第29話 最凶夫婦&押しかけ愛人?、更なるざまぁ!をする③

「お仕置き完了!」


アイがビシッと謎のポーズを決めウインクする。



「やっぱりキレていたわね。」


「だな・・・」


アリエスとスザクが顔を合わせ頷いた。


「いくら私でもここまで人間としての尊厳を極限までたたき折るような無惨な事はしないわね。ああなったら『いっそ殺してくれぇええええ!』って懇願してくるかもね。」


そんなアリエスの言葉にスザクの顔が引きつる。


(分かっていないのは本人だけなんだろうな。まぁ、そんなアリエスも可愛いけどな。)



はいはい・・・


惚気は勘弁して下さい。






SIDE  リリス



「五月蠅い!貴様の与太話なんぞ興味が無い!さっさとどけぇええええええ!英雄である俺に逆らうな!これ以上邪魔をするなら斬る!」


ドーリーヨコが剣を振りかぶりリリスへ斬りかかった。


「あらら・・・、短気な男はモテないわよ。」


リリスの目の前まで迫った剣を、彼女は半歩横に体を動かすだけで紙一重で剣を躱す。

スッとドーリーヨコの真横に移動し、手をスッと掲げた。


パァアアアアン!


「ぐあ!」


リリスの強烈なビンタを喰らう。


「隙だらけね。これが魔王を倒した英雄の力なの?」


ニタリとリリスの口が三日月のように開く。


「そっかぁ~~~、貴様は嘘つき勇者だったんだよね。人の功績を横からかすめ取って、さも自分がやったように言っていたんだよね。うふふふ・・・、どうだった?世界で最も偉大な英雄だと賞賛された時の気分は?そんな嘘をつき続けて生きてきた18年間は?」



「黙れ!黙れ!黙れぇええええええええええええええ!」



もう剣技もへったくれもない、ただ闇雲に剣を振り回してリリスへ斬りかかった。



「ふ~ん、人間って図星を突かれるとこんな行動をするんだ。1つ勉強になったよ。」


どれだけ剣を振り回し切りつけてもリリスに掠りもしない。

まるで剣が、自分の腕が意志を持っているかのように、なぜかリリスの体を避けるようにして切りつけている。

自分の体がまるで自分の体でない錯覚に陥りそうになる。


「五月蠅い!五月蠅い!俺が本当の!本物の勇者なんだよぉおおおおおおおお!誰が何と言おうがなぁああああああああ!」


その言葉を聞いたリリスが一気に後ろへ跳躍しパチパチと拍手する。



「素晴らしい!」



とても嬉しそうにリリスが立っている。


「すごいぞ貴様!自分でついた嘘をまるで本当のように思い込むなんてね。普通の人間は嘘をつくと多少なりとも罪悪感を感じるものだと思っていたが、貴様の脳に興味が湧いた!ここまで自分の都合の良い世界に浸れる、その図太い神経!是非とも貴様の脳を解剖したくなった!」



「何をゴチャゴチャと言っている!さっさと死ねぇええええええええ!」



再び剣を上段に構えリリスへ駆け出す。


「ほぉぉぉ~~~、妾を殺すと・・・、大きく出たものだ。だが、貴様ごとき妾の前に立つことすら烏滸がましい。」


「たかが女のくせに!」


目を血走らせながらドーリーヨコが突進してくる。



「死ねぇええええええええ!」






ビタッ!






「そ、そんな・・・、貴様が・・・、貴様がどうしてここにいる?」




ドーリーヨコがリリスへ剣を突き出した姿勢で硬直している。


いや!


リリスの目の前で彼の剣を受け止めている人物がいた。


「ほほぉ~~~、貴様が我を倒したとほざく輩か?」


人差し指を無造作に突き出し、その指の腹でドーリーヨコの剣先を受け止めて、。ニヤリと男が笑った。



「お、お、お、お、お前は・・・」



男の顔を見てドーリーヨコがガタガタと震える。


その顔は絶対に忘れる事は出来ない!


19年前、長く続いた人間と魔族との戦争で、魔族の最強魔法使いが己の命を捧げて異世界から呼び出した人物。



「お前は魔王ガルシア!どうしてここにいるんだ!お前は確かスザクに・・・」



魔王の笑みは消えていない。


「そうだよな。我は貴様のようなザコに倒されていない。それどころか貴様は逃げ出したよな?折角だ、ここであの時の続きといこうか。」



ピシ!



ドーリーヨコが魔王の指に突き立てた剣から割れるような音が聞こえる。


パァアアアン!


