第5話 小休止
村上春樹好きの友人に、僕の手探りな文体研究について話した。そして一つの目標として、村上春樹ものまね大会に恥じないかぶれっぷりを見せようと思っていることも伝えた。
友人はいつもと変わらないほほえみをたたえながら僕の話を聞き、僕の取り組みを励ましてくれた。
「ノルウェイの森は随分昔に読んだのだけれど、飛行機に乗っているシーンから始まるよね」
と彼女は言った。彼女は単に確認したかっただけだろうが、僕はとても驚いた。僕があまりに読書体験が少ないせいもあるが、小説の冒頭がきちんと思い出されるなんてすごいことじゃないだろうか。僕の作品に置きかえて想像してみたが、難しそうだった。
「自分の勉強のために頑張っているんだ。ちゃんとハルキ味が出ているか、教えてもらえると嬉しいよ」
と僕は言った。
「ハルキストというほどではないから適切かはわからないけど、協力するわ」
と彼女は言った。僕は彼女のスマホに大会のURLを送った。
「作品数がどれくらいになるかは見当もつかないけれども、他の方のハルキ味とも比べてほしいな」
「ええ、わかったわ」
「僕はまだ主催者の作品しか読んでいないんだ。今、その一作だけでも読んでほしい。本当に面白いから」
「本当に?」
「本当だよ」
「じゃあ、今から読むわ」
彼女はそう言って、スマホを見つめて読み始めた。しばらくして、彼女は大笑いをした。
「本当だわ! すごく面白い。さすが主催者ね」
「それがこの大会の水準だと思っている。春樹ファンを楽しませるのは難しいかもしれないけれど、せめて僕の村上春樹へのリスペクトが伝わるような――誠意のあるものを書きたいと思っているよ」
「これだけ努力してるんだもの。大丈夫よ、あなたは。絶対に」
「絶対に?」
「絶対に」
僕は彼女との会話で、また一つハルキ味が増したような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます