第15話 最強(凶?)夫婦、宰相をバキバキにする④

2人の前にスザクとアリエスが並んで立っている。


「さて、これで打ち止めか?」


「私にスザクを殺させようとするなんて・・・、あんなオモチャで私を支配出来ると思って?浅はかにも程度があるわ。さぁぁぁて・・・、あの世に行く覚悟は出来たのかしら?」


ポキポキと拳を鳴らしながらジリジリと2人へと近づいてくる。


ガタガタと震えているが、いきなり後ろへと振り向き兵士が飛び出してきたドアへと一目散に走り始めた。


「「うわぁああああああああああああああああああああああああああ!」」



「逃がす訳がないだろうが・・・」




ピタッ!




いきなり2人の動きが止まってしまう。


「「ど、どうして?か、体が動かない・・・」」


首だけが何とか動き、2人が困惑した表情でお互いの顔を見つめ合っていた。



「いい事、思いついた。ねぇねぇ、あなた・・・」



アリエスがニヤリと悪い笑みを浮かべ、そっとスザクの耳元に顔を近づける。


何かをボソボソと話していたようだが、スザクの顔もとっても悪い笑みを浮かべ2人に視線を移した。


「需要があるか分からんが、面白い絵面えづらが見れそうだな。」



「おい!お前達!これを何とかしろ!私はこの国の宰相なんだぞ!」



ムーチが騒いでいるが、魔王を倒した本当の勇者であるスザクに、世界でも最高の地位を持つ聖女アリエスの前には、そんな地位なんてあってないようなものだ。


「ほぉぉぉ~~~、今、自分がどんな立場なのか分かって言っているのか?」




バキッ!




「ぎゃぁあああああああああああ!」


何かが折れる音に続き、またもやムーチの悲鳴が部屋の中に響く。


「ゆ、指がぁぁぁ、何で中指だけがあり得ない方向にひとりでに曲がって折れるんだよぉぉぉ・・・」


あまりの痛さにポロポロと涙を流している。


「どう?操り人形になった気分は?」


アリエスがニヤニヤとした表情で見ている。


((え!どういう事?))


2人がえっ!とした表情でアリエスを見た。


「まぁ、お前達には見ないだろうけど、お前達の全身には目に見えないくらいの細い糸が巻き付いているのさ。それがお前達の体の自由を奪い、俺が思うままに動かかしていたのさ。」


「ま、まさか?さっきも今も私の指を折ったのは貴様なのか?」




ベキッ!




「うぎゃぁあああああああああああ!」


今度は左の人差し指が反対に90度曲がって折れてしまう。


「言葉使いに気を付けるんだな。お前達の自由どころか命も俺が握っている事を忘れているようだしな。もう1本折れば自分の立場が分かるかな?」


「い、い、い、い、い、いえ!失礼しました!どうか!どうか!助けて下さい!」


「どうすっかなぁ~~~~~」


アリエスが顎に手を当て相変わらずニコニコした表情で、楽しそうにムーチを見ている。


「スザク、そろそろ私のリクエストをしてくれない?」


「だけどな、おっさん2人だし、見ても需要があるか分からんな。まぁ、ものは試しだしな。」


その言葉と同時にムーチとシタッパーの足がゆっくりと動き、お互いの距離が段々と縮まってくる。


「足が!足が勝手に動く!」

「ひぃ!お助けてよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


お互いに泣きながら懇願しているが、一向にその足の動きは止まらない。


とうとう2人の距離がすぐ目の前に近づいてしまう。


「ひゃぁああああああ!」

「いやぁああああああ!」


悲鳴を上げながら2人はギュッと力強く抱きしめあった。


「やだやだやだやだぁあああああ!」

「ひゃぁああああああ!こんなのぉおおおおお!


ギュッとお互いに力一杯抱きしめ合い、今度は顔も徐々に近づいていく。











ブチュゥウウウウウウウウウウウウウウ!










