第25話 国王と団長、後がなくなる
「「はぁあああああああああああああああああ??????」」
国王と団長が素っ頓狂な声を出してしまう。
「オーチメが強制捜査?しかも全員逮捕だと?」
信じられない表情で国王が兵士に顔を向ける。
「はい!我々も先ほど連絡が入りまして、慌てて国王様へと報告に参りました。」
「まさか?」
国王が団長へと視線を向けた。
2人がそっと近づきコソコソと話しを始める。
「おい、ニヤーク・・・、これはどういう事だ?」
「いや・・・、俺にも分からん。教会の騎士達は俺達とは全く違うから動きが分からん。捕まったとなれば・・・」
「やはり・・、あの違法奴隷の件か?」
国王の視線が鋭くなる。
「多分な・・・」
ニヤークが小さく頷いた。
「しかもだ、オーチメの豚野郎は宰相とつるんで色々とコソコソしていたみたいだぞ。俺達騎士団から腕利きを何人も引き抜かれていったしな。あれは黒いどころか真っ黒だったぞ。」
「宰相とつるんでいたのは俺も知っていたさ。その線で宰相ルートで俺達が奴隷売買に関わっている事がバレたらヤバいぞ。俺の国王の地位も危ないかもしれん。」
国王が報告に来た兵士を睨んだ。
「おい!」
「は!はい!なんでしょうか?」
「宰相はどうした?こんな大変な事があって、なぜ俺のところに報告に来ていない。さっさと呼んで来い!大至急だ!」
「わ、分かりました!それでは宰相様をお迎えに行きます!」
国王に怒鳴られ、ビビりまくった兵士だったが、すぐに回れ右をして部屋から出ていこうとする。
「国王様ぁああああああああああ!」
別の兵士が真っ青な顔で部屋に飛び込んでくる。
「どうした!」
只ならぬ雰囲気に国王が兵士へとすぐさま怒鳴ってしまう。
「そ、それが・・・、宰相様が行方不明になっています!」
しばしの沈黙・・・
「「はぁあああああああああああああああ!」」
2人が信じられない表情で報告に来た兵士を見ていた。
「おい!どういう事だ!」
団長が報告に来た兵士の胸倉をつかんだ。
「どういう事と言われましても・・・」
「じゃあ!宰相はどこに行ったんだよ!」
「そ、それが・・・、朝になって宰相様が来られなかったものですし、どこかに行かれる予定も入っていませんでした。心配になって宰相様の部下の人が屋敷に行ったのですが、屋敷中が大慌てになっていました。何とか筆頭執事に会う事が出来たのですが、その者からの話によると昨夜から宰相様が行方不明だと言われ、しかも、屋敷にいた私設騎士団の騎士全員も行方不明になってしまったと・・・」
「何だと・・・」
あまりにも信じられない話で、ブルブルと団長が震えてしまっている。
「だったら!」
国王も立ち上がり、最初に報告に来た兵士を睨んだ。
「学園にいる理事長に連絡を取れ!」
(ガメツは元々は俺達勇者パーティーのメンバーだ!オーチメも宰相も役に立たないならアイツに頼むしかない・・・、アイツに頼むと金がかかるからあんまり頼みたくないけど、緊急事態だ!背に腹は代えられん!」
直後に
「国王様ぁああああああああああ!」
またもや1人の兵士が部屋に飛び込んできた。
((まさかぁあああああああああああ!))
とっても嫌な予感が2人の脳裏に走る。
ドーリーヨコ・ミエッパーリー国王
(大丈夫だ・・・、いくら何でもこれ以上は立て続けに問題が起きる訳がない・・・、俺はこれからも世界に尊敬されるんだよ!こんなことで躓く訳にいかないんだ!)
ニヤーク・タータナイ団長
(何でこうなった?18年間も俺は世界最高の騎士と称賛されてきたんだぞ!俺はこんなちっぽけな国の騎士団の団長に納まる器じゃないんだよ。俺はもっと大きな国の団長になるんだ!勇者パーティーの肩書があり続ける限りなぁあああああ!)
お互いにしっかりとゲスだった。
「どうした!」
「学園が!学園が一斉捜査を受けています!」
「「何ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」」
(ガメツのバカ野郎!一体何をやらかしたんだよぉおおおおおおおお!)
