第14話 最強(凶?)夫婦、宰相をバキバキにする③
「私とアイを奴隷にしようと言っていたのは誰かしらね?」
ギクッ!
((な!な!何で知っている?))
ムーチと隣にいるシタッパーの顔面から大量の汗が流れる。
その量は床に水たまり(汗たまり?)が出来る位に大量に流れていた。
(どうして?どうして?どこからこの計画がバレた?)
2人の頭の中は
((マズい!マズい!マッズいぃいいいいいいいいいいいいいい!))
『マズい!』の言葉で埋め尽くされていた。
土下座をしている2人の前に立っているアリエスの視線が更に冷たくなっていく。
「ねぇねぇ、どうしたの黙って?あなた達って私とアイを奴隷にして何をしようとしたのかな?もしかして言えない事なの?まぁね、こんな美人や美少女が目の前にいればゲスな男の考える事は決まっているわね。あ~~~!いやらしいしキモイわ。このハゲスケベ!」
「ここまでバレているとは・・・」
ムーチが土下座の姿勢のまま顔を下げワナワナと震えている。
「こうなればぁあああああ!」
ガバッと勢いよくムーチが立ち上がった。
「曲者だぁあああああああああ!者ども出会ぇえええええええええええええ!出会ぇえええええええええええええ!」
バババババ!
ムーチが叫ぶと部屋の別の扉から大量の兵士がなだれ込んで来る。
2人の前に数十人の兵士があっという間に立ち塞がった。
「あらら・・・、やっぱりこうなったのね。悪党ってどうしていつもワンパターンなのかな?都合が悪くなると手下を呼んで、その影に隠れる行動はねぇ・・・」
アリエスが盛大に溜息をしていた。
「ザコは俺に任せろ。」
スザクがサッとアリエスの前に立った。
「誰だぁあああ!貴様はぁあああ!」
ムーチがスザクを指を差しながら叫んだ。
「おいおい・・・、人様を指差すのは失礼な行為だぞ。親から教えてもらっていないのか?そういえば、貴様の名前はムーチだったな。名前の通り無知なんだろうし、仕方ないか・・・」
「貴様こそ無礼だぞ!この国の頭脳でもあるこの私!宰相のムーチに暴言を吐くとは万死に値する!」
「ほぉぉぉ~~~、えらく強気だな。19年前、王城に魔族が宣戦布告で襲いかかられた時、当時の国王といの一番で王座の影に隠れた奴は誰だったかな?」
ピクン!とムーチの体が震えた。
「貴様!何でその事を知っているんだ!」
「本当に俺の事は全く覚えていないんだな。その時、俺とアリエスが王城に到着して速攻で魔族を倒しのにねぇ~。その時のお前はアリエスの顔と胸ばかりを見ていて、確かに俺の方はほとんど見てなかったよ。まぁ、無理に思い出してもらわなくて結構だよ。お前はすぐにアリエスに折りたたまれるからな。」
「そう言えばそんな事もあったわね。」
アリエスが「はぁ~」と溜息をした。
「もしや・・・、貴様は・・・」
またもやムーチがスザクを指差し震えている。
「その黒い髪に傲慢な態度!貴様!スザクか?何で貴様もそんなに姿が変わっていないんだ!」
バキ!
スザクを指差していたムーチの右手の人差し指が、いきなり根元からあり得ない方向へと折れ曲がっている。
しばしの沈黙が漂った。
「うぎゃぁああああああああああああああああああ!」
ムーチが折れた人差し指を押さえ叫んだ。
「さっきも言っただろう?人を指差すなってな。マナーを守れない奴はへし折るしかないからな。」
「だ、だからってどうやったんだ?しかもこれだけ離れていて、間に何人もの兵がいるんだぞ。どんなトリックを使った!」
ムーチが指を押さえながらブルブルと震えスザクを睨んでいる。
「それは企業秘密だ。教えてあげてもいいけど、アリエスとは別のやり方で全身がバッキバッキになるからな。どうする?それでも教えて欲しいか?」
「だ!黙れぇええええええええ!今のは油断しただけだ!我が屋敷の精鋭が本気を出せば貴様は終りなんだよ!」
兵達がムーチやシタッパーを守るようにスザク達との間に次々と入り込んでいく。また、先頭の兵士達はジリジリと摺り足で距離を詰めていった。
「あなた、速攻で兵ごと潰す?」
アリエスが拳を構えジロリと兵達を睨む。
「いや、これだけいるんだ。不利と分かったらアイツらに逃げられてしまう。逃げる時間稼ぎをされても面倒だ。ここは俺に任せろ。」
ズイッとスザクが更に前に出てきた。
「バカめぇえええ!いくら腕に自信があろうが!これだけの人数の前で何が出来る?勇者ぁあああ!聖女ぉおおお?そんな肩書きがどうした?数の暴力には勝てないんだよぉおおおおお!」
パン!
