第7話 二人の会話の話題
『ノルウェイの森』を読み始める前、久々の長編を読み切れるか不安になり、友人たちに僕を盛り上げてくれるように頼んでいた。ある友人はカクヨムにコメントをくれ、ある友人は過去に書いた自分の感想文を見せてくれた。一人でコツコツ読むよりも読書に前向きになった。
僕が毎日ハルキのことしか書かないものだから、カクヨム友だちの甘川が「本当にハルキは面白いのか?」と聞いてきた。僕はそうだともそうでないとも言わなかった。まだ、70ページしか読んでいないのだから。ただ、僕のこれまでの経験から言えば、ここまでで面白いなら僕にとっては面白い。
あんなわかりづらい野井戸の話を最初に持ってくるなんて僕にはできない。僕なら三人の人物像を最初に説明して、共感を誘ってから過去編を書いてしまう。でも、それではあの空気感は出ないだろう。野井戸のシーンは僕の内的世界を混乱させ、ぼんやりさせて、その後の登場人物たちの喪失によるぼんやり感と僕の状態を一致させる効果があると思った。ただ、それは僕の内側に起こった出来事であって、甘川にも同じことが起こるとは限らない。
僕は友人のSにそのことを話した。実生活の友人にカクヨムの友だちの話をするのは少し気が引けたが、Sは部室での彼の暴れっぷりについてよく聞きたがった。僕たちの間では甘川の話は欠くことのできない話題の一つになっていた。
「甘川さんはハルキの小説を読むと思う?」
「それはわからないよ。まだ彼がどんな本が好きかも知らないし。でも悪くない話だと思うよ。彼は自主企画で賞レースを主催しているから、彼が色々なテイストの小説に触れることは参加者のためにもなる」
「私も読んだ方がいいかしら?」
「ノルウェイの森を?」
「ううん。エッセイの方。とても面白いって言ってたから」
「小説を書くことに興味があるの?」
「そうね」と言って彼女は肯き、しばらく何かに思いを巡らせているようだった。
「ずっと創作活動をしたかったの。でもどうしたらいいかわからなくて。書きたいことがあるはずなのに、何を書きたいのかはわからないの」
「たとえばどんなものを?」
彼女は毛先を指でいじったあと、何か言いたいけれど何を言っていいのかわからないといったふうな微笑みを浮かべた。
「やっぱりいいわ。よくわからないから」
と彼女は言った。僕は余計な質問をしてしまったと後悔した。黙って本を差し出せば良かったのだ。僕よりもずっと、ハルキの言葉の方が彼女に響くだろうから。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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