心の中で盛大に舌打ちをしている国王だった。
「学園に何があったんだ!ガメツはどうした?」
「そ、それが・・・」
兵士が言い淀んでいる。
「えぇええええええええええい!はっきりと答えるんだ!」
「は!はい!」
国王に怒鳴られ兵士がビシッと敬礼をする。
「恐れながら申し上げます。学園では理事長のローイエ・ガメツ様を始め、教職員の大半が教会からの寄付金を横領し、裏金として貯めていたようでした。その帳簿が昨日教会の査察官の手に渡り、横領の罪で告発され強制調査に入られた次第です。しかも、上位貴族からの学園への賄賂なども露見してしまい、その点も含めて徹底的に捜査が行われている様子です。」
「貴族からの賄賂だと?」
「はい!学園には国民は全員が入学出来ますが、学園内での成績に関してはどうしても順位というものが存在します。上位貴族のみなさんは自分の子供の成績が低いというのは大変な恥とという事で、教師に賄賂を渡しテストの問題の漏洩や成績の改ざんなどが日常的に行われていた資料も発見されています。その件での不正も一緒に捜査が行われているとの事です。」
国王と団長が寄り合いヒソヒソと小声で話す。
「おい・・・、これはマズいのでは?こうなれば我が国の貴族達も一斉にやられてしまうぞ。このままでは・・・、ん?ニヤーク、どうしたんだ?」
団長が額から汗をダラダラと流している。
「お前、まさか?お前の息子も成績改ざんの賄賂を贈っていたのか?」
国王の言葉に団長がごくりと唾を呑む。
「国王・・・、白状します。俺のバカ息子は実技だけは成績は良かったのですが、筆記の成績は壊滅的でした。」
団長がダラダラと汗を流し、声を絞るようにして国王に自白していた。
「勇者パーティーの騎士ニヤーク・タータナイの息子の成績が悪いとは誰にも言えないじゃないですか・・・、魔王を倒した勇者パーティーの騎士の息子だと自慢気に周りに言い回っているんです。そんな息子の成績も良くしておかないと、俺も恥をかくんです。成績が良ければ周りは何も言えないですからね・・・」
急に恭しい態度になってボソボソと話している。
そんな話を聞いていた国王がクワッと目を見開き団長の襟を掴む。
「ニヤーク!貴様もかぁあああああああああああああああああ!」
「お取込み中失礼ですが・・・」
先ほど学園の報告を行った兵士が恐る恐る声をかけてきた。
「「何だ!」」
2人が同時に兵士へ強烈な視線を向けながら圧力をかけてきた。
「そ、それが・・・、学園に関しては続きがありまして・・・」
「はぁああああ!まだあるのか?」
「ガメツ!どれだけ問題を起こせば気が済むのだ!」
2人が自分の事を棚に上げて激高している。
「理事長でもあるローイエ・ガメツ様ですが、昨日より行方不明となっています。」
「「アイツもかぁあああああ!」」
思いっきり2人が顔を見合わせてしまう。
(どういう事だ?ガメツまでもが行方不明だと?貴様、何か知っているのか?)
(いやいや!国王、俺も知らん!昨日は本当に何があった?)
2人の心が通じ合った瞬間だった。
「アイツもとは?他にも誰かが?」
国王の言葉に兵士が不思議そうに2人を見ている。
「いいや!この言葉は忘れてくれ。」
国王が慌てて手を振り誤魔化すのに必死だ。
「それでは報告を続けます。学園の不祥事の件で冒険者ギルドも動き、既に理事長の個人資産が全て凍結及び没収となりました。しかも、学園の状況から彼女の人間としての資質には非常に問題があるとの判断が教育委員会で行われ、かつての魔王を倒した名誉をはく奪、記録からも削除するとの決議がありました。18年前に魔王を倒した勇者パーティーに対しての疑念が出ています。『本当に魔王を倒したのか?』と・・・」
((ドキィイイイイイイイイイイイイイイイイ!))
2人にとって今の言葉は心臓を直接鷲掴みにされたかように思えてしまう。
((ヤバい!ヤバい!ヤバぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!))
全身がずぶ濡れになる程に汗が出てくる。
(何でだ?今まで18年間何も無かったのに・・・、何で急にこんな事が起きる?)
