3 王様と家来の話
一見、人が良さそうな人でも短時間ならそういう仮面は被れるので実際はどうかわからない。
自分が体験してその人を知ることが一番確実で、多くの人の体験談が同じことを示しているならばそうである確率が高いと言える。経験的にそう。
慎重派の自分としては、人を決めつけたくはない。悪い噂は特に、悪くない方が良いという期待を込めて。良い噂にも一応警戒もする。自分にとってどうかってことだから。
雇用関係は王と家来のようなものだ。特に小さな城の場合、王様である経営者と接する機会が頻繁となる。
家来である私のスタンスは、暴君には何も言うまい。自分の得にはならないし、イエスマンで居たほうが恨みは買わない。気分屋には何も言うまい。その時々で言うことが違う時点で信用出来ない。
秋から冬へと季節が変わる頃、先輩が体調不良だと言う。どうやら王様と反りが合わないことが原因のようだと少ししてから気づく。これまでも、王様の好き嫌い人事で多くの家来が辞めていると聞いてはいた。パターンとしては、難癖をつけては、家来を追い詰めていくらしい。好きな家来と嫌いな家来の扱いをこれ見よがしに変えている。それまで、普通だった扱いが何か気に障るのか酷い扱いへと変化し、根を上げるまでそれが続くという。心や体を病み辞めていった先人達の話を同僚から聞かされている。1人家来の中に内通者がおり、その者がターゲットを生贄のごとく王様に差し出していると噂だ。王様に気に入られている者も、人間関係の環境の悪さに隙あらば円満に辞めていく。
ただ一人前任者は、強烈な性格の人物だったらしく、王様の圧力に全く屈しなかったため、ついには解雇され去っていったと聞いていた。
前任者と交代で入ってから、王様と先輩の関係性が良いことは見ていた。ところが、前任者と言うターゲットが居なくなったことで、矛先が先輩に向いたようだった。
そうして春が来た頃に、先輩は辞めて行った。
新しく代わりの人が来て、少し職場の雰囲気が変わるが慣れてくると、また次のターゲットが選ばれ、そして去ってゆく。何回かそういうことが目の前で繰り返された。
自分の番が来た。
一挙手一投足に難癖をつける。うんざりするが、王様ゆえに逆らわず適度に対応する。もちろん帰属意識も萎える。
クビを切られるまでは辞めないつもりで坦々と過ごす。給料が良いからだ。
内通者には、クビになっても良いと思っているとほのめかし、前任者のように、明日から来なくてよいと言われるのを心待ちにする。
そうして、退職勧奨に漕ぎつけた。
自分の言い分ばかりで、王様の言い分がなく、フェアじゃないので、補足しよう。
これは想像。
王様の言い分
公共性が高く、人命に直結する責任重大な専門職にある者は、プロとしての矜持を持って働くべきである。そしてそれに見合った対価を受け取るべきである。
自己研鑽を怠ってはならない。
顧客に対しては、辛抱強く対応することが求められる。それは人としての在り様にも関わる。人には親切に、汝隣人を愛せよである。
人は王によって正しく評価されるべきであり、それに基づき対価を得るべきである。
契約している以上は、一定の働き、結果を求められることは社会的常識の範囲であり、それに満たない場合は、契約を解除するに値することである。
及第点に満たない者に関してどのように扱うかは、雇用側の自由裁量である。
指導した。我慢した。十分様子を見た。しかし、結果が出ない。注意したことが正されない。そうなると、業務上のことに留まらず些末なことも鼻につくようになってきた。対価を払う価値のない者に、払い続けることは、損以外の何物でもなく、刻一刻と損をしている状況であることが腹立たしい。存在自体が疎ましい。何も望めないと諦めているが目障りであり、心理的に有害である。嫌味を言いたくもなる。我慢しているが限界だ。辞めてくれればすっきりするのだが、辞めるとは言ってこない。よく毎日来られたものだ。きっと鈍感なのだろう。自分から辞めないならば、辞めてもらうしかないだろう。
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