第17話 スザク一家、帰宅する②

「うわぁ~~~、そんなに変わっていないわね。16年も経つからかなり変わっていたかと思っていたけど・・・」


スザクの転移で自宅へと3人が帰ってきたが、アリエスは室内をキョロキョロと懐かしむように見て回っている。


「だいぶ遅くなったけど夕食にするか?」


「はい!は~~~~~~~~~~い!」


アイが勢いよく手を上げた。


「今日はお母さんが戻ってきたから、とびきりのご馳走を作るか?まぁ、遅くなってしまったから、そこまで手の込んだものは作れないけどな。」


「いいよ!お父さんが作ってくれるご飯はどれも美味しいし、大好きだもん!」


「私もよ。あなたの料理は世界一だと思っているわ。」


「よし!頑張るか!」


スザクが腕まくりをしながらキッチンへと向かう。


「私も手伝うね!」


アイもスザクの後を追いかけていく。


「あれ?お母さんも手伝わないの?」


アイのその言葉にアリエスの顔面から大量の汗が流れ始めた。




「もしかして・・・、お母さんって?」




「ふはははははぁあああああ!勝った!本妻に勝ったぞぉおおおおおお!」



「おい・・・」



スザクが手に持っていた包丁をリリスの喉元に突き付けていた。

(良い子は真似したらダメだぞ。)


「いつの間にお前がここにいるんだ?」


「決まっているだろうが!妾がこのアリエスよりも有用だというところを見せつけにきたのだよ!しかし情けないな。家事が壊滅的にダメなのは昔から変っていないとは・・・、何が主婦だ!そんな中途半端な主婦はスザクの横にいられる訳がないだろう!隣にいる資格があるのは妾だ!この負け犬がぁああああああああああああああ!」



ユラリ・・・



椅子に座っていたアリエスがゆっくりと立ち上がる。


その目からハイライトが完全に消えていた。


「うふふ・・・、よくも言ってくれたわね・・・」


まるで水が流れるような淀みない仕草でアリエスがリリスの後ろに立った。


バッ!


「!!!」


リリスの背後からアリエスが片脇に自分の頭を潜り込ませ、リリスの腰を両腕でがっしりと抱える。


「ま!マズい!」


リリスが慌てて足をアリエスの足に絡めようとしたが、その足を払われてしまう。


「さぁ・・・、元の世界に帰りなさいよ。片道切符で送り帰してあげるわ。」


ニタリと三日月のようにアリエスの口角が上がった。



グイ!



その瞬間、リリスを抱え上げ、勢いよく後方へと反り投げる。




ズガァアアアアアアアアアアアアアアアア!




「あちゃ~~~~~~~~~~~」


その光景を見ていたアイが顔をしかめる。


リリスの頭が床に埋まり、ピクピクと痙攣をしていた。


「どう?私の垂直落下式バックドロップの味は?」


パンパンと手を払いながら床のオブジェとなったリリスをアリエスが見下ろしていた。



「お母さん・・・」


「アイ、どうしたの?何か言いたいことでもあったの?」


「いえね、リリスお姉ちゃんは自分はさも出来るように言っていたけど、家事は全然ダメなのよ。壊滅的にね!手伝わなくてもいいっていつも言っているけど、無理やり手伝ってくれてね、その都度、お皿が何枚もダメになったり、食べたら確実に死ぬような意味不明の物体が出来上がるのよ。だからね・・・」


とっても嬉しそうにアイが微笑んだ。


「リリスお姉ちゃんを止めてくれてありがとう!これでちゃんとした夕食が食べられるよ!お父さんは優しいからリリスお姉ちゃんに強く言えなかったけど、これからはお母さん、リリスお姉ちゃんの足止めお願いね!」


パチンとアイが可愛くウインクをしたが、何だか複雑な表情のアリエスだった。


アリエスはアイから家事に関してはリリスと同格と思われていた事にショックを受けていた。

しかも、手伝わなくてもよいとの戦力外通告にもかなりというか相当に精神にダメージを受けていた。

だけど、自分は出来ないだけで、リリスの皿を割ったり物体Xのような危険物を作っていない事で、迷惑をかけていないから少し自分はマシかと思っていたのだが・・・


「まぁ、リリスお姉ちゃんは確かにダメダメだけど、一生懸命なところは評価していいかもね。」



がぁあああああああああああああああん!



