無能と言われていた父親、我慢は止めて本気になりました。
やすくん
ミエッパリー王国編
第1話 父、無能と呼ばれる
「我が負ける?」
「そうだ、これで世界が平和になり、そして俺の使命も終わる。」
対峙してている2人の間に沈黙が漂う。
「まかさ人族が我をここまで圧倒するとはな・・・、だが!我を倒したからといって全てが終わった訳でない!これからが貴様の地獄の始まりだぁああああああああああ!本当のなぁああああああああああああああああああああ!」
片方の男が叫び声を上げながらゆっくりと仰向けに倒れた。
「勝ったと思うな・・・、魔王である我もあのお方の小間使いに過ぎん。あのお方はもうすぐこの世界に降臨されるだろう。いくら貴様でもあのお方の前では・・・」
「うるさい!」
ズン!
「げひゃぁあああああ!」
プチッ!
立っている男が右腕を高々と掲げると、空中にとてつもなく巨大な岩が出現し、倒れている男の上に落ちてくる。
憐れ、男は巨大な質量を誇る岩の下敷きになり、さながらGのようにプチッと潰れてしまった。
「これで静かになったな。どこの世界でも悪党は本当に最後まで色々とうるさい存在だよ。しかし、最後の捨て台詞が気になる。」
ズズズ・・・
「マジかい?」
男のはるか上空に空間の割れ目が生じ、圧倒的な禍々しい気配がその割れ目から瘴気となって湧き出してくる。
空間が縦に割れ、真っ白な手がその隙間から伸びてきた。
「これがあのお方?」
しかし、男はニヤリと笑いグッと拳を握りしめた。
「まぁ、サクッと終わらせて帰るとするか。面倒な事は逃げ出したあいつらに任せて、これからの俺は身の丈に合った生活をするだけ。英雄なんて肩書はクソくらえだ!」
男の隣に立っている女性も男の言葉にゆっくりと頷いた。
この日、世界を恐怖に陥れていた魔王が倒され平和が訪れた。
・・・
・・・
18年後・・・
「申し訳ありません!」
1人の男がペコペコと頭を下げている。
「困るんだよねぇ~、平民であるあなたの娘さんが、よりによってこの国の重鎮でもあるお方のご子息を殴ったなんてね。それも一方的的に・・・」
デップリと太り薄い頭を撫でながらニヤニヤした笑いを浮かべた。
まるでヒキガエルが笑ったようにも見える。
その視線の先には頭と腕に包帯を巻いた少年が立っていた。
「お父さん!違うのよ!私が被害者なのよ!」
1人の少女がペコペコと頭を下げている男の腕にすがりつく。
「何を言っているのでしょうか?このウンチーク様の状態を見れば一目で被害者だと分かるんじゃなのかな。」
「嘘よ!たった一発のビンタでここまで怪我する訳ないじゃない!何を大げさに包帯まで巻いて被害者ぶっているのよ!」
「あなたが暴力を振るった事を認めましたね?」
太った男がガマガエルのように歪んだ口を開け舌舐めずりをしている。
「だって!最初に私の髪を掴んで思いっ切り引っ張ってきたのはアイツなのよ!そんなコトされれば誰だって怒るわよ!」
「いえいえ、私達の調査ではあなた、アイさんが先に言いがかりをつけてきたとのでは?平民が宰相様のご子息様に対する態度ではないでしょうが。」
「私はやっていない!それにこの学園では身分の差は無いんじゃないの?この事は世界中全ての学園で決まっている事じゃないの?」
「それはそれですけど、ここではそんなものは通用しませんよ。平民は貴族様に何をされても文句は言えないのです。これがこの学園の理事長であり、世界を救った英雄の1人でもあるローイエ・ガメツ様の方針ですよ。平民ごときが貴族様に歯向かうのは烏滸がましいにも程があります。そんなに待遇が悪いのは、あなたの父親が我々教師に寄付をしていないからでは?」
相変わらずニタニタした笑いを浮かべながら男を見ていた。
「何を言っているのよ!それって寄付じゃなくて賄賂って言うのよ!そんなお金なんてうちにある訳ないじゃない!」
