第24話 ミエッパリー王国、破滅のカウントダウン

「おじいちゃあぁああああああああああん!」


アイが泣きながら教皇へ抱きついた。


そんなアイの頭を教皇は優しく撫でる。


「心配させてすまんな。」


「無事なら無事ですぐに出てくればこんなに心配しなくて済むのに・・・」


ジト目でアイが教皇を見上げているけど、そんな仕草のアイも可愛いと思う爺バカの教皇だったりする。


「いやぁ~~~、あの斬撃はなぁ、丁度いいマッサージと同じくらいだったものでな、思わず眠気が襲って耐えられずに眠ってしまったわけじゃ。ふはははははぁああああああああ!」


誤魔化すように笑いながら頭をポリポリと搔いていた。

まるでラ〇ウのような出で立ちの教皇にその姿は似合わないと、回りが思っていたけどあえて黙っている。



そんな言葉を聞いていたラファエルはというと・・・


「私の全力がマッサージレベルって・・・、第1席と2席の差はどれだけ開いて・・・」


「はいはい、落ち込む元気があるなんて追加お仕置きしないとね。」


うつ伏せに組み伏しているラファエルを今度は仰向けにした。


「ア、アリエス様!な!何を?」


「ふふふ・・・、まだまだ元気そうだし、もう少し心を折ろうかなってね。」


とっても嬉しそうにアリエスがウインクをする。


仰向けになったラファエルの片足のひざ裏部分に対面にある自分の足を差込んで相手の足を地面と水平に折りたたみ、両手で相手の足首とつま先をつかんでそこからテコの要領で膝と足首を極める。


「ひぃいいいいいいいいいいいいいい!痛い!痛いですぅううううううう!」


悲鳴を上げているラフェエルだったが、アリエスがまたもやニィ~~~と笑う。


「さぁあああ!仕上げよ!」


アリエスはこの体勢から差し込んだ足を軸にして自ら回転し、その勢いでさらに極める。


「ひぎゃぁああああああああああああ!足が!足がぁあああああああああ!」


ただでさえ足4の字固めで甚大なダメージを受けていたのに、更にスピニング・トー・ホールドでダメージの上乗せをされてしまっていた。


しかぁあああし!


ドSクイーンのアリエスにとってはこれはまだまだだったようだ。


「トドメぇえええええええええええええ!」


スピニング・トー・ホールドの体勢から流れるように再び足4の字固めを極めた。


「またぁああああああああああ!許して!本当に許してぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」


ドSに鬼畜!

相手の尊厳を根本からたたき折る!

歴代最強聖女と呼ばれる由縁でもあった。



ラファエルさん



南無・・・




「本当に心配したんだよ!おじいちゃんのバカ!」


プリプリと可愛く怒っているアイの姿がとっても可愛いと、目に焼き付けていた親バカのスザクとアリエスだったりする。


「すまん!すまん!だけどな、儂らも昨日から一睡もしないで昨日のお主たちの後始末と今の祭典の準備をしてきたんだから、少しは労って欲しいのぉ。」


「だからか、ガブリエルとサンダルフォンがいないのは。」


スザクが腕を組んでウンウンと納得したように頷いていた。


「あの2人はちょっと働かせ過ぎたな。さすがに式典直前まで不眠不休で働いていたし、疲労のピークを迎え準備が終わったと思って気が抜けてしまったのか、バッタリと倒れて気を失ってしまったぞ。あいつらに教会はブラック職場と言われないか心配じゃな。かかかかかぁあああ!」


