第13話 最強(凶?)夫婦、宰相をバキバキにする②
「教会も一枚岩じゃないから大変だな。」
スザクがフッと笑みを浮かべる。
「それは仕方ないですよ。これだけ大きな組織になってしまいましたから、管理するのはホント骨が折れますね。」
教皇がやれやれと肩を竦める。
「アリエス様も戻られましたし、スザク様が教皇になられれば私も悠々自適な隠居生活が出来るのですが、やっぱり考え直しません?」
「それは勘弁してくれ。俺は人の上に立つ器じゃないと自覚しているからな。それはあんたの孫に言ってくれ。あの歳でしっかりしているじゃないか。しかも10人しかなれない教会最強のテンプル
「いやいや、あいつはまだまだですよ。それなりの人物になるには経験が足りなさ過ぎます。一人前になるまではビシバシとスザク様とアリエス様に鍛えて欲しいと思っていますからね。」
(え”!)
2人にしごかれる人って・・・
どんだけの地獄を見るのかと非常に気の毒に思ったアイだった。
「影が動いたって事はアリエスの情報も筒抜けだったのか?」
教皇が恭しく頭を下げる。
「アリエス様が復活される事を知っているのは私以外もいます。いくら女神様から私に対して他言無用と言明されようが、このような設備などを準備するのは私1人では無理ですからね。私以外にこの事を知っているのは3名の枢機卿と彼らの直属の部下数名です。この仕掛けを作った者は何の目的か知らされていないので、アリエス様の情報が洩れる事は無いでしょう。」
教皇の視線がアイへと向く。
「それと、アイ様の事は厳重に情報統制されていましたので、子供がいても聖女様だとは誰も思っていなかったと思われます。。」
次にアリエスへと視線が移った。
「私と枢機卿達は、いつか復活されるアリエス様をお待ちしていましたからね。この日を一日千秋の思いで待っていましたよ。」
「その仕掛けが動いた事を知った枢機卿が動き、影を使って確認した訳だな?」
「そうです。これでアリエス様の復活がグロハーラ枢機卿に伝わったのは間違いないです。そして、そのグロハーラ枢機卿こそが前教皇を通じて先代国王と繋がっていました。そのつながりは今は宰相を通じて国王と繋がっている事は、私達の調査で確認済です。」
「宰相ねぇ・・・」
スザクがチラリとアイに視線を移した。
「アイはその宰相の息子をボロボロにしたんだよな。さすがに死ぬ寸前だったからアイが少しだけ治したけど、その息子経由でアイも聖女だってことがバレている可能性が高いな。」
「多分そうだと思います。」
教皇がコクンと頷く。
「なら、やる事は決まった。すぐに宰相を潰しに行くか。」
「あなた、私も行くわ。」
アリエスがズイッと前に出てきたが、スザクが少し不安そうな表情になった。
「大丈夫か?」
その言葉にアリエスが微笑んだ。
「心配してくれてありがとう。まだねぇ、全然暴れ足りていないのよ。リハビリも兼ねて少し体を動かしたいのよね。ねぇ、いくら私が生き返ったばかりでも、あんな連中に遅れをとると思っている?」
「そうだな・・・、心配するだけ野暮だったな。」
「そういう事♪」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
宰相の邸宅
「ムーノよ!その姿はどうした?」
ムーノの父親でもあるムーチ・ウンチーク現宰相が慌ててムーノの部屋に飛び込んでくる。
しかし、ムーノの惨状を見て一瞬だが、後ろへとジリッと下がってしまう。
ムーノが全身を包帯でグルグル巻きにされて自分の部屋のベッドで横たわっていた。
特に股間を重点的に念入りに巻いてある包帯が更に痛々しさを感じさせる。
実際にそれだけのダメージを受けてしまっているので、前のように大げさな状態ではなかった。
嘘が本当になったようなものだろう。
「せ、聖女にやられました・・・」