アイの言葉にアリエスが激しく動揺してしまう。


当時のスザクとの結婚生活は、確かに家事は自分でも認める程に壊滅的だった。

そんな自分をスザクは責める事もせず、自分は何もしないでもスザクが全部してくれていた。

スザクの優しさにずっと甘えていたと気付いてしまう。


(あのリリスが!)


あの行動は絶対に点数稼ぎだと断言出来るとはいえ、スザクの手伝いをする?


しかもだ!

アイから『お姉ちゃん』と呼ばれるほどに2人の仲が良いのを目の当たりにしている!

ある意味、リリスは家族の一員として認めらているのかも?


このままでは自分の立ち位置が無くなるのでは?その位置にはリリスが君臨する?と最悪の事を考えてしまった。


(このままだとマズいわ!この16年の差は大きい!私だって本気ですれば!)


椅子から立ち上がり、急いでキッチンへと歩き始めるが・・・


「お母さん、ここは大丈夫だからね。リリスお姉ちゃんが復活しても絶対にここに入れさせないでよ。」


エプロン姿のアイに言われてしまう。


(アイ、何て可愛いの。この姿を目に焼き付けなくては!)


スザクにも負けず劣らずの親バカのアリエスだった。


エプロン姿のアイがキッチンで忙しなく動きスザクの料理を手伝っている。

その姿を見ているだけでアリエスの心は満足で、家事が出来ない自分の立ち位置の事なんかすっかりと頭から抜けていってしまった。


親バカで単純なアリエスだった。


チラッと横を見ると、まだ床に頭が突き刺さったままオブジェと化しているリリスの姿が目に入る。


(このまま大人しくしていてよね。)




そんな願いも空しく、スザクの料理が出来上がるとリリスがいつの間にか席に座って待っていた。

ダメージを受けたような形跡も無く、床も元に戻っている。

そして何食わぬ顔でスザクの料理を食べているのであった。


(こいつなら何が起きても不思議じゃないわね。)


アリエスは諦めの境地でみんなと一緒に料理を食べ始めるのであった。



「ふふふ・・・」


アイがニコニコしながらアリエスを見ている。


「どうしたの?」


「こうやってお母さんと一緒にご飯を食べられるなんてね。私、とっても幸せだよ。」




どばぁああああああああああああああああああ!




アリエスが思いっきり涙を流していた。



「あれ?」


アイがキョロキョロと周りを見渡す。


「どうした?」


「えっとね、リリスお姉ちゃんがいつの間にかいないのよ。テーブルの上にあったお皿とかも無くなっているし・・・」


その言葉にスザクが微笑んだ。


「どうしたの?何か嬉しい事でもあったの?」


「いや、別に何でもないさ。さぁ、アリエス、お前もいつまでも泣いていないでさっさと食べないとな。冷めたら美味しくなくなってしまうぞ。」


「うん・・・」


泣きながら笑っているアリエスを2人はニコニコしながら見ていた。











「柄にもない事をするのね。スザクさん達家族だけで水入らずにする為に身を引くなんてね。」


「貴様は!」


真っ暗な空間の中でリリスの声とリリス以外の女性の声が聞こえる。


「そんなに殺気を出さないでよ。もう敵対する事も無いんだし。勝負は完全についてしまったのだからね。」


「確かにそうだ。妾の完敗でな・・・」


「でもね、あなたも変わったわね。強欲の塊のあなたがね。うふふ・・・、あなたが身を引くことを覚えたなんてね。」


「馬鹿にするな。妾も一応空気は読めるわ。それにな、スザクに嫌われたくない。あの場で妾が出しゃばってしまえば確実に嫌われる。それだけは絶対にダメだからな。」


「ふふふ・・・、そこまで人間を理解してきたのね。もう少しかな?彼は彼女一筋だけどチャンスはあるわ。そこの彼女と一緒に頑張ってハッピーエンドになれるように応援しているわよ。」


リリスのそばにあった気配が突然消えた。


「くくく・・・、貴様に言われなくても妾は必ず奴を手に入れる。絶対にな・・・」










チュンチュン・・・


朝日が部屋に差し込む。


「う~ん、よく寝た。昨日はちょっと働き過ぎだったからな。思ったよりも疲れていたかもしれん。」


スザクが起きようとして手を伸ばすと・・・




ムニュ!




