第3話
それにしてもあいつはいつ帰ってくるのだろう。
蛇の時はどこかで食べているようだが、人の姿の時は同じものを食べるのでいる時は作るのが当たり前になってしまった。一人だと食パンと牛乳だけでいいだろう。
それと貰い物のトマトがあったので皮をむいて食べようか。父が皮をむいたトマトが好きなので子供の頃から慣らされた私もトマトの皮をむくのが普通になってしまった。スープや煮物などに入れる時も皮をむく。
我が家の習慣というのは他にもあって、母は食事はメインも小鉢となるものも個々に盛って食卓に並べた。後で洗い物が大変だったろうと振り返ったが、その前に困ったのが初めて友人の家で食事をご馳走になった時だ。大皿に盛られた焼きそばとサラダ。「たくさんあるから好きにとって食べてね」と笑顔で言われたものの
取り箸も無くどうしたらいいかと困ったものだ。覚悟を決めて取るには取ったが
味が全く分からなかった。ボトルの回し飲みなども成人するまで出来なかった。
何故出来るようになったかは、まぁ大人になったということだ。それでも苦手ではあるので昨今の流行り病による自主規制には助かっている。
両親の古い衣類や、何故か取ってあり山積みになっていた地方紙。切り抜きではないまんまである。あと古いカレンダー、包装紙など。燃えるごみとして処分できそうなものはまとめて片づけた。がたついた古い家具は粗大ごみだろうか。
草刈りをしてもらったことで綺麗になった庭の植木にホースで水を撒いでいると
車が止まって中から何処かで見たような気がする老人が出てきた。思い出せないが多分知っていなくてはいけない人だ。
「祥ちゃん帰ってきたんだってな、親父さんはどうしてる?」ほらやっぱり相手は私も父の事も知っている。
「元気ですよ。弟の家が近いので孫たちも寄ってくれるみたいで喜んでました。面会時間が15分なのが残念みたいですけど。」
「それは良かった。おじさんも会いに行きたいんだが今は身内しかだめだろう。」
「そうみたいですね。スマホが使えたら顔も見れますが父は携帯しか使わないから」「そりゃ、おじさんもおんなじだ。親父さんには現場の仕事の時困るだろうって自分を棚に上げて言われたけどな。」現場。思い出した土建屋の片岡さんだ。父の高校時代の後輩。
「良かったら電話してやってください。片岡のおじさんからだったら喜びます。
18:00から21:00の消灯までだったらいつでも大丈夫ですから。」
「そうさなぁ、かけてみるか。祥ちゃんはずっとここにいるんかい。親父さんは退院したら施設に入るって以前言ってたが本音はどうかなぁ。」
それにはあいまいに笑うしかなかった。まぁ、簡単に返事ができることでもないしねぇ。
翌日は雨だった。何も出来ないなら仕事をしよう。納品には余裕があるが出来る時にしておかないと、などとは思っても静かすぎて集中できない。家が広すぎるのだ。ずっと2DKに住んでるのだ。交通の利便が良いと言うのは常に何か騒がしいと言うことでもある。この家、二階にある自分の部屋は更に孤立感が強くて台所横の居間で過ごしている。何か出そうなのだ。窓の外にも何か見えそうな気がしてカーテンが開けられない。子供の頃から何かに見られているような気がしていつも怖かった。一人で留守番しなくてはいけない時などは押入れに入って中の布団を頭にかぶって隠れていた。危険な事にあったことなど無いのだけど。
あいつ、早く帰ってくれないかなぁ。
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