第7話

土曜日、首に手ぬぐい、頭に麦わら帽子。ジーンズに着古したぼろシャツとこれまた着古したベストといった格好で隣のおじさんとかけて行ったあいつは夕方戻ってすぐ飲みに行くと言って出て行った。同じボランティア仲間に誘われたらしいあまりしゃべるタイプではないが酒は強いし好きだから無表情でも楽しそうだ。

さて私はというと、今日は一日かけて手を付けかねていた着物ダンスを開けることにした。倉庫代わりにしている中奥の和室は物心付いたころにはもう亡くなっていた祖母の部屋があった場所で、祖母の嫁入り道具、母の嫁入り道具のタンスが収められている。今なら仰々しくて置き場のないタンスだが母の頃までは持って行かないと親戚一同だけでなく近所にまで肩身に狭くなるほどの風習だったらしく、運ばれた嫁入り道具は近所に見せるのが当たり前だったらしい。今はしてないようだけど。一軒家に住むより、新しい高層マンションというのが今の主流らしいから置き場ないよねぇ。

着物の手入れは母がしていたとは思うが亡くなる前はそんな体力はなかっただろうし、着物自体は多かったと思うので開けるのが怖い状態。

少し出しただけでため息が、虫食いカビ多数。どうするんだ是。ともかく生き残ってそうなのだけでも捜索して。

すごーく古そうなのもある。母は着物を自分で縫っていたので私の子供の頃の着物

浴衣も何枚もある。あ、これ写真で見たことがある。七五三の時の着物だ。これは中学の頃、一つ上の従妹とお揃いで作ってもらった着物。私が赤で従妹が黄色の花模様。羽織もセットで。これも写真でとってある。いろいろあった帯は何とか大丈夫そう。高そうなのに限って虫食いやカビが多いのはモノが良いからだろう。

瑕疵が少ないのだけ先ず開いて風に当てていく。

襦袢は黄ばんでいるのが多い。喪服夏物冬物。何セットもあるのは母、祖母,伯母それぞれのものだからだろう。私のは仕付け糸が付いたまま。

今どき、車の運転やら、手配やら走り回ることが多くて喪服なんて来ていては動けない。昔は近所の人が全て手伝ってくれて当人が動くことはなかったって聞くが

母の時はとにかく忙しかった。思い出そうとしても思い浮かばないくらいただ忙しかったという思いしかない。こうやって落ち着いてから寂しいとか悲しいとか思うようになったがあの時は、お通夜、葬儀、初七日、49日etc.近所への対応とともかく知らないことばかりなのを教わりながらするのが忙しくて・・・亭主関白で家内の事は母に任せっきりだった父は全く役に立たなかった。

伯母のタンスから出てきた虫食いいだらけの古い男物の着物。これ供養したほうが良いかなぁ。持ち主不明だから無視してても良いかな。

全部まとめてポイするのはだめかなぁ。かなり面倒なんだけど。

一度出して陰干ししたら直しておこう。保留。


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