(はい?)


スザクの手に何か柔らかい感触を感じた。

しかも温かい・・・


嫌な予感を感じ恐る恐る横を見ると・・・




「いたぁああああああああああああああ!」




頬を赤くし潤んだ赤い瞳でスザクを見つめているリリスがいた!


しかもだ!

服を着ていないし、スザクの掌はリリスの大きなアレを掴んでいた。


「スザクよ・・・、大胆だな・・・、妾はいつでもいいぞ・・・」


ニタリとリリスが笑う。

リリスの胸に触れているスザクの手をそっと握り、更に自分の胸に押しつけた。


「妾の方は受け入れ態勢は完璧だ!今すぐでもウエルカム!さぁ!妾と既成事実を作ろうではないか!子供は5人以上は欲しいな。どうだ?」



(勘弁してくれ・・・、ストーカーもここまでくると狂気だぞ・・・、それ以前に、どうやって俺に気付かれずベッドに忍び込んできたんだ?)



とてつもない頭痛に襲われるスザクであった。


しかし、スザクの受難はそれだけではない。

もし今日の占いというものがあったら


『女難の相が出ています。女性には気を付けましょう』


そんな結果が出てくるに間違いない。



バン!



いきなり部屋のドアが開けられる。



そこには・・・



「あなた・・・」

「お父さん・・・」



まるでブリザードのような極寒の吹雪に匹敵する殺気を放つアリエスとアイが立っていた。


「お前達・・・」


もうスザクにとってこの状況はどうにも言い訳出来ないと確信した。


その後、自分がどうなってしまうのかも・・・



(終わったな・・・)



スザクの脳裏には今までの思い出が走馬灯のように浮かんでは消えていく。



「あ・な・た・・・」

「お・父・さ・ん・・・」



ユラリと2人が動き始める。



「待て!これはな!」


スザクが慌ててベッドから飛び降りる。



「「言い訳無用!」」



ゆっくりと動いていた2人がいきなり姿が掻き消えた。



ガシッ!



「な!」


アリエスとアイがスザクの右腕と左腕を掴む。

一気にスザクを押し倒すように頭を2人に抑え込まれ、首を同時に左右からロックされてしまった。


腕を掴んでいた手が離れたかと思った瞬間、今度は2人がスザクの服の腰の部分を掴んだ。


(マジかい!これは殺す気できてるぞ!)


2人の殺気に死を覚悟したスザクであった。


スザクの頭を2人の脇で挟み一気に持ち上げる。

2人で抱え上げられ、そのまま倒立の状態で動きが止まった。

スザクが垂直の体勢のまま、ゆっくりと2人が後ろへと倒れ始める。




「「ツープラトン!ブレンバスター!」」




息ピッタリの2人の動きにスザクが背中から床へと叩きつけられた。



ドォオオオオオオオオオオオンン!



2人がかりの必殺技を喰らい、さすがのスザクも無事ではなかった。


床の上で完全に気絶してしまっていた。


スクッと起き上がり、スザクが撃沈したのを確認してから2人はリリスへと顔を向ける。



「リリス・・・、何か言いたい事は?まぁ、それが遺言だからね。」



ジリジリとリリスへと2人が近づく。


「いやぁ~~~、今日はいい天気ね。妾は急に用事を思い出したので、それでは!じゃあ、帰るわね!」


グイ!


逃げようとしたリリスの頭をアリエスが掴む。


「何を逃げようとしているの?もう冗談では済ませられないからね。」


アリエスの金色の瞳が爛々と輝いている。








「地獄へ落ちろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」












「うきゃぁあああああああああああああああああああああああああ!」









朝から元気で騒がしいスザク家であった。

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