第2話 娘、またもや絡まれる
スザクがギルドから消える前の出来事
学園校舎、2階の廊下
「いい加減に俺の女になれよ!」
学園の廊下でアイが屈強な男に腕を掴まれ迫られていた。
「この話は前も断ったじゃないの!あんたみたいな権力を傘に着て威張るような人間とは話もしたくないって!」
しかし、その男はニヤリと笑う。
「そうかい・・・、だけどな、いつまでそんな強情が続くと思っているんだ?底辺の平民であるお前には誰も味方はいないんだぞ。それをこの1年でよく理解しているんじゃないか?」
「やっぱりあんたが!」
「いやいや、俺は何もしていないさ。俺がお前にフラれたから、みんなが俺に同情してくれただけだよ。平民ごときが英雄の1人であるニヤーク・タータナイの息子の俺を振ったってね。ぐふふふ・・・、みんなが勝手にね・・・」
「そんなの嘘よ!あんたが仕組んだ事なのね!」
更に男の笑顔が歪む。
「あと半年、無事にここを卒業したければ俺の言う事を聞けばいいだろう。将来は英雄の息子の妾になれるんだぞ。ド底辺にいるお前にとっては最高の身分じゃないか?さすがに正妻は無理だけど、お前にも俺の英雄の血を継ぐ子供を産ませてやるんだぞ。」
アイの顔が嫌そうに歪む。
「ごめんよ!あんたの妾になるくらいなら教会でシスターになって一生独身になっていた方がマシよ!」
「このアマァアアアアアア!」
パン!
「きゃぁあああ!」
みるみるとアイの右頬が赤く腫れていく。
「もう優しくするのは止めだ!俺の言う事を聞かないなら、聞くまでその体に教え込んでやる!貴様が王子に取られる前に俺の言う事しか聞けないように教育してやる!」
もう一度アイの頬を殴ろうとし振り上げた腕を誰かが掴んだ。
「誰だ!」
憤怒の表情で後ろに振り向いたが、相手の顔を見て急に冷や汗をかきガタガタと震えた。
「いけないね。このレディは僕が欲しいと思っているんだよ。いくら騎士団団長の息子である君にでも譲れないからね。それにここは階段の近くなんだし、何かの拍子に落ちてしまったらどうするんだ?大怪我でもさせたらいくら王子でもある僕でもさすがに庇い切れないよ。」
「お!王子!」
長い美しい金髪をサラリと握ってない方の手でかき上げ、キラン!と音が出そうなくらいに眩しい白い歯を見せながら王子と呼ばれた男がニコッと笑う。
その王子は掴んだ腕を捻ると、騎士団団長の息子はアイの手を離し床に転がった。
「王子、そんな平民に執着しなくても、あなたにはちゃんとした身分の婚約者がいるのではないですか。」
しかし、王子は顎に手を当て少し思案顔になってから男を睨んだ。
「それはそれ、僕はこの子が欲しいからだよ。何でだろな?リヴィアと比べても遜色ない美しさ、それこそ平民離れしているからね。しかもだよ、成績も常に僕よりも上位なんだし気にしない方がおかしいよ。この子がいれば僕は将来とっても楽が出来そうだからね。」
「だ、だからって!」
「君も将来正妻になる婚約者がいるのにだよ、この子を妾にしようとしているんだよね?それなのに僕にはそれがダメだと意見するのかな?」
「は、はぁ・・・」
その言葉に男がダラダラと冷や汗を流す。
そんな男には興味が無くなったように視線をアイへと移した。
「アイ君、この僕が君を側室候補にしてあげると言っているんだよ。そろそろ強情を張るのは止めて『うん』と言ってくれないかな?国王でもある僕の父親は世界中で知られているのは分かっているだろう?18年前に魔王を倒した勇者なんだよ。今では世界で逆らえる国もいないし、その後を継ぐ僕も最高の国の王になるんだから。今でも世界中から僕の側室になりたい女性がいるんだけど、君を第一席の側室にしようとしているんだから、それは大変名誉な事なんだよ。それをずっと断るなんて、とても勿体ないと思わないのか?」
