第20話 教皇、枢機卿を物理的に分からせる③
(どうなっているんだ?)
グロハーラの額には大量の汗が噴き出ている。
(私の計画は完璧なはずなんだ!だが、あのスザクの強さはなんなんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!テンプル・ナイツが子供扱いで折りたたまれる?もしかして・・・、聖女よりも強いのか?)
またもやシタッパーへと目を向ける。
「!!!」
(い!いない!)
「あいつめぇぇぇ~~~~~~、どこに逃げやがったぁぁぁ~~~~」
肝心のシタッパーの姿が見えず、苛立ちと不安でガタガタと震え出してしまう。
(こうなれば、聖女をぶつけるしか・・・)
袖の中に隠してある隷属の首輪の制御宝玉を握り、起動の魔力を流し込もうとする。
「父上、どうされたのですか?」
いつの間にかグロハーラの隣に騎士が立っている。
その騎士は腰まである長い金髪をポニーテールで束ね、海よりも深い青色の瞳をグロハーラへ向けていた。
金色に輝く鎧を装備しており、アリエスにも劣らない美貌の女性騎士だった。
「あぁ・・・、計画外の事が起きた・・・、あのスザクがここまでとは思わなかったのでな。だが、いくら強かろうがお前の敵ではないと思っている。ラファエルよ、お前があのスザクを倒せ。分かったか?」
ブワッ!
女性騎士から凄まじい殺気が溢れ出る。
「父上、私が負けるとでも思っているのですか?」
グロハーラは息が出来なくなるほどの殺気をぶつけられたが、これならスザクに勝てると確信しニタリと笑う。
「頼んだぞ我が娘、ラファエルよ。第1席が存在しない今、お前がテンプル・ナイツ最強の騎士だからな。負ける事はあり得ん!がはははぁああああああああ!」
女性騎士ラファエルがユラリとスザクへと顔を向ける。
「あれがアリエス様を私から奪った男・・・」
しかし、視線をスザクから教皇へと移した。
「その前に父上が教皇になる為にも邪魔な存在を片付けないとな。」
フ・・・
いきなりラファエルの姿が掻き消える。
「な!」
直後に教皇の驚きの声が響いた。
一瞬でラファエルが教皇の前に立った。
「父上の悲願の為、恨みはありませんがそのお命頂戴します。」
グッと腰を屈め剣の柄を握った。
シュバババァアアアアアア!
「ぬぉおおおおおおおおおおおおおお!」
教皇の前に幾筋もの光の筋が走り、直後に教皇が叫ぶ。
「おじいちゃん!」
アイが叫んでしまう。
教皇は全身を切り刻まれながら祭壇へ吹き飛ばされる。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアア!
大きな破壊音が響き祭壇がガラガラと音を立てて崩れ落ちてしまう。
教皇は崩れてしまった瓦礫に埋もれてしまい姿が見えない。
ラファエルが抜いた剣を腰の鞘にゆっくりと戻す。
「我が剣は光をも断ち切る剣。この剣の前に生き残る者はいない。」
「いやぁああああああああああああああ!」
ブワッ!
アイから強烈な殺気が沸き上がった。
あまりの殺気に銀色の髪が舞い上がってしまう。
「よくも・・・、よくも・・・、よくも!おじいちゃんをぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
拳を握りしめアイがラファエルへと駆け出そうとしたが、
「アイ!待ちなさい!」
アリエスがアイの肩を掴む。
「なんでよ!お母さん!止めないで!おじいちゃんの仇を討つの!」
「だから落ち着きなさい!」
アリエスが怒鳴ると、その迫力に押されアイが静かになった。
「落ち着いた?」
「うん・・・、でも、おじいちゃんが・・・」
「アイ、今のあなたは聖女なのよ。そして、あなたは粛清相手を既に決めたわ。だから、その相手を先にシバいてからにしなさい。一時の感情で相手に逃げられてしまったらどうするの?聖女の初仕事、分かっているわね?」
「うん・・・、じゃあ・・・、アイツを速攻でぶちのめす!」
「よろしい。だったら、私があの女を相手にするわ。」
「お母さんが?」
「えぇ、教皇を切る前に一瞬私を見たのよ。私を意識しているのは確かね。それにね、あの子は私も知っているし、きちんと教育しないといけないと思うわ。それが出来るのは私だけよ。教育中に死んでも知らないけどね。うふふ・・・」
(怒ってる・・・、お母さん、マジで怒ってるよ・・・、あの女騎士終わったわね。)
アイが心の中で合掌をした。
「アイ!」
アリエスの声にアイが彼女へ向く。
「悪人には聖女の天誅をお見舞いよ。徹底的に再起不能になるまで心を折ってね。みんなに回復の恩恵を与えるだけじゃない、これも聖女の仕事。聖女が人類最強だと言われる理由よ!さぁ!行くわよ!」
「うん!お母さん!」
2人が一気に飛び出した。
(マズい!マズい!マズい!聖女が動き出したぁああああああああああ!)
