第27話 最凶夫婦&押しかけ愛人?、更なるざまぁ!をする①
ダダダッ!
(こんなところにいられるか!俺は死にたくないんだ!)
ニヤークの息子が必死になって部屋の出口へと走って行く。
自分の父親がボコボコにされている姿を見れば誰でも恐怖を感じてしまうだろう。
しかも、父親が世界最強と讃えられていた勇者パーティーの一員というメッキも剥がれてしまい、もう誰からも相手にされない未来も分かってしまう。
今まではその名声で散々と我が物顔でいたのだ、その反動で回りからどういう扱いをされてしまうか・・・
考えるだけでも怖い。
最悪の事も考えてしまい、ここから逃げ出す事だけで頭の中が一杯になり、がむしゃらに走っていく。
ズザザザァアアア!
ガシッ!
アリエスが彼のすぐ横まで一気に移動しスライディングを行った。
ビタァアアアアアアン!
「ひぃいいいいいいいい!」
受け身も何も取らないで派手にうつ伏せに倒れてしまったものだから、顔面を床に強打してしまう。
あまりの痛さに顔を押さえゴロゴロと床を転がってしまう。
「やっぱり平和ボケなのかな?」
サッと起き上がったアリエスが、いまだだに床を転がっているモウヨシード・タータナイ(どこが?とは言わないがニヤークの息子の名前)を残念そうに見下ろしていた。
「名ばかりの騎士団長の息子でも、せめてねぇ~、受け身くらいはとれないの?」
呆れた表情で転がっているモウヨシードの前に立った。
少しは痛みが落ち着いたのか彼がゆっくりとアリエスを見上げる。
「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
いきなり飛び上がり『ズザザザァアアア!』と、恐怖の表情で後ずさりを始める。
(何でそこまで怖がるのよ。私、足を引っかけた以外に何もしていないのにね。)
あんまりに恐れているので、少しショックを受けているアリエスだった。
「どうしたのかしら?そんなに私が怖いの?」
アリエスが軽く輝く銀髪を描き上げて、金色の瞳でジロッと睨む。
「その銀色の髪に金色の目・・・、本物の聖女だ・・・」
(そういう事ね。)
ポン!と手を叩いてしまう。
自分がスザクと一緒になってから彼女は表に出ていなかった。
しかも、アイが生れ自分が命を落としてからは聖女は世界に存在しなかった。
目の前にいる男はアイと同じ歳だし、実物の聖女など見た事も無いだろうし、聖女という存在は物話の中でしか聞いた事がなかったに違いない。
聖女という存在は・・・
世界の人々に聖なる癒やしを与える存在。
まるで母のように優しく慈悲深い存在。
だが!
『悪い子は聖女にお仕置きされるぞ~』
と、子供達の中ではある意味、最も怖い存在とも教えられていた。
ホント、この世界の聖女ってどういう位置づけなんでしょうね?
そういう話を幼少から聞いていた彼も、聖女とは優しくも恐ろしい存在だと思っていた。
そんな彼女が父親にドロップキックをぶちかましたものだし、自分自身も今まで散々と悪さをしてきた自覚もあるものだから、余計に聖女は恐ろしい存在と感じている。
実際、アリエスは恐怖の代名詞に近い事もしているし・・・
そんなアリエスの前に彼はガタガタと震えるだけしか出来なかったのだが、アリエスは更に恐怖の燃料を投下する。
「うちの可愛いアイに何をしてくれたのかなぁ~~~」
ドキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!
その言葉にモウヨシードの心臓が止りかける。
「嘘だ!嘘だ!アイツが聖女の娘だって?そんなのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ムンズ!
(ぐわっ!)
いきなり左右のこめかみに激痛が走り、体が持ち上げられる感覚を感じた。
ギリギリギリ・・・
(痛い!頭が割れるように痛いぃいいいいいいいいいい!)
