第5話 父、ざまぁ!を始める
「はひぃ~、はひぃ~」
ガマガエルの目が虚ろになり部屋の隅でガタガタと身を縮め震えている。
「これで気が済んだか?」
「うん!スッキリしたよ!」
アイがギュッとスザクに抱きつく。
「ありがとう、お父さん・・・、でもゴメンね・・・、私の為に今まで我慢させちゃって・・・」
「大丈夫さ。」
ポンとスザクがアイの頭の上に優しく手を乗せた。
「いつも言っているだろう?お父さんはお前の為ならどんな我慢でも出来るってな。だけど、今回は流石にアイツらはやり過ぎた。もう少しで取り返しのつかない状態までお前に危害を与えてしまったからな。何があったのか詳しく教えてくれないか?」
「うん・・・」
アイは2階の階段前で王子や騎士団団長の息子達に絡まれ、その中に王子の婚約者であるオーチメ公爵家令嬢が介入し、彼女に階段から突き落とされた経緯をスザクに説明した。
「あのツインドリルの公爵家か・・・、潰す家が増えたな・・・、今夜中に潰すか?跡形も無くな・・・」
またもやスザクから大量の殺気が溢れ、ここにいる全員がブルッと震える。
「お父さん!怖い!怖いから!これ以上殺気を出すのは止めて!」
「お、悪い悪い、気を付けるな。」
「もう、本当に心臓に悪いから止めてよね。おじいちゃんが真っ先にポックリ逝っちゃうから!」
アイが腰に手を当てプリプリとした表情をしていたが、そんな仕草も可愛いと頬を緩ませる親バカのスザクだった。
教皇はアイに「おじいちゃん」と呼ばれ、とても嬉しそうにニコニコしていた。
完全に爺バカ状態だったが、護衛の騎士達はその姿を微笑ましく見ていた。
突然、アイが何かを思い出したようにハッとなりポン!と手を叩く。
「そういえば、さっきガマガエルが来て話が途中になってしまったけど、女神様の声が聞こえたと言っていたよね?」
「女神様?」
「そう、お母さんの事なんだけど、いくら聖女でも死んでしまった者の命を甦らせる事は出来ない。でもね、私ならそれが可能なんだと・・・、お父さんとお母さんの力を受け継いだ私だけ、そしてお母さんだけは生き返らせる事が出来るって。」
「本当なのか?」
スザクが信じられない顔でアイを見つめた。
しかし、すぐに顔をアイから背けた。
「だけど・・・、アリエスはもう・・・、埋葬してしまった・・・、どんなに方法があっても肉体が存在しなければ・・・」
「ご安心下さい!」
教皇がズイッとスザクの前に移動し頭を下げる。
「どういう事だ?まさかアリエスの肉体が残っているのか?」
「はい!私もかつて女神様の神託を受け、アリエス様のご遺体を当時のままに大切に保管しております。神託にて授かりました奇跡の力をもって、アリエス様は生前と変わらぬお姿で神殿の奥深くに封印しておきました。この事は女神様よりアイ様が真の聖女の力に目覚めるまでは、決して口外しないよう厳命されていましたので、スザク様にもお伝え出来ませんでした。」
「そうなんだ・・・」
スザクが目を閉じ天井を仰ぐ。その目から一滴の涙が流れる。
「ちょっとぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
場違いな甲高い声を響かせながら誰かがドアを開けた。
その人物は女性だった。
顔は30代後半の妖艶な姿をした美女で、とっても自分の容姿に自信があるのか、彼女の体はピチッとした真っ赤なドレス姿も相まってボッキュンボンの艶めかしいスタイルを惜しげも無く見せつけている。
真っ赤に燃えるような長い髪をなびかせてズカズカと部屋の中へと入ってくる。
「こんな凶悪な魔力を垂れ流しているバカは誰なのよ!私に喧嘩でも売っているの?」
威圧するように腕を組み仰け反るような姿勢で部屋の中を見渡す。
見渡した彼女の視線の先に教皇の姿を確認する。
次の瞬間、威圧的な態度をしていた彼女は腰を屈め揉み手をしながら教皇へと近づき始めた。
「これはこれは教皇様、どのようなご用でこの学園にいらしたのでしょうか?言って下されば私が直々にお迎えに向かいましたのに。」
「うわ!キモ!」
アイが露骨に顔をしかめる。
「相変わらずだな、ガメツ。」
スザクが呆れた感じで声をかけた。
しかし、スザクからガメツと呼ばれた美女は
あんた誰?
