第6話 ムーノ、フルボッコされる
「ひゃはははぁああああああああああああああああ!」
部屋中にガメツの叫び声が響く。
「終わり?私が・・・、終わるの?そんなのは認められない・・・」
「これだけの証拠があるんだ。どう言い訳しようが無駄だぞ。」
はぁ~~~、と教皇が深いため息をする。
「よくぞここまで細かく帳簿を残していたものだ。お前はスザク様からお聞きした人物通りだったな。お金が全て、この帳簿の裏金の残高が増えていくのを毎日見てニヤニヤと笑っているのでは?との事だったが、儂でもそんな光景が目に浮かぶよ。己の強欲さで身を滅ぼしたようだな。」
「当り前じゃない!」
ガメツが開き直ったように教皇を睨む。
「お金は全てなのよ!お金さえあれば何でも出来るし手に入るのよ!お金を集める!それのどこが悪いの!」
殺気をまき散らしながらガメツが喚く。
「本当にお前の頭はめでたいな。そんな裏金が存在すると分かっておるのに、職員の分も含めて教会が黙って見逃す訳ないじゃろうが。もちろん、1ゴールドも残さず回収する手筈だ。」
「そ、そんなの・・・」
ガクガクと震えながら焦点の定まらない視線でキョロキョロと部屋を見渡している。
「こうなったら・・・」
ガメツの目の焦点が戻り何かを決めたかのようにグッと顎を引いた。
いきなりクルッと回れ右を行い部屋から飛び出そうとする。
「「「あっ!」」」
あまりの早業に全員が呆気に取られてしまった。
「はい、残念ねぇ~~~」
開いたドアから場違いな甘ったるい声が聞こえる。
「ちょっとぉおおおおお!あんた邪魔よぉおおおおおおおおおお!」
ドアから逃げようとするガメツの前に1人の女性が立ちはだかっていた。
「リリス!」
「リリスお姉ちゃん!」
スザクとアイが同時に叫んだ。
そこにいたのは・・・
ドアを塞ぐように立っているギルドマスターのリリスだった。
「あんた!邪魔なのよ!」
リリスの登場で一瞬だけ動きが止まったガメツだったが、彼女を押しのけようと再び走り出す。
ガン!
「ぐえっ!」
ガメツの口からおおよそ美女からとは言えないカエルが潰れたような声が出る。
鼻血をダラダラと流しながら起き上がり、目の前の空間に手を伸ばした。
そこには目に見えない透明な障壁が展開されていて、まるで出口へ行くのを阻むかのようになっている。
「何でこんなところに障壁が出来ているのよ!いつの間にぃいいいいいいいい!」
鬼のような形相でスザクを睨んだ。
しかし、そのスザクは両手をヒラヒラと上げ、「俺じゃないよ。」とアピールしている。
「誰が?」
「妾だけど文句ある?」
リリスがニヤリと笑う。
「ディスペル!障壁よ!消え去れ!」
ガメツが魔法を放った。
シ~~~ン
「何でよぉおおお!こんな紙切れみたいな障壁!どうして消えないのぉおおお!」
「無理無理、貴様のレベルでは何千年かかろうが傷一つ付ける事も不可能よ。うふふ・・・」
リリスがニヤリと笑う。
小さく誰にも聞こえない声で「たかがカスの人間ごときが烏滸がましい・・・」と呟いていた。
「たかがギルドマスターごときが!どうしてここまで完璧な障壁を張れるのよ!」
頭を掻きむしりながらガメツが叫ぶ。
「あ!それとね・・・」
リリスがポン!と手を叩いた。
「理事長室と貴様の自宅にあった裏金や美術品などお金になるものはね、家具も含めて全てギルドに運び込んでおいたわ。おめでとう!これで貴様は一文無しよ。どう?一気に貧乏人になった気持ちは?貴様が最も嫌う底辺の人間になった気持ちは?」
リリスが再びニヤリと笑みを浮かべる。
「ふふふ・・・、貴様から漂うこの負の感情・・・、妾にとっては最高の感情だ。力が漲るよ。」
しかし!