「ふふふ・・・、どう?私のアイアンクローの味は?」
「いひゃい・・・、た、たしゅえけ~~~」
あまりの痛さに声すら満足に出ず、か細く囁く話すのがやっとの状態だった。
「そう?」
ニヤリとアリエスが黒い笑みを浮かべる。
「まだまだ温いって・・・、あなた、アイを虐めていただけあってホントいい根性しているわ。その根性は認めてあげる。」
アリエスは全然認めていない。更なるお仕置きをする為の大義名分の口実だったリする。
本当にドSクイーンだけある。
「さぁあああ!脳味噌バーン!よ!」
更に握る手に力を込める。
「ぎゃぁああああああああああ!」
「ぎえぇええええええええええ!」
「ぎゅぉおおおおおお!」
「みぃぃぃ・・・」
段々と声が小さくなりピクンピクンと痙攣を始めた。
「ちっ!根性無いわね。」
舌打ちをしながらアイアンクローの力を弱めると、モウヨシードは力無くぐったりする。
「おっと!お休みするのはまだ早いわよ。」
アリエスが左手で倒れそうになるモウヨシードの胸倉をつかみ無理矢理立たせる。
そして右手を振り上げた。
「そうそう、昨日の夜、アイが言っていたわよ。騎士団の息子のヤツに頬をぶたれたってね。あなた、男のくせに女の子に手を上げたのね。しかも顔を殴るなんて・・・」
「絶対に許さない・・・」
「歯を食いしばりなさい!」
さすが夫婦、同じ事を言っている。
スパァアアアアアアアアアン!
「ひぎぃいいいいいいいいいいいい!」
まるで頭がもげるかと思うような強烈なビンタを喰らわす。
「はひぃ・・・、はひぃ・・・」
「まだよ!お返しは100倍返しだぁあああああああ!って相場が決まっているの!」
(そんな話、聞いた事無い!)
心の中で思いっ切り突っ込むモウヨシードだけど、理不尽が一人歩きしているアリエスの前では全く聞いてくれないだろう。
合掌・・・
スパパパパパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
いつ終わるか分からない高速の往復ビンタがモウヨシードを襲う。
「ゆ、ゆるしゅてぇぇぇぇぇ~~~~~」
モウヨシードの心からの叫びであった。
「ひゅ~、ひゅ~・・・」
彼の心からの願いが通じたのか地獄のビンタラッシュが終りを迎えた。
「どう?アイに謝る気になった?」
「ひゃい、ひゃい・・・、ひょめんなしゃ・・・」
「あぁあああ~~~、まだ自分は悪くないって?」
(ち!違う!そんな事、一言も言っていない!)
と言いたかったけど、顔がパンパンに晴れてしまい、まともには喋られない。
(お願いです!許して下さぁあああああああああああああああああああああい!)
しかし、スーパードS女王様のアリエスは許してくれなかった。
アリエスが胸倉を掴んでいた手を離すとモウヨシードはぐらりと倒れそうになる。
(これで楽になれる・・・、地獄が終わるんだ・・・)
残念ながら世の中そんなに甘くない。
倒れそうになっているモウヨシードの後ろにアリエスが回り込み、両腕を回して腰をガッチリとロックする。
「こんな綺麗なお姉さんに後ろから抱きつかれる機会なんてないのよ。最後くらいは良い思い出を作ってあげるね。」
後ろから囁くようにアリエスが話しかけてきた。
確かにアリエスの美貌はこの世の者でないほどに美しい。
そんな人に抱きつかれるのだ。いくら拷問のような事をされていても、そこは男、素直に喜んでしまう。
しかも!背中に感じる圧倒的な柔らかさ、アイと同じくらいあるだろう大きくたわわな胸が押し付けられているのだ。
それこそ、まさに天にも上る気分になってしまう。
男なら仕方ないだろう。
そして・・・
物理的にも天に上った。
「はぁあああああああああああああああ!」
アリエスの裂帛の気合いの入った声が響く。
グン!
モウヨシードを後ろから抱えたままブリッジをするように彼を反り投げた。
まるで教科書のような華麗な投げの軌跡を描いたジャーマンスープレックスだ。
ドゴォオオオオオオオオオオン!
