第12話 最強(凶?)夫婦、宰相をバキバキにする①
「お父さん、大丈夫?」
アイが床の上でうつ伏せで倒れているスザクをツンツンしながら声をかけている。
「返事がないわ。どうやら死んでいるようね。」
「勝手に殺すなぁああああああああああああああ!」
スザクがいきなり起き上がった。
「お父さん、生きていたのね。」
「あぁ・・・、何とかな。一瞬だけど死んだ爺さんが川の向こうで俺を呼んでいたのが見えた気がしたよ。」
「お父さんを臨死体験寸前にまで追い込むお母さんって・・・、授業でも習ったけど、歴代最強聖女というのは伊達じゃないって事ね。」
しかし、アイが不思議そうに首を傾げる。
「でもよ、お父さんの本当の力はお母さんよりも遙かに強いんじゃないの?それなのにお母さんに無抵抗でやられたままって・・・」
「アイ・・・」
スザクがジッとアイを見つめる。
「お父さん、何?」
「色々と大人の事情があるんだよ。夫婦円満のコツはな・・・」
その言葉でアイがニマァ~と笑う。
「ふふふ・・・、お父さんって優しいね。」
「ありがとうな。」
スザクが優しく微笑みアイの頭をポンポンと軽く撫でている。
「もぉ~、いつまでも子供扱いしないでよ。でもね、お父さんにこうやって撫でられているのは好きなんだ。うふふ・・・」
嬉しそうなアイの笑顔を見て、スザクは『やっぱりアイの笑顔は世界一だ!』と真剣に思っていた。
本当に親バカだ。
「それとな・・・」
笑顔のスザクが急に真剣な表情になった。
「お父さん、どうしたの?」
「お前にはすっと苦しい思いをさせてしまったな。」
「何が?」
「お前の聖女の力を封印して平民として育てていたからな。お父さんの黒髪はこの世界じゃあまり良く思われていないし、お前が言われない差別に苦しんでいたのも知っていた。それにこの学園で・・・」
「お父さん!」
ジロっとアイがスザクを睨んでいた。
「そんな事言わないの!お父さんは私の為にずっと頭を下げ続けていたじゃない。本当は誰よりも強いんだから、その気になればこの世界の王様になれるのに・・・」
「アイ・・・」
「確かに最初の頃はそんな情けない姿をしていたお父さんを軽蔑していたわ。でもね、どんな時も父さんはずっと私の味方だって気が付いたの。私の為にどんな罵声を浴びても絶対にお父さんは私を悪く言わなかったわ。だからね・・・」
ギュッとアイがスザクに抱きついた。
「お父さん、私はね、お父さんの娘に生まれて本当に良かったと思っているの。ありがとう。」
グイ!
「い!痛ぁああああああああああ!」
いきなりアイの叫び声が響いた。
アイの隣には・・・
瞳からハイライトが消えたアリエスがアイの耳を引っ張っていた。
「お母さん!痛い!痛いってばぁあああああ!」
「あらあら・・・、何でこんな目に遭っているのか分かっているでしょう?」
アリエスが笑っていない笑顔でアイに視線を送る。
「今のあなたって雌の顔だったわよ。私に許可なくお父さんに抱きつくのは認めないわよ。いくらあなたでもね・・・」
「怖い!怖いよ!お母さんってそんな性格だったの!でもね!お父さんが好きな気持ちはお母さんに負けないわよ!」
「そうなの?だったら・・・」
「いい加減にしろ。」
ズン!
「うが!」
スザクのチョップがアリエスの脳天に突き刺さった。
あまりの痛さなのかアイの耳を摘まんでいた手を離し、涙ぐみながら頭をさすっている。
「い、痛いよ。あなた・・・、暴力反対よ。」
(お前が言うな!)
