第8話 後始末。

平成三年、高校を卒業して、進路が決まった仲間たちが飲酒をするためにファミレスにいた。この時代は緩い。見た目で大学生か高校生かがわかるわけでもない。

一人遅れてきた細い眼鏡が席についた。

「俺さああんまりのめねえんだよね。ウーロンでいいわ。」

その男の言葉が終わる前に皆は飲み始めた。全部で六人細眼鏡を残して五人は都会へ行くのだ。

一人が時計を見る。

「8時13分か。」

細眼鏡がウーロンを飲む。

時間が経ち、五人は酔っていた。ガンガンつまみも食っていた。

周囲はタバコをくゆらせて、飲んでいる大人たちばかりだ。

細眼鏡が、がつがつ食っていると、

「さて、そろそろ裁判を始めるか。」

五人が細眼鏡を見つめた。

細眼鏡は何のことかわからずにびっくりしている。

「俺たちはなあ、お前を始末してから都会に行くんだ。なあ。」

笑う他の四人。

全く何のことかわからない細眼鏡。

「9時10分だ。」

時計を確認した、細眼鏡はそれを聞いていたつもりだったが急に体が重くなって動けなくなった。

気が付くと、客は全員がそれを見ている。

「お前さあ、自分だけ地元でぬくぬくと痴漢、万引き、窃盗を繰り返せると思ったか?」

五人の目は座ってなかった。

細眼鏡、拓雅也は恐怖を覚えたが体は動かせない。

「お前さあ、二年の時に教室でSがお前のナップサックから万引きの証拠を見つけた時に靴舐めますって言って教室中から笑いをとったなあ。あの時センコウに言ってたらお前中卒だったんだぞ。いや、少年院だったかもな。」

拓は見覚えがありすぎるが体が動かせない。

「ウーロン茶に仕込んだんだよ。ここの人間はみんなお前に恨みがあるからな。」

周囲の大人たちはにやにや笑いながらなり行きを見ている。

「実に、いい実験材料だったよ。お前に三年初めの時に渡したキーホルダー、あれ、発信機だったんだよ。」

「GPS、今は軍事衛星だけだがネットが流行ればいずれ情報衛星と称して世界中に打ち上げられるだろ。」

「つまり、お前の一年間は全部監視してた。誰が?とは言わないが。」

五人は大笑い、周囲の大人も大笑い。いつの間にか、厨房の職員たちも顔を出している。

「書店での永続的な万引き、電車内での痴漢、老人を信号機で蹴っ飛ばす、最低すぎて物語になりやしねえ。」

拓は、泣いていた。そして逃げられないことに。

「あのなあ、人間ってこういうファミレスにあるつまようじと、スプーンと、はしだけでも解体できるんだよ。」

そう言って一人が、拓の口をこじ開けて、つまようじを詰め込んで口を閉めて、思いきり殴った。口内で砕けたつまようじが中から飛び出す。

痛いが声が出せない。

「さてと、筋弛緩剤は、痛みは分かるからと。やるか?」

五人は拓を床に寝転ばせて靴下を脱がせた。そして、ゆっくりゆっくりと指先、足の指先につまようじをねりこんでいった。

あまりの痛みに小便を漏らすがやはり声が出せない。

大便も漏らした。

大人たちは興味津々で観ている。

「おい、みんななあ、お前がおさわりした女の子の関係者なんだよ。田舎の情報網なめんなよ。」

大人たちは頷く。

「さてと、そろそろ来るなあ。」

ここのファミレスは一階が駐車場で二階がファミレスである。

一台の車が止まって、降りてきた二人が駆け上がってきた。

「やっと、やっと、殺せるんですね?やったあ。」

拓は一人に顔をあげられて二人を見て愕然した、両親だった。

「この出来損ないを始末できる日が来るなんて?最高の日です。」

父親は笑顔が止まらない。母親はさっそく厨房から包丁を持ってきた。

拓はなんで?両親が?と思った。

「この子は妹の生理用品は盗むわ、長男の金は盗むわ、もうくそったれでした。

やはり堕胎しとくべきだった。後悔してます。」

「この子は、あたしが殺します。では、最初に。」

母親が雅也のソチンを切り落とした。雅也はあまりの痛みに気絶した。

雅也は気が付かなかったが、自分が寝かされている場所にはビニールが張られていた。

「次は私です、どこから切り落とそうかな。」

父親もワクワクしている。

拓雅也は、父親に心臓の血管を切り落とされている最中に死んだ。


拓雅也、進学校の一年生から、電車内での痴漢、書店での万引き、そしてすぐに人のせいにする性格で誰からも嫌われていたからこうなったのだ。


雅也はファミレスで骨、肉、内臓、血管、皮膚、全て解体されて処理された。

彼が行くはずだった大学の合格通知は偽物だった。両親は、彼に1000万の保険金をかけていた。

防犯カメラなど最初っから動いてなかった。

大人たちは、雅也の一部を料理して食べた。五人は、雅也を処分して、血液反応も完全に消してから、改めて飲み直した。

「いやー、計画通りだね。ここまでうまくいくとは思わなかった。」

「全くだ、皆さん協力ありがとうございました。」

周囲の大人たちは拍手で答える。

「ま、GPSを監視してたのは本当は誰なのかはうちらも知らないだけどね。」

大笑いする五人。両親は、身投げして死んだということにするために遺体の一部を持って帰り、海に捨てた。

遺書は妹が偽装した。兄の汚い文字など模倣が簡単である。

GPSを監視していたのは、のちに伝説のクラッカーとして名をあげるとある男だった。

北関東に住み、世界中の軍事衛星のGPSをPC-98でプログラムしたウィルスで乗っ取ったのだ、しかし、表面上は気付かれない。

その男が、五人のうち一人の住所に何気なく、これで友達を監視しよう、と送り付けたのだ。

恐ろしい男である。男はネットも発達してない時代に情報を抜き取るのが天才だった。

そして、その男は地元で公務員として笑顔で勤務していた。


拓雅也は殺されるべくして殺された。卒業生自殺、と地元の新聞に一行で載って終わった。


人の命は軽くもあり重くもある。これはとある地方であったこと。


だが五人は、大学デビューにも成功して、その後の人生は順風満帆だった。


若者に幸あれ!

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