といった感じで露骨に嫌そうな表情になる。
「私はあんたみたいな知らないモブに声を掛けられる程安い女じゃないのよ。貧乏人は私の前から消えて!あぁぁぁ、貧乏臭さが移ってしまうわ。」
しかし、ガメツは教皇へ視線を向けると、途端に態度がガラッと変わる。
「こ、これは教皇様!お恥ずかしいお姿をお見せして申し訳ないてす。おほほほぉおおお!」
口に手を当て高笑いをしながら、腰をクネクネさせながら教皇へと近く。
しかし、教皇の前に護衛騎士が立ちはだかった。
「教皇様、一体どうされたのですか?まるで私に敵対するような感じなんですけど?」
教皇がジロリとガメツを睨んだ。
その只ならぬ雰囲気に、ガメツはクネクネした行動を止めジリジリと後ろに下がってしまう。
「理事長よ、教会は今までこの学園に寄付を行っていたが、金輪際!寄付を止める事にした。もう決定したからな、嘆願書も何も受け付けない。分かったな!」
「そ、そんなの・・・、どうしてです?」
おろおろとしながらガメツが教皇へと擦り寄るが、またもや護衛騎士が間に入り近づけないようにしている。
「我ら教会は、学園に通う子供達に十分な教育を受ける事が出来るようにとの想いで、これまで多額の寄付を行ってきた。だが!その寄付金を図々しくも着服してきたとは・・・、そんな奴等の私腹を肥やす為の寄付だったとは思いもしなかったぞ!」
徐々に教皇がガメツを睨む視線が鋭くなっていく。
氷点下を越える教皇の視線を感じたのか、ガメツの表情から余裕が全く無くなり、ダラダラと額から汗が流れ始めていた。
「そ!そんな事は誓ってもしていません!どうか信じて下さい!
そんな風に言っても態度が態度なので、あからさまに私は悪い事をしていると自白しているものだ。
教皇の視線が氷点下から絶対零度までに下がってしまう。
「あくまでも白を切るつもりだな?」
「ほ!本当にしていません!」
ひたすら恍ける事に徹したガメツだった。
少しでも怯めば自分の負けだ。
ガメツの心の中では、
(非常にマズいわ!今までずっとバレていなかったのに、どうして突然こうなったのよ?誰かがバラした?)
表情を変えずに視線だけキョロキョロを周りを見渡す。
(あ”あ”ん!)
視線の先にふと目に入った。
部屋の片隅で虚ろな表情で呆けて座っているガマガエルと、涙を流しながらガタガタと震え縮こまっている2人の教師の姿が目に入った。
(アイツらがぁあああああああああああああ!)
一瞬にして掌に炎の玉が出来上がる。
「止めておけ。」
スザクがパチンと指を鳴らすと一瞬で炎が掻き消える。
「どういう事よ!何で私の魔法を他人がキャンセル出来るの!」
ガメツの目がギロリと吊り上がりワナワナ震えながらスザクを睨む。
「あんた何者よ!私の魔法を強制的にキャンセルするなんて!私より優秀な魔法使いなんて認められないわ!私は魔王を倒した勇者の1人よ!それを!何の取り柄も無さそうなモブのような平凡な顔の男がぁあああああああああ!」
「本当に俺の事を忘れたのか?まぁ、あれから18年も経っているし、姿も変えているからな。」
スザクの言葉にガメツがピクンと震える。
「その黒髪・・・、姿を変えているって?まさか?まさか?今更になって・・・」
ワナワナとガメツが震え、ジリジリと後ずさる。
ブゥゥゥン!
