第26話 最凶夫婦、お仕置きを始める

「俺の功績を使ってずいぶん美味しい思いをしてきたようだな。そろそろ勇者の称号を返してもらうぞ。」


兜を脱いで素顔を晒したスザクが2人へニヤリと笑った。


「き!貴様はぁあああ!スザク!」


国王が叫ぶ。


「今更になってどうしてだぁあああああ!」


ニヤークも叫んだ。


さすが仲良し悪巧みコンビだ、息ピッタリで叫んでいた。



ブワッ!



スザクから強烈な殺気が2人へと向いた。











「うちの娘が色々と世話になってな・・・、そのお返しだよ。」











「む、娘だと!」

「貴様の娘なんか俺は知らん!」


「お前達が知っている知っていないなんてな、俺にとってそんなのはどうでもいい。俺の娘が受けた分のお返しはキッチリと返しておくからな。」


喚く2人を前にして、スザクがゆっくりと右手を掲げ人差し指を伸ばす。


「サンダーブレイク!」


ピシャァアアアアア!


バリバリィイイイイイイイ!


「「うひぃいいいいいいいいいいいいい!」」


青白い稲妻が天井から降り注ぎ、国王と団長へと降り注ぐ。


髪の毛がパンチパーマとなり、口からブスブスと煙を吐きピクピクと痙攣していた。



「「「あわわわぁぁぁ・・・」」」



部屋にいた3人の兵士はスザクから発せられる殺気で既に腰が抜けてしまい、部屋の片隅でガタガタと震えているだけしか出来ない。


そんな兵士にスザクが声をかけた。


「お前達、ここにいると巻き込まれてしまっても命の保証はしないぞ。逃げるなら今のうちだ。」


「「「うわぁあああああああああああ!」」」


いきなり兵士が慌てて走り出し部屋から飛び出していってしまった。


スザクはその光景を見てクスッと笑う。


「速攻で逃げていってしまったな。お前達を守ろうとする気は全く無さそうだな。どれだけ人望が無いんだ?普段のお前達がどんな事をしているか良く分かるよ。」


視線を2人に戻しニヤリと笑う。


「お前達のそんな性格だから、息子達も碌な躾を叩き込まれずに増長して、人様の娘を虐めるクソになってしまったんだろうな。」



「ま、待ってくれ・・・」


国王が目を覚ましスザクへと手を伸ばす。


「まさか・・・、お前の娘とは・・・」


スザクの視線が鋭くなる。


「お前のバカ王子がえらく執着していたようだったよ。そして貴様のバカ息子もな・・・」


「そんなの子供同士の事じゃないか!親が出しゃばるなんて馬鹿げているぞ!子供のした事にいちいち騒ぐなんてみっともないぞ!」

「そうだ!そんなのはモンスターペアレントと言うんだぞ!言いがかりもいい加減にしろ!」






「そうかい・・・」






スゥゥゥ・・・


スザクの周囲の温度が一気に下がってしまい、周囲に氷の槍がいくつも浮かび上がる。



「全身の骨折が16か所、特に頭蓋骨の骨折に脳挫傷、左肘の粉砕骨折が酷かった。しかも・・・、内臓も傷ついていたよ。これが貴様達息子がしでかした結果だ。分かるか?たかが子供がやった事?貴様達大人には責任が無いだと?」



ズドドドドドドドドドドドドドドォオオオ!



「「うぎゃぁあああああああああああ!」」



氷の槍が一気に2人へと降り注ぐ。


「はひぃ・・・、はひぃ・・・、し、死ぬ・・・」


「足が・・・、腕が千切れて・・・、痛い・・・、痛いよ・・・」



全身に大量の氷の槍が刺さり虫の息となった2人を、スザクは冷たい視線で見降ろしている。


「子の不始末の責任は親の責任、それすらもお前達には分からないのか?これがアイがお前達の息子に受けた痛みの一部だ。」



「ゆ、許して・・・」

「死ぬ、本当に死んでしまう・・・」



「パーフェクトヒール!」


2人の全身が白く輝くとあれだけの重傷の体が全快してしまう。



「は!痛くない・・・」

「腕が元に戻って・・・」



すかさず2人がスザクへと土下座をした。


「す、済まなかった!あのバカには俺からよく言っておく!もうお前の娘には手を出させない!」

「この通りだ!俺もアイツには絶対に手を出さないように注意させるから!」



スザクは腕を組み、冷たい視線で見降ろしている姿勢は変わっていない。

ゆっくりとある場所へ視線を移した。


スザクの視線でニヤークが部屋の隅でブルブルと震えている息子を見つけ、慌てて駆け寄った。


「貴様のせいでぇえええええええええええええええええ!」


「ぐひゃぁああああああああああ!」


ニヤークが息子を思いっきり殴っている。


「この!この!このぉおおおおおお!」


殴られ蹲っている息子の背をこれでもか!といった感じで、ニヤークがゲシゲシと踏みつけていた。


(見苦しいな・・・)



「こらぁあああああああああああ!」


ドガァアアア!