「らめぇ~~~~~~~~~~~~!」

「ひた(舌)がひゃってにぃいいいいいいいいい!」



おっさん同士で激しいキスを始めた。

いわゆるディープキスである。


それはそれはとても激しく、子供達には見せられない光景だ。

画像やイラストで表現していなくて正解だった。そうなると、確実にモザイク案件になるだろう。



「「・・・・・・・・・・・・・・」」



「失敗だな。」


ボソッとスザクが呟く。


「そうね・・・、おっさん同士の純愛劇というものを考えたけど、イケオジならともかく、2人の素材が悪すぎて気持ち悪いとしか思えないわ。見ているだけでも吐き気がする・・・」


「おっさんのボーイズラブって・・・、そんな発想をするお前が怖いよ。」



ペタン



スザクからの拘束が解けたのか、2人が力無く崩れ床にへたり込んでしまった。



「ゆ、許して下さい!」


「もうこれ以上はぁぁぁ~~~~~」



2人が再び土下座をして謝っている。

プライドもかなぐり捨て、ひたすらに床に額をこすり付け懇願していた。



「どうする?」


スザクがアリエスへ顔を向けこの2人の処分を相談している。


「そうね・・・」


チラッとアリエスが2人へ視線を送った。


「それじゃぁね、私達は目を閉じて10秒数えるから、それまでの間にあの扉から部屋に出る事が出来たなら見逃してあげてもいいわよ。もちろん、今の事は他言無用よ。明日から真面目になって頑張れば許してもいいかな?」


2人から視線をずらし、部屋の奥にある扉へ視線を送る。

絶望の表情だった2人だったが、その瞬間、顔には出さなかったが目がとてもキラキラしていた。


ムーチの心の声

(バカめ!あの扉だろう?そんな距離10秒もかからんわ!私は逃げ切る!誰が真面目になるものか!私がこの国の裏を牛耳るんだよ!この世間知らずの箱入り娘が!筋肉バカは扱いが楽だな。ぐふふふ・・・)


シタッパーの心の声

(マズい!あの無知宰相は気付いていないみたいだけど、あの扉は2人が同時に通るのは無理な大きさだ!だが、私はこれでも走るスピードには自信があるんだよ。先に私が扉に辿り着き、宰相!貴様を聖女の生贄として転ばせてやるぞ。ふはははははぁあああああ!生き残るのは私だ!)


お互いにゲスな事を考えていたりする。



「それじゃ、数えるわね。」


アリエスが目を閉じ数え始めた。


「1、2・・・」



ダッ!



2人が勢いよく扉へと駆け出す。


「私が先だぁああああああああ!」

「いや!この私だぁああああああ!」


2人がほとんど横並びに走って、あと数メートルで扉へと辿り着こうとしていた。

時間的には5秒くらいしか経っていなく、このままでは時間内に扉へと辿り着きそうだ。



「「あ”ぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!」」



2人の大声が同時に響いた。


何と!

彼らの目の前にアリエスが立っている。

一瞬でその姿が現われていた。

数秒前まで後ろにいたのに一体どうして?

訳が分からず混乱してしまう2人だった。


「あなた、ショートワープありがとうね。」


目を閉じているアリエスの口元が微笑む。


「10秒間目を閉じるとは言っていたけど、邪魔をしないとは言っていないわよ。それにね、あなた達くらいならね、目を閉じていてもハッキリと認識できるから逃げても無駄なのよね。」


「「そんなの詐欺だぁあああああああああああ!」」


2人の叫びが空しく部屋に響いた。


アリエスがグッと腰を落とし、両手を左右に広げ走り出した。




「おりゃぁああああああ!くたばれぇええええええええ!ダブル!ラリアットォオオオオオオオ!」




両手を広げたアリエスが2人の間へと駆け込んだ。



ドガァアアアアアアアアア!



「「うぼぁああああああああああ!」」



アリエスの両腕が2人の喉元に喰い込む。

そのまま彼女の腕を起点として下半身が宙に浮き上がってしまい、後頭部から床へと勢いよく落ち,直後に背中を激しく打ち付けた。


「9、10・・・、残念だったわね。」


数え終わり、目を開けたアリエスが床に後頭部を打ち付け悶えている2人にウインクをする。



「えげつないな・・・」


いつの間にかスザクがアリエスの横に立っている。


「そう?私は約束は破っていないわよ。ちゃんと10秒間、目を閉じていたからね。それに邪魔をしないって一言も言っていないわよ。だから、しっかりと邪魔をさせてもらったわ。ふふふ、微かな希望に縋りついて、助かると思った寸前で絶望に染まる心・・・、悪党のそんな表情がとっても好きなのね。」