スザクの顔が一瞬モザイクがかかったような感じになり、顔自体がまるで分からなくなった。
しかし、すぐに歪みが消え顔がハッキリと見えるようになった。
「まさか!そ・・・、その顔・・・、あんた、本当にスザクなの?あれから18年も経っているのに、何でそんなに変わっていないのよ・・・」
スザクの顔はさっきまでの30代前半の平凡な特徴の無い男の顔ではなかった。
どう見ても20歳前後にしか見えない若い男の顔だ。
しかも、街中でも歩こうものなら、すれ違う女性なら誰でも振り返るだろう超絶イケメンの顔だったりする。
ガメツもその例にもれず、スザクの顔を見てポッと頬が赤くなる。
「えぇええええええええええ!お父さんって!そんなイケメンだったのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「誰よ!」
アイの絶叫に初めてガメツがスザクの横にいるアイに気付いた。
まぁ、それも仕方ない。
教皇がアイの前にいたから、ガメツの方からはアイの姿は見えなかった。
だが、アイの姿を見て、ガメツがジリッと後ずさる。
「何でアリエスまでここにいるのよ!」
ガメツが今度は絶叫し、アイがコテンと首を傾げる。
「理事長ってお母さんの事を知っていたの?」
「お母さん?」
その言葉にガメツがジッとアイを見つめた。
(あの髪と瞳は聖女の証だしアリエスかと思ったけど・・・、確かにアリエスに似ているけど少し幼い感じね。「お母さん」って言っていたから、このガキはアリエスの子供?しかも、あの姿は聖女だよね?ぐふふふ・・・、聖女がこの学園にいるって事はよ、私は学園ではこの聖女の後見人になるって事よ!あぁあああああああ!聖女目当てにどれだけの男共が来るか?どれだけのお金を落としてくれるんだろう?笑いが止まらないわ!聖女ブランド様様よぉおおおおおおおお!)
スザクの予想通り下衆な事を考えているガメツであった。
「理事長よ、都合の良い夢の世界にトリップしているようで悪いが・・・」
教皇がドスの効いた声を発しガメツが正気に戻る。
「もうお前はこの学園理事長をクビになるだろう。お前だけじゃなくて、お前と一緒に着服や横領をしていた教師全てがな。」
「へ?」
ガメツの口から間抜けな声が漏れる。
「だから、さっきも言っていただろう?都合の悪い事はすぐに忘れるのはあの時から全く変わっていないな。」
スザクがニヤニヤと笑っている。
「だから!私は何も知らないし、そんな事は誓ってしてないわ!」
「教皇様、これを・・・」
ガブリエルがいつの間にか準備したのか分からないが、分厚い書類を教皇に渡す。
「え?何でうちの教師が私じゃなくて教皇様にへり下っているの?」
この学園の教師は全て自分の駒として盲目的に動くものと信じて疑わなかった。
特にこのガブリエルは内緒だけどガメツは一番のお気に入りだった。
若いし教師の中では1番のイケメン、しかも教師として生徒からの評価もとても高い。
自分の美しさに自信があり、男は自分に貢ぐものが当然としか思っていなかったガメツだったが、ガブリエルにだけは乙女心がくすぐられ、いつかは自分の手元(愛人)に置きたいと本気で思っていたくらいだった。
好きになった男が・・・
まさか・・・
「潜入捜査ご苦労だったな。」
教皇がガブリエルに労いの言葉をかけた。
(嘘!嘘!嘘ぉおおおおおおおお!)
ガブリエルに淡い恋心を抱いていたガメツにとって、2人の会話はとてもではないが信じられない内容だった。
ガブリエルのイケメンスマイルが自分へ向けてくれたのは全て仕事の為?
【ガブリエル自身が社交的なので全方位スマイルは得意】
一緒に食事をした仲なのに?
【職員合同パーティーの時だけで、決して2人っきりで食事はしたことは無い!】
その他諸々とガメツは脳内でガブリエルとの逢瀬の妄想を思い出していた。
現実の目の前で見ている光景を脳が拒絶反応を起こしている。
いわゆる信じたくない!
ガブリエルが教会からの潜入捜査官だったなんて!
そんな状態だったが、とうとう感情が爆発してしまった。
「ひゃはははぁああああああああああああああああ!」
頭を掻きむしりながらガメツが叫んだ。
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