今、リリスが浮かべている笑みは全く感情の籠もっていない不気味な笑みだった。
言葉も丁寧だったり高圧的だったりとチグハグだし、性格が今一読めない感じをガメツは抱いていた。
まるで美しい顔の下にとてもおぞましい本性を見てしまったような恐怖をガメツは感じる。
が!
プチン!
何処かで何かが切れたような音が聞こえた。
「このぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!てめぇえええはぁあああああああああああああ!何をさらすんじゃぁあああああああああああああああああああああああああ!」
ガメツ、魂からの叫びだった。
お金が全てのガメツにとって命よりも大切なものを奪われたのだ。
リリスが憎い!
怒りで頭の中が沸騰しそうだ!
「死ねぇえええええええええええええええええええええ!」
ガメツから大量の魔力が溢れ出す。
「あららら・・・、ダメじゃない、こんな部屋の中で上級魔法を放とうとするなんて、バカのする事じゃない。」
パチンとリリスが指を鳴らすと、ガメツの姿が掻き消える。
「アイツはどこへやった?」
ジロリとスザクがリリスを睨む。
だけど、リリスは涼しい顔でスザクへと微笑んだ。
「心配しなくても殺していないわ。貴様は何だかんだいって女には甘いからな。どんなクズな女だろうが、それが世界を滅ぼす『邪神』であろうともな・・・」
リリスがスザクの前まで移動し、彼の頬に手を添えた。
「妾はそんな貴様に・・・、こんな気持ちになるなんて・・・」
リリスの顔が徐々にスザクの顔に近づき、リリスがスザクの頬に軽くキスをする。
「えぇええええええええええええええええ!」
アイが真っ赤な顔になりながら両手で顔を隠していた。
まだ16歳の女の子だ、目の前の光景は刺激が強過ぎたかも?
だけど、手を当てて見ないようにしているようにしていたが、しっかりと指の隙間から2人の様子を見ていたりする。
リリスがスザクから離れ、今度は教皇へと向き直る。
「教皇様、例の裏金の取り立て完了していますので、手数料を差し引いて教会にお返ししますよ。」
パチンとウインクをする。
「それじゃ、あやつを待たせるのも悪いから妾は行くぞ。」
次の瞬間、リリスの姿が掻き消えた。
「お父さん・・・」
アイがジッとスザクを見つめている。
「リリスお姉ちゃんは私が小さい頃から可愛がってもらっていたけど、本当は何者なの?私の中のお母さん達がとっても警戒していたわ。」
ポンポンとスザクがアイの頭を撫でる。
「心配するな。アイツはもう大丈夫だよ。そう約束したからな。
「そうなんだ・・・、でもね・・・」
「何だ?」
「絶対にぃいいい!浮気は認めないからね。」
「さて、ここの用は終わったし、ここから出るとするか。」
「うん!」早くお母さんに会いたいし、すぐに教会に行こうよ!」
アイがスザクの腕を掴みグイグイと引っ張る。
「アイ・・・」
スザクがジッとアイの顔を見つめる。
「お父さん、どうしたの?」
「今からちょっとあの公爵家に用があってな。」
チラッとスザクが教皇に視線を移す。
「例のアレですか?」
「そう、リリスから今朝言われてな。まさか、依頼とお返しが一緒になるとは思わなかったよ。」
ポンポンとスザクがアイの頭を軽く撫でる。
「俺もお前と一緒に行きたいけど、お前を階段から突き落とした公爵家に落とし前を付けに行くのもあるしな。馬鹿王子達は明日でも構わんけど、やっぱりどうしてもあの家だけは許せん・・・」
「スザク様!」
教皇がスザクの前に立ち頭を下げる。