・・・
・・・
アリエスが綺麗なブリッジの体勢で、抱え込んでいたモウヨシードの頭を床にめり込ませていた。
ゆっくりとアリエスが立ち上がるが、モウヨシードは最初からそこに置かれていたかのようにピクリとも動かずにいる。
アリエスが天井を仰いだ。
「アイ・・・、あなたの仇は討ったわ・・・、成仏してね・・・」
【だからぁあああああ!私は死んでいないってぇええええええええええええ!】
またもやアイの声がどこからか聞こえた気がした。
「さて・・・、後はお前だけだな。」
床にへたり込んでしまった国王、いや、今は元国王を見下ろしながら冷たく言い放つ。
「俺は・・・、俺は・・・」
まるでうわごとのようにブツブツと何かを言っている。
「まだだぁあああああああああああああ!」
いきなり立ち上がり、腰の剣を抜いてスザクへ向ける。
「おいおい、ヤケになったか?」
「違う違う違うぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!」
血走った目がスザクを睨む。
「俺が本物の勇者なんだ!偽物は貴様なんだよ!そうだ・・・」
ニチャ~と気色悪い粘着質な笑顔を浮かべた。
「貴様さえいなければ俺が本物なんだよ。貴様さえいなければ世界は俺を英雄と讃えてくれるんだ。貴様さえいなければ・・・」
ドーリーヨコがゆらりと一歩を踏み出す。
「あら・・・、ずいぶんと面白い展開になっているわね。」
どこからか声が響く。
「この声は、リリスか!」
「ご名答!」
ゾワ!
部屋の中に信じられないくらいの圧倒的な『何か』の存在感が充満した。
ピキ・・・
空間にヒビが入る。
ビキビキ・・・
そのヒビが徐々に大きくなり、そのヒビから白い手が伸びてきた。
ヒビの両端を両手で掴み一気に広げる。
「はいはいぃいいい~~~」
陽気な表情で割れた空間の中に立っているリリスだった。
「やっぱりお前か。」
スザクがとても疲れた顔でリリスを見ている。
「そう!この妾だ!お前達に呼ばれて飛び出て・・・」
「こら!」
ガン!
リリスの後ろからアイが飛び出し、リリスの頭を思いっ切り殴りつける。
「痛いよ、アイちゃん・・・」
「何を言っているの?」
ジト~とした目でアイがリリスを睨む。
「あのセリフは言ったらダメじゃない!何が原因で引っかかるか分からないんだからね!」
「わ、分かった・・・」
アイの迫力にタジタジのリリスであった。
アイちゃん強し!
「それで何をしにここに来たのだ?事と次第によっては貴様でもただでは済まさんからな。」
スザクから強烈な殺気がリリスへと向けられる。
「ちょっと!止めてよ!妾も遊びでここに来た訳ではないからな。あと1人足りないだろう?それを届けに来た訳よ。」
次の瞬間、空間に魔法陣が浮かび人影が浮かび上がる。
「うわぁあああああああああああああ!」
べちゃ!
「お、お前は!」
ドーリーヨコが驚きの表情でその人物を見つめていた。
「父上!」
この国の王子であったボンクーラー・ミエッパーリーが信じられない表情で父親であるドーリーヨコを見ていた。
「貴様ぁあああああああああああ!」
今にも飛びかかりそうなくらいに怒気の籠もった視線をリリスに向けている。
そんなリリスは全く意に介しない涼しい表情でスザクに顔を向けていた。
「最後のざまぁ!要員を連れてきたわ。このボンクラ王子は特にアイちゃんに執着していたようだしね。そして、今回の騒動の発端となった人物よ。だよね、アイちゃん。」
「そうね・・・、このバカ王子にどれだけ付きまとわれたか・・・、ここでちゃんとお返しをして過去の清算をするわ。もう2度と会えないだろうしね。」
アイがボンクーラー王子を見てニヤリと笑う。
「貴様のような平民なんかが我が息子に触れるな!」
ドーリーヨコが剣をアイに向ける。
「あら、そんな事をしていいのかな?」
リリスがニタリと笑い笑顔をドーリーヨコへ向けた。
「聖女に剣を向けるなんて、自ら犯罪者だと認めているようなものよ。こんな浅はかな男が国のトップで、しかも魔王を倒した英雄だとほざいていたなんて笑えるわね。」
「「聖女だとぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」」
信じられない表情のドーリーヨコとボンクーラーが目をこれでもか!と見開きアイを見つめていた。
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