目を吊り上げながら少女がガマガエル教師を睨む。
「ご存じなかったのですか?この学園は全てはお金で序列が決まっているのですよ。理事長でおられるローイエ・ガメツ様の方針は絶対です。このままだとあなたは暴力事件を起こした罪で退学ですね。」
「そんなの横暴よ!」
「なんとでも言って下さい。いくら成績が良かろうが、平民であるあなたがどれだけ騒ごうが、この学園では通用しないのです。もっとも、それなりの誠意を見せてもらえれば考えない事もなですけどね。」
ガマガエルがねっとりとした視線を少女へ送ると、その視線の意味を感じ取ったのか、少女が自分の体を抱きブルッと震えた。
「申し訳ありません!」
男の大きな声が響いた。
次の瞬間には男は床に手をつき深々と土下座をしている。
「お父さん!そこまでしなくても!」
「それだけでは足りませんねぇ~~~」
包帯を巻いている陰気な雰囲気の少年が、土下座をしている男の姿を見てニヤニヤと笑いながらすぐ前に立った。
「どうかお許しを!」
男の額が床に着く程に更に頭を下げ、少年へと謝罪をしていた。
「礼儀知らずな娘と違って、親の方は貴族に対する礼儀を弁えているじゃないか。でもね、僕の受けた屈辱はこれだけじゃ足りないんだよ。」
ガン!
「お、お父さん・・・」
少年が徐に片足を上げると男の後頭部に向かって踏み下ろした。
グリグリと頭を踏みつけられているが、男はジッとされるがままに耐えていた。
そんな父親の様子を少女は涙を流しながら見ている。
「ひゃはははぁああああああ!力のない平民は惨めだなぁああああああああああ!」
少年が歪んだ笑顔を浮かべながら男の頭を更に踏みつけていた。
しばらくすると足が離れ少年は後ろに下がり、代わりにガマガエル教師が前に立った。
「いくら平民でもここまでプライドもないなんて逆に清々しいですよ。どうやらあなたの誠意に免じてウンチーク様はお許しになったようですな。くれぐれも今後は問題を起こさないで下さいよ。無能なお父さん。」
その場にいた数人の教師を引き連れながら少年が部屋から出ていった。
「お父さん・・・」
少女が土下座の姿勢のままの姿の父親の腕を掴み起こそうとした。
「何で?何で言い返さないのよ・・・、こんなお父さんの姿、見たくないよ・・・」
男がゆっくりと起き上がり、少女の頭を優しく撫でる。
「大丈夫だ。お父さんはお前の事なら何でも出来る、こうして謝る事もな。」
「だからって、あいつが悪いのに何でよ・・・」
「この学園はな、悲しいけど身分差が横行してる。黒いものでも貴族が白と言えばハイとしか言えない世界だ。お前もあと半年でこの学園も卒業だ。だからな、無事にお前が卒業するまでお父さんは頑張れるんだよ。」
「で、でも・・・、悔しいよ!ちゃんとした仕事に就くには学園の卒業が条件でも・・・」
少女が涙を流しながら走って部屋から出ていってしまう。
部屋には男が1人残されポツンと佇んでいた。
「はぁ~~~、アリエス・・・、俺のやっている事は正しい事なのかな?」
誰にも聞こえない呟きが部屋に響いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「何、しけた面しているの?」
男が黙々とホールのような場所で床掃除をしているところに女性の声がかけられた。
「あ!ギルドマスター!」
男の前には妖艶な雰囲気を漂わせた美女が立っていた。
見た目は20歳前半くらいだろう、腰まで伸ばした輝くような金髪をなびかせ、全ての男をも虜にするのでは?と思える程に吸い込まれそうな赤い瞳が男を見つめていた。
「またアイちゃんの事?」
「はぁ・・・、そうです・・・」
「ふふふ・・・、あの子は曲がった事は大っ嫌いな真っ直ぐな子だからね。誰かさんそっくりで・・・」
ゾク!