「以前にも言った通り、そのお話はきっぱりとお断りします。」
アイの理の言葉にピクッ!と王子のこめかみに青筋が浮いた。
「本当に君も素直じゃないね。僕は王子なんだよ。いい加減に僕の言う事を聞いてくれないとどうなるか分からないからね。」
騎士団団長の息子以上に醜悪な笑顔が浮かび、あまりの気持ち悪さにアイがブルッと震えた。
「確か・・・、君は父親との2人暮らしなんだよね?母親は誰だか分からないけど、僕の調査では君が物心をつく前からいなかったってね。そして父親はギルドの雑用で生計を立てているんだよね?僕の力は例え独立組織でもあるギルド相手でも影響力はあるんだから。なんせ、僕は魔王を倒した英雄の息子なんだからね!僕が一言、何かを言えば君の父親はクビにする事も簡単なんだよ。しかもだよ、この王都ではどこにも働けないように圧力をかける事も簡単なんだよ。ぐふふふ・・・、どう?それでも僕のお誘いを断るのかな?」
「このゲスが・・・、父さんを使って脅すなんて・・・、英雄だからって何をしても良いわけないじゃない・・・」
今にも飛びかかりそうなくらいにギリギリと悔しそうに歯ぎしりをしていた。
「ふふふ・・・、いいね、この屈辱に耐えているこの顔!何て楽しいんだろう!これだよ!これ!誰にもなびかない!そんな君が僕に服従する、そう想像すると、あぁああああああ!快楽でおかしくなりそうだ!あははははははぁあああああああああ!」
「王子!」
どこからから大きな女性の声で王子を呼ぶ声が聞こえる。
みんながそのの声の方を向くと1人の女性が腕を組んで立っていた。
スラッとした細身の体つきの美少女で長い金髪をドリルツインテールにしている。
機嫌が悪いのだろう、元々が少しキツい意地悪そうな美少女の顔付きが、今は更に意地が悪そうな表情になっている。
しかもだ!どういう原理なのか分からないが、金髪の巻き髪のドリルがキュインキュインと回転しているように見えるのは気のせいか?
「いつまでもそんな貧粗な体の平民ばかり追いかけているのですか?そろそろいい加減にしないと・・・、この私のドリルがあなたの股間をぶち抜きますわよ。」
アイは思った。
あのツインドリルは武器になるの?
さすが貴族、庶民には理解出来ない存在だと。
そして、王子と団長の息子は同時に思った。
どっちが貧粗なんだよ!
アイ → 名前の通りアレはIカップはあるだろう。
ツインドリル → 薄い!絶壁とまではいかないが、A、頑張ってもA寄りのBでは?
思春期真っ最中の男だから、女性のこういうところに目が行ってしまうのは仕方ないとしても、アイに迫る2人の下心はコレ目当てに間違いはなかった。
「リヴィア、これは誤解だよ。僕が1番に愛しているのはリヴィア、君だよ。僕が将来王となって君が王妃になった時に、優秀な頭脳を持った側室がいた方が良いだろう?彼女に全ての仕事をさせ、僕達がその分楽を出来るんだ。その為に僕は頭脳だけは優秀な彼女を側室に迎え入れようとしているんだよ。」
「そう・・・」
リヴィアと呼ばれたツインテール少女は軽く腕を組みながら王子を睨む。
王子がアイの胸と自分の胸を交互に見ている視線はハッキリと分かっているので、王子がアイに執着する目的はアイの体目当てだと理解していた。
ギュリン!
ザク!