教皇がどこかの元副将軍のような笑い方をしていた。


教皇は笑って誤魔化しているけど、それは間違いなく教会はブラックな職場だと断言出来ると確信したアイだった。



「それで、アレは?」


アイが天井に出来てしまった汚い染みを指差した。

染みと言うよりも、上半身が天井にめり込む、下半身だけが飛び出して見えている状態だ。

枢機卿の小豆色の法衣が偶然にも染みに見えるだけだけど・・・


「どうやら生きているみたいだね。時々ピクン!ピクン!ってなっているしね。」



「仕方ない・・・」



教皇がポキポキと拳を鳴らし天井のグロハーラへと目を向けた。


「トドメついでに証拠隠滅じゃ。完全に天井の壁にめり込ませてから塗り込んでやろう。」


「ちょ!ちょっとおじいちゃん!今の聞き捨てならない言葉が聞こえたよ。こんなに見られている中で完全犯罪をしようなんて恐ろし過ぎるよ!」


「大丈夫じゃ、信者様はみんな儂の味方だしな。証拠隠滅にもみんな協力してくれるぞ。」


「はぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


教会って、本当にどんな組織なの?

学園でも教皇は不穏な事を言っていたし、今まで信じていた教会像が音を立てて崩れそうになっているのを必死で持ち堪えていた。



「でも、アレってそのままにしておけないわね。」


アイが腕を組み見上げていた。



「はぁぁぁ~~~、仕方ないわね・・・、いくら悪党でも私の前で人が死ぬのは認めないわ。」




バサッ!


「「「おおおぉおおおおおおおおおおおおお!」」」


信者達の声が響いた。


アイの背中に大きな白い翼が生える。


シュン!


フワッと浮かび上がったかと見えたが、一気に天井のグロハーラが埋まっているところへ飛んでいった。


天井から飛び出している下半身の足を無造作に掴むと、


「ふん!」


軽々と引き抜いてしまった。


そのまま床へと降りて、グロハーラを床に置いた。



「うわ!グロ!」



今のグロハーラの顔は見るも無惨で、名前通りにグロい状態となっていた。

(モザイク必須)


ジロッとアイが教皇を睨む。


「おじいちゃん、いくら何でもやり過ぎ!」


そんなアイの視線に教皇は耐えられず、顔を逸らしポリポリと頬を搔くだけだった。


アイちゃん強し!



「パーフェクトヒール!」


アイがグロハーラに手をかざし回復魔法をかける。



「・・・」



瀕死だったグロハーラが目を覚ましアイと目が合った。




シュパーーーーーーン!




凄まじい速さで起き上がると、いきなり深々と土下座をした。





「女神アイ様ぁああああああ!私は一生あなた様の下僕として生涯忠誠を誓うことをお約束します!」








「はい?」






アイに奴隷が出来た瞬間だった。



そして、もう1人の奴隷も・・・


「アリエス様ぁぁぁぁぁ~~~~~、もっと!もっとぉぉぉぉぉ~~~~~~」


「やってしまったわね・・・」


アリエスがこめかみを押さえプルプルと震えていた。


「どうやら開けてはいけない扉を開けてしまったみたい・・・」


彼女の足下にはドMに目覚めてしまったラファエルが「はぁはぁ」と熱っぽい視線で見上げていた。



「お母さん、自業自得よ。」






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






ミエッパリー王国、王城



「ボンクーラ、昨日、学園から帰ってきてから変だぞ。何かあったのか?しかも、今朝になっていきなり学園を休むと言い出すしな・・・」


ボンクーラが自分の部屋のベッドの中に蹲り一歩も部屋から出ようとしない行動に、父であるドーリーヨコ国王は部屋に入って息子の様子を見に来ていた。


「私は悪くない・・・、悪いのはリヴィアであって・・・、私は何もしていないんだ・・・」


昨日からこのセリフをうわごとのように呟いている。


昔から王子という事で甘やかされて育ってきた彼だ。アイを虐めている間は、自分達は王族で平民であるアイの事など、言う事を聞かせたい欲望だけが自分達の頭の中を支配していた。

しかし、リヴィアがアイを階段から突き落としてしまい、転がり落ちたアイの惨状を見て、自分達が『もしかして人殺しをしてしまったのかも?』とビビりまくってしまっていた。

アイに対する罪悪感というものは無く、ただ自分が犯罪者の一員になってしまうのでは?との恐怖で学園にも行けず、部屋に閉じ籠もってしまった訳である。

王子である自分の立場が悪くなるのでは?と、そんな事ばかりが昨日から不安でいられない、そんな自分だけしか考えていないクズだったりする。


「何も喋らないとはな・・・」


国王が溜息をする。


「ボンクーラよ、話したくなったら使いを寄越すがいい。いつまでもこうしていては皆に示しがつかないからな。お前は魔王を倒した勇者である俺の息子だからな。常に堂々としていないといけないからな。」


そう言って国王が部屋から出て行く。


(本当に何があった?)