「「まさか!」」
2人が再び顔を見合わせてしまった。
頭の中には2人の男と女の姿が思い出された。
「まさかなぁ・・・、18年経った今更動き出してもなぁ・・・」
「確かにアイツは聖女と同じくらいに化け物みたいに強かった。だけど、強いだけで何も後ろ盾のない男が出来る事か?」
「教会も教会だ、今まで何もしてこなかったのに、今更動いてもな。今じゃ俺達が世界を救った勇者として認定されているんだぞ。どんな手を使ってもそれだけは覆る事はないはず。それこそ、教会がヤツに全面的にバックアップしないとな。」
「だが・・・」
国王がニィ~~~と笑う。
それに釣られてニヤークも笑った。
「教会の3人の枢機卿の2人は俺達と裏で通じているんだ。いくら教皇が騒ごうが、枢機卿2人の賛成が無ければどうにもならんはず。そして、そいつらは教皇を引きずり下ろす算段を持っていたはず。くくく・・・、教会をも支配下に置けば俺に怖いものはない!もう少しだ、もう少しで俺が世界の覇者になれるんだよ!」
色々と不穏な話もあったけど、最後は自分達の立場が揺らぐ事はないとの謎の自信で納得していた。
だけど・・・
世の中、そんなに甘くは無かった。
「国王様ぁああああああああああ!」
4人目の兵士が飛び込んできた。
「どうした?また何か問題でもあったか?」
流石に4回目の事になれば慣れてしまったので、最初に頃に比べそう驚く事が無かった。
「教会からの通達です!」
兵士が何やら書簡を大事そうに抱えているではないか。
しかも、教会からの通達ときたものだ。
「教会からだと?」
国王にとっては一番聞きたくない名前だったりする。
そして兵が持っている書簡も気になっている。
その中身は絶対に自分に対してのものに違いない!
今までの流れで最悪の予想をしてしまう。
その中身には何が書かれているのか・・・
「おい!これを寄越せ!」
「ダメです!これはあなた方に教会の決定事項をお伝えし、お伝えした事の証明として教皇様へと返却するものです。ですから、絶対にお渡し出来ません。」
「貴様ぁあああああ!たかが一兵卒が俺に口答えをするぅうううううううううううう?俺は誰だか分かって言っているのか?俺はなぁあああああああ!18年前に魔王を倒した勇者パーティーリーダーのドーリーヨコ・ミエッパーリーだぞ!世界で一番強い男なんだよ!そんな俺に逆らうってのか?この身の程知らずがぁあああああああああああああああああああ!」
国王の目が血走り、兵士へと飛びかかった。
ヒョイ!
軽やかなステップで兵士が国王の突進を躱す。
躱されてしまった国王は勢い余って躓き、床を無様にゴロゴロと転がってしまった。
「貴様ぁあああああああああああああ!」
今度はニヤークが腰の剣を抜き切りかかってきた。
「素手の人間に剣で切りかかるか?危ないなぁ・・・」
兵士がダン!と一歩右足を踏み込む。
同時に右腕も前に突き出し、裏拳を剣を握っている手にぶち当てた。
「がぁあああああ!」
あまりの痛さにニヤークが剣を離してしまう。
「き、貴様ぁあああああ!何者・・・」
男は踏み出した右足を軸にして体を右方向へと回転させて、ニヤークに背中を向けた状態になったところで軸足を左足に切り替え、真上にジャンプをし、体を右方向へと更に軽く捻りながら右足を振り上げて、右足の裏でニヤークの顔面に叩き込んだ。
「ひぎゃぁあああああああああああああああ!」
十分に全身の捻りを加えた空中後ろ回し蹴りだ。
巷ではローリング・ソバットとも呼ばれている技だったりする。
顔面に蹴りを喰らったニヤークは、派手に転がりながら国王の隣で止まった。
「ぎ、ぎ、ぎざまぁぁぁぁぁ・・・」
鼻血をダラダラと流しながらニヤークが起き上がり、血走った眼を男に向ける。
「18年振りだな・・・」
その言葉に2人がピクンと震える。
「「ま、ま、まさか・・・」」
「俺の功績を使ってずいぶん美味しい思いをしてきたようだな。そろそろ勇者の称号を返してもらうぞ。」
兜を脱いで素顔を晒したスザクが2人へニヤリと笑った。
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