「げひゃぁああああああああああ!」


アリエスが勢いよく部屋に飛び込んできたと思ったら、助走を思いっきりつけてジャンプしフライング・ドロップキックをニヤークの顔面に炸裂させていた。


すごい勢いでニヤークが部屋の隅から隅へと吹っ飛んでいく。


(うわ!痛そう・・・)


顔面が陥没しているニヤークの姿を見て、思わずブルッとしてしまうスザクであった。


フライング・ドロップキックをぶちかましたアリエスがズンズンを肩を怒らせながら近づいてくる。


「ちょっとぉおおおおおお!スザクゥウウウ!さっきから見ていたけど、私の技を取らないでよ!本当はドロップキックじゃなくて、私がコイツにローリングソバットを喰らわせたかったのにぃぃぃ~~~~!」


どっちに転んでもニヤークの顔面強打は変わらなかった。

どちらかと言えば、助走の分、フライング・ドロップキックの方がダメージが大きいと思う。


「アリエス、だったらアレでどうだ?」


スザクが部屋の隅でガタガタと震えているニヤークの息子を親指で指差す。


「あいつもアイをかなり虐めていたからな。アレでアイの分のお返しをしたらどうだ?」



「そうね・・・」



ニィ~とアリエスが全く笑っていない顔で口角を上げる。



「貴様はアリエス!18年間も姿を見せていなかったのに、何で急に現れる?しかもだ!スザクもアリエスも!お前達!どうして18年前から姿が変わっていないのだ!貴様等は本当に人間のなのか?」


スザクがニヤッと笑い、アリエスと目を合わせる。


「それは企業秘密だ。どうしても知りたければ作者に聞け!」


身も蓋もない返事だった。



「そうそう、教皇からの言葉を伝えるぞ。」



「何だ?スザク、貴様は教会と繋がっていたのか?」


国王はスザクが教会とコネコネになっているのを知らなかった。

ここにアリエスと一緒にいる時点で普通は分かるはずだけど、色んな事で思考がテンパっていたので、そこまで頭が回らなかった。

ニヤークはまぁアレなので、分からないのは確実だけどね。



「18年前の魔王の討伐においての真の勇者は俺だってな。そして、俺とアリエスとの結婚も公式のものとなった。」



「バカなぁああああああああああああ!今更ぁあああ!そんな事を発表しても誰も信じないぞ!それ以前にだ!いくら教皇が決めようが、そんな重要な事は枢機卿の全員の賛成が必要なんだよ!そんなの誰が賛成する?俺が真の勇者なんだよ!世界は俺を讃える!これは絶対なんだよ!」



そんな国王の絶叫をスザクは涼しい顔で見ていた。


「おい、俺が何を持って来たのか分かっているのか?教会はお前達を偽物の勇者だと認定したんだぞ。」


そして、先ほどの書簡の封を開け、中に入っていた紙を見せた。


そこには・・・



『ミエッパリー王国国王ドーリーヨコ・ミエッパーリー


  勇者の名を騙り世界を騙した大罪人として教会より破門とする。』



「そ、そんなぁぁぁ・・・」


国王がガクガクと震えながらへたり込んでしまう。


「この件は世界中の教会から各国へと既に通達済みだよ。まぁ、ここまでシンプルな書簡じゃないけどな。俺が教皇からもらったこの書簡はな、頭の悪いお前でも分かるようにした文章だってさ。良かったな、ちゃんと理解出来てな。」



「あり得ない・・・、教会が俺を見限っただと?俺には協力者が・・・」



「そうそう、グロハーラとクヤークの枢機卿は既に地位を剥奪してあるからな。お前の教会内での味方は誰もいなくなった。これでお前は晴れて世界を敵に回したって事だ。」



「そ、そこまで手が回って・・・」



膝から崩れ落ちた国王がブツブツと何かを言っているが、スザクとアリエスは冷ややかに見つめているだけだった。


「コイツは昔から変わっていなかったわね。いっつも私とスザクに戦わせて自分達は後ろから見ていただけだったしね。そのくせ、酒場ではさも自分が魔族を倒しました!って言っていたわね。見栄だけは一人前だったわ。こんな男がよく18年も世界を騙せていたわね。あの戦いの後はそれだけ世界が平和だったという事なのね。」