「はい注目!」
スザクが頭上で手を鳴らし、全員が一瞬でスザクへと視線が集まった。
次の瞬間!
「「「うぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」」
部屋中に絶叫が響いた。
「お前達!一体!どうした!」
ムーチとシタッパーの周囲にいた兵達のほとんどが頭を抱え、床の上で蹲っていたり丸ったりしている。
「おい!」
すぐ目の前に兵士に声をかけるが、その兵士は頭を抱え涎を垂らしながら「生きていてスミマセン・・・」、「私は卑しい豚です・・・」と、支離滅裂なうわ言をブツブツと言っていた。
「貴様!ちゃんとしろ!」
その兵士が使い物にならないと判断したムーチは、また別の兵士に声をかける。
その兵士は丸まって親指をおしゃぶりのようにしゃぶっている。
「ママァァァ・・・、ぼくちゃん・・・」
ゾゾゾゾゾォオオオオオオオ!
2人があまりの光景に後ずさりをしてしまった。
「こんなの・・・、私は夢でも見ているのか?」
「精神が破壊されている。どうして?」
「数の暴力?」
スザクの呟きが2人の耳に入る。
「どれだけ頭数を揃えようが、俺の前では無意味だよ。」
「貴様ぁああああああああああ!一体!何をしたんだぁあああああ!」
ムーチが騒いでも、スザクはニヤニヤとした笑みを崩してしない。
「これは邪眼?」
顔だけでなく全身のいたるところから冷や汗を噴き出していたシタッパーが呟いた。
「ご名答。あんた達以外はいい夢を見ただろうな。」
パチパチとスザクが拍手をする。
「あり得ない!これだけの人数を一度にだと?しかもだ!どれもが精神を破壊されていたり幼児退行を起こしているではないか!ここまで精神を破壊する強力な邪眼は見た事も聞いた事も無い!貴様は本当に人間なのかぁあああ!」
「あぁ・・・、残念だけど正真正銘ただの人間だ。女神様からちょっとだけ力をもらっただけの人間だよ。」
「女神様だと?そんな人間がこの世にいるのか?」
ガクガクと震えるシタッパーにスザクがニヤリと笑う。
「ただの人間の邪眼、貴様も試してみるか?」
「ひぃいいいいいいいいいいいいい!い、嫌だ!」
2人が震えながら後ずさりを始める。
しかし、急にピタッと動きが止まった。
怯えていたはずの2人がニヤリと笑う。
直後にスザクがおもむろに左手を頭上に掲げる。
ビタッアアアアア!
天井から黒い人影がスザクへと落ちてくる。
この男は教会でスザク達が見かけた影の男で、先ほどはムーチにアリエスとアイの情報を流した男だった。
右手にはナイフを握ってスザクの頭へと振り落とそうとしている。
しかし!その刃はスザクに届くことは無かった。
スザクはナイフの刃を何か物を摘まむような仕草で受け止めていた。
グシャァアアアアアア!