意外と小心者のグロハーラは内心かなりビビっている。
袖の中にある宝玉を握りしめた。
(しかし!私には切り札があるんだ!Aランクのモンスターといえども自在に操る事の出来る!この隷属の首輪がある限りなぁああああああああ!いくら聖女だろうがたかが人間!私の命令の前には単なる操り人形に成り果てるのだ!)
宝玉を取り出し魔力を流そうとした。
「アイ!これは邪魔だから取ってね。」
アリエスが首のチョーカーを摘まんだ。
「うん!分かった!シタッパーおじさんが必死に着けて下さいってお願いされたけどね。まぁ、そうすれば腹黒おじさんを騙せるとも言っていたね。」
「そうよ、機能は完全に止まって単なるチョーカーになっているけど、似合わないものを着けてもねぇ~~~、まぁ、機能していても私達には全く効果は無いから無駄なんだよね。私達を操れると思っている誰かさんには悪いけど思惑を外しちゃったね。まぁ、聖女をどうこうしようする事自体が不可能なんだけどね。」
そう言って、アリエスがチラッとグロハーラへ視線を移す。
(な!なんだってぇええええええええええええええええ!)
今までの中で最高に汗がドバドバと流れる。
(そ!そんなの嘘だろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!シタッパーが裏切っていたって・・・、だが!まだ希望はある!私の娘も含めてテンプル・ナイツはまだ4人もいるんだ。教皇は娘が殺した!後はスザクと聖女さえ何とかすれば!娘よ!お前が最強だと見せつけてやれぇえええええええええ!)
グロハーラの計画がガラガラと音を立てて崩れてしまっていたが、最早、もう後戻りは出来ない。
聖堂内の信者達の前でやらかしたクーデターなので、失敗=死、かつての前教皇時代に影に徹していた時のように逃げる事は出来なくなってしまった。
唯一の希望は教皇を自分達が倒した。
自分達が生き残れば次の教皇になれるチャンスだけはある。
だが!自分達が生き残る為の手段は、スザクを倒し聖女2人を従わせるしか道は無かった。
藁にも縋る思いでテンプル・ナイツ達の勝利を願っていた。
(私が勝ち組なんだよ!私がこの教会の真の支配者になるんだ!そして、影から世界を操るんだよ!)
アリエスとアイが首のチョーカーをむしり取り無造作に捨てる。
グロハーラ達はまだ勝てるとうっす~~~~~~~い!希望を持っていたが、この瞬間が最後の希望も砕け散った瞬間だったとは気付きもしなかった。
ザッ!
アリエスがラファエルの前に立った。
「ラファエル、大きくなったわね。あんまりにも美人になっていたから気が付かなかったわよ。」
「アリエス様にそう言っていただけるとは・・・」
「本当に大きくなったわね。私の記憶じゃ8歳くらいのあなたしか覚えていないのにね。私も小さい時のあなたとよく遊んだわね。そんなあなたがこんなに大きく綺麗になるって、年月が経つのは一瞬だと思うわ。」
「アリエス様も18年前から全くお変わりなく、私が崇拝するにふさわしいお姿で、もう・・・」
(ん?)
アリエスがラファエルの様子が変だと思い始める。
「はぁはぁ・・・、私、もう我慢出来ません・・・、アリエス様の全てが欲しい・・・、アリエス様は私だけのもの・・・、誰にも渡さない・・・」
「はぁ?」
ラファエルの息がどんどんと荒くなり、頬に赤みが差してきたのだが、目つきがとっても怖い。
殺気ならまだ良かったけど、これは殺気とは違い、ある種の病気の視線だと直感した。
(これってリリスより質が悪いわね。まさか、この子ってアレなの?)
「アリエス様!どうしてですか?私という者がいながら男に走るなんて!しかも!子供がいるって事は、もうあなた様は穢れてしまったのですね・・・」
「はい?」
(やっぱり、この子ってアレ?)
「私がアリエス様を浄化しますよ。私のアリエス様への愛が、あなた様を元の穢れないお体にしてあげます。さぁあああああああああああああああああ!私の胸に飛び込んで下さい!一緒に天国へと行きましょぉおおおおおおおおおおお!」
「はぁ~~~~~~」
アリエスが思いっきりため息をする。
「あんたを見ているとリリスはまだ可愛いと思うわ。あれはあれでぶっ飛んではいるけど、自分の価値観を無理やり押し付けてくる事はなかったわ。でもね、あなたは最悪よ。男に興味はなく、同性に愛情を求めているのね。それは個人の自由だから私は何も言わない。でもね、あなたは一方的に押しつけようとしてばかりで人の話を聞こうとしない。私はスザクが好き!世界で一番誰よりもスザクが好き!私とスザクを引き裂こうとする奴は絶対に許さない!私とスザクの愛の力!見せてあげるわ!」
グッと構えるアリエスに対し、ラファエルも剣を構える。
「テンプル・ナイツ第2席、閃光のラファエル、聖女アリエス様の目を覚ませてあげます。そして!あなたと一生添い遂げるのはこの私!この戦いに勝って証明させます!」
アリエスはニヤリと笑う。
「私に勝つなんて大きく出たわね。」
ラファエルも同じようにニヤッと笑った。
「あなた様が教会を離れて18年、私はひたすらあなた様に追いつこうと頑張ってきました。そして、とうとう・・・」
シュン!
