
床で首を押さえ痛そうにゴロゴロと転がっているアリエスを同情の目で見ているリリスであった。
・・・
「お母さん、いちいち反応していたら話が進まないじゃないの。ちゃんと大人しく話を聞いて。分かった?」
床に正座をさせれアイから説教されているアリエスだった。
母親の威厳なんて全く無い。
「話は元に戻るけど、私から見てお姉ちゃんはとっても優しいお姉ちゃんだったんだ。」
「ふふふ・・・、それはそうだ」
リリスがニヤリと笑う。
「スザクを妾のものにする為だ。昔から言われているじゃない?『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』とな。スザクと親密な関係になるには、アイちゃんと仲良くするのは必須だ。だから妾はアイちゃんの面倒を見て、スザクからの信用を得ようとしたのだ。ふはははははぁあああああああああああああああ!これぞ完璧な作戦!『スザク、妾にメロメロにさせる作戦』だ!」
(アイちゃんって赤ちゃんの頃からとっても可愛いのよ。アイちゃんの笑顔はこんな妾をも虜にしてしまうのだ。アイちゃんは間違いなく女神がこの世界に降臨させた天使だろう。この子の笑顔を守る為にも妾は頑張ったのだ。)
「ねぇねぇ・・・、ちょっと良いかな?」
アリエスが申し訳無さそうな表情でゆっくりと手を上げる。
「リリス、本音と建て前が逆じゃない?」
ガーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
リリスが固まってしまう。
「器用な事を・・・」
アリエスがこめかみに指を当てピクピクしている。
呆れてしまって何も言えないのだろう。
「お姉ちゃん!」
アイがリリスに抱きついた。
「お姉ちゃんは確かにお父さんに近づく意図で私を利用したかもしれない。でもね、私には分かるの。お姉ちゃんからはしっかりと愛情があったってね。だから、私はお母さんがいなくてもずっと淋しくなかったの。とってもお姉ちゃんには感謝しているんだ。」
「アイちゃん・・・」
リリスの瞳からじわりと涙が流れてくる。
「妾もだ・・・、恐怖の対象として人々からは畏怖されていた妾だったが、アイちゃんは妾を前にしても何も変わらずに、いつもその可愛い笑顔を向けてくれていた。この16年間、妾はとても満足した日々をアイちゃんに与えてもらっていた。この気持ちが母親の気持ちなんだと・・・」
「うん、そうだよ。お姉ちゃんは私のお姉ちゃんでもあるしお母さんだったの。私を産んでくれたお母さんはお母さんだけど、私には育ててくれたお母さんもいるんだ。だからね、私は2人のお母さんがいて、とても幸せなんだって・・・、そう思えるんだ。」
「アイ・・・」
「アイちゃん・・・」
アリエスが抱き合っている2人に抱きついた。
「アイ・・・、ゴメンね・・・、あなたを産んでから何も出来なかったお母さんで・・・」
「ううん、それは仕方ないよ。だってお母さんは聖女だったし・・・。それでも私を産むと決めて、私を産んでくれてありがとう。私ね、お母さんの娘として生れて本当に良かったと思う。お母さんは私の誇りだよ。」
「アイ・・・」
アリエスの瞳から止めどなく涙が流れてくる。
「それとリリス・・・」
「何だ?」
「どうやら私はあなたを誤解していようね。あなたのおかげでアイはこんなにも立派になったのね。産みの親より育ての親・・・、確かにそうだわ。私がいない16年間、本当にありがとう。」
「何だか気持ち悪いぞ。貴様が妾に感謝するとはな。」
「それくらい嬉しいのよ。」
「認めるわ・・・、あなたがアイの母親になる事をね。そして、この国は重婚も認められているから、あなたがスザクの・・・」
ピタ!
