第4話

今日も朝から片付けという名の暇つぶしだ。

6年前、十年以上闘病生活をおくっていた母が亡くなった。弟との同居を拒み一人この家で暮らしていた父は母の七回忌を済ませると倒れた。脳梗塞だった。幸い倒れる前に近所の人が気づいてくれて救急車で病院に運ばれたので命に関わることはなかったが左側に障害が残り、今は病院でリハビリ治療を受けている。出来ないことが増えて心が折れた父は退院したら施設に行く、この家はお前たち姉弟に任せると言い、弟は「姉ちゃん任せた。」と私にほおり投げた。で、今に至る。

今日も暑い。ホースで庭の植木に水を撒くとキラキラ虹が出た。

特に手をかけるわけではないのに庭の百日紅は毎年花を咲かせてくれる。

昔はこれに金木犀、銀木犀、花水木などたくさん植えてあったのだが母が亡くなると父が粗方切ってしまった。トマト、ナス、白菜、キャベツ。母が育てていた時はうり坊がちょろちょろ出てきて可愛いけど食べ散らかすから困ると電話で母が愚痴っていたが雑草ではうり坊も出てこないだろう。見てみたいけど。

”うり坊”いいかも。つぶらな眼と眇めた目のうり坊がおしりフリフリしている映像が浮かんだキャラクターデザインに迷ってたのだが。うん、いいかも。

久しぶりに集中してたら周りが暗くなっていた。結構時間が経っていた。

ご飯が炊けるにおいがする。もしかしてと台所に行くと母の残した派手な色柄の割烹着を着た後ろ姿が。

「帰ってたんだ。」

「声かけたが、気が付かなかったみたいだな。」

「うわっ!見事な山芋」1メートル以上はあろうかというでかい山芋が食台に乗っかっていた。

「豚バラあったからこれに巻いて唐揚げな。とろろにして炊き立てご飯にかけるのもいいだろう。」「うん、いいと思う。」

「隣と、はす向かいにも分けたら、烏賊と葡萄に化けた。」

「烏賊と炒めるのもいいよね。」現金なものですごくお腹がすいてきた。そういえば朝を食べた後何も食べてなかった。

「烏賊はまず刺身だろう。足は炒めるかな。」顔を見上げると少し髪が伸びたような。化けてる人姿の筈なのに髪が伸びるんだ。爪は伸びたとこ見たことはない。爪切りも使ってないと思う。髪はなんでだろう。今更この不思議生物に驚くことなどありはしないが。

「昔馴染みってのには会えたの?」「ああ、」

「良かった。」

自然の中で生きる者たちは元々の寿命の違いもあるから懐かしいだけで再会出来るわけではない。人間同士だって変化するのだから彼らはもっとだろう。家族という観念は無いと聞いたことがあるから本当にただの昔馴染みなのだろう。

「気配はあったのだがな、迷ってたら見つけるのに時間が掛かってしまった。」

「迷うんだ。」「うむ、だから山芋になった。山葡萄はすっぱくて嫌いだと言っていただろう、川魚は帰るまでに腐りそうだ。アケビもあったんだがな」「いや、アケビは苦手だから山芋で最高。うん、最高。」

「良かった。では作るか。」「うん私もする。」柱にかけていたエプロンをとった。

ようやく日常が帰ってきた。

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