チッ!
アリエスが軽く首を傾けると、銀色の髪の毛が数本ハラリと宙を舞う。
「なかなかね・・・」
いつの間にかアリエスのすぐ目の前にラファエルが剣を突き出した姿勢で立っている。
その剣はアリエスの頬のすぐ横で止められていた。
「あなた様のご尊顔を傷つける訳にいきませんから、今のは単なる威嚇です。」
「確かにね。殺気も何も乗っていない剣だったし。外すのは分かっていたわ。」
「さすがですね。ですが・・・、次は本気であなた様を切ります。即死でなければあなた様は聖女、ご自分で傷を治せますからね。死なないように手加減して差し上げます。私のあなた様の想い!この剣に乗せてぇええええええええええ!」
ラファエルの剣を握っている右腕が肩から先が見えなくなった。
あまりもの光速の剣さばきで見えなくなったと錯覚してしまう程だった。
「ライトニング!ブレード!」
銀色の幾条もの閃光がアリエスの周囲に浮かぶ。
「くだらないわね・・・」
ビシッ!
「そ、そんな・・・、光すら追い越す私の剣を見切っただと・・・」
アリエスが右手を前に突き出している。
その右手の掌をラファエルへ向けているが、ラファエルは目の前の光景を理解するのに少し時間がかかった。
それもそのはず、絶対的な自信を持った見切り不可能な斬撃を、アリエスが見切って剣を受け止めていたからだ。
しかも!その受け止め方が信じられなかった。
光速の剣を人差し指と中指で挟んで受けとめている。
「な、何かの冗談よね?こんなの人間じゃない・・・」
パキィイイイイイイ!
受け止めた剣を、今度は左手の掌を刀身に素早く当て剣を叩き折る。
直後に甲高い音が響くと、剣が半ばから折れ刀身が宙に舞った。
「そ、そんな・・・」
ラファエルが驚きで一瞬棒立ちになった。
その隙をアリエスが見逃すはずがない!
バッ!
一瞬でアリエスがラファエルの後ろに回り、胴体を両手で抱え込み持ち上げた。
(これはバックドロップの体勢!)
アリエス大好きラファエルは幼少の頃からアリエスの必殺技を目にし、深く頭に刻み込んでいる。
だから、今、自分がかけられた技が何かであるのか瞬時に理解する。
(アリエス様のバックドロップからは絶対に逃げられない!このまま後頭部を床に叩きつけられてしまう!ならば!ダメージを最小限に抑えるには・・・)
咄嗟に両手を後頭部に当て、直撃のダメージを抑えようと防御した。
しかし!
「バックドロップから~~~~~~~~~~のぉぉぉ」
(はい?)
後ろに倒れ込むかと思っていたラファエルだったが、持ち上げられた瞬間、急に自分の体が真下へと急降下するのを感じる。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!
「アトミックドロップゥウウウウウウウウウウウウウウ!」
一瞬の静寂が漂う。
直後に
「うぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ラファエルの悲鳴が響いた。
バックドロップで後頭部にダメージを受けるものだと思っていたのに、持ち上げてそのまま急降下でアリエスの膝にラファエルの尾てい骨をぶち当てたのだ。意識が上ばかりに向いていた為に、下半身への攻撃は全く頭に入っていない。
不意打ちのように攻撃を喰らってしまったので、ラファエルの下半身のダメージは計り知れない。
「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
憐れ・・・
アリエスにも劣らない美貌のラファエルが尻を押さえ、クシャクシャな顔で涙を流しながら床を転がり回っている。
美人が台無しになってしまった。
だけど、これは実際にやられると本当に痛い!
今のラファエルと同じようになってしまう。
遊びでも絶対に真似をしたらダメだからね。
「尻がぁあああああああああああ!尻がぁあああああああああああ!あぁああああああああああああああ!」
そんなラファエルの左足をアリエスがムンズ!と掴み仰向けにさせた。
左足を持ったまま体を回転し、相手の右膝のあたりに取った左脚の脛を上に乗せる。
その上から自分の左脚をかぶせるようにロックした。
まさに鬼畜!
アリエスは尾てい骨割りで大ダメージを負って戦闘不能となったラファエルに対し、トドメに足4の字固めをかけ、完全に心を折りにきた。
「許してぇえええええ!もう許してぇええええええ!」
「ダメよ!まだまだお仕置きが足りてないみたいだし、私に盾突いたらどうなるか?最後まで徹底的に体で教えてあげるわ!」
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
2つの必殺技をその身に受けたラファエルは完全に撃沈した。
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