「アイ様は私達が教会にて預かっておきます。もちろん、スザク様が戻られるまでにアリエス様の準備を終わらせておきます。ですから、心置きなく公爵家を潰しに行って下さい。それに・・・」
ニヤリと教皇が悪い笑みを浮かべた。
「明日はこの国がひっくり返るような出来事を教会で起こします。ふふふ・・・、あの愚王達の慌てる様が見ものですよ。」
「そうだな・・・、あいつらには相応の地獄を見てもらうのが一番かもな。人の手柄を掠め取るのが好きな見栄っ張り連中がどうなるか?教皇、頼む・・・」
「お任せを・・・」
スザクと教皇がお互いに顔を合わせ腹黒い笑みを浮かべているのを見て、アイは
『この2人は絶対に敵に回したらダメ』
そう確信した。
全員が部屋を出るとすぐに、
「おや、そこの可愛いお嬢さん、どうされたのですか?」
何処かで聞いた声が聞こえる。
全員が声の聞こえた方へ顔を向けると・・・
「げっ!」
アイがげんなりした表情になった。
数日前にアイに暴力を振るったが、逆に返り討ちのビンタを喰らって、大怪我を擬装してスザクに土下座を強要させた男、宰相の息子ムーノ・ウンチークだった。
しかし、彼はアイの事は全く分かっていないような感じでズンズンと近づいてくる。
教皇の後ろに控えていた護衛はアイを守ろうと動き始めたが、それを教皇が手を伸ばし止める。
教皇とスザクが顔を見合わせコクンと頷いた。
手出し無用!
今はアイの好きなようにさせてあげよう。
2人は思っていた。
教会で聖女と認められたアイに対し、単なる国の貴族如き地位では全く敵わない。
それだけアイの聖女の肩書は凄いものだった。
聖女の力に目覚めたアイの本当の力をムーノは知らない。
自分がどんな目に遭うのか?
「もしかしてこの学園に編入の手続きでも?」
アイの前では取った事の無いような爽やかな笑顔を振りまき、爽やかな好青年の姿を演じて迫ってくる。
普段の自分との対応の落差に、アイは全身にサブイボが出そうになる。
アイの目の前に来るとムーノがニッコリと微笑んだ。
「君はまるで本物の聖女のようだ。君の美しい銀色の髪といい、吸い込まれるような神秘的な金色の瞳は、教会の肖像画の聖女とそっくりだよ。」
ムーノの囁くような気持ち悪い声のおかげで、アイの全身にとうとうサブイボが出てしまう。
(キモイ!キモ過ぎる!このバカ!私だって本当に分かっていないの?)
そんなアイの気持ちを全く理解していないムーノが
「僕に美しい君をこの学園を案内するチャンスを与えてくれないかな?君にとって、僕の案内はとても有意義になるものだと確信しているよ。」
(本当にこいつはバカなの!あり得ないわ!)
顔を傾け髪をかき上げる仕草をしてから、ゆっくりとアイの肩に手を乗せようと伸ばしてきた。
「もぉおおおおおおおおお!無理ぃいいいいい!」
ムーノがアイの肩へと伸ばしてきた右腕を左手の甲で裏拳気味にパシィイイ!と弾く、アイに腕を弾かれたムーノは体勢が崩れ胸や腹ががら空きとなってしまった。
ズン!
「ぐぼぉおおおおおおおお!」
アイの右肘がムーノの鳩尾に深々と突き刺さる。
ムーノが鳩尾を押さえヨロヨロと後ずさった。
「な、何が?君は一体何者なんだ?」
苦痛で顔を歪めているムーノの前にアイが仁王立ちになる。
「え・・・、その髪に瞳は・・・」
アイの銀髪と金色の瞳がみるみると黒く変化した。
「その姿は!貴様ぁあああああああああああああああ!ド底辺の平民が聖女を語るとは無礼にも程がある!即刻、僕が成敗してやる!」
怒りの表情でムーノがアイに殴りかかろうとした。
ジャキッ!
