第6話 ソドム

昭和44年、沖田兄妹は集落での生活を楽しんでいた。現在、華は一人目を妊娠中である。着いてから二月で妊娠した。剛は暇だったから、農業を手伝った。

元々野球で鍛えた体力、力仕事はお手の物だった。

山口依子、智也の一卵性双生児は去らなかった。電報で駅から実家に連絡を入れたら実家が火事で家族は皆死んだというのを知り、帰るのをやめたのだ。電報は3時間で戻ってきた。駅近くの民宿で三日だけ過ごして、あの男の迎えを待って、この集落へ戻ってきた。

最初、剛はびっくりしたが、事情を知り、二人を労わった。二人は一週間、食事の時以外はあまりの絶望による脱力感で外に出なかった。でも中でやることはやっていた。

剛はとても気になっていたので、華の体をいたわりながら、山口兄妹になるべく接触した。

智也が一日に三回は煙草を吸いに外へ出る。そこで話しかけまくった。

剛はハイライト、智也はピースを吸っていた。

「君らは私らの先輩だ、まだ私らはここで一年たってない。と、言うより地元の新聞読んでたけど、東京はわややね。何か、あの全共闘の連中は。

高校閉鎖とか、バカにすんなって気がする。学生ごときが世界を変えられるわけがない。火炎瓶と木材で暴力ふるって、地元の新聞に載るくらいなんだから本当に日本は今きついんだな。オリンピックは終わって、新幹線は動き、来年は大阪万博だって言うのに若さは過激だね。」

智也は美味しそうにタバコを吸って、聞いていた。そして、

「まあ、僕も戦後生まれですけど幼いころのあのひもじかったころに比べて今は豊かすぎる。ラーメンとか自由に食べられるんですからね。まあ私らは外に出られないけどインスタントがあるし。とにかく、三食食えて暇になると人はわがままになるのかなあ。ちなみに僕らは今19歳です。誕生日が実は明日なんです。依子はしばらく妊娠したくないらしいからゴム使ってしてますが、暫く酒と煙草とテレビを楽しみますよ。あの男は生みたいだけ産んでくれれば助かるって喜んでましたし、まあ生まれた子供たちがどうなるかはある程度想像つくけど。」

そこから、お互いの実家の話や実はここは過ごしやすいことを話しながら実感した。だが、午後三時を過ぎると、10月後半の為に雪まじりの風が吹く。

二人は急いで家に戻り、囲炉裏をくべて、暖炉に薪を入れるのだ。東北の冬は厳しい。


そんな彼らの中には連帯感と罪悪感が一体となり、ある種の家族となった。お互いのカップル交換は絶対ダメだから、性欲の権化となっても大人のおもちゃくらいしか楽しみがない。当時流行りだしたSMの本を取り寄せたものもいた。新聞に広告が乗っていたのだ。こういうものは取りよせて平気。


長い冬の間、妊娠が安定期に入ると、やることがないからするのである。ほんとうにやることがないから。あの男は、ここができてから約100年近く経つが前任者も誰も、脱走しようとしたものはいないと聞いていた。


それはそうだ、三食は保証され暖房も燃料が用意され、地の魚、ジビエの肉、新鮮な野菜、そして、酒、煙草、テレビ、ラジオなど、雑誌や漫画も最近は解禁された。


戦争中もここは空爆されなかった。米国も知っていたのかもしれない。


男は冬場はやることがないからとにかく酒飲んでタバコ吸って、日常の最低限のことをして、あとはひたすら読書をしていた。谷崎潤一郎がお気に入りらしい。


実はとても平和だった。

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