そう思うスザクであった。
「いい加減に落ち着け。いくら何でもみっともないぞ。」
「だってぇぇぇ~~~、アイがぁぁぁぁぁ~~~」
(おいおい・・・)
いくら何でも自分の娘に対してヤキモチを焼くなんてと、さすがにちょっと引いてしまったスザクであった。
「アレは親子のスキンシップ、それ以上は無いからな。」
そう言ってスザクがアリエスを優しく抱き寄せた。
「えへへへ・・・、スザクが抱きしめてくれた・・・、幸せ~~~」
そんなので機嫌が直ってしまうチョロインのアリエスだった。
スザクとアリエスが2人の世界に入ってしまったので、必然的にアイと教皇があぶれてしまい、ポツンと立っている。
「ねぇねぇ、おじいちゃん?」
「アイ様、何でしょうか?」
しかし、アイが露骨に嫌そうな顔をしてしまう。
「おじいちゃん、そんな他人行儀みたいな態度は嫌なのね。昔みたいにして欲しいな。」
「ですが、今のアイ様は聖女となられて・・・」
じ~~~~~~~~~~~~~~~
アイがジト目で教皇を見ている。
視線で教皇を威圧していた。
「わ、分かりました。」
じ~~~~~~~~~~~~~~~
「わ!分かった!アイよ、これでいいのか?」
「うん!おじいちゃん!大好き!」
ニコニコの笑顔でアイが教皇の腕に抱きつく。アイに完全に陥落されてしまった教皇だった。
「それで、私とお父さんが話してした時、おじいちゃんはお母さんと話していたよね。それも何か深刻そうに・・・」
「そ、それはなぁ・・・」
教皇が言いにくそうにしている。
「私が話すわ。」
「お母さん!」
さっきとまでは全く違う真面目で真剣な表情のアリエスが教皇の隣に立った。
「アイ・・・」
アリエスがジッとアイを見つめる。
「な、何?」
「本当に可愛いわね。あなたの目、お父さんに似ているわ。生まれたばかりの時のあなたしか知らないから、今夜は一緒に寝ようね。そして、今までの事も教えて頂戴ね。うふふ・・・」
ニコッとアリエスが微笑むと、アイも嬉しそうに頷いた。
「それで本題に戻るわ。アイも分かっていると思うけど、この国の貴族連中は腐っているの。特にあの国王を始めとしてよ。スザクと私だけで倒した魔王を自分たちが倒したと当時の国王と一緒になって世界中に宣言したの。」
「やっぱりね。どう見てもあのアホ王子達がそんな偉大な勇者の子供だと思えなかったわ。事ある度に『自分は勇者の息子だ!』って威張っていたからね。でも、それなら教会は何で言わなかったの?お母さんは教会の人だし、おじいちゃんもいたよね?それなのにどうして?」
「それはなぁ・・・」
教皇が気まずい顔でアイを見つめる。
「その時はね、教皇はまだ教皇じゃなくて、4人いた枢機卿の1人だったのよ先代教皇ともう1人の枢機卿がこの国の王と結託して私腹を肥やそうして、私達が倒した魔王の手柄を自分達のものにしてしまったのよ。そのおかげで、この国は世界でも一目置かれる国になったのね。」
「そうなんだ・・・」
「スザクと私は別に魔王を倒したからって褒賞もいらなかったし、英雄になればなったで、そんな堅苦しい生活もしたくなかったの。私とスザクが求めたのはね、私は教会から離れ聖女じゃなく普通の女性として、スザクの妻として生きていく事だったのよ。世界を救う聖女としては失格かもしれなかったけど、魔王も倒したからそれでいいんじゃない?って事で、、無理やり先代教皇を納得させて、私達は街中で慎ましく暮らし始めたの。」
隣でスザクがうんうんと頷いていた。
「だけどね、先代教皇と結託してしたもう1人の枢機卿が、私が聖女の務めを放棄する事に対して徹底的に反対してね、暇さえあれば私を教会に連れ戻そうとしていたのね。しかも強引にね。」
「それをお母さんが全部返り討ちにしていたんでしょう?」
アイが嬉しそうにして話している。
「失礼ね。私はちゃんと平和的にお話しをして納得して帰ってもらっていたわよ。」
「そうなんだ。」
ジト目でアイがアリエスを見ると、アリエスの目が若干泳いでいる。
(これは確実に物理的に黙らせて、泣く泣く帰した訳ね。)
