第6話
う、う、う、腰が痛い。ちょっと庭を耕してみようかと鍬を持ち上げて10分ばかり、体力のなさにもほどがある。子供の頃は米袋も抱えていたというのに、よろよろとブロック塀の傍らに置いた石に腰を下ろした。
「ごめんくださーい。」子供が二人塀の穴から顔をのぞかせていた。
「はーい。どこの子かなぁ。」
「三橋の香奈です。」「僕はかんちゃん}
「おばあちゃんがうりどうぞって持ってきました。」
「わぁ、大きなうりねぇ3つもある。重かったでしょうありがとうね。
あ、ちょっと待ってね。」
確か頂き物のお菓子があった。広島のバターケーキだ。
「これおばあちゃんと食べてね。」
「わぁ、ありがとう!」
「おばちゃんありがとう!」手を振って見送ったが、お、おばちゃん。いや間違いなくおばちゃんなのだが言われなれてない分心持響くものがある。
「ばあちゃんよりいいだろうに。」
「私はまだ三十代。」
「ギリギリな、それでもおばちゃんだろうに。死んでなければ年は取るんだ。おばちゃんだろうが婆だろうが、あの子たちだって二十年もすればおじさんとおばちゃんだ。お前はばあさんだ。年にこだわるなんてよくわからんな。」
腰が痛い、足が痛いって状態では仕方ないか。ばばぁになるのは仕方ないがあちこち痛くなるのはなんとかならないのかなぁ。「蛇は老化は無いの?」「考えたこともないな、俺は少し違うし脱皮もしないし、死んでるのか生きているのかよくわからん。」そうなんだ・・・
さて、貰ったうりだが、黄色い綺麗な甜瓜だ。おしりを押したらまだ固いので二三日置いたほうが良いかな。甜瓜なんて久しぶりだ子供の頃はご馳走だった。
メロンはもちろん美味しいが、ちょっと甘すぎるので普段食べるのならこっちのほうが好きだったりする。最近の果物は甘すぎる。子供の頃からみかんが好きだがこの頃のみかんは甘すぎる。私は酸味のある方が好きだ。田舎に戻って路地植えのみかんを食べるのが秘かに楽しみだったりする。
だからこの甜瓜もうれしい。
「祥ちゃん、あ、大崎さんもいたんね、丁度良かった。」
相変わらず突然やってくる隣のおばちゃん。
「もしよかったらでいいんだけどこれ協力してもらえんやろうか。」
出されたのはお知らせと書かれた一枚の紙。
”里、北川間通学路支障木伐採及び伐採枝等の片付けボランティアの募集について”
「中学校の通学路になってるんだけどそこの雑木林の繁茂が酷くてね。防犯灯の灯りが見えんようにまでなってねぇ、昼日中でも薄暗くなって、女の子もおるからね伐採することになったんだけど働き手が足らんのよ。
「大崎さんはここの人じゃないし、祥ちゃんも偶々帰ってるだけだから申し訳ないんだけど。」高齢者多いしなぁ。でもこれ一度引き受けたらエンドレスになるパターンだ。きっぱり断ろう。
「いいですよ。」「ちょ、ちょっと」
「ここって、お前も中学時代使ってた道だろう。どれだけ役に立つかわかりませんが枝の片付けくらいなら経験なくても出来るでしょうから。」
「悪いねぇ、若い男手が少ないから助かるよ。」
「いえいえ、あ、こいつは肌弱いんで。」
「ああ、そういえば昔お母さんから櫨にかぶれて何日か学校休んだって聞いたことあるよ。祥ちゃんが小学校の頃だったかねぇ。」「普通なら大丈夫なんですけど山はちょっと。」
手が触れただけなのに顔まではれ上がってしまい病院で注射して治まったってことがあった。小学五年の時だ。
「悪かったねぇ、おばちゃんすっかり忘れてたよ。」
「子供の頃よりは強くなりましたけど、すみません。」だからこいつとも山歩きは出来ない。草負けはしないんだけどなぁ。
「良かったの?」機嫌よくおばちゃんが帰るのを見送ってから尋ねた。
「大丈夫。大丈夫。この辺の男衆とは結構話せるようになったし、それに闇雲に山の木刈られても困るしな。当日は山の連中には近寄らないよう言っておくさ」
それならいいけど、小さくため息をついた。
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