一瞬空気が凍り付く。
女性の顔が引き攣り、額から汗が大量に流れてくる。
「す、すまない!失言だったわ・・・」
「いいですよ、もう過ぎ去った事ですから。今はアイを育てるのに精一杯ですし、学園を無事に卒業させてあげたいので。」
「貴様はあの頃からずっと変わらないな。そろそろ妾の・・・」
ズイッと女性が男へと近寄る。
「おら!邪魔だぞ!無能がいつまで掃除に時間をかけるんだ!」
ドカッ!
筋肉質のガタイのデカイ男がいきなり男を蹴飛ばす。
「スザク!」
女性が無礼を働いた男を睨んだが、その男はニヤニヤを笑いながら女性を見ている。
「ギルドマスターさんや、そろそろ俺の女になる気持ちは固まらないのか?俺は伯爵家の嫡男だし、冒険者ランクAだぞ。俺くらいの優秀で家柄も良い男はそういなんだし、あんたもその若さでギルドマスターなんかして苦労しているんだろ?俺と一緒になればずっと贅沢三昧を約束してやるよ。だからどう?」
「断る!いくら貴様がランクAでも、性根が腐っている男に靡くほど妾は腐ってないからな。」
フン!と腕を組むとたわわな胸が持ち上げられ、更に妖艶さが増しているので、周りの男からの視線が彼女に集中している。
そんな彼女とは正反対に男はプルプルと震え、女の腕を掴みかかろうとしていた。
「この野郎!女だと思って優しくしていれば調子に乗りやがって!お飾りの女のギルドマスターのくせにランクAの俺に歯向かうなんてよ!こうなったら強引にでも俺の女にしてやる!」
「出来るならね・・・」
パチンと彼女がウインクをする。
グシャ!
「あ”・・・」
男が呆けた表情になった瞬間、目から鼻から耳から大量に血があふれ出した。
そのままゆっくりとうつ伏せに倒れる。
「どうした!」
「マクラーレンが倒れたぞ!」
「いきなり何が?」
「スザク」
「ん?どうした?」
「ゴミが増えたから掃除しておいてくれない?」
「大丈夫か?」
スザクと呼ばれた男が倒れてピクピクと痙攣している男を見下ろす。
「死んでいないけど、もう冒険者としては廃業ね、間違いなく。ランクAは勿体なかったけど、そんな下品な男はギルドに必要ないからね。外に捨てておけば誰か見つけて親に連絡すると思うわ。今後は一生ベッドの上での生活でしょうけど、妾に敵対したからこうなったのは仕方ないわね。」
「えげつないな。誰もお前が犯人だとは分からないだろうな。」
スザクの口調が先ほどとは違っているが、ギルドマスターの彼女はそう言われてもにこやかな表情を崩していない。
「もちろんよ。妾を誰だと思っているの。そんな下手な事はしないわ。貴様と一緒でね。」
「分かった。じゃあ捨ててくるな。」
スザクは床に倒れピクピクと震えている男の片足を無造作に掴み、ズルズルとまるで重さを感じさせなように片手でギルドの出口まで引きずっていった。
おもむろにドアを開けると、そのままポイッと外に投げ捨ててしまった。
「ふぅ、スッキリ!」
スザクもギルドマスターも清々しい顔で元の仕事に戻っていった。
数日後・・・
相変わらずギルドの床掃除をしていたスザクの動きが突然止まった。
次の瞬間、全身からとてつもない殺気が放出され、近くにいた冒険者や職員が気を失い次々と倒れてしまう。
「スザク!どうしたの!」
あまりの殺気に2階にいたギルドマスターが慌てて下へ降りてくる。
息を切らしながら近づいてくるギルドマスターに、スザクがゆっくりと振り向く。
その目は吊り上がり、今にもギルドマスターを射殺すような雰囲気だ。
「リリス、急用が出来た・・・、早退させてもらう。」
ゴクリと彼女が喉を鳴らす。
「もしかして?アイちゃんの事?」
「そうだ、アイが危篤状態だ・・・、学園でまさかこんな事になるなんて・・・」
スザクの足元に魔方陣が浮かび、その姿が掻き消えた。
ギルドマスターが深くため息をする。
「あらら・・・、眠れる獅子を起こしちゃったわね。バカ国王はこの事を知っているのかしら?下手すればこの国そのものが無くなるかも?このギルドも閉鎖して帝国へ移転する事も考えないといけないかもね。」
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