そう断言してしまった、というより事実だと確信したアイだった。
「そんな事が続いてスザクが怒ってしまった訳ね。」
「ふ~~~~~~ん」
2人の視線がスザクへと向く。
「この時は国は功績を世界中に広める事に必死だったから、私達の事は無視していたからスザクは何もしなかったわ。でもね、教会に対しては逆に徹底的に暴れまくったわね。それからしばらくして先代教皇の悪事が露見して教皇から降ろされる事になったの。その後を継いだのが今の教皇よ。」
「へぇ~~~、おじいちゃんって結構大変だったんだね。」
同情してくれるアイに涙を浮かべる爺バカの教皇だった。
「今の教皇は私達の理解者でもあり、市民として生きてく私達の事も賛成してくれたの。でもね・・・」
その言葉にゴクンとアイが喉を鳴らした。
「私のお腹の中に新しい命が宿ったの。そう・・・、アイ、あなたよ。」
「私?」
「そうよ。あなたも聖女の事は理解しているわよね。聖女はこの世界で1人しか存在出来ないって・・・」
ゆっくりとアイが頷く。
「アイが生まれれば私が全てをアイに渡して、あなたが新しい聖女になるの。その時、私は命を落とすのも分かっていたわ。実際に死んじゃったからね。」
クスクスとアリエスが笑っているけど、そこは笑うところじゃないと全員が思った。
「その時にね、先代教皇と結託していた枢機卿がアイの後見人になろうと画策していたのよ。スザクが先代教皇を追い詰めたけど、そいつは尻尾を掴ませなくて見事に逃げ切ったわ。そんな奴がアイの後ろ盾となって教会を支配しようとしていたの。さすがに今の教皇でも当時は教皇になったばかり、先代教皇のせいで汚職まみれの教会を健全な組織に戻すだけでも手一杯だったから。そいつの魔の手からアイを守り切るのは難しいと思ったの。」
「それで私の能力をお父さんが封印して平民として育てた訳ね。聖女でない私は利用価値が無いと思わせるようにね。」
「正解よ。さすが私の娘ね。」
アリエスが嬉しそうにアイの頭を撫でた。
「国と教会を騙してきたけど、そんなに上手くいかなったわね。スザクと私の子供が普通じゃないのはよく考えれば当然ね。私達の子供なのよ、超絶美人になるって決まっているじゃない。」
ギュッとアイを抱く。
「本当にゴメン・・・、そのおかげで貴族達に目を付けられてしまって・・・、今度は平民としての身分が仇になってしまって苦労をかけさせてしまったわ。」
「いいのよ、お母さん。だって、いつも私の事を守ってくれたお父さんがいたから。確かにつらい時もあったけど、お父さんがいたから、私は心が折れる事は無かったの。ちょっとだけ情けないと思った時もあったけどね。」
「アイ、正直過ぎるのも問題よ。ほら・・・」
アイの言葉に少し、いや、かなりショックを受けて落ち込んでしまったスザクがいた。その肩をポンポンと叩き、教皇が慰めている。
しばらくして、4人が元の礼拝堂へ戻ってきた。
「「むっ!」」
スザクとアリエスが怪訝な表情になる。
「あれはグロハーラ枢機卿の影ですね。」
黒づくめの服の男が部屋から出ていくのが見えた。
「あいつか・・・」
スザクがギリッと奥歯を噛みしめる。
「多分ですが、すぐにヤツは動き出すのでは?と思います。彼の部下である司祭が宰相のところに行くはずですよ。今、教会には歴史上初の聖女様が2人もいます。多分ですが、アイ様を国王の愚息と婚姻させようと画策を始めるでしょうな。枢機卿経由でオーチメ公爵家がスザク様の手によって潰され、婚約の継続が出来なくなったとすぐに城に連絡が行くでしょうからね。それか、別の目的でアリエス様とアイ様を使うか?どっちにしても禄でもない考えですけどね。」
教皇が鋭い視線を出口へと向け呟いた。
「奴も動き出したか・・・、これで教会の膿も絞り出せるな。ふぉふぉふぉ・・・、グロハーラ、その時になったら貴様はどんな顔ををするかな?」
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