第2話 光はもうない。
沖田華は実の兄と東北の某県にて過ごしていた。昭和40年代。彼らの父親の借金のかたにここへ来なければいけなかった。兄の剛は、これからすることに絶望して手首を切った。
しかし、母親が医者に見せずに治療した。看護士だから。父親は定職にもつかず、ヒロポン中毒で、いつも酒かクスリで暴れていた。
そんな父に地元のやくざが金を高利貸しで貸してしまったので返せなくなり、兄妹二人は列車でここへ来たのだ。
ふたりを迎えたのは物腰の柔らかい普段着の男、笑顔は見せないが懐が深そうな雰囲気で二人を車に乗せて連れて行った。
一時間ほど走り、二人は元炭鉱があった集落についた。他にも彼らと同じ境遇の人が沢山いる。
集落は全体で50人ほどが暮らせるような広さがあり、医者も看護士もいた。
地元の新聞なら読んでいいらしい。食事は基本的に和食、しかしそれには媚薬が入っている。
二人は、藁ぶき屋根の家に入り、荷物を下ろした。週に二回は洗濯をしてくれるらしいのであんまり着替えを持ってきてはいない。歯ブラシとか、生活必需品は全てあちらが揃えてくれている。
東北の冬は寒い、今は夏、しかしひんやりとした空気が流れている。山に近いからだ。既に家の前には薪がたくさん積まれている。家には囲炉裏があり、ふたりとも未成年ではないので酒もたばこも用意してあった。さくらとか、わかばとかだ。
男は二人に、
「とにかく、出産するまではここからは出られません。それ以外はそれに準ずる行為さえしていればあとは何しても構わない。違法な薬は絶対にダメだし、荷物はチェックしたから問題なし。暇なら農業してもいいし、それ以外でも花札、トランプ、テレビ、等々ありますから。でも、間違ってもここから出ようとは思わないこと。そうしたら死にます。」
さいごの方が笑顔だったので二人は怖かった。男が去ってから、華と剛はこれからしなければならないことを考えると、とことん暗い。
剛には彼女がいた、華には付き合いの長い恋人がいたが別れねばならなかった。
剛は23歳、高校を出て地元の鮮魚店で働いていた。華は地元のパン屋の店員をしていた。
すべて失われた。華は19歳。16の時からの彼氏に嘘を言って別れるのは何よりもつらかったがそれもこれも家族のため。父親は今、病院で昏睡状態だ。ヒロポンと酒の併用を繰り返して心臓と肝臓と脳が悲鳴を上げたのだ。母親はずっと泣いている。
「兄さん、あたし、辛すぎるよ。こんなのってないよ、逃げたいけど死にたくもない。」
「華、俺はあきらめたよ。実の妹を孕むまで抱くのを少しは楽しみたい。レイプはしたくないから協力してくれるな?」
華は兄が本音でない事を顔で分かっていたが、それに対して笑顔で答えた。
「どうせなら、48手やっちゃう?」
その時に、赤ちゃんの声がした。隣の家でだ。
二人は家を出て、そこへ向かった。そこにはどう見ても十代の一卵性の男女の双子だった。彼らの子供だ。
赤ちゃんは片手がなかった。でも声は元気だ。
双子は泣きながら、
「これでここから出られる。よくやった、依子。」
男の方がボロボロと泣いていた。女の子の方は出産の疲れからか、額を汗に包まれながら、
「智也、すぐ引き離されるんだからせめて赤ちゃんの顔を見せて。」
側にいた助産婦が依子に赤ちゃんの顔を見せた。依子は泣いた。号泣した。
「ごめんね、産んでごめんね、でも仕方ないの。お願いだから生きて。」
あの男がやってきて、ふたりに丁寧に頭を下げて、
「これで終わりです。疲れがあるでしょうから出発は2週間後ということで。」
と言って赤ちゃんを連れ去った。助産婦さんはいるが医者はカルテすら書かない。存在しない赤ちゃんなのだ。
華と剛は、あの状況を見てかなり絶望した。
「はあ、最低でもすぐ妊娠しても10カ月か。まあ、仕方ないな。諦めるよ。」
剛の言葉と共に家に戻った二人。二人はその夜にさっそく交わった。二人とも禁断の行為に実際はかなり興奮していた。媚薬の効果もあるが華は兄は実は初恋の人だから本音では嫌ではなかったのかもしれない。野球部で鍛えた見事な体、ハンサムな部分、性格も懐が広く、何より優しい。あんな父親からよくもこんな息子が育ったと母がいつも言っていた。華は誰が見ても美人である。少し細身だが、父親が全く太れない体質なのを受け継いだのだろう。
二人はじつはかなり、楽しんでいた。
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