「「!!!」」



2人の視線が一気に鋭くなる。



「がぁあああああああああああああ!」



後ろからニヤーク剣を握り突撃してくる。




「貴様さえ!貴様達さえいなければぁあああああああああああああ!ずっと世界は俺を讃えていたんだよぉおおおおおおおおお!それをどうしてくれる!貴様さえいなければぁあああああああああああああ!」




「見苦しいわね。ここで引導を渡してあげるわ。」


アリエスが拳を握り構える。


そんなアリエスの前にスザクが立った。


「ここは俺がやる。」


「スザク、どうしてよ!」


アリエスが詰め寄ろうとしたが、スザクが部屋の隅へと指を向ける。


「あのバカ息子が今の隙をついて逃げようとしているぞ。」


「あ!本当だ。じゃぁ、私はあいつをシバいてくるわ。私から逃げ出すなんて根性あるわね。まっ!無駄な努力なんだけどね。」


クルッと身をひるがえし、足音も立てずに駆け出した。



「さて、俺も頑張るとするか・・・」


スザクが拳を胸元で握り構えた。



「うわぁあああああああああああああ!」


ニヤークが突進し、スザクの目の前で剣を振りかぶった。


「死ねぇえええええええええええええ!」


「それは勘弁してくれ。」



シュッ!



スザクへと振り下ろされる剣を体を90°回転させ躱す。


ガキィイイイイイン!


「ぎゃっ!」


剣が虚しく空振りし、そのまま床にぶち当たる。

だけど、そこは石で出来た床だ。

漫画のように普通の剣が石を切り裂ける訳が無い。

思いっ切り剣を床に打ち付けたものだから、反動で手が痺れてしまう。


「隙だらけだぞ。」


ドガッ!


「がっ!」


スザクの左フックがニヤークの脇腹に突き刺さる。


「おごぉぉぉ・・・」


ここは肝臓がある場所で、そこに拳などの打撃を打ち込まれると一瞬息が出来なるくらいに痛い!

しかも、あまりの痛さに体の動きも止ってしまう。

化け物レベルのスザクの拳を叩き込まれたのだ。本気の一撃なら、多分、内蔵破裂で即死も可能だろう。

だけど、スザクは最大限の痛みを与え悶絶させる事にしたようだ。


今まで経験した事のない痛みにニヤークの体がくの字に曲がってしまう。


「ちょうどいい高さになったな。」


スザクが右拳を引き体を捻り溜めを作る。


「歯ぁあああ!食いしばれよぉおおお!」



ドン!



「がはぁあああ!」



スザクの右フックがニヤークの左頬に炸裂した。


「まだだ!」


右フックを受け顔が右に向いた瞬間!



ドム!



「ぐご!」



今度は右頬に左フックの拳が叩き込まれる。


ドン!


すぐさま右フックが左頬を襲う。



ドン!ドン!ドン!ドン!・・・



スザクの上半身が8の字を描くようにリズミカルにニヤークの顔面に左右交互にフックを叩き込む。


「ひゃめ!ひゃ!ぎゃ!げ!うがががが・・・」


終わりの無いフックの連打でニヤークの意識が飛びそうになるが、倒れる事を許してくれない。

意識を刈り取るか取らないかのひたすすら苦痛を与える地獄のようなフックの時間だけが過ぎていく。


(止め!止め!止めてくれぇえええええええええええええ!)


もう痛みでニヤークの心が壊れそうになっている。


このままでは本当に殺されてしまう。


そんな恐怖が全身に走るが、スザクのパンチがそれを許してくれない。

まだ意識が刈り取られていないので、必死に逃げ出そうと強引に倒れ込もうとした。


「甘い!」


ズドン!


「うがぁあああああああ!」


フックだけの攻撃だったのに、いきなりのアッパーがニヤークの顎を襲った。


そう簡単に地獄から解放させてくれなかった。



ズドドドドドドドドォオオオオオ!



更に激しくフックの連打はニヤークの顔面を襲っていた。



(止めて!もう止めてくれ・・・、頼む・・・、頼む・・・)



心の中でどれだけ祈ったのだろう。


意識が朦朧とし何も考えられなってくる。


「これでラストォオオオオオオオオオオ!」



ドォオオオオオオオオオオオオン!



強烈なアッパーがニヤークの顎を襲った。



「ぐぼぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」



錐揉み回転をしながらニヤークが天井へと打ち出された。


空中で一回転し、顔面から床へと落ちた。


グシャァアアアア!


ピクン!ピクン!と小刻みに震えているが起き上がる事は無かった。


スザクはアッパーを放った姿勢のまま腕を突き上げている。



「アイ、お前の仇は取ったからな・・・」






【お父さん!私は死んでないからぁああああああああああああああああ!】



どこかでアイの声が聞こえた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る