「な!何だと!お前!自分が何を言っているのか分かっているのか!聖女は教会の中に入って俗世と隔離されている状態なんだぞ。それなのに何で学園にいるんだ?」
「そ、それが父上・・・、実は王子が執着していた平民の女が聖女でした。教会は何かの手段で聖女を平民の娘に偽装していたのです。」
「どういう事だ?」
「やはりですか・・・」
部屋の隅から男の声が聞こえた。
「誰だ!」
「くくく・・・、私ですよ。」
「お前は!」
ムーチが振り向いた視線の先にはスザクに似た黒づくめの男が立っている。
「何だ、お前か・・・」
ホッとした表情のムーチだったが、相手の男は目だけしか見えず、どんな人相なのかも分からない。
だけど、宰相であるムーチが安堵しているのなら、お互いに知った間柄に間違いない。
「くくく・・・、グロハーラ枢機卿様より言伝です。」
「そうか!とうとうこの時が来たか!私がこの国を支配する時がなぁあああああ!あのバカ王どもの泣き叫ぶ顔が見ものだ!」
大声で笑うムーチだった。
「ところで、さっきの言葉はどういう意味だ?学園の生徒に聖女がいたと?それはあのアリエスの娘という事か?」
「左様です。」
「う~~~む・・・、そうなると、あの最強とも呼ばれた聖女であるアリエスがもういないというのか?子供が聖女を引き継いだと考えるべきだな。アリエスは聖女としての使命を全うして死んだのか?だからか、16年前から姿を見せていないのは、教会がこの事実を隠蔽していたのか?」
「確かにそうですが、それには続きがありまして、アリエスは蘇るとの神託を受けていたようなのです。この事は厳重に口封じされていましたが、こっそりとグロハーラ枢機卿様が教えてくれたのです。しかも!私はとんでもない現場を見たんですよ。何と!聖女が2人も存在していたのです。先ほどアリエスとその娘の2人が聖女として一緒にいるところを!」
「何だとぉおおおおおおおおおおおおおおお!これは・・・、ぐふふふ!これは更に喜ばしい事だ!聖女がしかも2人が手に入れば私達は無敵だ。誰も逆らう事は出来ないだろう。ところで、聖女をどうこうする手筈は間に合っているのだろうな?間に合わなければどうにもならん。」
男がサッと何かをムーチに差し出す。
それは禍々しい黒紫色をした首に着けるチョーカーのようなものだった。
「ふふふ・・・、オーチメの奴、見事に間に合わせてくれたな。研究資金を出してやっただけある。」
嬉しそうにチョーカーを受け取る。
「この隷属の首輪さえあれば、どんな奴でも我らが思うままに操る事が出来るからな。これで聖女を操り、我らに敵対する者は全て滅ぼせるのだ!勇者のまがい物であるスザクなんぞ、我らが操る聖女に太刀打ちできるはずがない!ぐはははぁあああああああ!笑いが止まらん!」
そしてムーノへ向き直った。
「ムーノよ、喜べ!聖女を手に入れた暁にはお前の体を真っ先に治してやろう。それにだ!こんな姿にした娘の方はお前にやろう。お前が好きなだけ自由にして良いぞ。殺さない限り好き放題になぁああああああ!」
「だそうだ。」
宰相邸宅の前でスザクとアリエスが立っている。
「あなたの千里眼で中の様子を私と共有して見られたけど、あなたの能力って何でもありね・・・、本当に人間?って思いたくなるわよ。」
(う~ん・・・)
そう言われても生物学的には人間には間違いないのだが、こう言われてしまうと少し自信を無くすスザクだった。
そう言うアリエスも自分と似たようなものじゃない?とも思っていた。
「しかしねぇ・・・」
アリエスの全身から凶悪な殺気が溢れ出る。
「私だけじゃなくてアイも奴隷にするって・・・、うん!決めた!潰すんじゃなくて速攻で殺すわ!」
「待て!待て!ハウス!」
今にも邸宅へと突貫しそうになっているアリエスの肩を掴む。
「あなたぁあああああ!何で止めるのよ!私だけじゃなくてアイにも手を出そうとしているのよ!即!ギッタギタに潰さないと気が済まないわ!何でそんなに冷静になっているのよ!」
「俺が冷静だと思うか?」
