第4話 キズキの登場
僕は作活友達といつもの活動場所に集まった。知人の好意で貸してもらっている一部屋だ。定期的に使われているというわけでないらしく、少しゴミが目立つ。まず掃除から始めた。自分の部屋は掃除をしないのに、こういうときはせっせと働く。別に良い人と思われたいわけではない。気になる食べかすや塵が取り除かれて、僕たちは清々しい気持ちで座椅子に座った。場所が綺麗に整えられると落ち着くし、集中力も高まる。だからと言って、自分の家も掃除をしようと思わないのだから不思議だ。
僕は作活友と共有している課題図書に目を通した。ネットの投稿サイトでしか書いたことのない僕から見ると、その作品のとある箇所の描写がいささか長く感じた。とはいえ、読めなくはない。登場人物の生活や人となりを知るにあたり、必要には見える。それがどうであるかを友人に質問した。
画面越しの時の流れ方と、紙面での時の流れの違いではないかという話になった。たしかに、紙面であればこの文章の長さでも気にはならない。生活の描写で登場人物の性格が明らかになっていき、それが共感になり、自分が徐々に物語の世界に巻き込まれていく感じがする。
「これもマジックリアリズム系って話だったけど、僕ならもう少しはっきり説明を入れてしまうかな。読者がついて来られなかったらどうしようと思ってしまう」
と僕は言った。
「その境目を極限まで無くして、いつの間にかその世界に入っているという手法を見るために課題になっているのかと」
と友人は言った。読者の目線も大切だが、何をどうすればよいのかはそこを切り取って考えるのではなく、流れやねらいという他の要素との兼ね合いがあるのだなと思った。
ひとしきり友人たちと話をし、帰宅して、『ノルウェイの森』を開く。キズキが登場した。キズキの人物像にはどこか懐かしさを感じた。自分が若い頃、こういう性格、役回りの先輩や後輩がいて、それを羨む気持ちが思い出された。あるいは僕自身も、同世代に対してはキズキだった。
うまくコミュニケーションを取れる人物が現れたことで、物語の回転数が上がったような気がした。普通ならもう少しキズキの具体的な描写がありそうだが、割とまとめてしまうもんなんだなと思った。急展開があり、また回転数が落ちていく感じがする。それがワタナベとキズキの関係かもしれない。
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