第2話

我が家は二階建ての母屋と、作業部屋である長屋、そして母親が野菜や花を作っていた庭。120坪あるそうな。この辺りでは普通の広さだが中年を過ぎた女が一人で管理するには広すぎる。母屋に掃除機をかけるだけで疲れ果て、持ち帰った仕事が全く進まない。庭も当初は自分で少しづつ草取りをすれば気分転換にもなるだろうなどと軽く考えていたが。夏草の勢いをなめていた。弟が時々草刈りをしてくれていたようだがひと月もたてばこの惨状だ。

頼りになるはずだったあいつは昔馴染みに会うと言って元の姿に戻りどこかへ消えてしまった。

何時頃戻るかスマホで聞くわけにもいかないので不明。これまでも数か月いなくなることは普通にあった。蛇にホウレンソウや時間の観念を求めても虚しい。

私は早々に挫折しシルバー人材センターに草刈りを頼むことにした。

翌日、草刈り機を抱えて小柄なおじいちゃん二人がやってきた。明らかに体より大きな草刈り機を抱えたおじいちゃんたちは縦横無尽に生え誇る草を薙ぎ払い、薙ぎ払い、素晴らしい力強さで腰の高さまで伸び誇った雑草を借りつくしてくれた。

刈った草は乗ってきた軽トラにホイホイ乗せられて私の脳裏にはあの有名なフレーズ「なんということでしょう!」がこだましていた。二人で一万五千円。それが高いか安いかわからないが私の腰も守られたし満足である。

でもこれからはここまで伸びる前に草取りをしよう。

庭は今のところこれで良しとして、後は長屋である。兼業農家だった我が家の長屋は、米作りの為の様々な作業をしていたので結構な広さがある。もみの乾燥もここでしていたのだ。屋根裏には藁が収納されていてその藁を使って祖母が草履や容れ物など作っていたしアルプスの少女に感化された私は梯子で天井に上がり藁のベットを試そうとして屋根から落ちかかりこっぴどく叱られたこともある。大昔は豆腐や味噌などもここで作っていたとか。

昨今の機械化でそういった作業は必要なくなり、ここも改装されて駐車場兼、倉庫のようになっていたが広さはそのままで様々なガラクタが詰め込まれている。

餅つきの杵と臼とか、七輪とか、漬物をつけていた壺とか色々。お金を出して片付けても何かに使うわけでも必要もないし。面倒くさいので保留だな。片づけを名目に帰省したのに保留ばかりしているような気が。どこかにドラえもんがいないだろうか。人間に化ける蛇がいるのだからドラえもんだっていてもいいのに。

「祥ちゃんいる?」相変わらずここの人は呼び鈴を鳴らさない。玄関ブザーは何のためにあるのか?容赦なく入り口を開けて入ってくるのもみな同じだ。着替え中だったらどうするのだろう。いや、誰も気にしないな。

はす向かいの家のおばちゃんだった。「ああ、いたいた。シルバー来てもらったんやろ。綺麗になったじゃない。」「お陰様で」「うちも時々頼むんよ。仕事は早いし丁寧だし。お金はかかるけど植木屋さんに頼むより安いしねエ。身元もわかってて安心だし。うちの人は葉書書きの仕事してるんよ」「おじさん昔から達筆だったから。父が年賀状を見て感心してました。」「達筆かどうかは知らんけど結構仕事はあって小遣い稼ぎして喜んでるよ、あ、これ甘酒作ったからのんで。」

日付の入った小ぶりな袋に入った甘酒の元「わぁ珍しいものすみません。」

「旦那さんにも飲ませてやんなさい。好き好きだけど生姜入れても美味しいから最近姿見ないけど帰っちゃったんかい?」そうきたか。

「なんか用事があるみたいでそのうち戻ると思います。お酒って名の付くものは大好きなので喜びます。」

「そんならよかった。祥ちゃんが帰ってきてこの辺のもんは皆喜んでるからね。」

「ありがとうございます。」

見送って小さくため息。

本当にめんどくさい。








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