「!!!」
一瞬で教皇の後ろに控えていた2人の騎士が剣を抜き、ムーノの喉元に剣を突き付けた。
「な、何で?」
ムーノの目に前にいるアイの髪が、瞳がまたもや変化を始める。
輝く銀髪をなびかせ神秘的な金色の瞳がムーノを見つめていた。
「聖女様に対して無礼だぞ!」
騎士からの言葉にムーノがガクガクと震える。
(あの平民の小娘が本物の聖女?だったら・・・、今まで僕がしてきた事は・・・)
今までアイに対して行っていた虐めを思い出し、顔面からは滝のような汗がダラダラと流れ、生まれた子鹿のように足をガクガク振るわせている。
聖女とは世界で1人しか存在しない女神の代行者だ。
たかが一国の宰相の息子とは立場的にも全く違っている。
聖女にとってムーノの立場なんてド底辺の中のド底辺と変わらない。
「す!すみませぇえええええええええええええええええええええん!」
光の速さでムーノがアイの前に土下座をした。
ひたすらムーノが額を床に擦りつけている。
どれだけの時間が経過したのだろう・・・
「ねぇねぇ・・・」
アイの明るい声がムーノのすぐ前から聞こえる。
思わず顔を上げると、アイがムーノの前でしゃがんでニコニコと微笑んでいた。
「聖女様・・・」
「ふふふ・・・、今までとは全く違う態度ね。どうしてなのかな?」
「い、いえ・・・」
「そういえばさぁ~」
アイがニタリと笑う。
その笑顔にムーノはとてつもない恐怖を感じた。
「この前にね、お父さんがあなたに謝っていたよね?今のあなたと同じように土下座で・・・、でもね、あなたはそんなお父さんを足蹴にしてバカにしていたわ。」
「そ、それは若気の至りで・・・、ど!どうか!お許しを!」
ゴリゴリと音が出るのでは?と思える程にムーノが額を擦りつけ懇願している。
「まっ!ここまで必死に謝っているなら・・・」
ガシッ!
「え”!」
ムーノの口から驚愕の声が漏れる。
信じられない事に、アイがムーノの頭を片腕で鷲掴みにしゆっくりと持ち上げている。
16歳の少女が出せるような、いや、そんな力技で少女が男を軽々と持ち上げる事は普通は絶対に出来ない。
見た目からは信じられないパワーをアイは出していた。
「これが聖女の力よ。聖女は回復魔法だけだと思ったら大間違い。お父さんが現れるまでは人類最強の称号でもあったのよ。お母さんは特に肉弾戦が大得意だったの。その力を私も受けついでいるのよね。だから・・・」
「ごひゅ!」
アイの拳がムーノの顔面にめり込む。
ゆっくり拳を引き抜くと、ムーノの顔面は拳の形に陥没していた。
「私に対しての虐めはもうどうでもいいの。でもね、お父さんをバカにした事は許さない!絶対にねぇえええええええええええええええええええええええええええ!」
「ひぃいいいいいいいいいいいいいい!」
ドム!
またもやアイの拳がムーノの顔面にめり込む。
めり込んだ拳を引き抜き鷲掴みしていた手をも離すと、ムーノの体は一瞬だけ宙に浮いた。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアアアアアア!」
あまりの拳の速さにアイの両腕が何十本に増えて見える。
拳の弾幕が次々とムーノの顔面と上半身へ叩き込まれていく。
ムーノの体が凄まじい弾幕の威力で地面に落ちず、宙に浮いたままひたすらアイに殴られ続けていた。
「オラァアアアアアアアアアアアアアア!」
グシャァアアアアアア!
「あひぃいいいいいいいいいいいいいい!」
ムーノの悲鳴が響くと、スザクを含め教皇も護衛の騎士達、ガブリエル、男達全員が自分の股間を押さえブルッと震えた。
それもその筈!
最後のトドメにアイが放った蹴りは・・・
ムーノの股間に深々と喰い込んでいる。
間違いなく確実に潰れている。2つ揃って!
男として絶対に味わいたくない痛みだ!
「うがががぁぁぁ・・・」
グルンとムーノの目が白目を剥き、口からはブクブクと泡を吹いていた。
股間を押さえゆっくりとうつ伏せに倒れ、ピクリとも動かない。
「ふぅ!スッキリ!」
とっても晴れやかな表情のアイだった。
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