いきなり剣が粉々に砕け弾け飛ぶ。


「な、何が起きた?」


魔王が鋭い視線でドーリーヨコを睨む。


「弱い・・・、弱すぎるぞ!貴様はぁああああああ!最低でも剣に闘気や魔力を纏わせなければ我にかすり傷一つ付ける事も出来んぞ!」


掌をドーリーヨコに向ける。


「ぐぁああああああああああ!」


ドーリーヨコが首を押さえながら苦しみ、徐々に体が浮き上がっていく。


「く、苦しい・・・、俺の体が浮いている?何で?」


「貴様!念動力も知らないのか?はぁ~、ここまで弱いとは・・・、こんなヤツに我が倒されたと吹聴されてしまっているのか?」


ギロッと魔王の視線が鋭くなる。


「我にもプライドはある。2度とこのような輩に我を倒したなどと言えないように徹底的に恐怖を叩き込まないとな・・・、我の顔を思い出すと死にたくなってしまうほどの恐怖をな!」


ビシィイイイイイ!


「な!何が起きたんだ!」


ドーリーヨコがまるで目に見えない十字架に貼り付けられたかのように、空中で両手を広げた姿勢で浮いている。


「さて・・・、最初は我等が主であるリリス様に剣を向けた無礼を償わせないとな。」



ゴキン!



「ぎゃぁあああああああああああああああああ!」


ドーリーヨコが悲鳴を上げた。


「根性が無いな。たかが腕が1本折れただけだぞ。戦士たるもの、どのような状況においても冷静にならねばならんだろうが!はぁ~~~~~、情けない。」



「はぁはぁ・・・、うぎゃぁあああああああああああああ!」


ベキャ!


今度は右足が膝からあり得ない方向に独りでに曲がってしまい、



「痛い!痛い!助けてくれぇええええええええええ!」



グルグルと回転し千切れて取れてしまう。


「ひぃ・・・、助けてくれぇぇぇ・、誰でもいいから俺を助けろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



目の前に現われた魔王の恐怖に、ドーリーヨコは違和感に気付かなかった。


「おい!誰も良いから俺を助けるんだよぉおおおおおおおおおおおおおお!」



し~~~~ん



(あれ?)


国王である自分が大声で助けを呼んでいるのに誰も助けにこない。


足が千切れてしまった痛みでそれどころではないはずだが、霞む目で回りを見渡した。


「そ!そんなぁあああああああああああああ!」


確かにここは自分がいた執務室に間違いはない。


だけどだ!



(誰もいない?)



確か・・・、さっきまでは色んな人がいたはずだ!


ボンクーラー

スザク

アリエス

アイ

ニヤーク

モウヨシード

リリス


(どこへ行った?)


ここにいるのは自分と魔王だけ?



「嫌だ!嫌だ!殺されるぅうううううううううううううううううううう!助けて!助けてぇええええええええええええ!」



「無駄だ・・・、どんなに騒いでも誰もいないぞ。」


ニタリと魔王が笑みを浮かべた。


「ジワジワと焼け死ぬがよい。」


魔王が右手を高々と掲げる。

天井へと向けた掌の上には・・・


「バカな・・・、そんな魔法見た事も無い・・・)




「ヘルフレアァアアアアアア!骨すら残さず燃え尽きろぉおおおおおおおおおおおお!」




巨大な炎の鳥が浮かんでいた。

その炎の鳥の顔が自分を睨んでいた事に気付いた。


背中に嫌な汗が流れる。


しかし・・・


嫌な予感ほど当ってしまうものだ。


炎の鳥が大きく翼を広げ自分の方へと向かって来るではないか!



「ぎゃぁあああああああああああああああああ!」



全身が炎に飲み込まれる。


一瞬で全身の皮膚が焼けただれ、熱波が気道をを焼き尽くす。


(熱い!痛い!苦しい!)






・・・・・・・・






・・・・・・・・






(は!)


「ここは?」


ドーリーヨコは目を覚ますと、1人で執務室の中にいた。

自分の椅子に座り、目の前の机の上には書類の山が置かれている。


「さっきまでのアレは夢だったのか?」


スザクが自分の事を偽勇者と言ってきた。

アリエスもこの部屋に・・・


しかし、今は誰もこの部屋にいない。


「18年間、俺はずっと英雄として世界中から賞賛されてきたんだ。今更スザクが現われようが、俺の勇者の肩書きは覆らん。俺が真の勇者であり、絶対の事なんだよ!俺は一生勝ち組なんだぁああああああああああああああああ!」