「「!!!」」
リヴィアの片方のドリルが激しく回転し、王子の股間へと迫った。
その金色のドリルが股間を掠め床へと突き刺さる。
余りの事に王子はガクガクと震え身動が出来ないでいた。
アイは信じられない表情で金色のドリルを見ている。
(本当に武器になるんだ・・・)
「私の目を誤魔化せると思っているのですか?こんな平民にうつつを抜かすなんて、将来、この国の代表となる覚悟が足りないのでは?私のような完璧な女を放っておくなんて幻滅しますわよ。」
床に突き刺さったドリルが抜け、令嬢の髪の位置に戻ると、今度はアイを見てクスッと笑う。
「王子を誑かす悪女はホントいつ見てもパッとしない芋娘ですわね。そんな田舎臭い娘にどうして高貴な男が群がるのでしょうか?それとも、上手くたらし込んで財産を狙っているのかもね。薄汚いドブネズミなら考えても不思議ではないかもね。そんなに体を売ってでもお金が欲しいなら娼婦にでもなればどうかしら?貧乏くさいあなたにはお似合いね。おほほほぉおおおおおお!」
「はぁ!」
その言葉にアイの我慢も限界が来てしまったのか、メンチを切りながらリヴィアを睨んだ。
「毎回言っておくけど、困っているのは私なのよ!こんな気持ち悪い連中に言い寄られる身になってみなさいよ!私はハッキリと拒絶しているのにしつこいったらありゃしない!王子の婚約者ならあなた!ちゃんと責任を持って教育をしてよ!このバカ王子に言い寄られて迷惑しているのよ!」
アイが腕を組みたわわな胸を持ち上げリヴィアに見せつけるように胸を反らした。
「婚約者であるあんたを放ってよ、他の女にうつつを抜かすなんて、あんた、バカ王子を繋ぎ止めるだけの魅力が無いんじゃないの?まぁ、確かに顔はお貴族様だけあって綺麗だけど、もう16歳になるのに上から下までの体型が真っ直ぐっていうお子様体型ってのもねぇ~」
アイのその言葉で王子達はアイの胸とリヴィアの胸を交互に見ていて、リヴィアと視線が合ってしまうと気まずそうにスッと視線をそらす。
バキッ!
その態度にリヴィアが手に握っていた扇子を両手でへし折った。
「言わせておけばぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~!」
まるで地獄から亡者が湧き出てくような低いドスの利いたリヴィアの声が響く。
「底辺の平民ごときがぁあああ!公爵家令嬢の私に対して生意気なのよぉおおおおおおおおおおお!このドブネズミがぁああああああああああああああ!」
ドン
「きゃ!」
怒りに狂ったリヴィアがアイを突き飛ばす。
「え?」
アイが信じられない表情になり手足をバタバタと動かした。
「「「あ!」」」
直後に王子達の短い悲鳴が響く。
リヴィアに突き飛ばされたアイはヨロヨロと後ろによろけてしまったが、運悪くここは階段のすぐそばだった為、足を滑らせ階段へと転げ落ちてしまった。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!」
アイの悲鳴とアイが階段に何度も体を打ちつける音だけが響く。
3人は咄嗟の事で声も出せずに呆然とアイが階段を転げ落ちる様を見つめているだけしか出来なかった。
アイは1階まで落ちてしまいピクリとも動かない。
頭からは大量の血が流れ床に大きな血だまりが出来始めている。
左腕も頭を庇った際になのか変な方向に曲がっていた。
「おい・・・」
しばらくして王子がゴクリと喉を鳴らしながら2人へ視線を移す。
アイを突き飛ばしたリヴィアはガタガタと震え、「私じゃない・・・、私じゃない・・・」とブツブツと言っていた。
団長の息子も突然の出来事にガタガタと震えているだけだった。
「お前達!何をしている!」
3人の後ろから大きな声が聞こえる。
慌てて3人が声のするところに顔を向けると、1人の若い教師が自分達のところへと走って来ているではないか。
王族や上位貴族だろうが生徒を階段から突き落とし、大怪我、いや最悪は殺してしまった事になってしまった事が分かってしまえば、いくら学生といえども厳罰は免れない。
最悪の事態は廃嫡の可能性もある。
もはやアイの心配の事など露ほどに頭に浮かばず、自分達の保身を最優先に考えていた。
その結果、3人の頭の中に浮かんだ答えは・・・
「お、俺達じゃねぇ!」
「ちょっと待て!」
自分達のところへ走ってくる教師をすり抜け、一目散にこの場から走って逃げて行った。
3人にとってこの場は自分達以外に誰もいなく、アイを突き落とした現場を目撃した証人は誰もいないかった。
ひたすら恍け、後は親の権力でもみ消せるものと信じて疑わなかった。
そう思っていたのだが、世の中はそう甘くない。
眠れる獅子を起こしてしまった代償は遙かに大きかった事を、後で激しく後悔しても後の祭りだった。
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