スザクがナイフを摘まんだ瞬間にアリエスが一気に跳躍し、不意打ちの一撃が通用しなかった事で驚愕している男の顔面に、スラリとした美しい足を叩き込んだ。
「ぎゃぁあああああああああああ!」
汚い悲鳴を上げながら男が床と水平に飛んでいき、壁に突き刺さってピクピクとしている。
軽やかに床へ着地したアリエスが鋭い視線を2人へと向けている。
「ば!馬鹿な!真上からの不意打ちが通用しないだと!この男は教会でも屈指の実力を誇るアサシンマスターなんだぞ!それを・・・」
シタッパーが奥歯をギリギリと鳴らす。
「気配が駄々洩れだよ。それでよくアサシンマスターって名乗れるな。もう一回、気配を消す事からの修業のし直しをお勧めするね。」
「私も同感ね。この18年で教会も随分腑抜けたわ。まともに戦える人間なんかいないんじゃないの?まぁ、平和になったから仕方ないかもね。ん?」
アリエスが足元に落ちている黒紫色のチョーカーに気付いた。
多分、上から襲ってきた影を蹴り倒した際に、彼の懐から落ちたのだろう。
それを手に取り持ち上げる。
「へぇ〜、コレが私を奴隷にしようとしていた隷属の首輪ね。どれどれ・・・」
何と!
アリエスがまるでネッククレスを首にかけるように鼻歌交じりでチョーカーを首にはめたではないか!
その行動にムーチとシタッパーが驚きで目を見開いたが、すぐに下品な笑いを浮かべた。
「ギャハハハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!聖女よ!貴様はバカか!自ら進んで奴隷になるって!ふはははははぁあああああ!どうやってこれを装着させるかと思案していたが、思わぬ結果が舞い込んだぞ!」
ムーチが高笑いをしている間に、アリエスの首のチョーカーに取り付けられている宝石が赤く輝きを放った。
「ムーチ様!成功です!あの宝石が赤く輝けば完全に首輪の支配下に入った証ですよ!聖女が!歴代最強と呼ばれた聖女が我々の手に落ちたのです!天は我々に味方をしてくれた!うひゃひゃひゃひゃぁあああああああああああ!」
大笑いをしていた2人がスザクへと視線を移した。
シタッパーの手にはチョーカーに付いている赤い宝石と同じ色で、かなり大きい宝玉が握られていた。
「このエセ勇者めが!デカイ顔が出来たのもこれまでだな!この宝玉があれば私の意志がそのまま聖女へと伝わるのだ!もはや聖女は私の操り人形なんだよ!ぐふふふ・・・」
手に持った宝石をスザクへと掲げた。
「聖女よ!この男を殺せ!お前の持てる技術の全てを使って残酷になぁああああああああああああああああ!」
「何で?どうしてあんたの言う事を聞かなきゃならないの?バカらしいわ。」
「「へ?」」
とってもお間抜けな2人の声が部屋の中に響いた。
「どうしてだ・・・」
シタッパーが信じられない表情で、手に握られている宝玉を凝視する。
「間違いなくアレは機能しているんだ!それなのに何で聖女が私の言う事を聞かないんだよ!」
「貸せ!」
ムーチがシタッパーの手にある宝玉を奪い取りアリエスへと向けた。
「私の方が貴様よりも魔力があるんだ!私ならぁあああ!」
ギリギリと奥歯を噛みしめながら宝玉を握りしめている。
だが・・・
「はい?」
「ねぇねぇ、あなた、コレって似合うかな?」
必死にアリエスを操ろうとしているムーチだったが、当の本人は全く意に介せずチョーカーが似合っているかどうかをスザクに聞いている。
「そ、そんなのぉぉぉぉぉ~~~~~~~」
ガックリと床に膝をつき泣きそうな顔になっているムーチだった。
「宝石のデザインは悪くないけど、やっぱり色がなぁ?黒い髪の時のアイなら似合いそうだけど、銀髪のお前じゃちょっと合わない気がするよ。」
「スザクが言うなら・・・、じゃぁ、コレいらないわ。」
むんず!と握りブチッと引き裂いて外してしまった。
「「はぁあああああああああああああああ!」」
2人の顎が床に届くくらいに大きく下がっている。
「アレは一度装着したら解除呪文がないと外せない仕様だぞ・・・、しかもだ、魔物でも壊せないくらいに強度は最高のはず・・・、それをいとも簡単に・・・」
ガックリとした表情のシタッパーだった。
ザッ!
2人の前にスザクとアリエスが並んで立っている。
「さて、これで打ち止めか?」
「私にスザクを殺させようとするなんて・・・、あんなオモチャで私を支配出来ると思って?浅はかにも程度があるわ。さぁぁぁて・・・、あの世に行く覚悟は出来たのかしら?」
ポキポキと2人が拳を鳴らし、圧倒的な殺気を向けていた。
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