スザクの言葉にアリエスがブルッと震える。
静かにまるで針のように殺気が邸宅へと向いていた。
「そうね・・・、今のあなたは誰にも負けない当時のあなたね。魔王だろうが邪神だろうが全て一撃で倒してきたあなた。う~ん、惚れ直したわ・・・」
スザクを見つめるアリエスの頬がポッと赤くなる。
「さて、始めるぞ。」
スザクの言葉にアリエスがゆっくりと頷いた。
「フハハハハハ!明日になるのが楽しみだよ。世界で一番愛されている聖女を私が自由に出来るのだ!オーチメ公爵家にはもっと資金援助をして、更に強力な魔道具を作ってもらわないとな。」
「そうです、我ら教会の方も明日にはグロハーラ枢機卿様が教皇になるでしょうね。テンプル
「ぐふふふ・・・、シタッパー司祭長、お主も悪よのぉぉぉぉぉ」
「いえいえ、ムーチ宰相様のお力の前にはとてもとても・・・、これで明日は・・・」
先ほどの黒づくめの男とは別の男とムーチの2人が部屋で機嫌よくワインを飲んでいる最中だった。
別の男は司祭長と呼ばれるだけあり、かなり高級そうな司祭服を着ている。
まだオーチメ公爵家がどんな顛末を迎えたのか情報が届いていないようで、自分達も同様な末路になるとも知らず、かなり出来上がっていて上機嫌だった。
コンコン・・・
ドアからノックの音が聞こえる。
「誰だ?ここには誰も近づけるなと厳命していたはずだが?」
「すみませ~~~~~~ん、ピザの配達ですが?」
「「はぁ?」」
ムーチとシタッパーが思わず顔を見合わせてしまう。
((誰?そんなのは頼んだ覚えもないぞ。))
2人が同時に同じ事を考えてしまった。
「受け取りが出来ないようでしたら、今から強引に部屋に入って届けますよ。それじゃあ5秒以内に入ります。5、4、3・・・」
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!
いきなりドアが吹き飛ぶ。
「「どあぁああああああああああああ!」」
本当にドアが吹き飛び、破片やほこりが部屋の中まで入ってくる。
「貴様ぁああああああああああ!何者だ!しかもだ!5秒と言ってカウントを始めているのに、途中で入って来るとは失礼だぞ!」
唾を吐きながら怒鳴っているムーチだが、『突っ込むところってソコ?』と思わず突っ込みたくなるシタッパーであった。
吹き飛んだドアのところに男女2人が立っている。
「「あ!あなた様はぁあああああああああああ!」」
またもやムーチとシタッパーが同時に叫んでしまう。
「アリエス様!18年前と変わらぬお姿!」
ムーチが叫ぶと2人揃って土下座をしてしまう。
「ムーチ、あれから18年も経っていたのね。それだけ長い月日が経てばあなたは変わってしまっていたわね。ただでさえ薄い頭が完全にツルッパゲになっているからね。それに体もかなり弛んでいるんじゃない?不摂生してますよって、丸分かりじゃないの。」
アリエスの冷たい視線が2人を射殺すように飛んでている。
その恐怖に何とか耐えながらムーチが恐る恐る顔を上げた。
「18年もの月日が経っていても全くお変わりない美貌、老いが目立ってきた私にとってはとても羨ましい限りでございます。いきなりお越しになられてどのようなご用件でしょうか?しかし、いかにアリエス様とはいえ、先触れもなく押しかけるとは、いささか無礼ではございませんか?」
宰相にとって聖女は雲の上の存在であるが、いきなりドアをぶち壊して踏み込んできたのだ。いくら聖女とはいえ、これはやり過ぎだと諫めて自分がマウントを取ろうとする。
それが更に身の破滅を呼び込んでしまったのに気付いていない。
「ふ~~~~~~~~ん、無礼ね?」
アリエスが腕を組み冷ややかな視線をムーチに向けた。
「私とアイを奴隷にしようと言っていたのは誰かしらね?」
ギクッ!
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