ドS全開のアリエスだった。


「こいつは教皇の土産に送っておくな。」


口から泡を吹き半分意識が無くなっているシタッパーをスザクが見下ろす。


「ライトバインド!」


光の輪がシタッパーの全身を幾重にも巻き付き、その全身を拘束した。

直後にその姿が掻き消える。


「こいつがいれば枢機卿の情報もかなり裏付けが取れるだろうな。」




まだ後頭部を押さえながら悶えているムーチをアリエスが見下ろしている。


「ヒール!」


「は?」


アリエスが呪文を唱えると宰相の痛みが取れたようだ。

信じられない行動にムーチが呆気に取られていた。


「気分はどう?」


まるで聖母のような優しい微笑みを浮かべたアリエスがムーチを見つめている。



「せ、聖女様ぁぁぁ・・・、私は・・・、こんな悪党の私にもお慈悲を与えてくれるなんて・・・」



ドバドバと洪水のようにムーチが涙を流している。


「これからは心を入れ替え、真に国民の為に私が出来る事を精一杯頑張らせていただきます。私の忠誠は全て聖女様に・・・」


ニッコリとアリエスが微笑み頷き、そっとムーチに手を差し出した。


「聖女様・・・」


恐る恐るムーチが手を伸ばし、アリエスの手を取り立ち上がった。



「!!!」



次の瞬間、アリエスがムーチの腕を捻り後ろへと回りはじめる。


「な、何が!」


困惑しているムーチを無視し完全に後ろに回り込むと、自分の膝をムーチの膝裏に当てうつ伏せに倒した。

うつ伏せ状態のムーチの背中にアリエスが素早く馬乗りになる。

ムーチの両腕を握り上体を少し持ち上げ自分の膝の上に乗せ、腕を掴んでいた両手を今度はムーチの顎に回しガッチリと掴んだ。

そのままグッと海老反り状態で引き上げた。



「うぐぅうううううううううううううううううう!」



ムーチの苦悶の声が響く。


「どう?助かったと思った瞬間にいきなり地獄に落とされた気分は?絶対にあんたを許す訳ないでしょうが!大切な!大切なアイに手を出そうとしたんだからね!この『キャメルクラッチ』の餌食になりな!死ぬよりも辛い地獄を味あわせてあげるからねぇええええええええええええええええええ!」


何とかキャメルクラッチから逃れようとムーチがジタバタと暴れているが、両肩がアリエスの両膝にフックされてしまい、両腕の自由も奪われ、後はアリエスがグイグイと顎を引くがままになってしまっていた。


「ギブ!ギブゥウウウウウウウウ!」


ムーチの背中からミシミシと聞こえてはいけない音が聞こえて来る。


「無駄よ!今はギブアップは許さないから!とことん!徹底的に苦しむのよ!」




バキ!



バキ!バキ!バキィイイイイイ!




とうとう背中から背骨の断末魔だろう間違いない音が聞こえる。


ムーチの方は白目を剥き、口からブクブクと泡を吹いて気を失っていた。


そんな2人のやり取りをスザクは冷静に見ていた。


(アレって、サソリ固めよりも凶悪なんだよな。アリエスのパワーなら一瞬で背骨を折りたためるけど、敢えて時間をかけて苦しめるって・・・、それに、この技を喰らった時、正面から見るととんでもないブサイク顔になってしまうんだよな。アイには見せられないよ。)



「パーフェクトヒール!」



アリエスが叫ぶとムーチの意識が戻る。


「さぁあああ!第2ラウンドよ!」



バキバキバキ!



「ひげやぁああああああああああああああああ!」


「パーフェクトヒール!」


「第3ラウンド開始!あんたは何ラウンドで精神が壊れるかな?そう簡単に壊れないでよ!」



アリエスのキャメルクラッチ拷問の姿を見ながらスザクは少し口角を上げる。



「ふっ・・・、変わっていないな。」



やっぱりアリエスはドSもドS!超ドSだと確信するスザクだった。

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