いきなりアリエスの動きが固まる。
「やっぱり認めたくない。スザクは私だけのものなのよ。私以外の誰のモノにもさせない・・・」
「うわぁ~、お母さんって本当に往生際が悪いね。さっきまでの流れならそこはOKでしょう?それを・・・」
上目遣いの視線でアイがジッとアリエスを見ている。
この仕草だけでご飯5杯は軽くお代わり出来るくらいの破壊力だ。
「分かったわよ。仕方ないけど認めるわ。」
ジロッとリリスを睨んだ。
「正妻は私!これだけは絶対に譲れないわ。それと・・・、私のいないところで2人っきりで絶対にイチャイチャしない!そんな事が出来ないように、私が常に見張っているからね!」
世界最強(物理的)のストーカーが爆誕した瞬間だった。
リリスのストーカーを遙かに超えるストーカー、スザクは心安まる日々を過ごせるか?
まぁ、無理でしょう。
スザクがポツンと1人で立っていた。
「3人で盛り上がっているけど、俺の意見は?」
女子~ズ、強し!
「いぇ~い!」
アイとリリスが嬉しそうにハイタッチをする。
「さすがはアイちゃん、完璧な作戦だったな。」
ピク!
アリエスの耳が動いた。
「作戦?」
ゴゴゴゴゴォォォ!
「あなた達・・・、一体何の話をしているのかなぁ~~~~~」
目が完全に据わったアリエスが全身から闘気を滾らせ、仁王立ちの姿で2人の前に立った。
「「さぁ~~~、何の事かしら?」」
2人が揃って顔を明後日の方向に向け、口笛をピューピュー吹いている。
額からは大量の汗が滝のように流れていた。
「そういえば、さっき、リリスが現われた時、2人で出てきていたわね。それまでの間に何か企んでいたのかな?」
「「イエイエ、ソンナコトナイデス。」」
ブルブルと仲良く首を振る。
「確かにあなた達2人は仲が良さそうね。でもね・・・、普通に話しをすればいいものを、お涙頂戴物語が作戦だったなんてね。ちょっとやり過ぎじゃないかな?ふふふ・・・」
「お姉ちゃん!ヤバいよ!お母さん本気になっちゃったよ!というか!マジギレしちゃったぁあああああ!」
「アイちゃん!そんな時にする事は1つ!」
リリスが叫んだ
「逃げるのよぉおおおおおおおおおお!」
「逃がさない!」
まるで瞬間移動をしたようにアリエスがアイの目の前に現われる。
スッと人差し指をアイの眉間に軽く突き立てた。
ピシ!
「え!体が・・・、体が動かない!どうして?」
ニヤリとアリエスが笑う。
「ふふふ・・・、今ね、あなたの秘孔を突いたからよ。私が解除の秘孔を突かない限り動けないわ。あなたは後でジックリとお説教よ。その前に・・・」
ギン!
鋭い視線がリリスを捉えた。
あままりの殺気にリリスもビビってしまい動けないでいた。
「アリエスよ、結果的にはお互いにハッピーエンドだっだのだから良いではないか。妾は第2夫人として貴様を立てていくから心配するな。これからも仲良くやっていこうではないかな。」
「それはそれ!あんた達の三文芝居の演技で泣かされてしまった事か許せないのよ!私の人生での最大の屈辱よ。この怒りぃいいいいいい!はらさでおくべきかぁああああああ!」
アリエスがリリスへ電光石火の素早さで飛びかかる。
ガシ!
アリエスがリリスの横に立ち、自分の右足を相手の左脚に絡めた。
その体勢からリリスを前屈みの状態にし、右腕の下から自分の上半身を出す。
そして、リリスの首の部分に自分の左足を引っ掛けた状態で、リリスの右腕を背中側に直角に曲げ、自らの左腋に抱え込んだ。
「ひぎぃいいいいいいいいいいい!」
リリスが苦悶の表情を浮かべる。
「どう?私の卍固めの味は?いくらあんたでもこの技からは絶対に逃げられないわ!しばらく苦痛を味わっていなさい!だっしゃぁあああああああああ!」
「い、痛いぃいいいいいいいいいいい!」
しばらくリリスが叫んでいたが、すぐに静かになった。
カン!カン!カーーーーーーン!
どこかでゴングの音が響いた。
リリスさん・・・
合掌・・・
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