コンコン




部屋の扉がノックされた。


「入れ!」


ドアが開かれると2人の男が入ってくる。


1人はニヤークの部下でもある騎士団副団長に、もう1人は宰相の部下である男だった。


「どうした?何用だ?」


2人がツカツカとドーリーヨコの前まで急ぎ足で進んできた。

目が吊り上がっている。


副団長が前に出てくる。


「国王様・・・、我ら騎士団の騎士達は魔王を討った英雄である国王様に憧れてこの国の騎士となりました。」


教会からの書簡を手にし、それをドーリーヨコに見せつけた。


「ですが!それは嘘だったという事ですか?」



ドーリーヨコが一番聞きたくない言葉だった。



「貴様ぁあああああああああ!何をバカな事を言っているぅうううううううううううう!俺にそんな事を言うなんて死にたいのかぁあああああああ!」


ドーリーヨコがダン!と机を叩き立ち上がる。


宰相の部下の男も前に出た。


「宰相様からお聞きしました。」


『もう嘘をつき続けるのは疲れた・・・、国王は本当は魔王は倒していない。魔王を倒した本物の勇者はスザクと言う男だ。国王は手柄を横取りした卑怯者だと・・・、私はもうこれ以上黙っていられない。だけど、18年間世界を騙した責任をとる。』


「そう言い残して自死しました。」



ガタン!



ドーリーヨコが力無く椅子へと倒れ込んでしまう。


「宰相めぇぇぇ・・・、最後に裏切りやがって・・・」


ジリジリと騎士達が国王へとにじり寄る。


「「さぁ、説明をお願いします!」」



「黙れ!黙れ!黙れぇええええええええええええええ!貴様等ぁああああああ!今すぐ死刑だぁああああああああああ!」



唾を吐きながらドーリーヨコが立ち上がった。


しかし、副団長はドーリーヨコを見下した視線を向けていた。


「世界を騙した責任は取ってもらいます。」


ヒュン!



副団長が素早く剣を抜くと首に冷たい感覚を感じた。






「え?」





いきなり視界が逆さに変わった。そのままゆっくりと視線が下へと下がっていく。


しかも!


どうしてか自分の体を見つめていた。



「あぁ・・・、俺は首を切り落とされたのか?」



そう思った瞬間、視界が真っ暗になった。







(暗い・・・、真っ暗で何も見えない・・・、ここはどこだ?)


(さっきからどうなっている?魔王に殺されたり、家臣に殺されるなんて悪い夢を見ているようだ。)



・・・



(これも夢なのか?)



(いや、夢ではない!体の感覚は無いが意識はハッキリしている。)



(どういう事だ?本当に何が起きたんだよ!)




(誰か!誰でもいいから助けてくれぇええええええええ!)









リリスが腕を組みニヤニヤと笑っている。


彼女の前には剣を振りかぶり硬直したままの姿のドーリーヨコが立っていた。



「リリス、コイツはどうなったんだ?」



スザクが怪訝な表情でリリスの横にやってくる。


「さぁな・・・、長い夢でも見ているんでないか?それか、五感を全て消しておいたから、見えない、聞こえない、何も感じないの暗闇を満喫しているのかもな?貴様との約束通り、妾はあの時以来、誰も殺す事をしていない。」


「殺さないとはいえ、えげつない事をするなぁ・・・」


「ふふふ・・・、何を言っている。この手のお仕置きのやり方は貴様から学んだ事だぞ。それにな・・・」


リリスがジッとスザクの顔を見つめる。


「貴様は鈍感ではないだろう?妾の気持ちは分かっているはずだ。妾は18年も待っているのだぞ。」


スッとリリスがスザクの頬に手を伸ばす。


「スザクよ、妾の我慢は・・・」






スパァアアアアアアアアアアン!






「ひゃっ!」


アリエスがリリスへと足払いをかけ転倒させた。


「リリスゥゥゥゥゥ~~~~~~~~~、どさくさ紛れに一体何をしようとしてたのかしら?」


「仕方がないだろうが!スザクが目の前にいるんだぞ!我慢する方が精神衛生上悪い!だからな、精神の安定の為にな、スザクを堪能したいと思った訳だ!これは自然の摂理!仕方がない事なのじゃぁああああああああああああ!」


「人の旦那を横取りしようって!何をとち狂っているのよ!」


「ふはははははぁあああああああああああああああ!妾に人間の道徳を説く事自体が無駄だぁあああああああああ!無駄!無駄!無駄ぁあああ!」


「なにを!この色ボケがぁああああああああああ!」



とうとう2人でキャットファイトを始めてしまった。



「お父さん・・・」



アイがスザクの隣に立った。


「どうした?」


「お母さんとお姉ちゃんって本当に仲が良いんだね。だったらさ、お父さん、お姉ちゃんとも結婚したら?」







・・・






・・・・






・・・






「「「はいぃいいいいいいいいいいいいいい?」」」



喧嘩をしていた2人も硬直してしまう。



アイの超巨大な爆弾投下にスザクも含め3人が完全にフリーズしてしまった。

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