第12話 信頼されない組織。
御剣猛と山手ひよりは、新宿の貸しビルの会社にきていた。その建物の中に、銀行の件の人質の二人がいるのだ。
入り口は奇麗、警察、と名乗ると空気感が変わった。
中に案内された、応接室に通される。
何をしている会社なのかは調べてきた、小さな貿易会社なのだ。主にアフリカの天然素材を商社に卸している。
人質の二人がそろってきた。
一人はガタイがいいが眼鏡がきつそうなタイプの亜多良木健、43歳。
もう一人が線の細い谷尾俊博、55歳だ。
二人は、警察への不信感を隠してない。
粗茶を出されて、口をつける刑事の二人、まずい。
それから質問に入ろうとしたら、二人が、
「なんで自衛隊が最終的に突入したんですか?こちら側は殺されるかと思いましたよ。」
「全く、これだから、国家の犬どものは・・・、失礼。」
二人は言いたいことは沢山あるが、そこで止まった。
猛は咳をして、質問を開始した。
型通りの質問、全然イレギュラーなものはない。
ひよりがふと、
「三島由紀夫は好きですか?」
と二人に尋ねた。
二人は、全然と答えた。
「では、小林多喜二は立派だと思いましたか?」
すこし、間をおいて二人は全然と答えた。
猛を肘で小突く、小さな声で帰るわよ、と言って、え?と反応する前に、ひよりは部屋を出た。かなり無礼に。
慌てて、失礼しますと言って、会社を出る猛、よくわからない。
貸しビルから出て、ひよりは、
「あの二人は人質じゃないわ。全共闘よ。邪魔をしておきながらまだ邪魔するきよ。」
「ええ、だったら、いったい誰が人質なのですか?全然つかめない。」
ひよりは、ため息をつき、
「自衛隊がマスコミを追い払ったからビデオ検証も出来ないのよ。この件は完全に詰まったわ。帰ろう。」
二人は覆面パトカーで本署に戻った。それを少し離れたところから写真に収めていたのが先ほどの二人だ。
「あの女、出来るな。すぐにばれた。連絡しとこう。この件に警察なんぞ介入させない。」
「全くですね。でも、結局、自衛隊のおかげで人質が誰かは絶対にわからない。いい効果が出ましたね。では、私は行ってきます。」
亜多良木はヘルメットをして、原付で道路に出た。三か所に行かねばならない。伝えるのは対面が絶対に信頼できる。電話の盗聴など、させるものかと決意して。
猛と山手ひよりは、本署に戻って書類の作成にかかったが、どうしても、当時いた人質の数と実際に対面できる人が少な過ぎた。全て、自衛隊と全共闘のせいである。
デスクで、タバコを吸いながら猛は、
「やはり、警察は嫌われてなんぼですね。全く、この間の早川裕子は良かったなあ。」
「猛君、あなたもまだまだね。あの子は相当な嘘つきよ。でも、人間性はバカじゃないわね。まあ夜に何をしているかは知らないほうがいいのよ。」
ひよりは、書類を書きながら、猛を鼻で笑った。
「先輩、あの子、ひょっとして、ええ?」
「まだまだねえ。まああの子への接触はあれが最初で最後でしょ。それでいいのよ。」
二人はその後も捜査を続けたが、警察は信頼されてない。当時の状況を話してくれたのは早川裕子を含めてわずか9名だった。
残りはどこの誰かもわからないのだ。
結局その9名の証言をもとに、書類と報告書を作成した。
裕子がいっていた、犯人側の人間は全共闘ではないことだけは確信していた二人だった。残りの8名に犯人側はいなかった。犯人をかばう気などない、恐怖と怯えを出して話してくれたものばかりだから。
一体どういう組織が動いて、あの件が起きたのか、二人にはうかがい知ることは出来なかった。
その後、猛は殺人者が放置され続けるのに嫌気がさし、交番勤務を希望し、葛飾区の派出所勤務の巡査部長になった。
ひよりは孤軍奮闘し、出世して、5年後には副署長として、葛飾区に配属されるのだが、猛はとても驚いた。
銀行の件は完全にブラックボックスと化した。犯人は捕まらない。
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