そう思いながら執務室へと歩いていった。




国王が部屋にいると・・・



コンコン・・・



扉がノックされた。


「入れ。」


すぐに扉が開いたが、扉の先にいる人物に驚いてしまう。


「ニヤーク、何をしにここに来た?今の時間は騎士団の訓練の時間だぞ。こんな時間ににお前がここに来たという事は・・・」






「何があった?」






鋭い視線でニヤークと呼んだ男を睨んだ。

そして、ニヤークの後ろに若い男がいるのに気付く。


「こいつは?お前の息子じゃないか。今の時間は学園だろうが、一体どうした?」


「あぁ・・・、コイツがお前の息子とオーチメの娘と一緒になってとんでもない事をしでかしてな・・・」


騎士団団長であるニヤーク・タータナイが国王に対してタメ口で話している。

元々は彼らは18年前に勇者パーティーとしてスザク達と魔王討伐の旅をしてきた連中だ。今は国王と騎士団長という肩書きがあるが、非公式の誰も回りにいない時は昔のように話している。


「一体何をした?」


国王の視線が鋭くなる。


「お前のところの息子が学園で平民の娘に熱を上げているって話は覚えているか?」


「あぁ、王族が平民の娘の尻を追いかけているって話だろう?誰に似て女のケツばかり追いかけているんだか。」


(それはお前だろうが!)


と、突っ込みたいと思ったニヤーク・タータナイであった。


「それがな、俺のこのバカ息子も惚れてしまってな。」


「まさか?」


「そうだ、お前の息子と取り合いになったみたいだぞ。その時にオーチメの娘が引っかき回してな、その平民の娘とオーチメの娘が言い争いになって、平民の娘を階段から突き落としたと・・・」


「はぁ?」


国王が思わず間抜けな声を出してしまった。


「それでその娘はどうなった?」


「コイツに聞いたら相当な重傷のようだったと。もしかして死んでるかもしれないとも言っていてな・・・、幸い誰もいなかったと言っていたけど、万が一誰かに見られたとしたら・・・」


2人の視線が団長の息子へと注がれる。

視線の圧力の恐怖でガタガタしていたのが更に震え出す。


「ち、父上・・・、実は・・・教師の1人に遠巻きに見られていました!もしかして俺達がやったとバレてしまうのが怖くて・・・」




「このバカ者がぁあああああああああああ!」




グシャァアアアア!


「げひぃいいいいいいいいい!」


団長が息子の顔を殴り、息子がゴロゴロと部屋の中を転がっていく。


「何て事をしてくれた!最悪、王子達が殺人を犯した事となったらどうする?魔王を倒した勇者として世界中に讃えられている俺達の経歴に泥を塗るつもりか!これからも世界で最も敬われるはずなのに!貴様はぁああああああああああ!」


「ニヤークよ!すぐにオーチメへ連絡しろ!すぐに手を打ってこの件は闇に葬るのだ!息子の名誉は俺の名誉だ!絶対にこの事件を表に出してはいかん!」



とことん自分達の立場しか考えていない連中だった。



いきなり部屋のドアが開けられる。



「国王様ぁあああああああああああ!」



1人の兵士が血相を変えて部屋へ飛び込んできた。


「どうした!そんなに慌てて何があった!」


「国王様!そ、それが・・・」






「オーチメ公爵家が!昨夕、教会の強制捜査が入り、全員が逮捕されてしまいました!」





「「はぁあああああああああああああああああ??????」」

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